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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*もしも世界~もうひとつの答え編~

もしも姉御が64話で日本に還る選択をしていたら?
そんな、もうひとつの物語……。

「これ、返すな」
「「「「えっ!!?」」」」

 


 赤、翡翠、藍、紫の鉱物を返した私に『四聖宝』は顔を青褪める。

 だが、構わず振り向いた。見上げた先には、私を受け止めてくれた玉座に座り、意地の悪い笑みを向ける“王”。見守るだけの宰相、ジェビィさん、レウさん。そして、四人の男達の視線を受けながら、墜ちた時と同じスーツを着た私は言った。

 


「私は還る──日本に」

 


 決断の言葉を──。

 


* * *

 


 青い空と眩しい太陽。
 何も変わらないはずなのに、すぐ近くには高層ビル群。遠くからはガタンゴトンと走る電車と、クラクションを鳴らす車の音。それに混ざるように“あの世界”では鳴ることがなかった携帯が鳴り響く。

 

「もしもし?」

 

 聞き慣れた着信音に出ると、背を預ける窓から風が吹き通る。
 耳に寄せた携帯からは“この世界”で待っててくれた男、洋一の声。

 

『陽菜多さん、今日って暇?』
「うむ、天気も良いし、出掛けたいと思ってたところだ」
『じゃあ、愛と三人で動物園行かないか?』

 

 嬉しそうな声に私も二つ返事をすると通話を切る。
 クローゼットを開け、服を選ぶが、ふと窓の外を見上げた。思い返すのは還って来た日のこと──。

 

 黒い両扉を通った先にあったのは眩しい太陽と覆い茂る木々。そしてブランコ、すべり台、砂場。覚えのある場所は家の近くにある公園だった。時計台の針は七時を指し、スーツや学生服を着た人々が行き交う光景。そして電波の立った携帯に暫し呆けていたものだ。

 だが、コンビニで目にした新聞で我に返る。
 何しろ異世界では三ヶ月しか経っていなかったのに、地球では二年ちょっともの年月が流れていたのだ。さすがに戸惑い、どうすればいいのか悩んだ末、あの時共にいた洋一に連絡した。

 

 繋がるかとても不安で、嫌な汗も流れた。
 けれど、張り上げるように呼んでくれた声、すぐに駆けつけてくれた姿。ついこの間まで幼かったはずの男は私をスッポリと抱きしめられるほど成長し、互いに涙が止まらなかった。

 

 そこからはもう大変。
 住所不定になっているやもと役所にいけば『神隠しに遭った人!?』と騒がれ、警察、マスコミなどなど、世間の注目を浴びてしまった。異世界なんて言っても信じられないだろうから、誤魔化すのも一苦労。それが余計ダメだったのか、両親の件を思い出す勢いにうんざりしたものだ。

 だが、あれから十年。時の流れは簡単に風化させる。
 私も三十八となり、新しい職場で働き、落ち着いた生活を送っている身だ。なのに、どこかポッカリと空いた気持ちになるのはなぜだろう──。

「おや、陽菜多ちゃん。お出掛けかい?」
「ええ、ちょっと友達と動物園に」

 

 鍵を仕舞うと、プランターに水を撒く大家のおばあちゃんに笑みを向ける。
 異世界へ墜ちる一年前から一人暮らししている木造二階建てのアパート。両親の件からセキュリティーのあるマンションも考えたが、危機感をなくすとアパートにしたのだ。

 

 しかし、二年も行方をくらましていたというのに、優しい大家さんは部屋を残してくれていた。そればかりか家賃も気にするなと言われてしまい頭が上がらない。もちろん、働いて返したとも。
 立ち話をしていると、レーダーがピンと跳ね、視線を上げる。首下で二つ結びにした茶髪の女性が帰ってきた。

「おお、千風(ちかぜ)ちゃん!」
「はひ、こんにちは」

 笑顔を向ける私に、アパートの住民の一人、千風ちゃんも笑みを返す。
 服装はとてもラフで、持っている袋を見るに買い物帰りのようだ。仕事が夜という彼女とは滅多に会わないせいか、プランターの花が満開になったように嬉しくなる。そんな私を余所に、大家さんが思い出したように言った。

「千風ちゃん、幼馴染くんが来てたけど大丈夫だったかい?」
「はひ、知ってて出たので問題ありません。ご迷惑掛けたならゴミ収集車に突っ込ませますので言ってくださいね」

 

