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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*拍手小話~カレスティージ編~

*過去の拍手お礼SS集

*風邪引き*(※男視点)

 


 まだ昼にもなってない時間。
 カーテンから射し込む光に関係なく身体がダルい……なのに。

 

「ちーち、ちーち、あっそぼー!」

 

 布団に寝転がるボクを、スズが容赦なく青ウサギで叩く。
 睨んでも動じない息子はいっそう叩く力を強め、ボクは掛け布団を被ったが、のし掛かってきた。

 

「っ!」
「あっそぼー、あっそぼー!」

 

 身体を揺すりながら連呼され、顰めた顔を出す。

「うるさいな……サスティス達に言ってよ」
「やーだ! スーズはちーちとあそぶのー!」
「今日はダルいからダーメ……」
「やーだ!」

 

 さっきまで笑顔だった顔が不満そうに頬を膨らませる。
 そればかりか左右に激しく揺らされ、青ウサギで頭を叩かれる始末だ。さすがに苛立ちが募るが、なんとか平静を装った声で諭す。

 

「駄々をこねるな……また夜に遊んでやるから」
「やーなーの!」
「スズっ!」

 

 否定が痛い頭に響いたせいか、声を張り上げると青ウサギを弾き飛ばした。
 勢いよく壁に当たった青ウサギは棚に置かれた黒ウサギの上に落ち、静寂が包む。我に返ると、少しばかりの涙を目尻に浮かべた息子が映った。

 

「あ……ごめ」
「うっ、うっ、スズのウサギ……ちーちが……うっ、うわあああぁぁ~~ん!!!」
「ちょ、え、スズ!?」

 

 慌てて重い身体を起こすが、膝に座るスズは泣き続ける。
 他の子と違って泣くことが少ないせいか、まだ三歳なのを忘れていた。言い聞かせる方法なんていくらでもあるはずのに、自分が苛立っていたからといって……最悪だ。

 

 頭に響く泣き声にどうすればいいか必死に考える。
 でもいっそう鈍い音が脳内で響き、上手くまとまらない。それでも一人が浮かんだ。

 

「ヒナさん……」

 

 呟くと、スズを抱えたままゆっくりと立ち上がる。
 手に取った青ウサギを手渡すと、スズはしゃくり上げながらもぎゅっと抱きしめた。それだけで安堵の息をついたボクは水を纏う。

 

 ヒナさんは育児休暇中だから、今は城の『子供部屋』にいる。ナズと一緒に。どこかに出掛けてるかもしれないけど、ここよりはスズは落ち着くはず……だから急いで。

 

「ちーち?」

 

 心配するような声に見下ろすが、なぜだかスズの姿が霞んで見える。それでも小さな笑みを浮かべると足を進めた──が、そのまま倒れ込んでしまった。

 

「ちーち!?」

 

 慌てて跳び退いた息子から聞いたことない叫び声。
 理由なんかよりも先に意識が遠退いてしまった──。

 


 

 

 


 泣いているのを見るのは嫌いだ。
 泣けばすべてが許されるとは思えないから。
 一人孤独に生きてきたボクにとってそれは甘えだ。

 けれど――。

 


 


 

「お、気付いたか、スティ」
「ヒナさ……ん?」

 目覚めると、笑顔のヒナさんが顔を覗かせた。
 まだぼんやりするボクの額に優しい手が乗ると、彼女も自身の額に手を乗せる。

 

「うむ、熱は下がったようだな」
「熱……?」

 

 大きく目を開くボクに、手を離したヒナさんは桶に浸けていたタオルを絞る。暖かいタオルでボクの汗を拭き取りながら話を続けた。

 

「三十八度以上の熱が出て大変だったんだぞ」
「え……」

 

 呆然と答えるとくすくす笑われる。
 ラズライト生まれは基礎体温が低いから三十八度といえば高熱、悪ければ死人も出る。確かに身体はダルかったけど、熱いとまでは感じなかった。

 

「ジェビィさんが言うには他街に入る機会が多くなったから身体が変化したのかもしれないとのことだ。一度検診を受けた方がいいかもな」
「い、嫌だ!」

 

 検診と聞いただけで身体が震え、掛け布団を被った。
 そこで気付く。これがボクの布団で、ラズライトの家であること。そして、泣かせてしまった……。

 

「っ、スズは!?」

 

