異世界を駆ける
姉御
番外編*ホワイトデー
温かいというよりは蒸し熱い。
だが、一瞬で整った空調へ変換され快適だ。いわゆる水晶によるエアコン効果。普段なら健康的に窓を開け、健やかな空気を入れるところだが、汚れた窓と外を見るに無理そうだ。
火口から大きく噴き上がった火山灰と石が降り注ぐ光景を窓越しに眺めていると、テーブルにコーヒーカップが置かれる。礼を言おうと顔を上げるが、目先に立つ女性は落ち込んだ様子で頭を下げた。
「せっかくいらしてくださったのに、街をご案内出来ず申し訳ありません」
「ゆっくり話せと山神様が言っているのだろ。気にせず、新作お菓子を食べようではないか、ユフィ」
「……はい、ヒナタ様!」
冴えない表情をしていたトルリット国の女王ユフィは腰まである白金の髪を揺らしながら笑う。
そう、私はいま東大国を訪れている。旦那達は仕事、子供達の大半は学校、未就学児組は健康診断が一日掛かると言われ、十年来の友に久々会いにきたのだ。
お菓子をテーブルに並べるユフィの身長は伸び、幼かった顔立ちも凛とした美しさのある大人の女性へと変わった。赤の眼差しも一国の王に相応しい強さを宿している。胸元で光る、虹色のプレシャス・オパールもあれば立派な銀竜。
だが今はオフ! 女王様版も好きだが、無邪気に笑う今のユフィはもっと好きだ!! 人妻でなければ結婚したかった!!!
『冗談にきこえぬのがアヤツのおそろしいところだな』
『ギャウ』
「私の脳内(パラダイス)を覗くのはやめてくれ」
花畑を背負ったまま注意する私に、一人と二匹は大きな溜め息をついた。
ドアの近く、大理石に丸まって座るのは全長二六十以上ある黄褐色の毛に、ふさふさの鬣。尻尾の先端にある暗褐色の房状になった毛束を振るのは、この世界にはいない動物。十年前の子ライオンから王者の風格漂わせる大人に成長したマオンだ。
そんなマオンに寄り掛かって寝転がるのは、褐色の肌に尖った耳。毛先が跳ねた漆黒の髪とマントを羽織り、ユフィより濃い赤の瞳を持つ魔王。
腹で眠るヘビを撫でながらチョコクランチを口に放り投げる彼に、私の向かいに座ったユフィは微笑む。
「マオウさんはすごいですね。短時間でマオンちゃんと仲良しになれる方、はじめて見ました」
『我のほうが“うえ”だと理解しておるのだろ』
「え?」
「あー……一応、面識あるからな」
しどろもどろの私を余所に、魔王は床に置いていたコーヒーカップを手に取る。
さすがに正体を伝えるのはどうかと思い、友達だと紹介したが“私の”ってだけで、サロンで三人二匹っきり。魔王が何かをするとは思えんが、珍しく長居しているのが気になる。まあ、マオンも大人しいし、総団長も噴火調査でおらぬし、内緒にしてれば大丈夫か。
「総団長といえば旦那、浅葱少年とは上手くやってるのか?」
「はい。小言は昔から聞き慣れてますし、ルーも妥協を覚えましたから大丈夫です」
笑顔で両手に小さなガッツポーズを取ったユフィの耳には琥珀のピアス。
ソレは長きに渡って『南十字騎士団』総団長を務める男の瞳と同じ色。忠誠と愛を誓う宝石。十年前は何もないと言っていた彼と結婚とは、人生何があるかわからぬものだ。
笑いながら菓子を手に取る私に、カップから口を離した魔王が苦そうな表情で舌を出す。
『砂糖が入っておらぬというのに、あまく感じるのはノロケのせいか』
「まだ結婚して一年なのだから良いだろ。私に旦那達のことを喋らせたら文句しか出ないぞ。フィーラとアウィンは仕事仕事、ベルは本本、スティは睡眠睡眠、バロンは判子判子、イズは逃走逃走」
『ようはかまってもらいたい……ノロケではないか』
愚痴にツッコミが入り、菓子を取る手が止まった。
確かに育児休暇中で昼間も時間が出来てしまったせいか、構ってもらいたいのはある。だが、頑張って働いている(何人かは疑わしいが)旦那達に我侭は言えぬし、素直に言えば翌日腰が立たない。
「矛盾……してるな」