 可愛い笑顔なのに、なぜか背景が黒い。
 だが、気になったのは『問題ありません』。チクリとどこかが痛むと、千風ちゃんは持っていた袋からコーンアイスを取り出した。

「良かったらどうぞ」
「あ、ああ、ありがと……おっと、そろそろ行かねば!」

 

 腕時計を見ると約束の時間が迫っている。
 アイスを受け取ると二人に別れを告げ、待ち合わせの駅へと走った。

 

 受ける風は気持ち良いのに駆ける足は遅い。
 もうすぐ四十なのもあるだろうが、異世界で受けた恩恵のせいだろう。だが、ここには『天命の壁』も『四宝の扉』もない。魔物だっていないし、電気もある。不便だと感じることはない。
 なのに何かが足りない気がするのはなんだ……。

「陽菜お姉ちゃ~ん!」

 

 我に返る声に急停止する。
 見れば、横断歩道を渡った先に手を振る男女。薄く茶髪に染めた肩までの髪に、白のワンピースとガーディガンを羽織った一六十前後の女性。隣には茶の髪をショートアシメにし、グレーのパーカーを着ている一七十後半の男。十年前はまだ赤いランドセルを背負っていた愛ちゃんと、高校生だった兄の洋一だ。

 

 点滅する信号を急いで渡ろうとするが、同じように急ぐ車が猛スピードで突っ込んでくるのが目の端に映る。あの時と同じように。

 

「陽菜多さんっ!」

 

 焦った様子で声を上げる洋一に、また跳び越えようと足を踏み込む。が、見上げた空から猛スピードでやってくる──スズメと顔面衝突した。

 

「ぐふっ!!!」
「陽菜多さんっ!?」
「な、なぜ……スズメ」

 

 跳ね返った私は幸い車との衝突は避けられたが、中々に痛い。
 よろよろと起き上がると横断歩道の手前まで戻り、見ていた人に心配される。信号が青に替わると、洋一と愛ちゃんが慌てて駆け寄ってきた。

 

「陽菜お姉ちゃん!」
「大丈夫か!?」
「うむ……ちょっと鼻が潰れ……あ、スズメは?」

 

 鼻を押さえたまま涙目で辺りを見渡すが、スズメの姿はない。身を挺した突撃にも見えたが大丈夫だったのだろうか。

 

「ったく、還ってきて早々、肝冷やすことしないでくれよ」
「また異世界に行っちゃうかと思ったよ!」

 

 私のように、あの日を思い出したのだろう。
 高校一年になった愛ちゃんの目には涙があり、二十八の洋一は大きな息を吐き、険しい顔付きになった。そんな二人だからこそ異世界に行っていたことを話した。当然信じてもらえないと思ったが、目の前で見た二人に嘘をつくことは出来ない。だから包み隠さず話したし『わかった』と、真剣な目で言われた時は嬉しかった。今のように。

 

「うむ、もうマンホールは踏まないし、大丈夫だ」

 

 愛ちゃんの頭を撫でると笑みを向ける。
 洋一は眉を落とすが、一息つくと私の手を握り、駅へと歩きはじめた。愛ちゃんは『お兄ちゃん積極的だね』と嬉しそうに笑い、ふと横顔を見る。頬が赤く見えたせいか、首を傾げた私はコーンアイスを手渡した。

 

 二人に違うとツッコまれてしまったが──。

 


* * *

 


「陽菜多さん……“ソレ”どうすんの?」
「うむ、私も悩んでいるところだ……」
「気に入られちゃったね」

 

 空は既に薄暗く、星空が見える。
 だが、都心で明かりが絶えることはなく、行き交う人も多い。そのすべての視線が私に向けられているのは気のせいではないだろう。理由は恐らく私の頭に乗っている──白い鳩。

 

 私と手を繋ぐ愛ちゃんは鳩を突つくが、一向に下りもしなければ飛ぼうともしない。
 動物園を出てすぐ私の頭に乗った鳩。何度手で払っても戻ってくるばかりか電車にまで乗った。駅員さんに鳩の運賃も払うべきですかと訊ねたものだ。しかし、さすがに首が痛くなってきたぞ。

「まったく、あいつ並にしつこいな」
「あいつ?」

 

 訊ねる洋一に、つい白い鳩で思い出す人物を口走ってしまったことに気付き、慌てて頭を横に振る。動物園でトラを見た時も長い時間見つめてしまったからな。

 

「あれ? なんだろ」

 

