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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*ほくそ笑む餅

 今日は元旦。さすがに家族が多いと当日何が起こるかわからない。
 子供達はケンカするし、旦那達はケンカするし、本当にわからん。

『本当にな』
「本当な!」

 

 ツッコミを入れるが、後ろから抱きしめる男は焼き網だけを見ていた。ぷくぷく膨れ上がる二つの白いお餅を。

 

「そんなに珍しいか?」
『………………』
「聞いとらんな……ヘビまで」

 

 彼の肩に乗る黒ヘビまで凝視していることに溜め息をついた。
 そんなヘビの主人。毛先が跳ねた漆黒の髪に褐色の肌と尖った耳。そして餅を映す深紅の瞳は魔物達の長──魔王。

 餅を焼きに一人調理場に来るとなぜか背後にいた男。
 焼けた餅に驚いたように目を瞠り、気付けば私に抱き付いたまま永遠と餅を見続けているのだ。必要分を焼き終えたというのに『また焼け』と言われ、また焼いている。
 なんなんだと思う一方で、緩まない逞しい腕に呟いた。

 

「本当、大きくなったな」
『……そうか?』

 

 やっと私に瞳が移るが、見上げる距離に差はない。
 十年前、フィーラとイズによって小さくなった魔王。だが今では一六十を越し、肩幅も広く、黒のフードから出す腕も筋肉がついている。人間でいうと二十代中盤だろうか。はじめて会った頃に比べればまだ顔立ちは幼いが、充分イケメン。幾分低くなった声が聞こえてくる。

 

『西と北で面倒があったようでな……魔力補充が早いのだ』
「ふーん、親玉だと色々な特権があるんだな……ほれ焼けた。食うのか?」
『ああ』
「あ、おいっ!」

 

 腕を解いた魔王は膨れ上がった餅に手を伸ばす。
 慌てて止めるが、なんでもない様子で焼き立てを手に取り、小さく千切った物をヘビに、残りは一呑みした。絶句する私に、指先を舐めていた魔王は小首を傾げる。

 

『なんだ?』
「いや……箸を使ってくれ……あと餅はよく噛んでだな……」
『魔の我が聞き入れる筋合いはないな』
「じゃあ、せめて誰もいないとこで頼む……」

 

 本人が言うように魔物だから出来ることかもしれない。だが、見た目は人間と変わらないせいか、こっちは堪ったもんじゃない。

 そんな溜め息をついていると、頬に何かが触れる。気付けば正面から見上げる魔王の手に撫でられていた。笑みを浮かべた口元がゆっくりと動く。

『安心しろ。主以外の前に出るつもりも、主以外と逢瀬を楽しむ気もない』
「そ、それはありがた……逢瀬?」

 

 動揺していたせいか、言葉の中にある違和感に気付くのに時間が掛かった。
 やっと気付いても、真っ直ぐ私だけを見つめる目に視線を反らせず、ゴクリと喉を鳴らす。 頬を撫でていた手が首に回ると、引き寄せられた。

 

「んっ……!」

 

 逆らうことなく落ちた先にあったのは唇。
 瞬く間に重ねられていた唇は他の旦那達同様柔らかい。なのに知らない。いや、覚えのある渇き、味。そして、ニ股の舌が差し込まれた。

 

「んぁ……魔……ん」

 

 後頭部に移った手に押されると、口付けが深くなる。
 口内を掻き混ぜる舌は旦那達より細くて長い。そのせいか喉元まで届き、さすがに詰まらせると必死に背中を叩いた。すると、舌ではない柔らかい何かが入ってきた。しかも。

「熱っ!」
『我が食っておった餅だからな』
「熱いっ!」

 

 いつの間にか二つ目も食べていたらしく、ほかほか餅を口移しされた。
 あまりの熱さに慌てて冷蔵庫から水を取り出すとゴクゴク飲む。が、くびれなどを摘ままれ、噴き出してしまった。

 

「ぶはっ! ちょ、魔王っ!!」

 

 床どころか胸元まで濡れる。
 雫を落とす口元を手で押さえると、隣でくすくすと愉しそうに笑う魔王とヘビを睨んだ。

 

「貴様な、危ないだっひゃ!」

 