呟きに、ユフィが戸惑った様子で辺りを見回すと、何かを持って駆け寄ってきた。差し出されたのは手の平サイズのガラス箱。銀細工の羽根や星が施された中には、キラキラ光る色鮮やかな金平糖。瞬きする私に柔らかな笑みが向けられる。
「矛盾してても、この金平糖のような十人十色の殿方の先にあるのはヒナタ様への愛だけです。彼らを射止めたヒナタ様は何も不安など持たず、堂々と立っていてください」
「ユフィ……」
私を見つめる瞳に昔の弱弱しさはない。ただ真っ直ぐと自身の想いを伝えてくれる言葉。それが私のためだと思うと嬉しくて、勢いよく立ち上がると彼女の両肩を握った。
「結婚しよう!」
「はいっ!?」
『ついに本音をいいよっ……!』
劇的な告白に溜め息が聞こえたが、突然立ち上がった魔王とマオンが私達の前を遮る。
ヘビとマオンは喉を鳴らすが、魔王は意地の悪い笑みをドアに向け、ユフィと顔を見合わせた。すると、足から伝わる振動に窓ガラスが揺れる。
「な、なんだ?」
「お、恐らく噴火の影響か……きゃあ!」
今度はどこかが爆発したような音が立て続けに響き、よろけたユフィは持っていたガラス箱を落とす。割れたガラスと金平糖が床に広がった。
「ああっ、ホワイトデーにとルーから貰った金平糖が!」
「ホワイトデー?」
『『絶壁の盾(スコプルス・スクートゥム)』』
金平糖に手を伸ばすユフィとは反対に翳した魔王。同時に綺麗に横真っ二つに斬られたドアと壁が吹っ飛んでくるが、魔王の張った黒い壁で塞がれた。人間も。
「っだ!」
『いかん、余計なヤツもきよったか』
飛ばされてきた男に魔王は黒い壁を消し、私の背へと隠れる。倒れ込んでいた男は上体を起こすが、マオンが頭をガブリ。あ。
「っだだだだ! やめろっ狛犬!! 消失させるぞ!!!」
「ル、ルー!」
「相変わらず嫌われてるな、浅葱少年」
淡々と話す私とは違い、慌ててユフィがマオンを叩くと浅葱髪の頭が解放された。竜と十字架の白マントを揺らす男は尻餅をつき、懐から取り出したハンカチで頭のよだれを拭く。琥珀の双眸は鋭く、立ち上がって早々、握っていたレイピアをマオンに向けた。
「今日という今日こそ、主人共々なってない躾を身に刻んでやろう!」
「そんなことより事態の説明をしなさい!!!」
恥ずかしそうに叫ぶユフィに、旦那こと総団長である浅葱少年は不服そうに目を向ける。が、私を見ると見開き、空いた手で額を押さえた。同時に零れる溜め息。
「貴女のせいですか……」
「何が? ああ、邪魔してるぞ」
「さっさと出て行ってください。即。今ずぐ。回れ右」
「ちょ、ルー! ヒナタ様になんて「まったくだ」
被った低い声に室内が静かになる。
嫌な動悸が鳴るのは、ここにはいないはずの声だからか、はたもや怒気が含まれているせいか。恐る恐る壊れたドアに目を向けると白い煙が人影を映し、出てきた切っ先が煙を払う。予想通りの人物が立っていた。
「よ、よう、フィーラ」
躊躇うように手を挙げた私に、炎を帯びた剣よりも赤い髪とマントを揺らす男、フィーラは赤の瞳を細めた。その目はユフィを背で遮る浅葱少年に移る。
「……ルーファス殿。貴殿は確かヒナタはいないと言っていなかったか?」
「その点については私も今知ったことですので御詫び申し上げます。しかしながら人の話を聞かず攻め入る方もどうかと」
「攻め入る?」
『輝石、さがれ』
「は……ひゃっ!」
宙に浮き、後ろから首に腕を回した魔王に耳を舐められると足が自然と数歩下がる。と、私が立っていた床から黒い刀と銀色の大鎌を持った二人の男が勢いよく飛び出してきた。怒声も一緒に。
「ふざっけんなよ、クソガキッ! 来る度に何人殺す気だよっ!!」
「ボクは『通せ』って言った……それが『NO』なら……死ね」
「スティ!」
影から団服を着たスティが現れると、肩までの銀髪と白のマントを揺らす『南十字』のソラン……年上男も水飛沫を上げながら現れる。スティと同じほどの身長になった彼は着地するが、横目で私を見ると舌打ちした。ケンカ売っとんのか?
