異世界を駆ける
姉御
番外編*もしも世界~隠しルート攻略編~
もしも男達が18禁乙女ゲームのキャラだったら?
隠しルートを画面越しに攻略する姉御をお届け。
※内容的に死亡などがありますので、ご注意ください
晩御飯と風呂を終え、ビールを片手にゲームを起動させる。
全員を平均にすればいいと言われたが、隠しキャラもだろうか。疑問符しか浮かばないが、取り合えずやってみようと[はじめから]をクリック。
当然最初の選択肢は[逃げない]を選ばないとバロンにはいけない。
自由行動になると『赤』に入り、フィーラと会話。昼には『茶』でアウィンの門前払いを食らい、夜はフィーラの誕生会に参加。宰相室で寝るのも忘れない。翌日『書』でベルを叩き、お菓子でイズを釣り、『宰』で金を貯め、夜に『宝遊郭』を訪問、と。
「忙しいな~」
魔王はまだしも、六人同時進行って厳しいぞ。
前半はフィーラ、スティ、アウィンを上げて、年上組は後半でも大丈夫。忠誠の証は先にスティにしてもらって、バロンのためにアウィンを進めてー……と、分岐点を紙に書きながら、ひたすらステータス&好感度と睨めっこ。
ホントにこれは恋愛ゲームなのかと疑いたくなる。
順調に屋上での魔王戦まで来ると、国を去る主人公にフィーラの悲鳴が木霊した。
それがステータス上げ終了の声にもなるせいか、生温くなったビールを一気飲み。それでも喉が乾き、急いで冷えたビールを数本持ってくる。
「さてさて、どうなるやら」
冷え冷えビールを飲みながら、物悲しい表情をする魔王との会話を聞く。
すると扉が破壊され、魔物を蹴散らしながら現れる人影。ここしばらくは一人だったが、久し振りに『四聖宝』、そして宰相とイズまでもが現れた。
「おお~、オールスター!」
綺麗な六人横並びスチルに妙な感動を覚える。
そのまま戦闘に入り、ムービーで一瞬悩むが、斬撃を[受けない]を選択。受けては完全に魔王ルートだと思ったからだ。次いで[一緒に行かないか?*わかった]も前者を選び、笑う彼に主人公(私)のモノになれと言うように[ああ]を選択する。
これが普通のルートなら断られるが今回は違った。
[魔王:ほう……我に命令するとは、やはり主は面白いな。よかろう“外”でかわいがってやる]
[意地笑く言う小さな魔王が宙に浮くと、唇に小さな唇が重なった。瞬間、七色の光が頭上で輝き、目の前が真っ白になった。耳に聞こえる声は──]
[アズフィロラ:ヒナタ!]
[ラガーベルッカ:ヒナタさん!]
[カレスティージ:ヒナさん!]
[エジェアウィン:おいっ、女!]
[瞼を開けば黒いベッドの上で寝転がる私を見下ろす四人の騎士達。目線を移せば壁際にバロンとイズもいる。上体を起こした私に騎士達は顔中に口付けを落とした]
[アズフィロラ:本当、奇怪な主で心配したぞ……ん]
[ラガーベルッカ:でも……ご無事で良かったです]
[カレスティージ:もう……どこにも……ん、行かないでね]
[エジェアウィン:ぜってー……ん……だからな]
“ちゅっちゅっ”と短い口付けが小刻みに届く。
アハンより恥ずかしい音に顔を覆うが、イズが元気に割り込んだ。
[イヴァレリズ:や~ん、ヒナは俺のものなり。お前ら退け退け]
[ヒューゲバロン:そんなの~知らないよ~~]
[イズの背を蹴ったバロンだったが、影に潜ったイズは私の股の間から顔を出し、胸を鷲掴みにする]
[アズフィロラ:イヴァレリズ!]
[イヴァレリズ:だって俺ヒナのこと好きだもん。だからヤるんだよ]
[ビリビリと胸元のドレスを破られると乳房が露になり、イズは谷間に顔を埋める。そんな男に騎士達は互いを見合うが、くすくす笑うバロンが寄ってくると右手首を捕まれた]
[ヒューゲバロン:なら~僕も~捕まえるよ~……ヒナタちゃんのこと好きだからね]
[指先に口付けたバロンの告白に顔が真っ赤になる。するとまた影が集まり、背後に魔王が現れた。直ぐさま四騎士が抜刀するが、イズの結界によって傷を負うことはない。くすりと笑みを浮かべた魔王は左耳をパクリと口に含んだ]
[ヒナタ:ひゃっ!]
