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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*もしも世界~隠しキャラ攻略編~

もしも男達が18禁乙女ゲームのキャラだったら?

隠しキャラを画面越しに攻略する姉御をお届け。

※内容的に死亡・無理矢理・食虫プレイなどがありますので、ご注意ください

 日が暮れ、ジョギングから帰ってくるとシャワーを浴びる。
 汗を流して早々にビールを開けるのは、無事『四聖宝』をフルコンプしたからだろう。しかし、喜んでばかりはいられない。頭にタオルを被せたままゲームを起動させると、ENDリストを確認した。

「まだまだ空いてるなー……」

 アウィンより下のリストはノーマルやBADで幾つか埋まっているが、まだ二十以上も空いている。宰相とイズが隠しだと考えても空きすぎではないだろうか。

 まあ、ウダウダ考えても仕方ないと背伸びをし[はじめから]をクリック──。

 


 *隠し*ヒューゲバロン攻略*

 “異世界の輝石”を知る重要人物の一人、宰相。
 だが、その本心を本編で窺い知ることは出来なかった。普段伸ばす語尾が伸びない時、普段閉じているようにも見える金色の双眸が見えた時。どれが本当の彼なのか分からなくなるが、再プレイして『四聖宝』より厄介なのを悟った。

[?:へ~またずいぶん~可愛い子が~きたね~~]

 顔を伏せたまま肩を震わせる私。聞こえてくるのんびり声がとても憎い。
 宰相のところへ通い続けた結果はノーマルEND。ルート自体に入ってないことを知り、どこで分岐するんだと焦りに焦って見つけたのは初っ端の初っ端。玉座に墜ち、男達に切っ先を向けられた時に出た[逃げる*逃げない]の選択肢。

 通常は前者、後者はBADだと確認済み。の、はずだったが『四聖宝』をコンプしたおかげかせいか、後者に進むと捕まった牢屋に宰相が現れたのだ。

[?:僕は~この国で~宰相している~ヒューゲバロン・クロッバズ~三十五歳~独身で~~す]
[ヒナタ:はあ……陽菜多です]
[ヒューゲバロン:ヒナタちゃんね~じゃ~ヒーちゃんだ~~]

 通常時と同じ自己紹介。しかし、毎度ながら年上に呼ばれる悲しさから顔を両手で覆ってしまう。すると『ガチャン』という音。見ると、牢屋に入ってきた宰相に顎を持ち上げられているスチル。

[ヒューゲバロン:今日からキミは僕の監視下に置くから、よろしくね]
[さっさきまでとは違う声はどこか冷たさを含んでいるのに、重ねられた唇は温かい。どうして会ったばかりの男とキスしているのか。それさえ気付くのに遅れたのは、眼鏡の奥にある金色に一瞬でも囚われていたせいだろう]

 主人公と同調したかのように私も動くことが出来ない。唖然の意味で。
 ベルでさえ『結婚しませんか』=言葉だけだったのに、まさか最初の口付けが宰相とは……年上の余裕なのか恐ろしさなのか。くそっ、ハリセンが早く欲しい。

 牢屋から出されると通常と同じ説明を受けるが、なぜか私室を貰うことが出来ず『宰相室』で寝泊りするように言われた。寝室がある奥に案内されるも、雑然とした隣室とは違い、殆ど物がない。デカデカとベッドはあるが……嫌な予感がする。

[ヒューゲバロン:ベッド~ひとつしか~ないから~一緒に~寝ようね~~]
[ヒナタ:そ、そんなこと出来るわけないだろ!]
[ヒューゲバロン:大丈夫~僕~忙しいから~そんな~来ないよ~それとも~期待してた~~?]
[ヒナタ:そ、そんなわけないだろ!]
[ヒューゲバロン:あっれ~何~想像~したのかな~もしかして~さっきの~……キス?]
[ヒナタ:なっ……!]
[妖しく映る笑みに先ほどの口付けを思い出すと、ベッドに押し倒されていた。長いミントグリーンの髪と、無骨で大きな手が頬を撫でる]
[ヒューゲバロン:期待してるならいいよ。キミがどういう子なのか調べられるしね]
[口調が違うことよりも首筋を舐められる行為に驚き身じろぐ。けれどビクともせず、金色の瞳に映る自分が囚われているように見えると、また口付けられた]
[ヒナタ:んっ……あふっ、ん……]
[ただ重ねるだけではない、ねっとりとした舌までもが差し込まれ、感じたことのないものが湧き上がる。舌同士を繋ぐ白い糸が切られると、宰相は微笑んだ]
[ヒューゲバロン:じゃあ~これからの話~しようか~~]
[呑気な声に怒ることよりも脱力した]

 代わりに私が枕を叩きまくる。顔を真っ赤にして。
 タイプ的にスティに似ているが、感情任せの彼とは違いどこか計算が含まれているように思える宰相。計算高い男って苦手なんだよな……自分が騙されやすいから。

 頭を冷やすようにビールを飲むと、普通に同僚としてイズを紹介してもらい、『四宝の扉』の説明。ステータス上げ開始というように『宰相室』通いをするが、夜になると必ず[宰相室の寝室に行く*行かない]の選択肢が出てくる。
 警戒してしまうのはスティのせいだろうが、後者を選択すると【戻らない石】というBADENDだった。一択問題しかないゲームに憤りを覚えながら前者を選択するが、これはこれで枕を抱えなければならない。

[ヒナタ:ああっ……ダメっ]
[ヒューゲバロン:それは~僕の~台詞~まだ~今日のこと~全部~聞いてないよ~……ねえ、ヒナタちゃん?]
[ヒナタ:ひゃああああっ!]
[くすりと笑いながら後ろから抱きしめる宰相は耳朶を舐める。同時に胸の先端を摘まれ、濡れる秘所に指が入った。快楽の海へと導かれながら私は必死に今日を語る]

 暗い寝室で裸体の主人公に今日の報告を言わせる宰相。
 自分だけ服を着ているところがなんとも言えないが、忙しいって嘘だろと言うほど毎晩抱かれている。その理由も何も分からない男にビール缶だけが増えていった。

 しかし、アウィンが魔王に襲われるとパッタリと止む。
 さすがに大事件だからかと思ったが、アウィンのロジーさん事件の時に長く空けられると寂……いやいや、おかしいだろ。まるで欲求不満みたいじゃないか。セフレみたいな関係なのに。
 頭を抱えている間にスティもやられると、ジェビィさんに呼び止められた。