癇に障っていると右端に着地したスティに不敵な笑みを向けられる。
「ヒナさん……逃げたら殺しますよ」
「ええっ!?」
「では、ウサギより先に私が閉じ込めましょうか」
「えっ、あっ、ベル!?」
不吉発言に続くように、暑い中でも元気に白のコートを着たベルが剣を持ったまま現れる。隣室に続く左のドアから。後ろにはトルリット兵が見えない壁に向かって攻撃しているが、無情にもドアは閉じられた。呆然とする私に、また魔王が耳元でボソリ。
『今度はまえだ』
「ふひゃあっ!」
「どっはあああーーーっっ!!!」
くびれを摘まれ、ユフィの背に抱きつく。
同時に後ろのバルコニーの窓を割り、濃茶髪をオールバックにした巨漢年上男が入ってきた。倒れ込んだ男に、ユフィも驚いたように旦那の背に抱きつくと、浅葱少年と共同ユフィサンドイッチの出来上がり。おお、ふわんふわんな髪の毛に、良い匂い。至福だ。
「あん? じゃあ、オレまみれの匂いにしてやるよ」
また思考を読まれ肩が跳ねる。
振り向けば、宙を浮いていた白のスケーボーからタンクトップのアウィンがバルコニーに着地していた。手には数メートルほどに伸びた槍を持っているが、三人と同じような険相な顔つきに至福だった頭にはブリザードが吹く。
その横で浅葱少年がユフィを、年上男とマオンが巨漢年上男を壁際まで引っ張る。それはまるで避難のようで、私は旦那達に包囲された。
内心冷や汗をかきながら、なぜ彼らが東大国(ここ)にいるのかを考える。
確かに思い付きで出掛けたから連絡はしてない。それでもバロンとジェビィさんには言ったし、夕刻前には帰るつもりだった。断じて泊まる気は……ほんのちょっとあったな。
そんな思惑でも洩れていたのか、四人に切っ先を向けられた。
「ちょっ、待っ! そんなに怒ることか!?」
「当然だ。ただでさえ今日は居てほしかったと言うのに……!」
「とどめには『輝石は預かった』なんて脅迫ですからね」
フィーラとベルの背中から憤怒のオーラが見えるが“居てほしかった”ってなんだ? いや、それより“輝石は預かった”?
私を“輝石”と呼ぶのはと振り向けば、抱き付いていた赤の双眸と目が合う。その口元には弧が描かれ、目を見開──くと、口付けられた。
「っ!」
「斬るっ!」
「殺すっ!」
フィーラとスティが飛び出すと、ワザと鳴らしたようなリップ音と共に魔王は唇と身体を離す。宙に浮いた彼の口元は変わらない。それどころか、懐から取り出したチョコクランチを放り投げる。ベルの結界で守られる私の影から突如両手が出てきた。
「チョっコ~~ぐはっ!!!」
「イズーー!!!」
満面笑顔で黒男=イズが現れたが、丁度魔王を遮ってしまったため、二本の切っ先に身体を貫かれた。が、ぐにゃりと胴体が歪むだけで、血を出すこともなく元に戻った。フィーラとスティの舌打ちに構わず着地した男はキャッチしたチョコをパクリ。
「貴様本当に人間か!?」
「よう銀竜、フルオライト振り~」
「あ、はい! 黒竜様、先日はどうも」
私のツッコミを無視し、ユフィに手を振るイズ。
ユフィ、そんなヤツに頭なんか下げなくていいぞーと、浅葱少年と共に睨むが、先にアウィンの槍を避ける魔王だ。ジト目に気付いた魔王は宙返りし、私の真上に浮くと影を纏いはじめる。口元にある弧はチョコを食べる男と同じで、私は眉を顰めた。
「やはり貴様も大人しく出来ない性質か」
『我が魔であると再認識しただろ? まあ、当初は“ほわいとでー”のつもりで、なにかをする気はなかったのだが、主の紹介が不愉快であったため遊ばせてもらった』
「は?」
『……主はしょうしょう男心をしったほうがよいぞ』
不機嫌そうに溜め息をついた魔王だったが、ベルの切っ先が刺さる前に『ではな』と小さく手を振り、影へと帰って行った。イズを除く男達は苛立ちを募らせているが、私は首を傾げる。男心もだが、なぜホワイトデー?
