異世界を駆ける
姉御
番外編*7月27日*スティ誕生日
*カレスティージ視点
暑さが増す七月。
別に寝苦しくなるからとか、ラガー様より暑がりってわけじゃない。むしろ、あのおっさんは溶けて消えたらいいと思う。そんなヤツと一緒に抹消したいのに出来ない記憶が一番最悪だ──。
「また派手にヤってきましたなぁ、カレ坊」
明け方近く。『宝遊郭』最上階にある自室に戻ってきたボクを迎えたのは、チェリミュ様。苦笑しているのは、髪も服も顔も青ではなく赤に染まっているからだろう。
構わず黒刀を黒ウサギに戻していると、チェリミュ様が溜め息まじりにやってきた。
「まったく、カレ坊ばっかそんな仕事させて……普通は団長(イズ坊)の仕事やありませんの?」
「……別に、ボクは気にしないです」
何年もしている裏仕事に思うことはない。ただ殺せばいいだけ。
けれど、チェリミュ様にとっては良い気がしないのか、取り出したハンカチでボクの頬に付いた血を拭う。強めに。
「っだだだだ!」
「本当(ほん)にもう、今日ぐらいは身綺麗にしとかんと、ヒナ嬢にも嫌われてまうよ」
「なんでヒナさん……ていうか今日」
痛みと発言の不可解さに離れるが、頭にポンと手が乗る。身構えるも、今度は優しく優しく撫でながらチェリミュ様は『なんでって』と微笑んだ。
「今日はあんさんの誕生日やろ。おめでとう、スティ」
滅多に呼ばない愛称を愛し気に呼ばれ、目を瞠った。
僅かに口も開くが、堪えるように頭を伏せると、黒ウサギで顔を隠す。頭上でくすくす笑う声よりも心臓の音が激しく、ぎゅっと黒ウサギを握った。
七月二十七日。
最悪な記憶しかなかった道(ページ)に、違う道(ページ)が開かれた日。
それは恥ずかしくて恥ずかしくて、どうしようもなく嬉しい日に変わった。“愛しい姫君”を思い浮かべれば浮かぶほど、幸せになる今日。
*
*
*
「よう、カレス。珍しいなりね~」
明け方とは違う、陽が沈みはじめた夕刻。
着物姿で『ナオ』の縁台で涼んでいると、イズ様がやってきた。通り過ぎた彼は女将に注文を入れ、ボクの隣に座る。
「で、どしたの? いつもなら遊郭でゴロゴロしてる時間じゃん」
「……ニワトリがうるさいんです」
「ニワトリ? アズ?」
コケコッコーと鳴くアズ様が脳内を通り過ぎるが、眉間に皺が寄る。
お祝いされても、いつも通りに寝て夕刻に起きるはずだった。でも手洗いに起きると、なぜか遊郭の手伝いをするアズ様がいて、ああだこうだと話す小言に耐え兼ねて出てきたのだ。しかし、そこからもまた地獄。
城に行ってもヒナさんはいないし、溶けてないおっさんと鉢合わせてバトってたところに機嫌悪いヒュー様に戦いを挑まれた。唯一、エジェ様にクッキーを貰ったが、散々なのは変わりない……と、話す横で爆笑するイズ様に怒りが頂点に達する。
往来に構わず殺そうと懐からナイフを取り出すが、制止をかけられた。
「まあまあ、賑やかな誕生日なのも良いじゃねぇか……な? スティ」
制止の手が頭に乗ると、チェリミュ様のように愛称で呼ばれ撫でられる。“あっち”の姿じゃないのに、瞳も違うのに、恥ずかしくなるのが腹立つ。女将が持ってきたチ〇ルの山がボクにっていうのも。
「お? なんだ、もう行くの?」
「仕事……時間」
「裏仕事なら他のヤツに任せん「大丈夫です」
手早くチ〇ルを手に持つと立ち上がる。
さらに背を向けたまま水を集め、団服へと姿を変えた。そのまま潜るように水が渦を巻き、足が沈みはじめる。前に、ポツリと呟いた。
「ありがとう……ございます」
「おう、おめっとなり☆」
ふざけ顔に呆れるも、イズ様らしいと水に潜った。
静まった世界は水に包まれ、コポコポと音が響く。慣れた音は耳障りにはならない。むしろ、落ち着く。でも、火照った身体と頬を冷やしてはくれなくて、握ったチ○ルを見下ろすと黒ウサギに顔を埋めた。
「……よっし」
切り替えるように顔を上げると光へ向かう。
もっとも、その先にあるのは暗闇。人間を殺すのに情はいらない。真っ暗でいいと外へ出た。
「おおっ、スティじゃないか!!!」
「*#$£☆★׶ΣΨДИфーーーーーーっっ!!!」
出たのは路地裏。なのに、ヒナさんがいた。