[ジェビィ:悪いんだけど、ヒューゲちゃんに植物を届けてくれないかしら]
[ヒナタ:植物?]
[ジェビイ:ええ、彼の趣味でね。最近疲れてるみたいだから]

 初耳情報に驚きながら直径三十センチほどの箱を受け取る。
 植物がなぜ箱にとも思うが、考えれば本当に主人公(私)は彼のことを知らない。『四聖宝』みたいにデートに誘われるわけでもなく、ただ仕事とベッドの中で話すだけだった。好感度だけ高くなっても漠然としたものしか広がらず、どこか寂しい。

[ヒューゲバロン:やあ~ヒーちゃん~どうしたの~~?]
[ヒナタ:これ、ジェビイさんから。植物らしい]
[ヒューゲバロン:ああ~ありがと~~]
[変わらない様子で受け取る彼の手と手が当たると動悸がいやに激しい。目を逸らし訊ねた]
[ヒナタ:何を貰ったんだ?]
[ヒューゲバロン:さあ~向こうで~開けて~みるよ~~]
[彼が指したのは寝室とは違う部屋。入ったことのない部屋について訊ねると、不敵な笑みを向けられる]
[ヒューゲバロン:覚悟が~あるなら~入っていいよ~~]

 まるで鶴の恩返しのように[覗く*覗かない]の選択肢。
 意味深な言葉に躊躇うが、疼く身体は前者を押し、くすくす笑う彼に手招きされる。それだけで動悸が早くなる──が、それは危険信号だった。

 開かれた部屋はジェビィさんの私室のように緑が生い茂っている。
 しかし、伸びた蔓の先にはさじ型の補虫袋を付けたモノ、棚にはトゲを生やし、大きく口を開いているようにも見えるモノ。メジャー級のメジャー、ウツボカズラとハエトリグサ他、食虫植物に出迎えられた。
 夜のせいか、いっそう不気味に映る室内に主人公同様言葉を失っていると、宰相は箱からモウセンゴケを取り出す。

[ヒューゲバロン:奇抜な~見た目に~反して~策士なとこが~好きなんだよ~~]
[ヒナタ:まんま……貴様だな]
[ヒューゲバロン:……それはヒナタちゃんだろ]
[ヒナタ:は……っ!]
[間抜けな声はいつの間にか距離を詰めていた男の唇によって塞がれた。一瞬身じろぐも、久し振りの口付けに身体と心は悦んでいるように思える。けれど、腕とは違う何かにお腹を締めつけられているのに気付き見れば、植物の蔓]
[ヒナタ:な、何……っああああ!]
[力強い蔓に唇を離されると両手と両脚にも蔓が巻かれ、身体が宙に浮く。綿のような先端からはトロリと甘い匂いがする液体が落ちるが、服に触れると蒸発するように穴が開いた。ブラジャーすら溶かし、膨らみが露わになると、口を開けた別の植物が薄紅色の先端に食いついた]
[ヒナタ:ひゃあああああっっ!]

 とんでもない展開に私もどうすればいいか分からない。
 肝心の宰相に至っては先端を貪っては粘着を吐く植物と、嗚咽する主人公を細めた目で見ているだけだ。

[ヒナタ:た、助け……]
[ヒューゲバロン:……やっぱり君が食中だね]
[何を言っていると問い返したいのに、先端を吸引する植物に悲鳴を上げた。すると、溶解液を持つ植物を手に持った彼は下腹部に蜜を落とし、ショーツに穴を開ける。その穴を通り、長い指が一本、秘所に挿し込まれた]
[ヒナタ:ああっ……]
[ヒューゲバロン:あれれ~植物とは違う蜜が~零れてるね~~……でも味は]
[くすくす笑う男は身を屈めると、下腹部から零れる蜜を舐めた]
[ヒューゲバロン:甘い……ね]
[ヒナタ:やあああぁぁっ……!]
[植物じゃない刺激に大きく身体を揺らすが、絡まる蔓と彼の両手が足を掴み逃げることが出来ない。涙を零す先には音を立てながら秘所を舐める男。その金色の瞳と笑みに囚われる]
[ヒューゲバロン:潤んだ目と甘い蜜……僕さえ誘惑するなんて、とんでもない女だ]
[その瞳に何かを言いたい。けれど塞ぐ口付けが身体を舐める植物を感じないほど甘くて蕩けてしまいそうなほど愉悦に浸らせる。気付けば下腹部に何か大きなモノが宛てがわれるが、頬を包む彼から視線を動かすことは出来ない。目先の口元に弧が描かれた]
[ヒューゲバロン:ご褒美に“王”から護ってあげるよ……この植物達と一緒に……ずっとね]
[暗闇の中でも光る金色。既に囚われていたかのように口付けを、太い男根の貫きを受ける。響かせる声はどこか歓喜しているようにも聞こえた──fin]

 食虫植物に絡まれ挿入されているスチルからタイトルページに戻る。
 リストに【木漏れ日の中の快楽】が追加され、カチコチと時計の音。小刻みに震える身体を汗が冷やすが、直ぐ熱くなった。

「なんじゃそりゃーーーーーーっっ!!!」

 出来るなら家を飛び出して叫びたいが、さすがに夜のため枕に顔を埋めたまま叫ぶ。
 いったいなんだ! これはどういうENDなんだ!? 食虫植物っておいっ!!!
 予想外すぎる展開とプレイに息を荒げながらロードし[覗かない]を選択。ノーマルEND。床に倒れた。

「ちょ……どこに分岐があった……」

 ここまでの道のりで変わった選択肢やイベントはなかったはず。まさか食虫が幸福ENDなのかと思ったが、ED曲は流れていないし、宰相リストの一番上も空いている。
 考えるようにゲームパッケージを見ていると、宰相の下にいるアウィンに目が止まった。

「そう言えば……ドラバイト出身とか言ってたな」

 アウィンルートで一度だけ出てきた宰相。
 フィーラの時、イズとの好感度がありすぎてBADになったように、キャラ同士の関係性はあるかもしれない。気合いを入れ直すように起き上がると、新しいビールとカラムッチャをお供に再開。

 [逃げない]、[宰相室の寝室に行く]、一日一回『宰』を選ぶ以外はアウィンのロジーさんルートを進む。内心アウィンと会えなくなる結末にビクビクしていたが、ある日、教会へと招待された。ロッキングチェアに座る白髪のご老人、ロジーさんに迎えられる。

[ロジエット:わざわざきてもらってすまんな。実は主に折り入って頼みがある]
[ヒナタ:頼み、ですか?]
[ロジエット:ああ。バロン……宰相を病院へ連れて行ってくれぬか?]