[魔王:やはり主の声はそそるな。愛を告らねば我のモノにならぬというならいってやろう──好きだ]
[囁きは全身に響き渡ったように、ビクビクと身体を揺らす。直後ベルはうなじに、フィーラは左手の甲に、アウィンは右膝に、スティに首筋に口付け囁いた]
[アズフィロラ:ヒナタ、好きだ]
[ラガーベルッカ:ヒナタさんだけを愛しています]
[カレスティージ:ヒナさん……大好き……愛してる]
[エジェアウィン:好きだぜ……ヒナタ]
[全員:さあ、誰を受け入れてくれる?]
[七人の熱い眼差しに動悸は高鳴る。私は──[全員を受け入れる*誰も受け入れない]
とんでもない選択肢に頭を抱える。
な、なんだこの展開……告白だけでも公開処刑なのに選べって。そもそも全員かなしって、この二択厳しすぎるだろっ。
もう恥ずかしくて逝きそうになるが、ここまできて後者はないと前者を押す。当然のように全員の目が丸くなるが、溜め息と苦笑が同時に零れた。
[アズフィロラ:全員とはまた……]
[イヴァレリズ:ヒナは我侭なりね~]
[ヒューゲバロン:優柔不断じゃ~ないの~~]
[カレスティージ:……殺そう]
[エジェアウィン:んなことするより、コイツとヤりてーんだよ]
[ラガーベルッカ:そうですね……まあ相性というのもあるでしょうし]
[魔王:ふむ、いちど全員をためしてみれば良いか]
[口々に何かを含んだような物言いに戸惑うも、囲った男達との距離が段々と近くなる。直ぐにでも酔いしれそうになるが、それだけでは終わらないというのを撫でる手と口付けだけで感じた──]
全員の唇が寄せられたスチルに画面が真っ白になり、ED曲が流れる。
もはやどういう結末が待っているか茹でった頭では想像出来ないが、枕だけはシッカリと握りしめていた。動悸が激しさを増す中、聞こえてきた声はいつもより多い。
[ヒナタ:あ、ああ゛っ! 激し……ぃんっ!]
[ラガーベルッカ:おや、ヒナタさんはこのぐらいでは……]
[アズフィロラ:物足りない……だろ?]
[明るい日差しがあられもない私達を照らす。白いベッドの上に転がるベルを跨ぐように四つん這いとなり、秘部は彼の大きなモノに貫かれている。そして背後から腰を持つフィーラのモノも別の秘部を貫き、同時に激しく揺れ動かしていた]
[バロン:あ~歯を~立てた~悪い子には~お仕置き~……だね]
[カレスティージ:ボクから奪うの……ダーメ]
[ヒナタ:うぅ……んんっ!]
[エジェアウィン:ちょっ、握りすぎ……!]
[目先で膝を折るスティとバロンの肉棒を交互に舐めては勢いよく口に差し込まれ扱いていく。その激しさに、背中で縛られた両手で握っていたアウィンの肉棒を強く握りしめてしまい、熱いモノが背中に飛び散ったのを感じた]
[イヴァレリズ:や~ん、おっぱいぷるぷる揺れてる。って、魔王とんな!]
[魔王:余所見しておるほうが悪いのであろう]
[片方の胸を舐めていたイズは振動によって揺れる乳房を面白そうに見ていたが、反対の胸を舐めていた魔王の長い舌にとられる。それを奪い返そうとイズも舌で先端を舐め、魔王が舐めていた胸は黒蛇に吸いつかれた]
[ヒナタ:ふああぁ……や、ああぁ]
[別々のところから違う刺激を与えられ、汗も唾液も蜜もどれだけ出したかはわからない。だが、それらすべてを彼らが舐め取っては新しく零させ、卑猥な音と一緒に囁くのだ]
[全員:――――愛してる]
[ヒナタ:ひゃああああぁぁっ!!!]
[すべてのところから真っ白な蜜が降り注ぎ、私を包む。尽きることのない愛を、与えられる愛を、募る思いを受け止めるように、受け止めてもらえるように私も返した]
[ヒナタ:愛してる……]
[これからもこの楽園でずっとずっと……──fin]
全員の裸体に白液の差分付きスチルからタイトルページに戻る。
リストには【楽園】が追加され、枕を抱きしめたままバッタリと床に倒れこんでしまった。
「こ、濃いいぃ~~っ」
画面越しだというのに、この半端ない熱さはなんだ。しかもなんか下腹部が疼くし、息も荒くなる。キャミソール越しに胸を触ると、先端がツンと尖っているような気がして無意識に両手で摘んでしまった。
「んっあ……はあぁ」
長いことしていなかったせいで興奮したのだろうか。
手をキャミソールの中に入れ、胸を揉みながら片方の手を下腹部に持っていくと、僅かにショーツが濡れている。触れるだけでビリリっとした刺激が駆け上ってしまった。
「って……一人エッチなど恥ずかしすぎるぞ……せっかくフルコンプ出来たのに]
我に返ったように起き上がると、熱を冷ますように冷たいビールを飲む。
そのまま指を動かし、すべてが揃ったリストを見……あれ?
