異世界を駆ける
姉御
番外編*2月8日*ベル誕生日
*ラガーベルッカ視点
「おや? もう、こんな時間でしたか」
顔を上げた独り言が閑静な書庫に響く。
時計がないとはいえ、感覚的に深夜だろうと立ち上がった私は指を動かした。囲んでいた本の数々が『風』で浮き、元の棚へ収まると、新しい本を読みながら歩きだす。
視線は本にあっても、慣れた足が奥にある部屋で止まり、扉を開いた。
ワンルームの寝室にも、所狭しと本が置いてある。それは書庫のではなく、私自身が気に入っている本。何度読んでも飽きないのがまた魅力であり不思議。
「あ、ヒナタさんの方が上でしたね」
くすくすと笑ってしまうのは、本以上に飽きない不思議な女性。それ以上に魅力で愛しい姫君が浮かんだから。
同時に会いたくなってしまうのが男というものか。
しかし、目を移した掛け時計は既に深夜ニ時を回っている。当然寝ているでしょうし、フルパワーハリセンが落とさせるのが目に見えていた。ほんの数パーセントの確率で部屋に入れてくれる場合もありますが、ベッドに腰を下ろした私は手近の本を読みはじめる。
確率に賭けるより、毎日のようにやってくる彼女を待つことにした。
*
*
*
しかし、夕方になってもヒナタさんは現れない。
というより──。
「ラガーベルッカ様、お誕生日おめでとうございます」
「死ねっ!!!」
「おらよ、クッキー」
「チョコやるな~り」
激しい斬撃を食らわせてきたウサギを除いた面々からプレゼントを受け取った。
すっかりどころか覚える気もありませんが、今日は私の誕生日だったんですね。と、本を読みながら言うと、変わらず判を押し続けているバロンが笑う。
「まあ~僕ら~興味~ないしね~~」
「逆に覚えてくださってる方がすごいですよね。ウサギはたまたまでしょうが」
「いや~今朝~ヒーちゃんが~アナウンス~してった~からね~~」
苦笑まじりの話に、ソファに座っていた私は顔を上げる。
「ヒナタさんがですか? 私は今日、お会いしてないのですが」
「僕も朝~『ベルの誕生日だぞ!』って~言われたっきり~かな~~」
同じように顔を上げるバロンだったが、その目は天井を、彼女を思い出しているように見えた。
確かに、自分以外の誕生日にもアナウンスしていたような気がしなくもない。全員で祝おうだなんて彼女らしいと思う反面、昨夜会いに行っていたらと、少しだけ後悔した。
そんな心情を読み取ったのか、バロンが意味深な笑みを浮かべるが、ニッコリと笑みを返す。
「ともかく、盛大にお祝いしてくださると思うので、夜を楽しみに待つことにします」
「その夜って~……独り占めの意味だよね?」
薄く開かれた金色の瞳に構わず、本に視線を戻す。
誰よりも面倒な宰相相手に返事をするなど時間の無駄というもの。そもそも私でなくとも、皆そうでしょうと新しいページを捲った。
「じゃ~夜まで~この書類~書いて~もらおうかな~……期限、過ぎてるしね」
「ベル兄ー! 誕生日だからってサボれるわけじゃないんすよ!! 仕事してくっさい!!!」
邪悪な気配と騒がしい声が宰相室を包む。
何も聞こえません。
*
*
*
「おや? もう、こんな時間でしたか」
顔を上げた独り言が閑静な書庫に響く。
と言っても、感覚的にまだ夜の六時を過ぎたかどうか。昨夜と同じ場所で積み本を読む私は傍にある皿、トラのピックがついたサンドウィッチを手に取る。
宰相室から書庫に戻った際に置いてあった物。
ついでに『晩飯は豪華だから、それまでガマンしてくれ』のメモが残っていた。もちろん日本語と筆跡からヒナタさんだとわかる。
本に夢中になる私にとって、サンドウィッチは手軽で食べやすい。さらに嫌いな具もなく、さすがヒナタさんと賞賛とキスを差し上げたいほど。
なのに、未だその姿を見れずにいた。
寂しい。そんな感情、本を読んでいれば消える。なのに今日は、今日に限って強く感じてしまうのは昨夜から想っているからだろう。早く貴女に、愛しい姫君に──。
「おーい、ベルー!」
閑静な場所に大きな声が、望んでいた声が響き渡る。同じように駆け足も。
数千以上もの本棚が囲う場所で、迷いもない足取りで近付いてくる音。そして、徐々に見える姿。