 慌てて起き上がったボクにヒナさんは目を丸くする。
 だがすぐに苦笑を漏らすと後ろを向き、手招きした。ナズを抱えたスズが顔を覗かせていた。その顔は珍しく冴えず、てとてとと妹を抱えたままやってきたスズはヒナさんの背中に隠れる。

 

「あっははは、こんなに元気がないのも泣いてるスズを見るのも久し振りだな」
「やっぱり……泣いてました?」
「ああ。家の前で泣き叫ぶスズをサティが気付いてくれてな、慌ててミッパが私を呼びにきてくれたんだ。そしたらスティが倒れてて……血の気が引いたぞ」
「すみません……」

 

 ズキリと痛む胸に顔を伏せたまま謝罪する。でも、ヒナさんは嬉しそうにナズと頬ずりした。

 

「で、泣くスズに話を聞いたら『スズがだだこねたから、ちーちがしんじゃった!』って大泣きしてな」

 

 笑う彼女とは違い、勝手に殺されたボクはスズにジと目を向ける。
 ビクリと肩を揺らした息子は顔を引っ込めるが、ヒナさんの手に前へ出てくるとモジモジとどこか恥ずかしそうに、バツが悪そうに頭を下げた。

 

「ごめんしゃい……」

 

 何に対しての謝罪かはわからないが、昔の自分を見ているようで不意に笑みが零れる。
 頭を上げたスズは首を傾げるが、構わず手を伸ばすと抱きしめた。小さな身体を抱きしめたまま、その背を撫でる。

 

「いいよ……ボクも悪かったから。また……機嫌が良い時に遊んであげる」
「……あい! はーはがいれば、ちーちはハナマルえがおきゃーーっ!!」

 

 一言余計な息子の首根っこを掴み持ち上げるが、楽しそうに笑っている。毒気を抜かれたように下ろすと、ナズを抱えるヒナさんと一緒に抱きしめた。

 

「きゃーい!」
「う~?」
「お? なんだ、今日は甘え甘え日か?」
「甘えていいなら……いっぱいいっぱい甘える」
「……そっか」

 

 頬を寄せると、同じように暖かな頬、そして唇が触れる。
 泣くことは弱音だと思っていた。でも、その声は誰かに見つけてもらい、誰かの暖かさを知る声。弱っている身体でも傍にいてくれるのが彼女で家族なら何も怖くない。大丈夫。

 そう考えると、たまに引く風邪もいいかもしれない。

 と、思ったけど、エッチ出来ないからやっぱり嫌だ――――。

 


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 

*母の日*(※第三者視点)


 

「母……の日?」
「はーはのひー!」

 

 眠たそうに布団の上で寝転がっているカレスティージの横で、スズナも元気に手を上げる。だが、玄関に立つサスティスは両手を腰に当てると、大きな溜め息をついた。

 

「毎年チェリミュ様に贈り物しようって言ってるアレよ、アレ」
「ああー……」

 

 着崩れた浴衣など構わず上体を起こしたカレスティージは前髪をかき上げる。
 今日は母の日。孤児が多いラズライト騎士団では『四天貴族』チェリミュが母親代わりのようなもので、毎年この日に感謝の贈り物をしているのだ。当然覚えていないカレスティージだったが、スズナが振り回す青ウサギを掴むと訊ねた。

 

「それで……今年は何をあげるの?」
「みんなと相談したんだけど、押し花かなって」
「えー……」
「スズのー、スズのー!」

 

 青ウサギを上げ下げする父に、スズナは楽しそうにジャンプする。反対にカレスティージは面倒そうな顔をしているが、サスティスは反論した。

 

「文句いわない! カレっちのを作ってくれたのだってチェリミュ様でしょ!! そのお返しだと思って、花を探してきなさいよ!!!」
「いつの話……」

 

 大きな怒声に頭痛を覚えるカレスティージは額を押さえた。
 そんな父から青ウサギを奪い返したスズナは、大きな黒ウサギが置かれている棚を漁ると、一枚のしおりを取り出す。

 

「はーはのはなー!」
「スズ、ダーメ」

 

 笑顔で見せる息子から、声を強めたカレスティージはしおりを引っこ抜く。
 藍色の瞳が映すしおりは、年月によってくすんでしまった菜の花。十年前、妻から貰った物を大切にしていたところ、チェリミュが押し花にしてくれたのだ。苦い思い出も一緒にあるせいか、懐にしおりを仕舞うと、騒いでいる息子の頭を押さえながら部屋を見回す。