 口元から手を離した瞬間唇を舐められ、怒声が遮られる。
 その隙に両手で頬を包まれると、背伸びした彼の舌によって唇、顎、首筋についた雫を舐め取られた。次いで濡れた手を取られると、一本一本濡れてない指までしゃぶられる。
 離したいのに、私を捉える目の熱さは変わらず、なぜだか動悸が激しい。

『ふむ、服まで濡れてしまってはいかぬな……』
「え、あ、ちょっ!」

 

 上体を屈めさせられた私の詰襟に歯を立てた男はビリリっと、力強く縦に服を破いた。暑がりなせいもあって一枚しか着てなかった私はブラジャーに収まった胸を曝け出す。

 

「え、あ、うわあああぁぁ!」
『色気がない悲鳴だ……ヘビ、寒いであろうから暖めてやれ』

 

 慌てて両手で胸を隠すが、元気に返事した蛇が私の肩に移る。
 そのままウネウネと乳房を一周し囲むと、下から谷間に頭を突っ込んだ。嬉しそうに出てきた顔が目の前にあるが、普通暖めるって言ったらマフラーになるもんじゃないのか……なぜ胸を暖める。
 そんな疑問を持っていると今度はショートズボンを破かれ、黒いタイツが露になった。

 

「ひゃああぁあ!」
『えらく薄い素材だな……そんなに脱がされたかったのか?』
「そんなわけないだろ! 大体そこまで濡れてない!!」
『ほう、ではこの滑りはなんであろうな』

 

 反論する私に魔王は指先で股間を擦る。
 ぐりぐりと押し込むような刺激にピクリと身体が反応するが、白を切るように言った。

 

「ぬ、濡れてないだろ……」
『……いや、わからぬぞ』

 

 意味深に言った魔王は腰を落とす。
 気付いた時には股に顔を埋め、タイツ越しに秘部へと口付けられていた。

 

「っあ……」

 

 一瞬だけ漏れた吐息。
 くすりと笑う気配がすると歯を立てられ、ビリリッとタイツを破かれる。しかも股から太股にかけてまでで恥ずかしい。

 

『やはりな……主は濡れておらぬと言ったが、ココには染みがくっきりと出ておるぞ』
「ゃ……魔王っあ!」

 

 身体を捻らしても両手で腰を掴まれ、股に顔を押しつけた魔王は露になったショーツを舐める。ちゅくちゅくと聞こえる水音がとても厭らしく聞こえ、蜜が零れた気がした。

 

「ヒナターっ?」
「っ!」

 突然の呼び声はフィーラ。次いで聞こえるのは足音。
 考えれば餅を焼いてくると言ってからずいぶんの時間が経っている。しかし、胸を縛り頬擦りするヘビと、裂けたタイツの隙間からショーツを舐める魔王……この場面を見られるのはマズい。

 狼狽している間にも足音は近付き、動悸が早鐘を打つ。と、腰を上げた魔王に横抱きされ、壁際に座らされた。

 

「ヒナタ? ……いないな」

 

 調理場にフィーラの声が響き、ビクリと身体が跳ねる。
 だが角度的に見えてないのか、フィーラは入ってくることなく階を回りはじめた。遠退く足音に安堵の息をつくと、耳元で囁かれる。

 

『お楽しみはこれからであろう』
「は……っ!」

 

 耳朶に口付けが落ちると、頬に何かが当たる。
 それは立ち上がった彼の股から取り出された雄々しい男のモノ。はじめて見る彼のモノは旦那達のと見た目は変わらないが、肌のように浅黒く、もっと凶悪なモノに見えてしまう。
 唾を呑み込む私の頬を撫でながら、笑う声が落ちてくる。

 

『我とて一応“雄”でな……ヤツらほどではないが性欲が高まるとこうなる』
「性欲……」
『そ……ヤツらの知らぬ間に主を犯すという興奮でな』
「な……んっ!」

 

 顔を上げた瞬間頭を持たれ、咥え込まされる。
 旦那達のどの大きさとも味とも違う。だが腰を動かされる度に充満してくるのは雄の臭い。発情したような独特な臭いは同じで、気付けば自分から口を動かししゃぶっていた。

 

『っ……なるほど……ヤツらを落とし続けた力は本物か……ヘビ、気持ち良くしてやれ』

 

