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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*お仕事見学

*『』は子供達一斉の声

 私の旦那は六人。
 二人は騎士団長、一人は相談役、一人は役所員、一人は宰相、一人は国王と重鎮揃い。街を歩けば誰もが振り向くほどの有名人(一人を除く)。性格も優しいヤツ、意地悪なヤツ、心配性なヤツ、可愛いヤツ、ドSなヤツ、変態と様々。

 色々と問題はあるが尽きない愛を貰い、授かった子供は十人。
 親に似て手を煩わせる子が多いが、成長というのはあっと言う間。気付けば上は十一歳、下は生後八ヶ月と大きくなり、アサヒ、キョウカ、アンナは騎士学校、セツとヒュウガは一般学校へ入学した。まだ未就学児のルルは旦那の実家、スズナはチェリーさんのところで見てもらっているが、育児休暇中の今は私とナズナと一緒だ。
 ナツキとイヅキはどの街にも属さないため、ジェビィさんと魔王のレッスン。中々のスパルタらしいぞ。

 

 そんな子供達に母親として提案した。
 名付けて『お父さんの仕事を見てみよう』。

 

 国の重鎮である旦那達の仕事は子供達にとっても良い刺激になるだろうし、私同様、どんな仕事をしているのか詳しくは知らない。ならば見てみようと休日の今日、企画したのだ。
 

 もちろん、旦那達には内緒でな!

 


* * *

 


「そうか、それで朝早くから」
「うむ、早朝と共にはじまるのが貴様だからな。驚いただろ?」
「ああ、驚いた。本当に。だからこそ言わせてもらおう──何を考えている?」

 

 ドスの効いた声に私の笑顔は引き攣り、年少組を除いた子供達も目を逸らした。背後ではナズナをあやす副団長が見守っている。

 

 目先で腕を組んで立つのは赤髪の男。
 ルベライト騎士団長であり旦那であるフィーラの赤の瞳は窓から射し込む太陽よりも燃えている。熱血とかではなく怒りで。

 

 まあ、当然か。毎朝荒野を駆けてアーポアクに出勤する団体魔物を退治するのが彼のはじまり。それを見るため、ナズナをシュレアに頼み、全員のお腹に命綱を括り付けて魔王にお願いしたのだ。影で『天命の壁』まで上りたいと。
 旗棒にしがみ付き、背後から呼んだ時のフィーラの振り向き顔は驚きを通り越して絶句。面白かった。

 

「何が面白かっただ! 心臓が停まるかと思ったぞ!! しかも命綱と言いながら普通のローブ!!!」
「文句は父上にお願いします」
「ああ、あれバロンのだったのか。道理でフィット感があると思った」
「父様、母と弟の代わりに、おわびします」

 

 眉間に皺を寄せるフィーラになぜかアサヒが頭を下げ、私とヒュウガは互いを見合う。双子が手を挙げた。

 

「で、フィーラは普段何してんだ?」
「魔物退治だけじゃ、父さんより働いてないわよ?」
「ヤツと一緒にしないでもらおう。まず、この時期の起床は朝の四時半。朝食を摂って五時に騎舎へ向かい、打ち合わせ。討伐後、午前の書類と街の案件を片付け、稽古。十一時に昼食を摂り、街の見回り……なんだ?」

 

 永遠と語られる日程に肩を竦めていたせいか、フィーラは片眉を上げる。子供達も呆れた様子で口を開いた。

 

「オ、オー兄より……すごいですです」
「さすが、過労死NO1……」
「やしゅんでる~?」
「母ちゃん、ここは一発なぐるべきじゃない?」
「すーず、とくい!」
「うむ、任せろ!」

 

 口々に述べられる感想に返事をすると、フィーラの元へ足を進める。迫る私に怒っていた男は困惑を見せ、後退りした。

 

「こらっ、騎士とあろう者が逃げるのか!?」
「殴る……もとい、ハリセンを受ける理由がない。キミに言われた分の休みは取っている」
「ほう、それは残念」

 

 ハリセンの範囲を熟知している旦那に感心するが、背が壁に付くと同時に手を伸ばす。ハリセンではない、退路を塞ぐように両手で彼の横壁を叩く逆壁ドンだ。
 目を見開くフィーラの胸板に上体を預けると、意地の悪い笑みを向ける。

 

「約束を守るのは結構だが、子供に心配かけてる時点でダメな父親だぞ」
「……努力しているつもりではあるが、子供優先なのは妬ける。それにしても珍しく積極的だな」
「うむ、攻められてばかりはダメだと思ってな。驚いただろ」

 

 ちょっと勝ち誇った顔の私にフィーラは暫し間を置く。と、視線を別に移し、私に戻すとゆっくりと顔を近付け、額と額をくっつけた。目先には赤い瞳しかなく、捕われたかのような錯覚に陥る。

 

「ならば、そのまま口付けてもらおうか?」
「え……」

 

 艶やかな唇から発せられた声と炎が宿る瞳に、火照りだした顔を慌てて離す。と、股間に入った片足に足を払われた。突然のことに重心が傾くが、大きな腕が腰を抱き、反転するかのように背が壁に付く。顔の横には壁を付く手、目先には端正な顔を近付けるフィーラ。まさに壁ドン!
 顔を赤める私に、口角が上げられる。