「うっわ~派手にやったね~~」
空気をブチ壊す呑気な声に振り向く。
壊れたドアからミントグリーンの髪と白のローブを揺らすバロンが苦笑しながら現れ、私は確認する。
「バロン、私はユフィと女子会してくるって言ったよな?」
「うん~言ったよ~でも~早く~会いたいからって~そしたら~着いてすぐ~魔王からの脅迫が~脳に響いたんだよ~~」
「こちらの制止も聞かず、強行突破をなさいました」
「まあ。では、先ほどの爆発は……」
恐る恐る訊ねるユフィに、総団長はフィーラ、ベル、スティ、アウィンと順に視線を送った。私は頭を押さえる。
えーと……整理しようか。船で四、五日は掛かる道のりを数時間で来たということは、私みたいに影……つまり、スティとイズの力で来たってことだよな。『早く会いたい』『魔王の脅迫』で来てくれるのは嬉しいが、他国を破壊してまでって侵略行為だぞ。
「貴様ら……そこまでしてどうした。子供達に何かあったのか?」
大きな溜め息をつきながら訊ねたが、四人も同じ溜め息をつくと剣を鞘に戻した。その表情は不貞腐れているようにも見え首を傾げると、椅子に座るイズが菓子をつまみ食いする。
「ヒーナ、今日は何月何日何の日?」
「アクアマリン……三月十四日だが、何かイベントあったか?」
訊ね返す私に男達の空気が重くなった気がする。ついでに『南十字』にも呆れた眼差しを……え、ユフィも?
戸惑う私にイズは床を、割れたガラス破片と金平糖を指す。金平糖……贈り物……三月十四日。
「え、あ、ホワイトデー? 貴様らもしかしてホワイトデーだけのために来たのか!?」
「そんな容易な言葉で終わるものではない!」
驚く私以上にフィーラの怒声が響く。
ズカズカと足をこちらに進める彼の表情は、来た時のように怖く後退りする。が、詰め寄られると両肩を力強く握られた。
「俺は……今日のために休暇を取っていたんだ」
「は、初耳だぞ!?」
「驚かすために取ったのだから当然だ。バレンタインの礼に美味しいと評判のケーキ屋に連れて行こうとしたのに……肝心のキミがいないなど」
「たかがホワイトデーに無茶するな!」
肩を震わせながら告白するフィーラにツッコむが、歯を食い縛ったように顔を伏せられた。すると後ろから首に腕を回すベル、左手をスティ、右手をアウィンに握られると、三人も同じように顔を伏せ告白した。
「私だって弟に仕事をすべて押し付け、下着屋巡りをしようと……」
「デートコース最悪だな」
「ボクだって……朝から必死に家のお掃除して……新品お布団用意して……」
「初夜みたいな準備するな」
「オレだって……やたらと婚姻届を出しに来るリア充に我慢して……」
「祝福しろ」
「ともかく~全員して~今日は~ヒーちゃんと~遊ぶ気だった~みたい~~」
「知らんがな」
淡々と答える私を他所に、大人四人は半泣きで抱きしめる。
思い返せば魔王にもチョコトリュフをバレンタインに渡した記憶があるが、ヤツといい、こいつらといい、マメと言うか突拍子もないと言うか……だが“たかが”で終わることではない。
貰ったお礼にというのは申し訳なさと嬉しさが込み上げる。それが大切な者達が前から考えてくれていたなら尚のこと嬉しい。
「まったく……私は“あげる”イベント以外は忘れやすいんだから、そういうのは起きてすぐ拉致ってくれないと困る」
一人ずつ頭を撫でながら言うと、顔を上げた四人が目を丸くする。面白くて可愛い表情に自然と笑みを零した。
「でも、ま。来てくれてありがとう。お返しには充分だ」