 悶々としていると、愛ちゃんの声に立ち止まる。
 我に返るように見た先には路上に人だかりが出来ていた。大人から子供まで何かを覗き込んでいるようで、顔を見合わせた私達も近付く。掻い潜って目にした物は『拾ってください』と書かれたダンボール。捨て犬か猫かと思ったが、入っていたのは黒い──ウサギ。

 

「ウ、ウサギっ!?」
「なんで!?」
「真っ黒~!」

 

 先ほど動物園の『ふれあい広場』で見たばかりだが、まさか路上で見ることになるとは。まあ、頭に鳩を乗せている私が言うのもなんだがな。

 しかし、丸まっている黒ウサギに思い浮かべるのは、最後まで抱きしめる手を離さなかった一人の男。あれから無事に生活出来ているだろうか、本当に殺人が起こってたらどうしようと、黒ウサギを見つめながら考える。すると、伏せていた瞳と目が合った。
 

 その色が電気の下でも藍色だとわかると目を見開く。同時に黒ウサギも急にピンッと両耳を立てると嬉しそうに跳ねだした。

 

「な、なんだ? 求愛ダンス?」
「え、ウサギの求愛ってあんなの?」
「いや、知らん」

 

 適当に言ったことに洋一は転ける真似をし、愛ちゃんが肩を叩く。
 そして見事なステップを踏む黒ウサギに周りは驚き拍手を送る様は一種の芸。そこにサラリーマンのお父さんが両手を出すが、顔面に尻(ケツ)アタックを食らった。

 

「「「おお~!」」」

 

 モロに入った攻撃に、つい洋一と愛ちゃん三人拍手。
 しかし黒ウサギは女性や子供お構いなしに威嚇、攻撃し、ダンボールから跳び出すと私達の方へ向かってくる。泣き出す子供の声に身構えるが、ジャンプした黒ウサギはスッポリと私の腕に収まった。

 

「へ……?」

 

 受け止めてしまった黒ウサギは、谷間で頬を擦る。
 呆気に取られたように瞬きを繰り返すしかない私に周りも静まり返るが、突然頭に乗っていた鳩が黒ウサギを突きだした。次いで黒ウサギも威嚇の声を上げながら鳩にパンチを食らわせる。

 

「ちょちょちょ、ええっ!?」
「ウ、ウサギって肉食だったのか……」
「れ、冷静に言ってないで助け……わわわ!」
「陽菜お姉ちゃん、動物に好かれやすいの?」

 

 とんでもない状況に慌てる私とは違い、兄妹は意味深に頷く。
 だが、バサバサと羽根を動かす鳩と、ボクシングパンチを食らわす黒ウサギ。まるであの二人を見ているようで、胸の奥がざわついた気がした。

 

 結局、離れなかった黒ウサギは腕の中、鳩も頭の上。
 いったいなんなんだと溜め息をついていると、アパートが見え、立ち止まった私は振り向いた。

 

「わざわざ送ってもらってすまんな、洋一。職務質問されたら私のせいにしていいぞ」
「いや、もうすぐ三十路の俺に何言ってんだよ」

 

 愛ちゃんを自宅まで送った後、私を送ると言ってくれた洋一。
 両手をズボンポケットに入れ苦笑する彼は物作りの会社で働いている。還ってきた時には既に身長は私を越し、体格も顔立ちも変わった。でも“彼”という根っこは何も変わっていない。あの頃と同じで優しくて頼もしい男だ。
 感慨深く見つめる私に気付いたのか、小首を傾げられた。

「何?」
「いや……カッコ良い男になったのに、なんで結婚しないのかなあと思ってな」

 変わるように苦笑すると洋一は目を丸くする。と、ゴクリと喉を鳴らし、足を一歩進めると伸ばした両手を私の背中に回し抱きしめた。突然のことに驚き見上げれば、真剣な眼差しと目が合う。

「洋……一?」
「それは……陽菜多さんもだろ。結婚……しないの?」

 

 低くなった声で囁かれると、鼓動が高鳴る。
 結婚……確かに私ももうすぐ四十だ。周りは既婚者や結婚を考えている者が多い。でも、不思議と何も思わない。一人が楽だから、というのも少しあるだろうが、一番は……。

 

「わ、私みたいなおばさんは気にするな。貴様は若いんだから……」
「陽菜多さんは今でも綺麗だよ」
「いや、お世辞は……」
「お世辞じゃないって……お世辞で、こんなに心臓がうるさいわけない」
「え……?」

 

 呟きのような声。けど、肩に顔を埋められていたせいかおかげか、ハッキリと耳に届いた。そして胸板。心臓の辺りに耳を澄ますと少し速い鼓動。目を見開いたまま顔を上げると、彼の頬と頬が触れ合い、視線が交じり合う。