「揃って……ない」
それどころかまだ八つも空いている。
なぜそんなに空いているんだと困惑してしまうが、まだ[誰も受け入れない]を選択していなかったことを思い出す。まあ、当然リストのひとつでBADだろうが、ここまできたら制覇しようとロードした。そして[誰も受け入れない]選択。空気が変わった……気がする。
[アズフィロラ:そうか……]
[ラガーベルッカ:誰も姫君の心を掴めなかったんですね]
[カレスティージ:なら……殺す]
[エジェアウィン:げっ!]
[ヒューゲバロン:おっと]
[突然取り出したスティのナイフにアウィンとバロンが避ける。その音と同時に全員ベッドから飛び降り、距離を保ったまま睨み合う]
[ヒナタ:ちょ、貴様ら!]
[イヴァレリズ:や~ん、全員無理ならヤるしかねぇよな。そもそも俺は独り占めしてぇし]
[魔王:やはり主らと共闘するのは許されぬな]
[黒い影と闇を纏いはじめるイズと魔王に、他の男達も剣を握る。私は必死に止めようとするが、身体も口も影に押さえ込まれてしまった]
[イヴァレリズ:ヒッナ~、ちょおっと黙っとけよ]
[ラガーベルッカ:姫君に血を浴びさせるようなことはしませんので安心してください]
[カレスティージ:待ってて……直ぐ……血祭りにする]
[エジェアウィン:はん、最後に残るのはオレだ]
[バロン:それはどうかな~~]
[魔王:いつでもいけるな]
[アズフィロラ:では、はじめようか──殺し合いを]
冷たい声は殺気も含んだものだと分かる。
ご丁寧にムービーまであり、全員の切っ先が城を斬った。大きな瓦礫はベルの結界らしきものによって主人公に当たることはなく、青空が広がる。見上げた先には剣を交差させる七人の男達。耳には威勢のいい声に混じって悲鳴が響き、空から赤い雫が落ちてくる。
気付けば一人、また一人と斬られ、息絶えたような男が墜ちてきた。
影に囚われ、結界に護られる主人公同様私も動くことが出来ない。ただ身体を震わせながら大粒の涙が目尻から零れていた。ムービーが終わると、同調した主人公の声が届く。
[ヒナタ:やめ……ろ……やめ]
[そう呟けるようになったのは、口にあった影が消えたから。そして頭と頬に赤い血がかかるのも……それらを張っていた主が死んだ証拠。青空はいつしか夕焼けへと変わるが、その色は驚くほど真っ赤だ。まるで私を囲む血の海と屍となった人間達のように。ただ一人、逆光で佇む男だけを美しく魅せた]
[カレスティージ:ボクの……勝ーち……]
[綺麗な蒼昊を赤に染めたスティが妖しく微笑む──fin]
夕日をバックに、血だらけのスティが微笑むスチルからタイトルページに戻る。
リストには【蒼昊の覇者】が追加されているが、私は涙をボロボロ落としていた。持っていたビールを膝に落としていたのにも気付かないほど困惑もしている。
そして、八つ空いていたリストの上から三番目が埋まっている。順番的にスティは三番。そして、先ほどの好感度も一番良かったのもスティ。
「ま、まさか……」
涙をなんとか抑え、ゴクリと唾を呑み込む。零れたビールを拭かないまま[はじめから]を押した。
長いステータス上げを行い、魔王との会話が終わると[全員を受け入れる*誰も受け入れない]の選択肢で後者を選んだ。当然殺し合いがはじまるが、次に一番好感度が高く、佇んでいたのは──。
[アズフィロラ:これでもう何者にも邪魔はされない……永遠に]
空いていたリストの一番上に【炎帝の覇者】が追加された。力が抜けたようにベッドに背を落とすと、両手で瞼を覆う。
「嘘だろ……」
嫌な予想が的中した。
空いているリストの残りは恐らく他五人の覇者スチル。しかし好感度が一番高いと言っても、平均で上げてきたため僅差だ。個人を受け入れるのがなかったと思えば、こんな結末とは……このゲーム中々の欝ゲーだぞ。
「でも制覇したいしな……というか魔王はどうしたらいいんだ?」