 

「これでいいか……」
「アンタ、また勝手にっていうかテキトーね……」

 

 飾られていたアヤメを取る彼にサスティスは呆れるが、花屋に行っても同じだろうとそれ以上は何も言わなかった。カレスティージもまた『水変化』で着物に着替えるが、裾をスズナに引っ張られる。

 

「ちーち、スズのはー?」
「え?」
「スズもはーはに、はなあげたいのー」

 

 上目遣いの息子に、カレスティージは考え込む。
 母の日の意味を理解しているかはさておき、スズナも花を贈りたいのだと思うが、アヤメは一本しかない。他に花は置いておらず、息子の名であるスズナもない。見下ろしたカレスティージは眉を顰めた。

 

「カブの葉っぱでいい……?」
「やーなーのー!」

 

 真剣な顔の父に、スズナは大きく頭を振る。
 その背後でサスティスは『カレっちがスズナ=カブって知ってた!』と感涙していた。魚どころか野菜の名すらほぼ言えない団長に奇跡を見たような気がしていたが、言い合っている父子に慌てて口を挟んだ。

 

「遊郭の姐さん達に聞けば誰か育ててるわよ! 最悪カブでも、アズっちかアンアンが持ってるでしょ!?」

 

 農家の看板を立てても良い親戚を思い出したカレスティージは頷き、目を輝かせたスズナはサスティスに跳びつく。笑顔で頬ずりするスズナを抱きしめるサスティスも笑みを零した。

 

「どうせなら、ナズナも一緒に入れよーね、スズナ」
「あーい! さってぃん、ありがとー」
「……サスティスってスズに甘いよね」

 

 溜め息交じりに青の中羽織を羽織ったカレスティージに、笑顔だったサスティスは頬を膨らませる。

 

「と、当然でしょ! 子供だし、可愛げのないアンタと大違いだもん!! ……それに、やっぱり家族って良いしね」

 

 最後の声はとてもか細く、どこか寂し気だ。
 それを見て見ぬふりをしたカレスティージは帯に小さな黒ウサギを結ぶと、漆黒のペンダントを握った。

 

 互いに孤児である二人にとって『家族』という言葉は重い。
 イヴァレリズという“父親”と、チェリミュという“母親”を知ってからはさらに重く、強い縁があるのだ。その中で本当の家族となったカレスティージは今でも“父親”という責務に躊躇うことがある。子供が成長する度に過去の自分と重なり、小さな手を離さずにいられるか、愛情を持てるか、様々な不安が胸の奥底にある……けれど。

「あ、はーはとナズー!」

 

 揃って外に出ると、向かいから着物の女性がやってくる。
 手を振る彼女の腕には小さな赤ん坊が抱えられているが、スズナよりも小さな小さな手を振っているようにも見えた。サスティスから下りたスズナは元気良く駆け出すが、カレスティージの方が速かった。

 

 あっと言う間に駆け寄ると、大きな両手で二人を包む。さらに彼の背中にはスズナがくっつき、声を揃えて彼女を呼んだ。

 それが嬉し恥ずかしい彼女は苦笑しながら二人を撫でる。不安などすべて取り除いてくれる魔法の手に。


 

 ──その夜。

 

「なあ、あそこに飾ってたアヤメを知らないか? チェリーさんに貰ったんだが」
「ちーむがっ」

 

 スズナの口を塞いだカレスティージは満面蒼昊を浮かべる。
 その隣で晩御飯をご馳走になっていたサスティスは箸を置くと、さっさと影の中へ潜った────。

 


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 


*スティに質問!*


 

・名前=カレスティージ・ストラウス……
・愛称=スティ……ヒナさんとイズ様だけ
・年齢=ニ十九
・身長=一六八……伸びた!
・誕生日=ルビー(七)月……ニ十七日
・出身=アーポアク国……ラズライト
・家族構成=ヒナさんとボクとスズとナズ
・職業=ラズライト騎士団団長と……メラナイト騎士団副団長
・武器=ナイフと刀
・称号=蒼昊の影騎士(オマンドカヴァリエーレ》
・利き手=両利き
・目の色=藍
・髪の色=青
・長所=即実行
・短所=人の話……聞かないって言われる
・趣味=寝ること
・特技=どこででも寝れる……
・親友=何それ……
・ライバル=トラは抹殺対象だから……リーミン?
・尊敬する人=イズ様……いろんなこと知ってる