 頭を撫でながら見下ろす男の額には汗が滲んでいるが、命令を受けたように静かだったヘビが動き出す。ザラリとした腹が這うだけで小刻みに震え疼くが、ブラの中に頭を入れたヘビは先端をパクリと食べた。先端を舌先で弄りながら吸い上げられる。

 

「んっ、ん……!」
『お……『赤騎士(ルベル)』が戻ってきたぞ』
「んっ!?」

 指摘通り一周してきたのか、また靴音が近付いてくる。
 慌てて口を離そうとするが、両手で頭を捕まれ、ぐっと喉元まで挿し込まれてしまった。

 

「ヒナター? やはりいないな……餅はあるんだが」

 

 響いた声。そして目の端に出入口で考え込んでいるフィーラが映る。
 それだけで動悸が激しくなるのに、魔王はなんでもないというように腰を動かした。

 

「ふっ、ん、んっ!」
『アヤツに気付かれないとは……余程主は見つかりたくないのだな……相も変わらず『願い』とは恐ろしいものだ』

 

 笑う声がどこか自嘲に聞こえた。
 すると螺旋階段を使う音がし、フィーラが去ったのがわかる。だが安堵の息をつく暇もなく魔王は更に腰を速め、ヘビにはミルクまで吸い上げる勢いの吸引に目を瞠った。

 

「んんん゛ん゛ンンーーーーっ!」

 

 瞬間、口内で熱いモノが噴き出すと同時に抜かれ、顔にも粘ったモノが浴びさせられた。
 ゴクリゴクリと飲み干しながら壁に背を預けると、膝をついた魔王がヘビと一緒に顔についたモノを舐める。

 

『やはり主は快楽に溺れてる時の顔が一番良いな……』

 

 頭が蕩け、息を乱している今、耳元をくすぐる声と刺激に何も答えられない。だが、屈曲させた両脚を持つ魔王と、ショーツに噛みついて破いたヘビに我に返った。

 

「ま、待て! それ以上は……っぁん!」
『今年は目標とやらを立ててみてな』

 

 ショーツを破き、曝された秘部を舐めるヘビの刺激に身じろぐと、魔王は乳房を揉みながら言う。

 

『『空騎士(カエルム)』のように関心がなかったのだが主を見てると色々面白くてな、ひとまず気になったことは追求することにした……あと』

 

 それで餅を見ていたのかと納得するが、愛撫に何も答えられない。
 胸の先端に、首筋に、頬に、耳に口付けが落ちると鼻と鼻がくっつく。細められた深紅の瞳に熱くなると、艶やかな声が届いた。

 

『主と一線を越えた逢瀬を愉しみたい』
「は…………っん!」

 

 口付けられると両脚を引っ張られ、ヘビが口を離した秘部に先端が挿し込まれる。ぬちゅりぬちゅりと浅く挿し込まれていたモノは蜜を利用し、勢いよく挿入された。

 

「あ、あ、ああぁぁぁンンンッ!」

 

 知らないモノが挿入された違和感に声を上げると、口元に巻きついたヘビの腹で塞がれた。その間にも腰を動かし、手探りでイいところを探そうと色々な角度で攻め立てられる。

 

「んっ、んんっン!」
『ああ……女のナカとはこういうモノか……っ』
「んんっ、ん!」
『ん? 『貴様シたことないのか』か……あるわけなかろう。主らと違って心の臓などないし、同胞を食えば魔力は戻るからな』

 

 塞がれていても読み取った魔王は淡々と答える。それを良いことに私も訴え続けた。

 

「んん、んんんっ!」
『『ならなぜ私とするか』……まあ、気に入っておるのもあるが……今、挿入ってわかった』

 汗を落としながら質疑応答していた男は口元に弧を描き、私を欲情の目で見つめた。

 

『我は自分が思うよりも……主が好きだ……共に果てたいと──なっ』
「っっ──!!!」

 

 探り当てた一番気持ち良いところを突かれ、意識を持っていかれる。
 告白に偽りはないというように、ただ快楽を与え満たし、自身を私へと植えつける。最初はなんでもなかったはずなのに、時間と共に愛を増幅させ膨らんだ気持ちが餅のように思えた。

 何より否定することない身体と早まる動悸が、彼を嫌っていないと教える。それが本当の愛かはわからないが、少なくとも今までとは違う年になりそうだ。

 旦那達を前に、隠せる力が私にあればだが────。

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