異世界を駆ける
姉御
番外編*かまくらの熱美
もうじき年が明けるベルデライト。
変わらず灰色の雲に覆われ雪が舞うが、星どころか月も見えない。夜になればいっそう冷える大晦日だが、もこもこコートを着た私の頬は赤かった。
「や~意外とあったかいんだな~」
「おや? ヒナタさん、はじめてでしたっけ」
「うむ、毎年忙しかったからな……しかも雪花火! 楽しみだ!!」
笑顔で振り向くと、後ろから抱きしめるベルも微笑む。
そんな私達がいるのは家ではなく外。と、いっても雪で作った家──かまくらの中。
大晦日、ベルデライトでは0時と同時に上がる『雪花火』を庭先に作ったかまくらから見ながら年を越す風習があるらしい。
もちろん小さい子は風邪を引かないよう充分な防寒具を着せたり結界を張って凌ぐのが鉄則。しかし、我が子達は既に夢の中、寝具に可愛い寝顔が揃っている。
一緒に見れないのは寂しいが、徐々に晴れてきた雲に私の胸は高鳴り、今か今かと一人分の穴が開いた出入口から外を眺めていた。すると、本を閉じたベルが頬にキスを落とす。
「それだけ楽しみにしてもらえると、私も嬉しくなりますね」
「貴様、あんま感心なさそうだもんな……」
「昔よりはありますよ。子供達もいますし……何より愛する妻が一緒ですからね」
「っん……」
囲炉裏の僅かな明かりだけでも、柔らかな笑みを浮かべる顔が近付くのがわかると唇が重なる。それは少し触れて離れてまた触れる。小さなリップ音が木霊した。
「あ……ん、ベル……ダメだ……」
「声さえ上げなければ問題ありません」
「そういう……んっ」
文句を言いたいが、啄ばんでいたものが深い口付けに変わる。唇を吸い、舌先で上、下唇を優しく丁寧に舐められると自然と口が開いてしまった。
同時に差し込まれた熱い舌が私の舌を突くと、誘われるがまま絡める。
「んっ、あ……ん」
「非難しながらも……ん、可愛くおねだりされているじゃないです……あ」
「ふんっ!」
耳に届いた声に唇を離すと、顔を出入口に戻す。
ちょっと気持ち良くなるだけで快楽に溺れてしまう私は流さることが一番ダメだとわかっている。だからこそ我に返った時に振り払わなければ雪花火など到底見れない。私は雪花火を見るんだ!
闘志らしいものを燃やしていると、上擦った声でベルは言う。
「凄い熱を感じますね……」
「うむ、見たいものは見たい!」
「なるほど……では私はヤりたいものはヤりたい!、で」
「は……ひゃ!」
何を、と思った時にはコートの中に両手が潜る。
身じろいでも胡坐をかいた彼の股間に座っているせいで、ガッチリとホールド。何より体格が良すぎて動くことさえ儘ならない。しかも手袋を外しているのか、服越しなのに簡単にブラを下げ、乳房を揉みながら両先端を摘んだ。
「ゃあっ……!」
「ああ、やはり服越しだと揉み難いですね。王に伝授してもらわないと」
「するなするな! ああ……っ」
頭を振り拒否するが、フードを退けて、うなじに吸い付かれる。
それはとても強く、確実に痕がついたのがわかった。その上をチロリと舐めれれば、冷気に晒され背中からゾクゾクしたものが駆け上ってくる。
「あ、あ……ベル……」
「はい……ああ、ヒナタさん。あと十分だそうですよ」
今度は鎖骨辺りを吸いながら乳房を揉む力を強める。
白い吐息を漏らしながら外を見ると『十』の文字が空に浮かび上がる。横に何かのスペルがあるからドイツ語で『分』だろう。
「ヒナタさんの心臓……とても速いですね。もうすぐ雪花火が見られるからですか?」
「そ、そうだ……」
心臓に添えられた手に、見栄を張った返答をする。
くすくす笑うベルは『そうですか』とだけ答えるが、動悸が速くなった気がした。するとついに上着の中に素の両手が潜り込み、優しく包むように乳房を揉みしだく。
「ああ……ダメだ……やめ」
「私も待ってるだけですよ」
「な、何を……」
「ヒナタさんが私を──欲しいと言ってくださることを」
甘い吐息と囁きに、寒さとは違うものが全身を巡る。
振り向けば、淡い明かりの中でキラキラと光る白銀。そして翡翠の瞳の奥には熱情……いや、欲情が秘められていた。
「だから……もっと貴女を乱してあげますね」
「あっ、あ……ベルんんっ」