「おー、いたいた。ベル、誕生日(パーティー)の準備できたぞ!」
「ありがとうございます」
立ち止まったヒナタさんの笑顔に、私も自然と笑みが零れる。
ご機嫌な彼女は出入口を指した。
「待たせて悪かったな。早く行こう」
急かすように腕を引っ張られるが、ゆっくりと腰を上げながら訊ねた。
「今日一度も会えなかったほど、すごい物を作ったんですか?」
ちょっとだけ皮肉になってしまったのはご愛嬌。実際、ヒナタさんはなんともないように首を傾げた。
「いや? 私的には普通……なんだ、すごいのが欲しかったのか?」
「はい」
間髪を容れず答えると手を伸ばす。
「世界でただ一人、私を虜にするヒナタさんが──欲しいです」
慣れた手が彼女の頬を包み、引き寄せると、少しだけ開いた唇に口付けた。
「んっ、あ……んん!」
いつもより抱く手も重ねる唇も強い。
ヒナタさんも必死に逃れようとするも、次第に抵抗が弱まってきた。観念したのではない、私と同じように“待っていた”のだ。
「んっ、ふん、あ……」
リップ音と息遣い、そして艶やかな声が響く。
やっと離した時には唇がふやけていたが、それよりも胸に顔を埋めるヒナタさんは耳まで真っ赤。内心笑いながら、ふっと、耳に息を吹きかけた。
「むぎゃっ!」
聞いたことない可愛い悲鳴と一緒に顔が上がる。
微笑む私とは反対に、極限まで眉を吊り上げたヒナタさんは声を張り上げた。
「もうっ、わかったわかった! 今夜はずっと一緒だ!! 約束!!!」
「珍しく素直ですね」
てっきりハリセンが落ちてくると思っていたせいか拍子抜けする。
だが、ツンとそっぽ向くヒナタさんは気恥ずかしそうに言った。
「そりゃ誕生日だし……あと……お、おめでとう」
“おめでとう”。
自分だけへの言葉、一年に一度しかない今日をこんなにも寂しく嬉しく思うのは彼女だからか。込み上げる気持ちを押さえながら後ろから抱きしめると、耳元で意地悪く言った。
「はい? 大きな声でお願いします」
「っ! だか……んっ!!」
ビクリと反応したヒナタさんが反射のように振り向き、私も口付けを返す。
そのまま服越しに胸を揉みしだきながら、片方の手で太腿を撫でた。柔らかさと気持ち良さに口付けの回数は増え、ヒナタさんも力をなくすように腰砕けになる。支えるように抱きしめ、床に座ると、彼女の上着も下着も脱がしていく。
「ちょ、ベル……上でみんなが待って」
「そう言われても、先ほどの言葉を聞いていませんし、ヒナタさんも……欲しいでしょ?」
首筋を舐めると、耳に光る翡翠のピアスに口付ける。
さらに露になった胸の先端を指で挟んでは摘み、ドロドロに濡れだす秘部を激しく指で掻き混ぜた。
「あ、あぁぁっ……!」
嬌声と水音が増す。それは自分のモノも同じで、止めどなく蜜を零す秘部に擦りつけた。ヒナタさんの身体はいっそう跳ね上がり、涙を見せながら振り向く。
「べ……ル……欲しい」
「はい……私も欲しいのでください……愛する姫君(リーベ・プリンツェッシン)」
「ふっ、ああ、あああぁぁーっ!」
口付けると、雄雄しいモノを焦らすことなく挿入した。
早く欲しいとねだるように腰をくねらされると呻いてしまうが、それ以上の嬌声を響かせる彼女が魅力的で堪える。代わりに最奥へと腰を打ちつかせた。
「あ、ああぁ……イい……気持ち良いんん」
「それは……良かったです……では、もっと美味しいのを差し上げますね……!」
「あ、あああああぁん!!!」
熱く滾った白濁が彼女へと注がれる。
いつものことすぎて誕生日は関係ないかもしれない。だが、数分前までとは違い、とても高揚感に包まれていた。会いたかった、抱きたかった姫君いて、私を見てくれる、求めてくれる。幸せだと思えるのが充分すぎるほどのプレゼントです。
それにまだ『おめでとう』をちゃんと聞いていませんし、今夜は一緒にいると約束してくれました。絶対──離しませんよ。
「料理、冷めちまったじゃねーか」
「アーちゃんなんて~呼び出されて~行っちゃったよ~~」
「ヒナさんに近付く男は──殺す」
「ケーキは俺がいただいたなり~!」
呆れと疲れと怒りと愉快犯。
様々なみなさんにヒナタさんは目を右往左往するも、私は変わらず笑顔。
何も聞こえませんし、問題ありません────。