予想外のことに悲鳴にならない悲鳴をあげると、腰辺りまで水中に戻し、黒ウサギで顔を隠す。なんでヒナさんがと恥ずかしがるボクに構わず、ヒナさんは身を屈めた。
「いやあ、奇遇だな。ちょうど呼びに行く途中だったんだ」
「あ、あのっ、ヒナさん……ちょ、ちょっと……ちょっとだけ待っててくれませんか?」
恐る恐る半分だけ顔を出すと、ヒナさんは『うむ』と笑顔で頷く。
慌てて水から出ると黒ウサギを預け、裏仕事の標的(ターゲット)を瞬殺して戻った。
「お、お待たせしました……!」
「なんだ、早かったな……ん? なんか汚れてないか?」
「ウ、ウサギの乱獲してたので……!」
身綺麗にと言っていたチェリミュ様を思い出し、慌てて頬の血を拭う。
ヒナさんは首を傾げるが、両手を広げた。誘われるように動いた身体は簡単に彼女の胸と腕に収まり、ボクもまた抱きしめる。
「ヒナさん……」
「うむうむ、ぎゅー……と、その前に」
胸に埋もれるほど抱きしめられていたが、緩めるように離れたヒナさんと目が合う。優し気な笑みと一緒に。
「誕生日おめでとう、スティ。ケーキとか、たくさんプレゼントも用意したぞ。遊郭でパーティーしよう!」
真っ直ぐとボクを捉える瞳、屈託のない笑顔。
背後では死体処理しているサスティスとリロアンジェがいる。もうすぐ彼女が嫌いな夜になる。早く場所を変えた方が良い。わかっている。でも我慢が効かず首筋に口付けた。
「ダーメ……」
「んっ……!」
カリッと甘噛みすると吐息が漏れた。
それだけで充分な刺激になり、抱きしめる。よろけたヒナさんの背中が壁にあたり、襟を引っ張ると肩が露になった。その肩を撫でながら反対の手で乳房を持つと、揺れる瞳を見上げ意地悪く微笑んだ。
「先に……ヒナさんを食べる」
「スティ……あっ!」
真っ赤に染まる頬と同じように赤くなった乳首を食(は)む。
ビクリと反応する身体を脚で固定し、食んだ乳首を舐めては引っ張りながら、反対の手で裾を捲った。肩と同じように露になった素足とショーツに、身体がゾクゾクする。
両手で持ち上げた乳房を揉み込みながら屈むと、口でショーツを下ろしていく。
「ちょっ、スティ……!」
「底……ちょっと濡れてる」
「濡れてない濡れてない! 見えてない見えてない!!」
恥ずかしそうに身体をくねらせるが、夜目が利くボクにはハッキリと染みが見える。嘘をついたバツで両乳首を引っ張った。
「あああぁぁっ!!!」
「あ……零れてきた……いっただきまーす」
「あっ、待っ……あああぁん!」
制止など構わず口を開けると、秘部から垂れ落ちてくる蜜を食べる。生クリームよりも甘いモノは美味しくて、秘芽に口付けると舐め回した。
「あ、あああああぁぁぁぁ!」
刺激が激しいのか気持ち良いのか、秘部から蜜が溢れ出てくる。
それを舌で掬っては飲み込み舐めるが止まらない。むしろ増えるばかりで、ヒナさんに後ろを向かせる。壁に両手を付ける彼女は息を乱しながらも理解しているのか、潤んだ瞳でボクを見つめた。
応えるように抱きしめると頬ずりし、口付ける。
「んっ……スティ……」
「ヒナさん……まだ大丈夫? ここで……ヤっていい?」
熱を含みながらも不安になるのは、当に夜へ変わり、灯りがない路地裏だからだ。けれど、ボクの心配を他所に、ヒナさんは小さな口付けを返した。
「月があるから大丈夫だ……何よりスティが一緒だしな」
微笑む彼女を、胸元で揺れるペンダントを、夜目ではない月明りが魅せる。
それはとても綺麗で嬉しくて、大きく突き出したお尻を撫でながら、高ぶっている肉棒の先端を宛がった。『んっ』と漏れる吐息を聞くと微笑む。
「ヒナさん……だーいすき」
それだけでまた肉棒が膨張し、一気に挿入した。
「ああああぁぁっ! 大きっ……ああぁ……そんな奥までこないでえええぇぇ」
「ダーメ……」
「んんっ、あ、ああああぁぁぁっ!!!」
ぎゅっと腰を持つと、挿入を繰り返す。
その度に甘い嬌声と水音が響き、地面さえも濡らす。それでも止まらない愛を出せば出すほど受け止めてくれる彼女が、今日をまた幸せな日へと変えた。
もう、最悪なんて日はない──。
「はあ……あたしらにとっては最悪の日よね。絶対今日中に出てこないもの」
「ケーキ、用意したんですけどね……」
「もう食べるなーり」
遊郭に戻ってもヒナさんを食べるのは当たり前です────。