ホワイトデーだと、会いたいからと、何万キロ離れた他国まで来てくれた。それは私にとって充分すぎるお返しだ。何より私も会いたかった。
だが、抱きしめる四人の力は強く、口々に零す。
「それだけではダメだ……」
「たったこれだけで終わるはずないでしょう」
「ヒナさんにお返し……する」
「時間過ぎるまで、やってやるよ」
力強い声に合わせ、離れた四人の表情は晴れ晴れとした、とびっきりの笑顔。それだけで心臓は勢いよく跳ね、真っ赤になった頬を隠すように顔を伏せた。だって、その意味は……。
「その前に、後片付け諸々をしてくださいね」
浅葱少年の冷たい一声に一同沈黙。
見渡せばテーブルも椅子も棚もひっくり返り、ドアと壁は破壊。終いには人を殺したような発言を思い出し、抜き足差し足をする旦那達を見る。
「お片付けせんかーーーーーっっ!!!!」
「「「「っだーーーーー!!!!」」」」
大きなハリセン音と悲鳴は、まるで火山が噴火したかのよう。
当然片付けが終わるまではお触り禁止で、浅葱少年からも容赦ない請求書を渡された。しばらく節約生活になりそうだ。
そんな片付けが終わった頃にはどっぷりと夜もふけ、晩御飯をご馳走になる。
アーポアクにはない食材もあり、ユフィとも楽しい時間を過ごせて幸せだ。子供達にとお土産も貰ってしまったぞ。帰ったら一人ずつ抱きしめて渡さねばな。喜ぶ顔を見るのが今から楽しみだ。
しかし、お風呂も借りる話になると、なぜかイズとバロンも加わった旦那壁に阻まれる。
ホワイトデー終了まで残り三時間ちょっと。
抗うことは出来ない──。
* * *
トルリット城の大浴場は世界王権限で貸切だ。
硫黄の匂いがするのは、温泉が沸くトルリットならでは。足の爪先まで肌がツルツルになると、すべての疲れから解放された気分になる。これが本当に温泉なら。
「んっ、あん……」
声を漏らす私の真上には高い天井と白い湯気。
何も纏わず広い湯船に浸かることなく、私はエアーマットに寝転がっていた。身体はマッサージを受けるかのように優しい手で愛撫されているが、ピクピク反応してしまう。それは六人分の手のせいか、性帯感を良く知っているせいか、視線を動かしても逞しい胸板と隠していないモノが映るせいか。
恥ずかしさから目を閉じると、滑る乳房をゆっくりと揉み込まれる。
「んっ……」
「気持ち良いですか、ヒナタさん?」
「ちょ、付けすぎじゃね?」
「ヌルヌル……する」
「匂いも~すごく~甘いけど~アーちゃん~平気なの~?」
「チョコ、流してやるなりよ」
「お前のモノを斬るぞ」
「っああ……!」
フィーラのドスの効いた声に目を開くと、膣内に太めの指が入った。
股下にいるのはフィーラとバロンだが、動かし方から前者だとわかる。小刻みに揺れる私に、指先で胸の先端を突いていたイズは口笛を吹くと桶に入っていたモノを手桶で掬い、私にかけた。トロトロと零れるモノは硫黄とは違う、甘い匂いを漂わせるローション。
それが誘惑の元かのように、囲っていた男達は一斉に舐めだした。
「んっ、あ……ああ」
下腹部に顔を埋めるフィーラは甘い物嫌いのくせに愛液が混じったモノは平気というように舌を動かし、秘芽を攻める。開いた両脚を持って舐めるのはミントグリーンの髪をひとまとめにしたバロン。変わらず苦手な臍を舐めるのはアウィン。胸は俺のものイズは楽しそうに乳房を揺らしては吸い付く。左頬はベル、右頬はスティが舐めるが、唇を奪い合うように舌を伸ばし、上から下、すべてに刺激が与えられる。
「あああぁ……あんまり……激しくされ……ると……すぐ……イっちゃンンっ!」
早くも目尻から涙を零す私の唇をベルが塞ぐと、首筋にスティが噛みつく。