 再び予想外の展開にカラムッチャが口から零れる。
 聞けば宰相は元ドラバイト騎士団団長で、当時負った傷により、目が失明に近いほど視えていないらしい。それでも回復する可能性もあり通院していたが、最近来ないと連絡があったとのこと。なぜそれで自分にと問う主人公に、ロジーさんは苦笑した。

[ロジエット:ワシやアウィンが言っても流されるだけじゃが、アヤツに気に入られておる主ならと思ってな]
[ヒナタ:気に入られてる?]
[ロジエット:ああ、アヤツは好きなものほど傍に置く。だからこそ……揺らいでおるのじゃろうが]

 苦渋の色を浮かべたロジーさんのように、夜、病院の件を聞いた宰相も同じ顔をすると寝室へと促された。一瞬抱かれるのかと心臓が跳ねたが、ベッドに座った彼はポツリと語りはじめた。“異世界の輝石”の正体。視力を失った真実。そして、彼と王(イズ)の承認によって主人公(自分)の生死が決まることを。
 本編ではイズからしか聞いたことなかったせいか、彼から聞くとまたニュアンスが違う。何より前王によって視力を失ったなど驚愕すぎるが、主人公は落ち着いた様子で言った。

[ヒナタ:だから……監視下、なのか]
[ヒューゲバロン:そう~幸福か~災厄か~判断するには~一緒に~いた方が~いいからね~~]
[先ほどまでの呟きとは変わり、いつもの声で笑顔を向けられる。出会った時から監視下に置くと、どういう子か調べられると言っていた。それらが審判のためなら納得出来る。出来る……のに]
[ヒューゲバロン:なんで~……泣いてるの?]
[語尾を解いた声に零れる涙。必死に堪えようと顔を伏せるが、服を握りしめる両手も肩も震え、涙も止まらない。けれど、頬に触れた大きな手によって顔を上げられる。涙で滲む先には金色の瞳を細めた男と笑み]

 涙を流す婦女子の顔を見るなどハリセンで叩きたくなるが、Shiftキー押してもハリセンは出せなかった。代わりに[助けてくれ*助けてくれないのか?]の選択肢。同じように見えて意味合いは異なるであろう日本語の怖さを実感しながら考える。そして自分通りにいこうと後者を押した。素直じゃないとか言わないでくれ。
 選択肢に宰相が目を丸くしたのは一瞬で、直ぐ笑みを向けるとシーツへと押し倒された。

[ヒューゲバロン:なんで~僕が~助けないと~いけないのかな~~?]
[ヒナタ:元……騎士団長だったんだろ?]
[ヒューゲバロン:今は~宰相~~]
[綺麗な長い髪が頬を撫で、見下ろす微笑を涙を零しながら見つめる。けれど眼鏡の奥にある金色が揺れているのが見えた気がして、両手で彼の頬を包んだ。驚くように目を見開いた男に震える口を開く]
[ヒナタ:願うなら……私は貴様に助けられたい。一緒に生きたい]
[ヒューゲバロン:……媚びても無駄だよ]
[くすりと笑う声に媚びてないと否定したい。けれど嘲笑われるだけな気がして胸が痛くなる。出会った時からこのベッドで与えられた刺激が別の感情として大きくなった痛み。一人で眠る日が多くなった今やっと気付いたように、私は言葉を紡いだ]
[ヒナタ:どんな思惑があったとしても……私は貴様が……バロンが好きなんだ……好きになってしまったんだ]
[ヒューゲバロン:……どうして今、言うわけ?]
[大きく息を吐いた彼は呆れたように両手を跳ね除けるが、私は苦笑した]
[ヒナタ:今……言っておかないと……明日があるかわからないだろ]
[ヒューゲバロン:……キミは嫌な女だよ、本当]
[ヒナタ:え……んっ!]
[篭った声と共に口付けられる。それはとても激しくて身じろぐが、押さえ込まれた身体ではどうすることも出来ない。唾液が零れ垂れるほど貪った唇が離れると、息を荒げながら真っ直ぐ私を映す金色の瞳と目が合う]
[ヒューゲバロン:いいよ、今夜は愛してあげる。キミの……ヒナタちゃんの最期の願いとして]
[ヒナタ:バロ……んんっ]
[彼の言う“最期”に胸が痛む。けど、最期に彼と、好きになった人といられたと思えば悲しいことなど何もなかった]

 翌日、宰相の姿はなく、魔王がやってくる。
 姿さえ見せない男に主人公は一粒の涙を零し、国を去った。私の両手は握り拳を作り震えている。

「な、殴りたい……!」

 連続ハリセンの刑にしてやりたいのに、いないせいで叩けない! こんなに想ってくれている主人公になんて男だ!! 鬼眼鏡、悪魔、ドS、鬼畜、バカヤロー!!!
 そんな悪態をつくがタイトル画面には戻らない。むしろ本編通り進み、魔王城に侵入者が現れる。途中まで好感度を上げていたアウィンかと思ったが、長いミントグリーンの髪と白のローブ。何より変わらぬ笑みと金色の瞳を持つ男に目を瞠った。

[ヒューゲバロン:やあ~ヒーちゃ~ん~元気~~?]
[ヒナタ:バ、バロン……なぜ]
[聞き慣れた声と姿に間違うはずはない。けど、理解も出来なかった。どうして彼が……]
[魔王:ほう、驚いたな。まさか『死神騎士』にお目にかかることが出来ようとは]
[ヒューゲバロン:うっわ~懐かしい名前~言わないでよ~今は~ただの~……しがない宰相だよ]

 のんびりではない、背筋が凍るほどの声と瞳にゾクリとしたものが駆け上ると、抜刀された剣が金色に光る。それは『解放』の光で、次々と魔物を斬る姿は騎士そのもの。
 見惚れている間に戦闘も夢の中での会話も終わり、明るい世界へと帰る。瞼を開いた先は魔王城にある黒いベッドの上。そしてきてくれるとは思わなかった男──が、主人公の両腕を頭上で縛っていた。

