異世界を駆ける
姉御
番外編*夫婦
年が明けたラズライト。
『宝遊郭』に挨拶へ行くと、髪を下ろしたチェリーさんに迎えられ頭を下げる。
「今年も旦那と息子がご面倒かけるかと思いますが、何とぞよろしくお願い致します」
新年早々、土下座になってしまうのは背後で跳ねている息子のせいだろう。だが、チェリーさんはくすくす笑った。
「カレ坊の面倒なんて十年もしとりますし、一人増えてもなんでもあらへんって。それよりヒナ嬢、着物いりまへんか?」
「へ?」
頭を上げた私は瞬きした。
* * *
新年も変わらず営業している遊郭。
だが、性交とは関係ない一室も楽しそうな笑い声で溢れていた。表札には『ラズライト騎士団新年会』。
四十畳ほどの広間には左右縦に豪勢な御膳が並び、着物に身を包んだ団員達とその家族が無礼講だと飲んでは騒いでいた。そんな中央奥にある屏風の前には台座が用意され、一人の男が陣取っている。
ラズライトの大将こそ団長────スティ。
着物は私服である空色だが、肩に羽織る中羽織には竜と満月。
前髪も上げられていると美丈夫だが、とてもだるそうに脇息にもたれ掛かり、お酌にきた団員やご家族にお猪口を差し出しては飲んでいるだけだ。
傍に座った私は、大きく息を吸う。
「こら、スティ! ちゃんとしなきゃダメだろ!!」
「っ!?」
余程ぼーとしていたのか、突然の怒声に肩を揺らしたスティは慌てて顔を上げる。だが私を見るなり目を丸くし、脇息から落ちた。その音に、近くにいたサティとミッパが振り向く。
「何してんのカレ……って、ヒナっち!」
「来てたんですか!?」
「うむ、邪魔するぞ」
サティは珍しく髪を左右でお団子にし、牡丹の簪にピンクの着物。ミッパも前髪を上げ、グレーの着物と新鮮だ。しかし二人も驚いたように目を瞠り、慌てて起き上がったスティは口をぱくぱくさせた。
「ヒ、ヒナさん、な、なんでここ……着物……えっと!」
「ん? ああ、チェリーさんに貰ったんだ。似合うか?」
立ち上がってひらりと回る。
薄萌黄の絹地に白と金の糸で月やウサギが刺繍された三つ紋に、本金箔の袋帯。いわゆる既婚者の証、色留袖。
可愛いのを貰えてルンルンなのだが、三人の反応がイマイチだ。すると他の団員達も気付いたようにこちらに目を移す。
「団長どうしたんですか~?」
「あれ、そちらの女性は誰んとこの……」
「おっと、失礼した」
あまり騎舎に行かないせいかお初の者も多いらしい。
まだ慣れない着物で正座した私はゆっくりと頭を下げた。
「新年あけましておめでとうございます。スティ……団長の妻のヒナタと申します。本年も皆様方のお力添えをいただきながら、共に主人を支えていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
挨拶を終えると頭を上げ、ニッコリ笑顔。
だが、全団員と家族の目が丸くなり、どんちゃん騒ぎが一瞬で静まり返った。別室の声が聞こえるほど。さすがに困った私は背後の三人を見るが、スティは顔を伏せ、サティとミッパはどこか頬を赤くし口チャック。すると突然、広間の全員が一斉に正座すると頭を下げた。
「よろしくお願いします!!!(主にラズライト未来のため)」
「え……は?」
「~~~~っ、ヒナさん!」
土下座に近い光景に唖然とすると、スティに手を取られ、屏風の裏へと引っ張られてしまった。
壁と屏風の間。一畳半ほどの薄暗い隙間で身を屈めるが、スティは手を握ったまま浅い呼吸を繰り返している。表からはどよめきが聞こえ、耳を立てれば私の話題で持ちきりのようだ。
さすがに気持ち良いものではなく、ひっそりと訊ねる。
「スティ、私は何か間違えたことをし……ん!」
顔を近付けると口付けられる。
そのまま片手を後頭部に、片手を腰へと回し、深く口付けながら押し倒された。二十太鼓の帯のせいもあって横向きになってしまったが、胸元で息を乱しているスティは独り言のように呟く。
「なんで……新年会にヒナさんが……」
「え、ああ。チェリーさんに家族の人なら入れるって聞いてな。スズも連れてきたかったのだが、私の仕度を待っている間に寝てしまったんだ」
「家族……?」
「うむ、スティは私の旦那んんっ!」
また口付けられる。
押しつけ奪うかのように重ねられた唇は強引に歯列を割り、舌を差し込まれた。いつも冷たい舌は私のと絡みつく前から熱い気がして、口付けながら瞼を開く。