大きく息を吐くと、膝に落ちていたビールを拾い、タオルで拭く。
意を決したように残りのキャラの好感度を変え、リストを埋めはじめる。魔王に至っては全員同じ数値ではないと迎えられず、その厳しさと一緒に血の海と化す光景と悲鳴に涙が止まらなくなっていた。
「ふっ、ああっ……フィーラがあ……バロンがああっ」
なぜ最初にこっちを選ばなかったと呪った。そして終わったら楽園ルートにまた行こうと、しゃくり上げながら、指を震わせながらリストを埋める。
切っ先を向ける男達の綺麗な瞳はドス黒いものに覆われかのように光を失い、ただ『主人公のために』と手を染めていた。そして覇者となった者は微笑みながら楽園ルートと同じ言葉を言うのだ。
“愛してる”──、と。
「それは愛じゃな~~~~~~いっっ!!!!」
「「「「は?」」」」
悲鳴を上げながら起き上がると、フィーラ、ベル、スティ、アウィンが驚いたように顔を覗かせる。
弾みが良い、ふかふかなシーツと掛け布団。ベッド以外何もない部屋は以前私室として使っていた部屋で、今は旦那達との秘密の場所。閉められたカーテンと四人のラフな格好に夜だと分かるが、呼吸は荒く、無数の汗が流れる。フィーラが背中を擦ってくれた。
「大丈夫か?」
「どこか体調でも悪いんですか?」
「無理……ダーメ」
「取りあえずほら、水」
後ろから優しくベルに抱きしめられると、膝にスティの頭が乗り、アウィンから水の入ったコップを受け取る。それを一気飲みし、心配そうに見つめる四人に動悸が治まりはじめていると、開いたドアから白のローブを揺らすバロンが現れた。
「やあ~ヒーちゃん~今日は~ずっと~寝てたんだってね~~」
「寝て……!」
遅れてやってきた男の変わらない笑顔と声に、三度思い出す夢。
瞬間、ベルの腕もスティの頭も跳ね除けるほど勢いよくベッドから飛び起きると、バロンを抱きしめる。突然のことに全員の目が丸くなるが、私は泣き叫んだ。
「うわ~ん! ドS鬼畜のくせにカッコ良くキメやがって!! 禿げてしまえ~!!!」
「亀甲縛りしていいかな」
「亀……そうだイズ! それと魔王っ!! 出てこい!!!」
眼鏡の奥にある金色を怪しく光らせた男の言葉を別変換すると、影の住民達を呼ぶ。
一瞬にして男達の目つきは険しくなるが、応えるように集まる影の中から漆黒の髪と一緒に軽快な歌が聞こえてきた。
「もっしもし亀よ~俺様誰様イ「運だけで生きるなーーっ!!!」
フィーラ式顔面キックを現れた黒男=イズにお見舞いする。
大きく床へと倒れる音に他は呆れた眼差しを向けるが、構わずもう一人を呼んだ。
「おいっ、魔王! 出てこい!!」
苛立ちと焦りを含んだ声に観念したのか、影とは違う闇が集まる。
男達に威嚇するような声と共にイズと同じ漆黒の髪と赤の瞳。しかし褐色に尖がった耳を持つ魔王が現れた。ヘビを落ちつかせながらも、どこか不機嫌そうに口を開く。
『旦那達が揃っておる場によびだされたくはないのだがっ!?』
抗議の声は勢いよく抱きしめた私の胸によって塞がれ、そのまま押し倒すように床へ転がる。浮き上がった影がクッションとなってくれたおかげで痛さは伝わらなかった。抱きしめる腕を強くする私に魔王とヘビは苦しそうに動く。
『な、なんなのだ……!』
「貴様……ホント……生きてて良かったなあ……」
『はあ?』
「や~ん、面白ぇ夢だったのに、ヒナは心配性なりね。俺はやっぱ決めるとこは決める男だったなり」
起き上がったイズに背後から持ち上げられた私は地面に下ろされると胸を揉みしだかれる。卑猥に動く手よりも違和感のある発言に考え込んでいると、フィーラが眉を顰めた。
「イヴァレリズ、さては『夢渡り』を使ったな」
「夢渡り?」
何度か聞いたことのある言葉に乳房を揺らすイズに目線を向けるがニヤニヤ顔。代わりに答えてくれたのは、上体を起こし、息を整える魔王だった。
『他者の夢を覗きみたり都合の良い夢をみせる、アーポアク王専用の術のことだ』