 胸元ではウサギ、頭の上では鳩。
 二羽の騒ぐ声さえ聞こえなくなるほど、真っ直ぐな目に囚われたかのように動けなくなる。気付けば鼻先がくっつき、彼から漏れる吐息が動悸を激しくさせていると、その口が開かれた。


「俺……陽菜多さんが……──どわっ!!!」


 呟きと同時に、横から勢いよく出てきたものに体当たりされた洋一。
 地面に両手をつけ、何とか倒れ込むのを堪えた彼のように私も“ソレ”を見る。鼻息荒く、洋一を睨んでいるのはシマシマ模様の物体──イノシシ。

「いや、サイズが小さいから子供(ウリボウ)か!?」
「どっちにしてもおかしいだろっ!」

 ツッコミを入れる洋一に、ここが東京であることを思い出す。
 その隙にウリボウはどこかへ去ってしまったが、額に覚えのあるハチマキを巻いていた気がする。考え込む私とは反対に、洋一は頭をかいた。

 

「ったく、なんなんだよ今日は……」
「だな……そう言えばさっき何を言おうとしてたんだ?」

 

 口元に手を寄せたまま洋一に訊ねる。
 だが、大きな息を吐いた彼は『気が逸れたから今度でいい』と、どこか頬を赤くしたまま背を向けた。私は首を傾げるが、追求するのもどうかと思い、その背に礼と別れを告げる。返すように手だけ振った男に頬が赤くなるのは気のせい……と、思いたい。

 

 そんな熱は玄関に座っていた先ほどのウリボウと、その頭に乗るちょっと重傷に見えるスズメによって冷えた。ペット不可のアパートではないのだが、ウリボウは飼えるだろうか。

 


 

 

 


 暗闇の中で光るものがある。それはずっと私を蝕んできたもの。
 でも、今は彼らのおかげで薄らいでいた。ただ光だけを発するのではなく、気持ちを込め、贈ってくれたもの。

「その気持ちとはなんだ?」

 

 耳元で誰かがとても心地良い声で囁く。

 

「おや、私の方が気持ち良いですよね?」

 

 反対の耳元でくすくす笑う声がくすぐったい。

 

「そんな男の声で濡れちゃダーメ……」

 

 不機嫌な声が何かを舐めると、ピクリと身体が跳ねる。

 

「やっぱ身体は正直だな」

 

 楽しそうに笑う声が指で苦手なところを突く。
 なんだ……覚えのある声と刺激を感じる。おかしい、私は元の世界へと戻り、彼らとは別れを告げたはずだ。いないはずだ。

 

「つまり、俺達のことを忘れていないということだな」
「分身を見た時も、熱く可愛らしい眼差しを向けていましたからね」
「でも……あの男とくっつくのは許さない」
「だーかーら、阻止してやったじゃねーか」

 

 ハッキリと聞こえる声は確かに知っている。
 耳朶を甘噛みする吐息も、口付ける唇も、尖った先端に噛みつく歯も、帰還してから濡れることがなかった秘所を舐める舌も全部。

 

 沈んでいた思考を起こすように重い瞼を開くと、カーテンの隙間から月が見える。けれど、ベッドで寝ていたはずの私は後ろから抱きしめる人物の胸板に上体を落とし、脚をM字に開いていた。全裸で。

 

「え? え? んっ!」

 

 覚醒と同時に顎を動かされ、口付けられた。
 その甘く巧い口付けは一人だけ。驚きよりも差し込まれる舌に応えるのが先で、吐息だけを漏らした。

 

「んっ、んん……フィー……ラ」
「なんだ……ヒナタ」

 

 つい出た名に、答えが返ってきた。
 それが決め手になったように唇が離れると、目の前の男に大きく目を見開く。夜でも赤い髪と瞳を魅せるのは見間違うはずがない赤騎士──フィーラ。

 

「え、ちょ、なんでっああ!」

 

 今度こそ目が覚めたが、大きな両手で胸を揉み込む男、首筋に吸い付く男、股に零れる愛液を舐める男によって、久し振りに快楽の声が上がる。

 

「ひゃあっ……あっ、ベル……スティ……アウィ……んんっ!」
「やっと呼んでくれましたね」
「んっ……ヒナさんの味だ」
「蜜も……増えたな」

 