[ヒナタ:なんじゃそりゃーーーーーーっっ!!!]
[ヒューゲバロン:やあ~おはよう~あまりにも~起きないから~縛っちゃったよ~~]
[ヒナタ:なんでそうなる! 大体貴様何しに……んっ]
[抗議の声も身体も唇と手に押さえ付けられてしまった。もう満たされることはないと思っていた口付けに囚われそうになるが、無理やり顔を逸らす]
[ヒナタ:なんで……最期って言ったくせにこんな……]
[ヒューゲバロン:最期だよ……キミの願いを聞くのはね]
[ヒナタ:え……?]
[大きな腕に上体を起こされると胸板に顔が埋まり、肌を伝う涙を指先で拭われながら耳に唇が寄せられる]
[ヒューゲバロン:僕は好きなものほど束縛し、逃げれば逃げるほど追い駆けて捕まえて調教したい男だ。だから“願い”なんてものは聞き入れない……けど]
[ヒナタ:ちょ、調教って……ああっ!]
[甘美な声と共に耳に舌を這わされ、下腹部が疼く。けれど声はいっそう艶やかになった]
[ヒューゲバロン:逃げた子を捕まえるには仕方なかったんだよ。それが国にとって災厄だろうと、僕にとっては大事な姫君おもちゃだからね]
[縛られた腕を撫でる手に私は顔を上げる。そこには意地悪とは違う、柔らかな笑みを向ける男]
[ヒューゲバロン:だからもうキミの“願い”は受けない。それでも良いなら一緒に帰ろう。もっとも断ったところで無理やり連れて帰るけどね]
[ヒナタ:なんだ……それ]
[脅迫にも聞こえるが、湧き上がる気持ちを表すかのように笑みを向ける。同じように微笑む彼の唇が寄せられると、聞きたかった言葉が届いた]
[ヒューゲバロン:好きだよ──ヒナタちゃん]

 口付けと共に画面が真っ白になるとED曲が流れる。
 ベッドに背を預けた私は大きく息を吐き、天井を仰いだまま瞼を閉じた。曲が終わり聞こえてくるのは今までよりも慈しむような声。

[ヒナタ:ひゃあ……あん、バロン……まだ仕事んん]
[ヒューゲバロン:願いは聞き入れないって何度言えばわかるのかな? ああ、そんなに虐めてもらいたいの? ヒナタちゃんはドMだね~~]
[ヒナタ:違っ……あああっ!]
[陽のあたる宰相室の椅子に座るバロンの膝に乗った私は腕を後ろで縛られていた。下腹部は疼く身体を満たすように男根で貫かれ、腰を持ち上げられては落とされる。尖った胸の先端を甘噛みする彼はどこか楽しそうで、自然と私も笑みを零す。すると金色の瞳が細められた]
[ヒューゲバロン:……やっぱ、ドMだ]
[ヒナタ:ふあああぁぁっ!]
[認めるような声が今日も上がる。出会った時から囚われてしまった調教師の手によって──fin]

 本編でも縄プレイかと半分呆れながらも、バロンリストの一番上に【金色の手】が追加された。色々と文句を言ってやりたいが、結局は好きになってくれていたのかと分かれば不思議と怒りは沸かない。
 ちなみにベッドでの選択肢[助けてくれ]を押すと、亀甲縛りさせられたまま寝室に監禁END。彼の最後のリスト【緊縛加護】が埋まった。

 こいつ、ただの縛りフェチか──。

 


 *隠し*イヴァレリズ攻略*

 すべての根源とも言っていい法螺吹き王。
 こいつは他の連中と違ってどこに行けば会えるがないため殆どが運だ。その運が彼のルートを大きく左右すると分かったのは屋上での魔王戦。好感度は高いはずなのに、屋上に現れた彼の手によって殺されてしまった。

[イヴァレリズ:運がなかったな……ヒナ]
[同じ漆黒の瞳を向ける男の艶やかな微笑が最期に見えた──fin]

 タイトルページの曲を聞きながら【黒竜の判決】の文字に肩を震わせると、我慢出来ない声が上がる。

「だああああーーーーっ! 何が『運がなかったな』だ!! コンチクショー!!!」

 『運が足りないなり☆』と言われているようで腹が立つ。
 しかし、運(そう)と分かれば解決策はある。実はこの男、大の甘い物好き。そのため高級チョコレートを所持しているとかなりの確率で現れ、あげるといつも以上に運が上がるのだ。『王釣り大会』と称し、実行してみる。

[イヴァレリズ:チョコレートの匂いなり~!]

 案の定笑顔で現れた男に渡すと、グンッと運が跳ね上がる。
 こんな王で大丈夫かという心配よりも、面白いぐらい釣れる釣れる上がる上がる展開に、私の脳内は花畑。屋上での魔王戦にもイズが現れるが殺されはしない。むしろ護るように盾になってくれているから大丈夫だろうと思った矢先、影から乱入者が現れた。

[?:たるんでるな…………]
[イヴァレリズ:親父!?]

 イズに似た容姿に漆黒のローブとマフラー。
 はじめて見るが、イズが呼ばなくとも父親だと分かる。瞬間、父親の大剣が主人公の胸を貫いた。

[イヴァレリズ:ヒナーーーーっっ!!!]
[珍しい大声と顔を青褪めたイズが見えた気がしたが、視界は虚ろになり、彼とは違う低い声が耳に届く]
[イヴァレリズの父:甘さのある世界王など…………笑わせる]
[冷たい眼差しは私ではなく抱きしめる男に向けられたのだろう。そんなことはないというように、同じ漆黒の髪を撫でた私は永遠開かない瞼を閉じた──fin]

 カチコチと時計の音とタイトルページの曲が響く。
 リストには【甘さゆえの過ち】が追加され、私は呆然としたまま呟きを漏らした。

「これ……私のせいか?」

 菓子釣り=甘い、という、運の時のようなジョーク語に首を傾げる。それが本当なら悪いことをしたなと拝んだ。死んだの主人公(私)だが。

「ん~、アウィンみたいに上げすぎもいかんというやつか」

 見ていたら食べたくなったポ○キーを咥えたままロードし直す。ほどほどのお菓子釣りをしていると、ジェビィさんが現れた。

[ジェビィ:あらあら、イズ。貰いすぎはダメよ]
[イヴァレリズ:よお、お袋]
[ヒナタ:お袋!?]