「覗き見……って、まさか乙ゲー見てたのか!?」
「「「「「『おとげー?』」」」」」
イズ以外が素っ頓狂な声を上げたことに慌てて振り向くと、ニヤリと笑う男に口付けられた。『コンプ祝い』と呟かれて。
画面越しとは違う柔らかい唇と唾液。そして滑らかな舌が差し込まれ、乳房の先端を摘まれるとゾクリと駆け上る刺激。これが本物だと悦ぶように腕を回すと深く口付ける。が、他の男達の手によって引き剥がされてしまった。
我に返ったように見渡せば腕を掴むのはアウィンとバロン、背後には魔王。イズはフィーラ、ベル、スティに切っ先を向けられていた。いつもの調子でイズが両手を上げる。
「や~ん、ホント俺らって嫉妬深いね」
「何に対しても俺はお前を斬るだけだ」
「へぇ、じゃあ久々にヒナ奪取戦する「ダメだ!!!」
大声で制止をかけた私に、剣の柄を握っていた男達の手が止まった。しかし、先ほどまでの惨劇と重なる私が泣き崩れる姿に大きく目を見開いた。
「もう……やめてくれ……もう死ぬとこなんて……」
「お、おい、どうしたんだよ!?」
「フラッシュ~バック~でも~する~夢でも~視たのかな~~?」
左右で膝をつくアウィンとバロンに背中を擦られるが、震えが止まらず、喉を鳴らしながら言葉を紡ぐ。
「全員を……愛したのは私だ……ひっぐ……一人に決めなかったのも全部……私が悪いんだあ……だから……だから……」
「アズフィロラ君ならまだしも、ヒナタさんがネガティブ発言とは」
『ともかく『赤騎士(ニワトリ)』、黒王をのがすな』
「後で斬らせてもらうとして……その必要はなさそうだ」
「ぎゃあーー! スティ、やめろやめろ!! それムリムリ!!!」
「ヒナさん泣かせてタダで済むと思ってるんですか……?」
いつもならナイフを取り出すスティが、イズに無理やり唐辛子を食わせている。世界一辛いと称される種類を。
だが、それさえも自分のせいだと錯覚する。
「スティ……やめろ……するなら私に……いっそのこと殺」
「「「「「『待った!!!』」」」」」
嗚咽する私に、唐辛子で倒れているイズ以外が大声で遮り囲んだ。
その瞳は細く険しいが、伸ばされ撫でられる手は優しい。
「どんな夢を視たかは知らないが、二度と先ほどの言葉を言うな」
「心臓が止まるかと思いましたよ」
「悪いことしたなら……ボク謝るから……だから」
「黒王には謝んねーんだな。ともかく落ち着こうぜ、な?」
「ほ~ら、な~でなで」
『コヤツらが喧嘩するのはこみゅにけーしょんのようなものだ。本気でやりやうなど……主がかなしむことをするわけがなかろう』
ゲームとは違う現実(リアル)に届く言葉、真っ直ぐと私を見つめる瞳にまた涙が零れる。だが、胸の奥は痛くない。反対に高鳴りを増し、嬉しさが込み上げてきた。
それが分かったのか、男達も安堵の息をつくとイズがやってくる。痛い視線に構わず私の頭を撫でる男は意地悪ではない、優しい笑みを向けた。
「愛に不安を覚えるなら俺達が何度だって思い出させてやる。それにお前は応えてくれればいい──愛する妻としてな」
砂糖菓子のように甘い。
十年前から溶かしに溶かされたはずなのに、まだ溶けるのかと思えるほど甘くて、自分の愚かさを思い知る。そして愛されているという偽りのない真実に私の口元も柔らかな弧を描いた。
「ああ……ずっとずっと……愛してくれ」
微笑を向ける私に旦那達と魔王は同じ笑みを向けると了承の意を唱える。
それはゲーム最後のスチル、フルコンプした時に見られるものと同じもの。けれど、直ぐに大きな腕と身体に包まれた。筋書きにはない、私達だけしか作れない物語を刻むように。
──その前に子供達を抱きしめに行くのが先だった。
一日中寝ていたことを謝るように、眠る愛しい我が子達を撫でては癒される。が、直ぐ秘密の部屋へと引き摺り戻されてしまった。
うわあああ~~~~ん、現実は残酷すぎるううぅぅ!!!