 嬉しそうに返事をしたのは空騎士ベル、影騎士スティ、騎兵アウィン。
 最後会った時と同じ姿で微笑む彼らは、紛れもなく異世界アーポアクの『四聖宝』。だがなぜ、本当に彼らなのか。そう問いたいが、私と同じ裸の四人は愛撫をやめない。そればかりか、枯れていたと思っていた身体が刺激を悦ぶかのように跳ねては愛液を零した。

 

「ひゃっ……やっ」
「相変わらず……口から出る言葉は素直じゃないな」
「そこがまたヒナタさんの可愛いらしいところでは……あるんですけどね」
「でも……ダーメ」
「ああ……我慢効かねー」

 

 喘ぐ私に、四人は狭い部屋で交代する。
 寝転がったベルの胸板で仰向けになった私にはスティが跨り、顔の近くにアウィン、スティの背中に隠れてフィーラ。そんな彼らの手には大きく膨れ上がったモノがある。

 

「ちょ……待っんんっ!」
「充分、待ったつーの……っあ」

 

 制止の声はアウィンの肉棒を咥え込んだことで塞がれる。
 次いで、寄せた胸の谷間にはスティの肉棒、零す愛液を使って前から侵入するのはフィーラの肉棒、そして後ろからベルの肉棒が膣内を貫いた。

「んんんんっっ!!!」

 

 駆け上る刺激はとても痛くて重い。
 膣内を支配する二本の肉棒は大きく腰を揺すり、最奥まで貫いては自身を大きくする。咥え込むモノも同じように大きくなるが、スティの手によって無理やり離されると、今度は彼のを咥え込まされた。

 前後で揺するフィーラとベルの動きに合わせて胸元で肉棒を動かし、口に入ったり出たりする。潤んだ目で見る私に、頬を赤く染めたスティは微笑んだ。

「ヒナさん……その瞳……可愛い……っ」

 

 長かった前髪は切られ、常闇の藍色が艶やかに映る。
 それがとても綺麗で恥ずかしくて、膣内と手に握るモノをぎゅっと締めつけた。

 

「「「くっあ……!」」」

 

 三人の呻きと同時に熱い飛沫が膣内に、顔にかかる。
 衝撃に口から肉棒を離すが、ガッシリと頭を固定されてしまい、口内で白液を噴出された。

「ひゅんんんんっ!!!」

 

 熱い液体が口内を染め、青臭い匂いが充満する。
 それが男のモノだと、彼らのモノだとわかると、胸の奥にポッカリと空いていた想いが埋まる気がした。でもなんで……なんで貴様達がここに。


「そりゃあ、ヒナに会いたかったからだろ」

 四人とは違う声に、大きく目を開く。
 気付けば両脇に置かれた行灯が薄暗い空間を、目先にある玉座を照らしていた。だが、そんな光を受けずとも座っているのが誰かはわかる。意地の悪い笑みも浮かべていれば、それこそ一人だけ。

 

「イズ……」
「や~ん、そう嫌そうな顔すんなって」

 

 愉しそうに笑いながら見下ろすのは漆黒の髪と瞳を持つ、アーポアク国王。
 手招きする姿に裸の私は躊躇うが『来ないと何も教えないなり~』と言われ、渋々足を進めた。一歩一歩足が進むにつれてわかる顔はやはりイズ。その手が伸ばされると、ムギュリと胸を鷲掴みにされた。

 

「やっぱりな!!!」
「裸のお前が悪いな~り……でもちょっと垂れてきてんな。歳以前にストレスか?」
「やかましい!」

 

 真面目顔にハリセンで叩きたくなるが、アクロアイトのブローチはない。
 痛む胸を堪えるように手で頭を叩くと、腕を引っ張られ抱きしめられた。王のせいか、肩幅が広くて硬い。見上げた先にある眼差しも同じ漆黒。でも、日本人とは違う黒に、本物のイズだとわかる。

 

「貴様が……都合の良い夢でも……視させているのか?」

 顔を伏せた言葉が震えているのが自分でもわかった。
 身体も小刻みに揺れていると、大きな手が背中を撫でる。

「へ~……あれだけ気持ち良さそうにしてたくせに、夢だと思ってんだ? ヒナは淫乱だね~」

 

 くすくすと耳元で笑いながら、イズの手が何も纏っていない下腹部に落ちる。
 かけられた熱い飛沫がないせいだと思っていたが、秘部に指を挿し込まれると、簡単に愛液が零れた。小さな喘ぎを漏らす私の首筋をイズは舐める。

 