痛くても愛液は零れ、フィーラが待ち望んでいたかのように吸い付き、身体が激しく揺れた。けれど、両脚を持つバロンの腕は強く、眼鏡越しの妖しい金色の双眸が向けられる。
「最低六回はイくんだから、我慢せず出しなよ。回数を重ねるごとに淫乱になるヒナタちゃんが僕は好きだよ」
「ヒューゲが言うと命令だよな」
「んじゃ王様命令、アウィン退け」
「あ……っだ!」
臍を舐めていたアウィンを退かしたイズは腹に乗ると、乳房を揺らす。だが、ローションで上手く掴めないようだ。
「や~ん、ヌ~ルヌル~。いっやらしい」
「貴様の……言い方が……ん、厭らしっん!」
睨んでいると、大きな肉棒を谷間に挿し込んだイズはスティから新しいローションを入れた手桶を受け取った。口元には意地の悪い笑み。
「ヒナも味見したいだろ?」
「し、したくない! そもそも口にして大丈夫なのか!?」
「ヒナタさんから零れる汗や涙や蜜に比べればマズいですね」
「私で例えるなっあ!」
ツッコミを入れている間に谷間を割ってイズの肉棒に甘さが香るローションがかけられた。ヌルヌル滑るのを利用しながら肉棒を上下に動かされると、唇に先端が付いては離れる。いつもより甘いソレに舌を伸ばし“チロリ”と舐めた。
「っ……見ろよ、アズ。ヒナがエロいぜ」
「お前の背中に穴を開けねば見えないが……挿入したら、どんな顔になるだろうな」
「フィー……!」
バロンとアウィンが片方ずつ持った脚が広げられ、愛液を零す秘部が露になる。すぐにズブリと良く知っているモノが挿入(はい)ってくると、横にあったスティの肉棒を咥え、ベルの肉棒を手で握った。
「あっ……ヒナさん」
「尽くさねばならないのは私達なのに……可愛いですね、っん」
突然のことに驚いた二人だったが、口と手で愛撫する私に嬉しそうな笑みを零すと『もっと』と催促する。言われるがまま動きを速くする私に、谷間の肉棒を動かすイズも、膣内を攻めるフィーラの動きも速くなってきた。
「ヒナっ……出す……ぜ」
「俺も……だ」
「んんっ……んっ!」
「っあ、ヒナさん……強すぎ」
「こっちが先に……イきそうです……ねっ」
「ん゛ん゛んんっ!!!」
四人の声と共に私の世界も一瞬真っ白になった。
息を荒げる視界は朧気だが、顔にベットリしたモノが付いているのはわかる。口内にも同じモノが射出され、ごっきゅんと呑み込むと苦いし、甘い匂いもしない。でも、ローションより好きだ。
手や顔に付いたのを舐めていると、見ていた四人は頬を赤める。
「ヒナさん……エロい」
「まったくだ……」
「早くもイけそうですね」
「んじゃ、早速イれるなりっだ!」
「はいはい、黒王退けって」
「うっわ、ホントにエロくなったね~」
腹に乗っていたイズをアウィンが無理やり退かすと、バロンに上体を起こされる。変わらず微笑んでいるが、何かを含んでいるようで首を傾げると、口付けられた。
「んっ、ふ……」
「ん……今の仕草……可愛かったよ」
「ヤってる時、限定だよな」
「あっ!」
背中を押され両手をバロンの膝に付けると、突き出した尻を押さえるアウィンが挿入した。イったばかりで痛みはないが、支えていた手の上にローションをかけられ不安定になり、ぎゅっと膣内を締める。
「バカっ……急に動くな!」
「バロンに言えっ……!」
かけた犯人を睨むが、滑る手を取られると大きく勃った彼の肉棒に添えられた。見下ろす金色の瞳に恐怖ではないものが駆け上り、また膣内を締める。
「おまっ……!」
「あれれ~今~何で感じたのかな~?」
「な、なんでもな……っん」