微笑みと一緒に口付けられると、荒々しく乳房を揉まれる。
ずっとゆっくりだったせいか、突然の刺激に身体はブルリと震え、摘まれる胸の先端も尖りを増した気がした。重なる唇から逃げようとしても直ぐに捕まり、言葉通り乱していく。
「なんでしたら……ヒナタさんの大きくて柔らかくて可愛らしい胸をかまくらの外に出してあげましょうか?」
「バ、バカ……そんなっあ!」
顔が真っ赤になり、つい腰を浮かす。と、ズボンの中に手が潜り、ショーツを通って秘部に触れる。ぐちゅりと、何か音がすると苦笑が聞こえた。
「冗談……だったんですが、本気にしたんですか?」
「し、してない!」
「では、提案する前から濡れてらっしゃったんですね……とても嬉しいですよ」
「あ、ああっ……!」
大きくて太い指が交互に秘部に挿入され、かき乱す。
それはナカだけでなく私自身も甘美な何かに犯されたようで、息を乱しながら背を胸板に預ける。すぐ上からは口付けが落ち、唇、胸、秘部。すべてを可愛がるように動かされた。
「はあぁ、あっん……あ」
「声がとても心地良くなってきましたね。でも子供達に聞こえてしまうかもしれませんよ……?」
「っ!」
傍で眠る子供達に意識が戻された。
いけないと決めていたはずなのにと首を横に振ると精一杯暴れる。だが、それが余計に刺激を強くさせ、喘ぎが漏れた。
「ひゃっ、あ、あっ、あぁ!」
「とても可愛らしいですよヒナタさん。もっと……もっと乱れてください」
どこか熱がこもった声が珍しくて嬉しくて、動きを速める指や口付けに押されるように身体を揺らす。ぎゅっと強く抱きしめられると、太い指が最奥まで挿し込まれた。
「っっ──!!!」
頭の中が真っ白になり、達したのだとわかる。
暴れるどころか動く気力もなくなり、白い息を吐きながらボーと外を眺めた。その時になっていつも通り声が漏れない結界を張っていること、空の文字が『ニ』に変わっていることに気付く。
時間が経つのは早いものだと妙に実感するが、私を片腕だけで抱えたベルが突然膝立ちになる。もう片方の手にあるのはズボンから取り出したモノ。
目を瞠り、必死に逃げようとするが、座り直した彼の大きな両腕に捕まってしまった。
「ダメですよ。あれだけ素敵なお声と姿を見せてくださったんですから……我慢出来ません」
「し、知らん知らん! 自分で始末しろ!!」
「惨いことを仰いますね」
ふるふると頭を振り、背後を見ないようにする。
しかし、苦笑しながら簡単に私の腰を持ち上げたベルは、私のズボンもショーツも下ろすと先端を秘部に宛がった。とろりと零れる蜜が明かりの影でも見え、顔が真っ赤になる。
「ほら、もうこんなに欲しいと仰っています……ね、ヒナタさん?」
「し、知らん!」
「ヒナタさん?」
徐々に囁かれるだけで全身が熱くなる。
これ以上きたら本当にダメだとわかっているが、目の端に移ったベルに驚いた。私までとは言わないが、その頬はほんのりと赤く、嬉しそうな笑みを浮かべていることに。
ナカに入り、その頬がもっと熱く求めてくれればと期待してしまっては……。
「ヒナタさん……?」
「……ぞ」
大人しくなったことに違和感があったのか、ベルは不思議そうに問うた。
私はポツリと、静かな雪壁の中でも彼の耳に届くよう、陥落させられた分──懇願する。
「挿入(いれ)て……いいぞ……ベルので……私を満たして……イかせてくれ……」
「……急に可愛らしくなられると怖いのですが……でも嬉しいのに変わりありませんね」
戸惑っていた顔は笑みに変わり、口付けられる。
また優しく暖めるように柔らかい口付け。すると空の文字が『十・九・八……』と、カウントダウンをはじめた。それより少し遅れるように腰を浮かせた私に、ベルも肉棒の先端を食い込ませる。そして耳元のピアスに口付けると囁いた。
「来年もよろしくお願いしますね、愛する妻(ヒナタさん)」
「うむ……」
優しい声に怖さはない。あっても吹き飛ばしてくれる。
『0』と同時に打ち上げられ、散りばめられた雪結晶の花火のように。そして暖かな雪の中で集まり、また溶けるまで共にいる──ずっと。
翌日、新年早々風邪を引いてしまい、大きなハリセンをお見舞いした────。