 新事実にポ○キーが勢いよく吹き飛んだ。
 咳き込みながら並んだ二人をよく見ると似ている。考えれば似た発言が多かったな……妙に納得しながらポ○キーを拾うと、親子の会話が聞こえてきた。

[ジェビィ:レウには最近会った?]
[イヴァレリズ:うんにゃ。八年ぐらい会ってねぇよ。つーか、生きてんの親父?]
[ジェビィ:一週間前までは生きてたわよ。確か]
[ヒナタ:酷い会話だなっ!]

 主人公同様ツッコミたいが、二人してなんでもない様子。親子だ。
 そこでジェビィさんに旦那さんがよく屋上にいることを聞き、翌日行ってみる。直ぐ行動したのが良かったのか、先ほど主人公を殺したイヴァレリズの父親に会うことが出来た。しかし『こんにちは』と言っても何も返さず去ってしまった。

「完璧イズは見た目父、中身母だな」

 無愛想すぎるのは苦手なせいか不満気にポ○キーをポキポキ食べる。が、またその父親に殺されてしまった……いったいなんの恨みがあるのだろうか。

「ええ~と……他に何もなかったから、ステータスか?」

 さすがに慣れてきたのか、思い返しながらルート条件を考えるが、運以外のステータスが絡む率は低い気がする。それにわざわざレウさんのことを教えてくれたということは無関係ではないはず。何度か会ったら会話が出来るかもしれないとロードし直した。
 が、息子以上に出てこない出てこない。チョコをねだる息子を断っても釣れない釣れない。くっそ、揃って甘い物好きではないのか。そう思っていた矢先に現れ歓喜するが、また無視(スルー)。

「ぬか喜びさせやがってーーーーっっ!!!」

 勢いよく枕を壁に叩き付けるが、お隣さんから小さな抗議『トントン』に『トントン』謝罪を返す。
 おかげで冷静になれ、諦めず屋上通いしていると五度目で口を開いてくれた。

[レウ:……“異世界の輝石”……今回は災いの方だったか……]
[ヒナタ:え……?]
[イズとは違い淡々としている。けれど、低く重くのしかかる声と深い赤の瞳に身体が動かなくなってしまった。反対に軽い足取りで横切る彼は呟きを漏らす]
[レウ:イヴァレリズに……お前を殺すよう言っておこう]
[ヒナタ:っ!?]
[冷水を浴びさせられたような言葉に、私の頭は考えを遮断するように真っ暗になった]

 本当に真っ暗になった画面にBADだったのかと汗を流すが、別の声が聞こえてきた。

[?:……いっ……ば……]
[遠くで声が聞こえるが何もわからず動くことが出来ない。が、ガッシリと掴まれる刺激に大きく目を見開いた]
[イヴァレリズ:おっぱ~~い!]
[ヒナタ:ぎいやあああああーーーーーっっ!!!]

 イズ顔面ドアップに、Shiftキーハリセンをお見舞いしてしまった。
 しかし痛みもないようなイズは主人公の上着どころかブラまで捲し上げ、たわわに実った乳房を突く。

[ヒナタ:あんっ!]
[イヴァレリズ:こんな時間に一人でボーっとして何してるなりか]
[乳房を揺らす声に初めて夜になっていたことに気付く。それほどショックだったのかと思う一方、両手で胸を揉み込むイズに溜め息を零すしかない]
[イヴァレリズ:や~ん、なんか意味ありげな溜め息なりね。どっかしたの?]
[ヒナタ:……貴様の父親に会った]
[言うか迷った言葉に胸を揉む手が止まった。月明かりだけでも眉を顰めているのがわかり、私の胸は痛くなる。同じように表情が読めたのか、イズは意地悪い笑みを浮かべながら乳房を揺らしはじめた]
[イヴァレリズ:珍しいヤツと会ったもんだな。その様子だとなんか喋ったか]
[ヒナタ:ああ……]
[顔を逸らす私に、イズは大きな息を吐いた。次いでブラと上着を律儀に戻すと、手を繋がれる。先ほどの言葉が残っていたせいか身体が跳ねると、苦笑された]
[イヴァレリズ:なーる、そういうことか。いいぜ、話はお前の部屋でしよう。もっとも良い話とは言えないだろうがな]

 いつもと違う一面に私も驚いてしまう。こいつ、おっぱいさえ言わなければ……いや、普通に腹立つか。
 場所は主人公の寝室に移り、ベッドに座ったイズから語られるのはスティと同じメラナイトのこと。そしてもうじき異世界人である主人公を殺す命がくだされるということ。当にこいつが王だと知っている身としては色々ツッコミたいが、主人公が知るはずはない。

[ヒナタ:それは絶対……なのか?]
[イヴァレリズ:さあね。なんなら媚びてみるか? 殺さないでくださいって]
[ヒナタ:そんなバカな真似出来るっあ!]
[勢いよく背中を叩くが、その手を取られると押し倒される。馴染んだシーツにいつもより深く沈み、見下ろす男と目が合うと顔が赤くなった。くすりと笑われる]
[イヴァレリズ:そうな、お前はそういうヤツだ。自分より他人を優先し、けど、自分の信念は曲げない可愛いツンデレ]
[ヒナタ:最後は余計っあん!]
[突然首筋に噛みつかれ声を上げる。顔だけだったはずの熱は全身に広がり、舐めては吸われる羞恥に耐え切れず、ぎゅっと瞼を閉じた。静かな部屋に響いていた水音がやんだことに気付き瞼を開く。イズが物悲しそうに見つめていた]
[ヒナタ:イズ……?]
[イヴァレリズ:……もし俺がお前を殺したら……お前は俺を恨むか?]
[今まで見たことも聞いたこともない表情と声。それが胸の奥でトクリと何かを動かした気がしたが、私の手は同じ漆黒の髪を撫でていた]
[ヒナタ:死にたくはないが……部外者である私はいつ排除されてもおかしくない。貴様はその命を受けて手を汚してしまう、言わば被害者だ。恨むどころか謝るしかないだろう……すまんな]