表情だけで、など言えるはずはなく、上体を屈めると谷間にバロンの肉棒を挟む。そのまま飛び出している先端に吸い付くとローションの甘い味。だが腰を動かすアウィンに身体は揺れ、バロンのが遠退く。
「ほらほら、頑張ってヒナタちゃん」
「な……なぜ…私が……ホワイトデーはどこ……いった」
「いやだな~……僕はホワイトデーするとは言ってないよ。残念でした」
「っ!」
妖しい瞳を見せながら頬を撫でる手にコンニャローの目を送ったが、効果などありはしない。逆に後ろ頭を押さえられ、肉棒を咥えさせられる。
「ヒューゲ……」
「いつも通り……っだよ」
「ンンっん!」
「そーかよっ……!」
水音を鳴らすアウィンの腰が速くなる。
口内も今では甘いのか苦いのかわからず目を閉じると、アウィンの呻きが上がり、膣内に噴出される。同時に口から肉棒が離されるが、先端から白液が飛び出し、顔射された。
「っあん」
「ん……エロさが上がったね」
「ヒューゲ、すっげー悪い顔してっわ!」
「エジェ様……邪魔……」
「お助けしましょうね」
息を荒げながら呆れていたアウィンをスティが退かすと、ベルの胸板に背が落ちた。太く無骨な手に白液を拭き取られ、冷たい舌が胸の先端を舐めては噛み付く。
「ああっ!」
「こら、ウサギ。今日はヒナタさんを甘やかさないといけないのに、痛くしてどうするんですか」
「だって……ヒナさんから匂う甘いのが……美味しそうなんだもん」
「確かにナカも甘そうですよね」
険悪モードかと思えば頷き合い、ベルに腰を持たれると膝立ちになる。
同じようにスティも膝立ちになると私を抱きしめ頬ずり。嬉しい私も頬ずりを返すが、段々と下腹部から刺激が伝わってくる。しかも前と後ろから。視線を落とすとベルも膝立ちし、二本の肉棒が……挿入った。
「あああんっっ!」
「ああっ……挿入ってすぐ大きくなるとは……甘い蜜に感化されたんでしょうか」
「んっ……いっぱい……甘くする……イズ様」
「ほいよー」
「っ!」
イズが私にローションをかける。桶ごと頭から。
一人だけ大雨にでも遭ったように、ズブ濡れという名のヌルヌルになると全員が沈黙。その中で唯一笑っているイズを睨むと、フィーラが代わりに叩いてくれた。
「勿体無いんだから別にいいだろ!」
「自分が被れ!!!」
「困りました、ヌルヌルし過ぎて挿入出来ません」
「殺す……!」
「黒王に頼むからだろ」
「ヒーちゃんの~顔も~元通りに~なっちゃったね~~」
ムッスリ顔の私に旦那達は溜め息を零すと、イズを湯船に放り投げたフィーラがやってくる。膝を折った男は私の顎を持ち上げると口付けた。
「んっ……」
「すまないな……あのバカが」
ローションではない甘さと優しさが混じった口付けに両手を首に回すと、肩に顔を埋めたフィーラは首筋を、耳朶を舐め囁く。
「安心しろ……すべてを舐め取って……キミに快楽という名の刺激をプレゼントしてやる」
「……え」
耳を疑うように瞬きするが、フィーラの言葉に囲っていた四人は互いを見合わせ、ニッコリ笑顔。それはキラキラ光るほどカッコイイが、寒気しかしない。ゴクリと喉を鳴らすと、懸命に口を開いた。
「お、お手柔らかあああぁぁぁあーーーーっっ!!!!」
他国に構わず甲高い声が響き渡る。
だがそれは悲鳴ではなく、旦那達によってもたらされた歓喜の声。金平糖の色が違うように、彼らの愛撫方法は違う。だが、身も心も溶かされるのは同じだ。
そんな甘く甘く溶かされ、静かに眠った私は、大切な友に挨拶することなく帰国した。ユフィ、今度二人だけで旅行しような……────。