同じように開いていた藍色とバッチリと目が合ってしまい驚くが、なぜかスティの方が顔を真っ赤にした。唇が離れると肩に顔が埋まり抱きしめられる。
何も言わないことに考え込んだ私は、そっと耳元で訊ねた。
「スティ……もしや、嬉しいのか?」
行き着いた答えにスティは顔を埋めたまま頬ずりする。
その頬から伝わるのは熱で、伝染したように私も熱くなった。私もまた抱きしめ、頬ずりを返すと、耳元でポツリと呟かれる。
「ヒナさん……ボクの奥さん……ボクのモノ」
「うむ、スティは私の旦那さん。私のモノだ」
囁きに囁きを返すと、丸くなった藍色と目が合う。
その顔は赤いままだが、はにかんだように微笑まれると私の顔も簡単に真っ赤になる。それが合図のように首筋に吸いつかれ、慣れた手つきで帯を解きはじめた。
「ちょ、スティ……せっかく着たの……んっ!」
「早いか遅いか、ですよ……そして早くしたのはヒナさんのせい。はい、回って」
スイッチが入ったように艶やかな命令が下り、従うように身体を捻らせる。
徐々に開かれる胸元から藍のネックレスが見えると、首筋、鎖骨、谷間、宝石に口付け、襟を左右に引っ張っられた。畳に乳房が零れ落ち、上前も払われると素足も露になる。
片方の乳房を揉みながらそっと脚を撫でられた。
「ん、スティ……」
「ボクしか見れないヒナさん……綺麗」
「っあ!」
くすりと笑う声がすると胸元に顔が埋まり、触っているのとは反対の胸に吸いつかれる。空いている手は脚を撫でながら下腹部へと這い、ショーツを剥ぐと指先で秘部の愛撫をはじめた。秘芽を擦られるだけで喘ぎが漏れる。
「ああぁ……っ!」
「声ダーメ」
「んんっ!」
胸の先端を噛んで引っ張ったスティは、揉んでいた手で私の口を塞ぐ。それからすぐ蜜を愛撫していた指も抜くと、今度は帯締めで私の口を塞いだ。確かに表には団員がいるが、騒いでいる声の中では掻き消される気がして、身じろぎながら見つめる。
人差し指を口元に持ってきた彼は小首を傾げた。
「ちょっとでも聞こえたらダーメ……許さない……新年会場を葬式会場にしちゃう」
「んん゛っ?」
おかしなことを聞いた気がしたが、スティはくすくす笑いながら自身の羽織を落とす。空の着物も上半身だけ脱ぎ、細身なのに硬い胸板と漆黒の宝石が揺れるペンダントが露になった。
直視出来ず顔を伏せるが、そのままうつ伏せにされると、突き上げたお尻に指を挿し込まれる。
「んんっ……んん!」
「あ、もう蜜が出てきた……ヒナさん、気持ち良い?」
指使いが巧い彼相手では簡単に快楽の波が押し寄せてくる。
じゅぶじゅぶと抜き挿しされ、速度を速められると愛液が溢れ出してしまう。けれど一本じゃ足りない。イけない。もっと欲しい……そうねだるように頭を横に振っていると、スティは抜いた指を舐めた。
「いいよ……奥さんの願い叶えてあげる」
妖艶な微笑を浮かべられると、裾をたくし上げられ、両手で腰を持たれる。はっと気付いた時には秘部に肉棒の先端が食い込み、一気に貫かれた。
「んんっ、んんんンンーーーーっ!」
「あ……ちょっと狭いかも……ヒナさん……緩めて」
蜜を零していたとはいえ、あまり解されていなかったナカにスティも汗を落とす。だが『緩めて』と言いながら抱きしめた両手で乳房を揉みしだき、先端を摘まれては締めつけるだけだ。
「あっ、ヒナさ……ぁ、ん……」
「んっ、んんっ……っはあ、ああ、スティ……っんん」
帯締めが解かれ、唾液を落としたまま振り向くと口付けられる。腰を揺すられすぐ離れても、また重ねようと顔を寄せた。
息を乱し、乳首を引っ張られ、後ろから突かれる格好となっても止まることを知らない愛液のようにただ狂おしく求める。快楽の海が激しくなると、ぎゅっと抱きしめる腕が強くなった。同時に膣内で膨張したモノから熱い飛沫が散らされる。
「あ、あああぁぁ……っ!」
満たす熱は冷めることなく、畳に滲んだ蜜は広がりを増す。
「ヒナさん……好き……大好き……愛してる」
くすぐったくて甘い声に私は笑みを返すことしか出来ない。
それでも寄せられた頬は温かく、口元には同じ笑みが浮かべられ、また深い快楽へと誘われた。
『葬式会場』と呟いた時点で広間が物抜けの空になっていたことなど知らず────。