 小さな笑みを向ける主人公に、瞼を閉じたイズは苦渋の色を浮かべる。
 バロン同様、本編では一切見ることはなかった表情。“隠し”とは、そういう彼らの本心を描くために用意されているのかもしれない。本編を知り、当事者でもある彼らが愛してしまったが故、苦悩していた真実を知るために。

[イヴァレリズ:そうか……]
[大きく息を吐いたイズは頬に口付けると私の両脚を開かせる。突然のことに驚くが、直ぐニヤニヤ顔と一緒に服越しに秘部を突きだした]
[ヒナタ:ちょっ、こらっ!]
[イヴァレリズ:俺をしんみりさせた罰な~り]
[ヒナタ:な、何が罰だあああんっ!]
[腰を浮かせた瞬間、デニムパンツもショーツも脱がされる。動く身体は片腕だけで押さえ込まれ、丸見えになった秘部に指が一本挿し込まれた。それを上下左右に動かされると、先ほどの首筋以上に卑猥な音が響く]
[イヴァレリズ:や~ん、すっげぇヒクヒクしてるし、蜜も零れてる。淫乱なりね~]
[ヒナタ:バッカあぁっ!]
[イヴァレリズ:お、その声、最高に可愛い]
[くすりと笑う男は指を二本、三本と増やし激しく動かす]
[ヒナタ:やっ、あああぁぁっ!]
[その感じたことないほど激しい刺激に愛液を噴出し、達してしまった。息を荒げる私の口に愛液を絡めた指を差し込んだイズは耳朶を甘噛みしながら囁く]
[イヴァレリズ:……またな、ヒナ]
[それはとても優しい声でもっと聞きたくなるが、叶うことなく、私は夢へと誘われた]

 画面が真っ白になり翌日へと変わる。
 次いで魔王がやってくるが、レウさんに殺されることもなければ、バロン同様イズが姿を現すことはなかった。なぜここで助けてくれないのか文句を零しながら主人公は国を去る。すると、魔王との会話に変化があった。

[魔王:主は誰かに想われておったのか?]
[ヒナタ:? いや、特にいないと思うが]
[魔王:ふむ、ならば質問を変えよう。主が慕う者は誰だ]
[よくわからない質問に困惑してしまう。けれど魔王は至って真剣で、その漆黒の髪と赤の瞳が一人の男と重なった。もっともあいつの真剣な顔など見たことないし、見ることも叶わないだろう。それでも私は口に出した]
[ヒナタ:……俺様誰様胸フェチ様……だろうか]
[魔王:……そんな変態に成り下がったのか、黒王よ]
[ヒナタ:え……!]
[溜め息をつきながら構える魔王。目線を同じように移せば、広い広間の中央に黒い影が集まり、人の形を取っていた。それは魔王と同じ……いや、私と同じ漆黒の髪と瞳を持つ男]
[?:や~ん、それは大間違いなりよ]
[聞き慣れた口癖も声も低く、身長も体格も違う。けれど意地悪く笑う口元と真っ直ぐな眼差しは変わらない]
[?:俺様誰様ヒナを助けにきちゃった第十四代アーポアク国国王イヴァレリズ・アンモライト・アーポアク様だ]
[ヒナタ:イズ!?]

 扉ではなく、堂々と室内に入ってきたことに私は額を押さえた。
 だが、それがまたヤツらしいと妙に嬉しくて苦笑を漏らす。その間に魔王との一戦があり、イズだけの斬撃が放たれると夢の中での話。普通ならここでイズがとんずらするが、今回は主人公を抱えたまま去った。
 鮮やかな夕焼けと共に黒竜が揺れる旗、アーポアク城の屋上へと場所が移る。

[イヴァレリズ:うっし、到着。お帰りな~り]
[ヒナタ:た、ただいま……じゃなくて、下ろせ!]
[イヴァレリズ:OK☆]
[浮き上がっていた身体は地面に下ろされるが、そのまま地面に押し倒されてしまった。最後会った時と同じなのに、覆い被さる男は違う男に見える。そう……逞しい身体は男のもの]
[イヴァレリズ:ん? どうした、ヒナ]
[ヒナタ:べ、別に……って、貴様! 助けに来る気があったなら、なんだって屋上ここで助けてくれなかったんだ!?]
[イヴァレリズ:だって、国を巻き込むわけにはいかねぇじゃん]

 問いたかった答えはアッサリと返ってきた。
 画面が黒竜の旗になると、イズは今までとは違う“王”として話を続ける。

[イヴァレリズ:他の魔物は『四聖宝』で倒せても、魔王相手じゃ俺も無傷で国を護ることなんて出来ねぇよ]
[ヒナタ:だからわざと……?]
[イヴァレリズ:どうかね。この場で魔王がお前を殺そうとしたなら、巻き込むとわかってても国でヤったかもな]
[ヒナタ:矛盾してるぞ……]
[イヴァレリズ:しゃあねぇだろ。そんだけ俺がヒナのこと好きなんだから]
[苦笑するように言われた言葉に目を丸くする。見下ろす男は静かに顔を寄せ、額と鼻同士をくっつけると、唇が触れるか触れないかの距離で言った]
[イヴァレリズ:俺は王としてじゃなく、一人の男としてヒナが好きだ。愛してる]
[ヒナタ:え……?]
[イヴァレリズ:国以上に大事なもので、護りたい姫君だってわかったんだ。だから助けた礼に嫁になれ]
[ヒナタ:なんだ……その脅迫みたいなのは]
[ふざけていないとわかっているせいか、告げられた言葉が身体中で木霊し、赤くなった顔を逸らす。その頬に口付けが落ちた]
[イヴァレリズ:ん……やっぱヒナは面白いし可愛いね。どうせ両想いなんだから素直に頷けよ]
[ヒナタ:りょりょりょ両想いっ!?]
[イヴァレリズ:魔王の時、言ってたじゃん。俺様誰様胸フェチ様の俺が好きだって]
[ニヤニヤしながら胸を揉む男を叩きたい。けど、偽りではないというように動悸は激しく鳴り、大きく息を吐いた私は両手を首に回した。そのまま身体を浮かすと目先にあった唇に口付けた]
[ヒナタ:ん……好き。私もイズが……好きだ]
[イヴァレリズ:……良い子]
[ご褒美というように熱く激しい口付けを受ける。それは真実だと確かめ合うように何度も何度も国が一望出来る場所で──]