 

・好きな食べ物=三色団子……好き。あと……ヒナさんのご飯
・嫌いな食べ物=キノコ……昔、お腹壊した
・好きな飲み物=レモネード
・好きな季節=秋……暑くもないし寒くもない
・口癖=『ダーメ』
・やめられない癖=前髪をかき上げること……
・お酒=姐さん達に飲まされて遊ばれたから強くなった……
・大切な物=ヒナさんとウサギ
・怖いもの&こと=ヒナさんがいなくなること……あとハリセン
・昔の夢=ない
・今の夢=ヒナさんがいるだけでいい
・休日の過ごし方=寝てる
・今までした大怪我=……魔王戦
・私服=着物……団服より動きやすいから好き……
・寝巻き=着物……だいたい開けるけど、全裸では寝れない(ヒナさんといる時を除く
・所持金=持ってない……影の中に金庫あるから、必要な時はそこから……
・給料=団長料100に……手当てに……裏はぴんきりで……多い時は300超え
・自分へのご褒美=クッション……
・一日のサイクル=起きるのは夕方四時……完全に目覚めるのが五時……そこから仕事行って帰宅……寝るのは朝五時
・アーポアク国について=自分の国……
・ラズライトについて=貧困……
・他国について=どこも警備が薄い……
・魔物について=ヒナさんとの邪魔……しないで

 

・フィーラについて=ニワトリ
・フィーラの秘密=和菓子を克服しようとしてる……
・ベルについて=殺す
・ベルの秘密=お酒は強いけど……チョコレートボンボンは嫌い
・アウィンについて=良い人なのはわかるけど……
・アウィンの秘密=最近……着物作りに来る
・バロンについて=よくわからない……
・バロンの秘密=机の一番下の引き出しに……眼鏡がいくつも入ってる……
・イズについて=お父さん……
・イズの秘密=実は……雪が苦手(昔、なんかあったみたい
・魔王について=殺す
・魔王の秘密=知らない
・サティについて=うるさい
・リロアンジェについて=部下
・チェリーについて=お母さん
・前団長について=押し入れのお姉さん……どうなったんだろ

 

・ヒナタの第一印象=得体が知れないし、年下を可愛がる目が……嫌だった
・現在=好き……大好き……愛してる
・いつヒナタを好きになった=追い駆けっこして……真っ直ぐボクを見てくれた時
・ヒナタに治してもらいたいところ=まだ年下可愛いって……ボク、男
・ヒナタにしたいこと=ずっとぎゅうってしたい……
・ヒナタにしてもらいたいこと=ぎゅうっ……返して?
・好きなプレイ=両手縛るのは好き……
・複数プレイについて=ヤダ……殺したい
・夜の営み=一緒にいれない分……たくさん、いっぱい愛す
・してみたいプレイ=何日も閉じ込めて……いっぱい愛したい
・結婚して変わったこと=一緒にいる時間減った……その分、会った時すごく嬉しい……

・スズナについて=誰に似たんだろ……
・ナズナについて=赤ん坊なのにスズより静か……
・他の子供達について=別に……うるさくしないならいい……
・生まれ変わったら=何も……
・ヒナタへ=好き……大好き……ずっとずっと愛してる
・読者の方へ=ヒナさんとの邪魔しちゃダーメ……だからね?

 


*番外~作者によるスティについて~*

 

最初の設定=姉御大好き物静か少年
現在=姉御大好き大好き大好き大(略
なかった設定=寝るの大好き。最初は魔力が足りないから……だったんですが
モデル=某漫画の主人公。和服で、髪を結ってるところは同じ
イメージカラー=青。深海の色
ヒナタとについて=姉と弟(殺される)な感じですが、色気も使ってイチコロにさせる怖いコ
今後=なんだかんだで仕事を続け、なんだかんだで子供達の面倒を見ていると思います。当然ヒナタ優先
スティに一言=少しは起きててあげて
読者様へ=最近ヤンデレっぽさがない気がしますが、姉御を愛する気持ちは負けてないので、色々してくれると思います

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