「確かに俺は夢を渡り視せることが出来る。けど、いまさら四人との情痴視せてどうすんだよ」
「じゃ、じゃあ、あいつらは……」
「本物だよ。あいつらも──俺も」

 挿し込まれていた指が抜かれると、寄せられる唇と唇が重なる。
 四人と違う口付けを覚えているのは、あまりしなかったせいか、胸を揉む両手だけで充分なせいか。睨む私に唇を離したイズは片方の先端を摘み、片方の先端に吸い付く。変わらず胸フェチの男はそのまま話を続けた。

 

「ヒナにとっちゃ十年も経ったかもしんねぇけど……ん、俺らにとっちゃ十ヶ月振りだ」
「え……あん」

 

 先端を引っ張り離した男の笑みはどこか物悲しい。
 同時に帰還した時の年月を思い出す。けれどなぜ今。その疑問だけは晴れず、息を荒げながら見つめると、胸を寄せたイズは口角を上げた。

 

「あいつら『四聖宝』辞めたんだ」
「え……ひゃっ!」

 

 チロリと両先端を舐められ声を上げる。
 静かな空間にはどこまでも響き渡るが、頭の中では先ほど聞いた言葉が回っていた。『四聖宝』を辞めたって……つまり団長を辞めたってことか?

「平たく言えば騎士どころかアーポアクの民であることも棄てた」
「え……」

 

 真っ直ぐな漆黒の瞳が向けられるが、私はただ目と耳を疑っている。察したようにイズは谷間に顔を埋めると、篭った声で続けた。

「俺の魔力回復を待ちながら次の団長や『四天貴族』諸々決めやがってな。やっと今日、異世界への扉を開いて地球……日本に来たんだよ。もっとも十年経ってるってわかって会う自信がなかったのか、分身で様子見とかしてやがったけどな」

 

 くすくすと笑う声がくすぐったく、未だに何を言っているのか理解出来ない。でも、ひとつひとつの言葉を思い返すと、一本の道が出来た。

 

「私……もうすぐ四十だぞ……?」

 

 導き出した答えは胸の奥を熱くされる。でも苦しい。
 彼らは最後会った時と変わらないのに、私は充分に歳を取った。彼らが知っている私とはもう違う。そんな私の震える身体を大きな両手が優しく包み込む。寄せられる頬に顔を上げれば、イズは優しげに微笑んだ。


「だから? 十年経ったお前でもあいつらも俺もお前にこうして触れて求めた。それが答えだろ……一緒に生きようぜ」


 静かな声と共に口付けが落ちる。
 それは全身を満たすかのように暖かく、目尻から零れるのは、涙。

 

 幾つも受ける愛などあってはならない、違う世界の私を愛してはならない、またいつ災厄を招くかわからない私はいてはいけない。そんな想いから私は彼らを、彼らの愛を手放した。なのに、私は忘れられなかった。たったひとつの囁きを思い出せば胸は痛んでは高鳴り、震える身体は熱さを求める。

 結婚しなかったのも、彼氏を作らなかったのも、時間が経てば経つほどに彼らを──愛していたのだと知ったから。

 

 カーテンの隙間から射し込む光は太陽。
 朝焼けの空は異世界で見ていたものと何も変わらない。ただ自分の部屋が違うだけで、傍にいる者達も……いや、もうそれだけで終わるものじゃない。
 狭い自室の床に敷かれたシーツの上で大事に大切に、護るように囲み抱きしめる男達。

 


「フィーラ……ベル……スティ……アウィン…………こんな私でもまた……愛してくれるか?」

 


 そっと呟いた声。
 けれど、応えるように抱きしめる手が強くなると、言葉として返ってきた。


「……ああ、愛すと誓おう」
「ええ……愛してますよ」
「好き……大好き……愛してる」
「愛してるから……もう、離れんなよな」


 優しい声に零れる涙は痛くない。むしろ安心するように瞼を閉じた。
 すると意地の悪い笑みを浮かべる男が視えたが、背を向けると去って行った。でも悲しくはない、きっとまたひょっこりとやってくる。そう確認するようにフィーラを見れば変わらずの苦虫顔。それが可笑しくて、つい笑ってしまった。

 

 そんな私の手に、四人は返したはずの宝石を乗せた。
 それらは綺麗な装飾へと変わっていたが、向けられる眼差しと同じ色の輝きに嬉しさが込み上げる。また零す涙を拭い舐め取られると、今度こそ誓った。

 これからも共に傍に愛することを────。

 

 

 まあ、その前に引越しとか職探しだがな。

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