 口付けのスチルからED曲が流れる。
 意外と国について考えていたことに感心すればいいのか普段の態度に呆れればいいのか分からない。そして胸元がウズウズするのは……聞こえてきた声のせいだろうか。

[ヒナタ:ちょ、イズ、これはあああっ!]
[イヴァレリズ:や~ん、エッロ~い]
[青空と心地良い風が吹く屋上。いつもの姿と声で背後から胸を揉んでいたイズに、とある物を胸で挟ませる。国旗を支え揺らす棒だ。両手で必死に掴んでいるせいもあり、冷たい感触が伝わるが、両先端を摘まれ引っ張られると身体中が熱くなる。同時に秘部を貫いている男根も締めつけた]
[イヴァレリズ:おっ……感じてんな、ヒナ。いいぜ、もっと激しくいこうか……っ]
[ヒナタ:ああ、あああぁっ……!]
[ナカで肉棒が大きさを増し、ドクドクと脈を打ちながら秘部から愛液を零させる。まるで頭上で揺れる旗に国に黒竜おれのものだと見せつけるように──fin]

 イズらしい最後に頷きながらリストを確認すると【黒竜(俺)の嫁】。床に倒れた。
 ルビさえなければまともだろうに、おちょくっているとしか思えない。本当にもう残念なイケメンだが、最初の胸フェチからは収穫があったから良いだろう。まあ、胸フェチに変わりはないだろうが。

 

 そしてこれで全員終了。
 笙子にメールを送ると、お腹もぐーぐー鳴り、丁度良い時間に終わったと腰を上げる。直後、笙子からのメール音が響き、お祝いメールかとルンルンで開く。が、目を見開いたまま固まった。メールには一行だけ。

『魔王も攻略出来るよ』

 うえええぇぇえぇえ~~~~~~っっ!!?

 


 *隠し*魔王攻略*

 

 魔物の親玉=魔王。実は攻略が出来るらしい。
 確かに人間味ある感情や心遣いを知った今となれば気になる男だ。

 他と迎えられた褒美にと笙子様に条件を教えてもらったところ、六人とENDを迎えていること。四騎士の忠誠を受けていること。そしてアウィンが襲撃された後『休』で三回以上夢の中で会うこと。
 最後のは運のためイズのお菓子釣りが有効だが、あまり上げすぎると【皇帝の愛憎】タイトルで、嫉妬したイズが魔王を殺すENDが待っていた。

「このゲームの連中、嫉妬深すぎるぞ」

 BAD耐性がついたのか、ブーブー文句を言いながらステータス調整をすると、主人公に国を去ってもらう。魔王城での会話にも変化があり、彼の表情も物悲しいものが多くなった。今まで想い人を瀕死にさせてきた男だが、憎めなくなってしまう。

 枕を抱きしめたまま頬を膨らませると、イズ&フィーラの斬撃が放たれるムービーを飛ばす。特に会話に変化はなく、夢の世界の話が終わるとイズがとんずらした。

[魔王:まったく、すきほうだいする王だ。まあよい。それより主もはやくもどるといい。先程からよぶこえが響いておるぞ]

 今までなかった台詞と一緒に[一緒に行かないか?*わかった]の選択肢が現れる。前者を選ぶと、小さくなった魔王は自嘲気味に笑った。

[魔王:我に主のモノになれというのか?]

 片眉を上げたまま笑う彼も十分な俺様に見えるのはなぜだろうか。ともかく[ああ*いや]の選択肢に前者を押す。が。

[魔王:わるいがことわる。なれあいなど我は好まぬのでな]

 バッサリと断られ、間違えたかと冷や汗を流す。
 もしかしたら後で出てくるかもと淡い期待を持つが、ノーマルENDになってしまった。

「くそっ、反対だったか! それとも最初の選択からして間違いか!?」

 慌ててロードし直し、最初の選択肢[わかった]を選択。が、普通に別れるだけでノーマルEND。ビールを一気飲みし、ロード。[一緒に行かないか?][いや]でどうだ!!!

[魔王:……まったく、ものずきなものだ。いいだろ、主を我の愛人にしてやる]
[不適な笑みを浮かべ手を取った魔王は、ふわりと浮き、唇に唇を重ねた]

 扉などの説明もなく画面が真っ白になる。
 まあ、もう知ってるし楽だなと一息つくようにビールを飲む。が、ED曲は流れず、アーポアクの旗と青空を背景にした屋上に変わる。そして、啼く声に吹いた。

[ヒナタ:あ……ちょ、待っ……ん]
[魔王:なんだ、たりぬとはワガママな女だな]
[ヒナタ:ち、違っあああぁぁっ!]
[魔王:よいのか? イい声をあげすぎるとヤツらに見つかるぞ。まあ、我は別にかまわぬがな]
[意地悪く笑いながら乳房を弄られていると、階段からフィーラ達が呼んでいるのが聞こえる。必死に声を押さえようとするが、股に顔を埋めた魔王は割れた舌で零れた蜜を舐め取り、長い舌を奥へ奥へと入れた。四騎士かれらとは違う快楽を、四騎士かれらには内緒で今日も与えられる──fin]

 魔王に組み敷かれたまま、背中を向けた四騎士のスチルが出るとタイトル画面に戻る。リストには【秘密の愛人】が追加された。口元を拭きながら眉を顰める。

「か、完全に浮気じゃないのか……?」

 さっきまで個人と恋愛してきたせいか罪悪感のようなものを感じる。
 まあ、ゲーム=フィクションだし、浮気も愛人も有りかと割り切るしかないか。現実にあったら修羅場ってもんじゃないがな。

「というか、幸福ENDじゃないのか?」

 改めてリストを確認すると、イズの【甘さゆえの過ち】と先ほどの愛人ENDの間が空いている。つまり他に幸福ENDが存在するということ……そんなのいつあった?
 魔王は後半しか出ないから選択肢は少ない。もしやステータスかと笙子からのメールを見る。と、かな~~~り下までスクロールしたところに『あと、ムービー』。

「なんじゃこりゃ!!!」

 慌ててロードし直すと、初回以外殆ど観ていなかった斬撃ムービーを鑑賞。すると、魔王に直撃する間際[斬撃の前に出ない・出る]の選択肢が0,3秒ほど出た。何も押さないままでいると前者になるのか、先ほどと同じEND。

「なんじゃそりゃ!!!」

 とんでもない罠(トラップ)にツッコみ、しばし沈黙。
 大きな息を吐くと、よれよれになりながら繋ぎに冷凍たこ焼きをレンチンする。それと一緒にビールを数本持って行くとハムリとたこ焼きを食べ、ビール一気飲み。

「よっし、やるぞ!」

 気合いを入れ直し、ムービー途中に出てくる選択肢を[受け入れる]はずが、意外に早く消えてしまい押せなかった。[出る]が最初にあればEnterキーを連続押し出来るのに、方向キー押せねばならない後者とは製作者のアホーー!!!

 慣れないパソコン相手に四苦八苦し、五、六度目でやっと押すことが出来た。
 息を荒げながら画面を見れば主人公が血だらけ、『四聖宝』達の悲鳴が上がる。とてもマズいことをした気がして合掌してしまった。しかし、タイトル画面には戻らず、魔王の様子もおかしい。しんみりなBGMに、茫然とした魔王の声が耳に届いた。

[魔王:おい……輝石? ……おい]
[遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえる。それはとても哀しそうで、私は柔らかな笑みを浮かべ──事切れた]
[魔王:輝石ーーーーーっ!!!]

 聴いたこともない魔王の悲鳴に、必死に南無阿弥陀を唱える。
 その祈りが通じたのか黒い光が画面を、主人公を包み、気付いた時には光は止んでいた。画面には足元から上へと上るスチルが現れるが、それは先ほどまでの血飛沫も消え、裸足に漆黒のドレスを纏い、尖った耳を持つ主人公。
 開いた口が塞がらない私の代弁をするかのように、フィーラが『どうなっている……?』と呟けば、イズが口笛を吹いた。

[イヴァレリズ:魔力の暴発か]
[カレスティージ:暴発……?]
[ラガーベルッカ:自身に溜まった魔力を抑えられず暴走することですよ。しかし、普通は爆発が起こるものですが……]
[イヴァレリズ:その粒子が魔王の切な願いに応えるため、ヒナに命を吹き込んだんだろ。ホント、この世界はつくづく願望者の味方だね]
[エジェアウィン:命って……!?]

 驚くアウィンの声に主人公の瞼が開かれると、まだ茫然としていた魔王が問いかけた。

[魔王:……輝石?]
[ヒナタ:…………魔王? どうし……わっ!]

 生き返ったああぁーーーーっ!!?
 魔王に抱きしめられる感動的なスチルを前に、つい立ち上がってしまった。心臓をバクバクさせながらなんとか座ると、画面と耳に集中する。

[ヒナタ:な、なんだ!? って、私は確か斬られたはずじゃ……]
[イヴァレリズ:魔王が自分の魔力をお前に渡して蘇生させたんだよ。心臓が止まっても魔力だけで生きる魔族としてな]
[ヒナタ:魔族……?]
[確かに胸に手を当てても、脈を打っていない。なのに動悸が激しく鳴るのを感じるのは、包む両手と微笑を浮かべる男の力か]
[魔王:これで主は人間ひとではない、我と同じ存在になった。もう離しはせぬぞ?]
[それは本当の宝物を見つけたかのような瞳と笑みで、私の心と身体は簡単に彼で埋まっていく。それを伝えるように私も抱き返した]
[ヒナタ:……ああ、私のすべてを貴様に捧げよう。愛すべき我が魔王に──]

 甘い展開のままED曲が流れ、私の頬は熱い。
 まさかこういう道もあるとは思わなかったが、魔王は良いヤツだし、幸せにしてくれそうだ。ホロリと出た涙を拭うと、冷えたたこ焼を食べるが、また啼き声に咽た。画面は真っ暗だが、一脚の黒い玉座に座る男が、膝に乗せた女を愛でているスチル。

[魔王:どうした? この程度のこと、いつもであろう]
[ヒナタ:今日のん……大きいし……荒いっんん!]
[座る王の膝に跨がる私は大きな楔に貫かれていた。いつもより太くて固いそれに腰を上げるが、すぐ力強い両手で下ろされる]
[ヒナタ:ああっああぁぁあ!]
[魔王:こんなに大きくさせたのは責任は主であろう? ひょいひょいやってきた黒王と仲良く戯れよって]

 どうやらどこぞの王のせいで魔王様は御立腹のようだ。詰まらせたたこ焼をビールで流すと枕を抱きしめるが、喘ぎは止まない。

[ヒナタ:ああっ……魔王……許……んんっ!]
[懇願は口付けで塞がれ、いっそう腰を動かされる。魔族になってから感度が高くなったせいか、離れた唇からは求める言葉しか出ない]
[ヒナタ:ああぁ……イい……もっと……ん]
[魔王:やれやれ、仕置きをしているというのに悦んでは意味がないであろう。だがまあ、我のでしかイけぬ身体にしてしまえば他と戯れることはせぬか。なあ、ヒナタ?]
[汗を落としながら妖しい笑みを向ける夫に私も笑みを向けると口付けた。尽きることもなければ終わることもない永遠の中で、ずっと傍にいよう──fin]

 タイトル画面に戻ると、最後の魔王リスト【永遠の輝石】が追加された。
 さすがに隠しキャラ達はEND数が少ないようだが、十分濃い内容と面倒さに合掌。ベッドにもたれ掛かると天井を見上げ、大きく息を吐いた。

「長かったー……」

 借りてから二日半。強行にもほどがあるが、それほど続きが知りたくて仕方なかったのだろ。興味のない年上の株も上がったりと、意外性あるゲームだった。しかし、当然のように目が痛い。

「早く休……あれ?」

 ゲームを切ろうとしてまた気付く。ENDリストが埋まっていない。
 一つ二つなら取り逃しがあるかもしれないが、十も空いている。眉を顰め、笙子にメールを送ると『お疲れ~。残りは全員を平均にすればいいよ~』とのこと。

 どうやらまだ別のENDがあるようだが、まずは休憩をしよう────。

*次話、隠しルートの攻略編で乙女ゲーム編完結

*一部内容は許可を得て、某親衛隊様にご協力いただきました(ありがとうございます)

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