 

「驚かすだけじゃダメだな。その先をしてもらわないと逆に食べられるぞ」
「う、うるさ……」
「おおーっ、フィーラかっけぇ! 俺もやる!! ナツ姉!!!」
「いや、私がしようか。ナツキ」
「は……きゃ!」

 

 イヅキの楽しそうな声、アサヒの意地悪そうな声、ナツキの悲鳴に視線を向けると、フィーラがやった方法でアサヒがナツキに壁ドン。続くようにイヅキがキョウカに壁ドン。セツがアンナに壁ドン。ヒュウガがルルに壁ドン。スズナがナズナに副団長ドン。ドンドン祭り!?
 とんでもない光景に副団長と二人困惑していると、振り向いたフィーラが注意する。

 

「お前達、するなら好きな者にだけだ。あと、優しくな」
「も、もっともだが違……ん!」

 

 どもる私に口付けが落ちた。
 熱い舌が舌に絡みつき、抵抗力が落ちる。スカートを捲くし上げた手がタイツ越しに脚を撫でると、察したように副団長が口を開いた。

 

「みなさん、団長が休憩に入られたので私が騎舎をご案内しますね」
『はーい!』

 

 元気な返事と共に男子組の悲鳴が聞こえたのは、女子組に蹴られたのだろう。ウチの女子はたくましいと成長を喜ぶように頷いていたが、耳元にかかる吐息に思考が目先の男に戻る。

 

「母親(キミ)に似たのなら、今のように攻められた時が心配だな。特に女子組は」
「男子組の悲鳴を聞いただろ。あの子達は好きな人以外に触れられたら構わず殴るさ」
「奇怪なのはキミだけでいいんだが……」
「奇怪な妻で悪かったな」
「そう……ん」

 

 溜め息をつく唇を唇で塞いだ。
 だがすぐ離し、赤の目を丸くする男に笑う。と、フィーラもくすりと笑い、瞼に、頬に、赤の宝石が光るチョーカーに口付けた。くすぐったい赤髪に顔を埋めると首筋に舌が這い、長い指がショーツの隙間を通って秘部を擦る。

 

「ぁんっ……」
「奇怪千万なヒナタでなければ主人にも妻にもしなかったさ。いまさら文句は言わない」
「うむ……私も仕事バカでも、家庭では優しい旦那で父親のフィーラが好きだぞ」

 

 屈託のない笑みを向けると、頬を赤く染めたフィーラは『光栄だ』と恥ずかしそうに口付けた。私で疲れを癒すように、朝から快楽を与えるように──。

 

 その間に書いた子供達の感想。
 フィーラお父さんのお仕事は国を護る立派な騎士です。お母さんを朝から真っ赤にさせるすごいお父さん。おいたをすぎると怖い。

 


* * * 

 


「おや、みなさん。いつからそこに?」

 

 城の地下一階、書庫。
 昔以上に所狭しと並べられた本棚の一角で本を読む旦那ベル。ナズナを除き、ぐるりと自身を囲んで座る私達にいつもの笑顔が向けられるが、今はその笑みが最高に憎い。ハリセンを握る手をアサヒに止められる。

 

「母様、これ以上の暴力はいけません!」
「アンナ殿も落ち着いてください」
「何時間待ったと思ってんの!?」
「二時間ぐらい普通……」
「ですです」
「パパ~早かった~」
「さすが、慣れた子らだわ」
「おい、スズ。口ジッパー、もういいぜ」
「あい!」

 

 口を結んでいたスズナは元気に手を挙げると青ウサギでベルを叩く。いつもなら怒る私もよくやったと頭を撫でるが、ベルはなんともない様子で首を傾げた。

 

「もしかして、私が気付くのを待っていらしたんですか?」
「正解!!!」

 

 収まらない怒りが声として響く。
 いつもなら本を落として気付かせるのだが、内緒の仕事見学だったため本を読んでても邪魔をしないと子供達と約束した。が、私がダメだった。短気+主婦的に時は金なり。
 威嚇する私に、主旨を聞いたベルは本棚から背を離し、座ったまま両手を伸ばす。抱きしめられた。

 

「妻や恋人の機嫌が悪い時は抱きしめ落ち着かせるのがいいですよ」
「ほう、一向に落ち着かんな」
「ヒナタさんの熱は冷め難いですからね。さて」

 

 顔を伏せたまま胸板を叩く不機嫌な私に、ベルは笑いながら指を鳴らす。と、地面に置かれていた本が風で浮き、子供達の手に積み重なった。一番多いセツで十冊、少ないスズナでニ冊。

 

「私の仕事は主に城の結界と北の相談役ですが、この書庫の整理担当もしています。せっかくなので読み終わった本を直すお手伝いをしてください」
『えー、自分のでしょー』
「もちろん、その手にある本を一番早く元の場所に直してきてくださった方には私が叶えられる範囲で願いを聞いてあげますよ」

 

 その言葉に全員猛ダッシュ。
 各々に白い鳩がつくのは、ちゃんと所定の場所に戻したか確認するためだと思うが、果たして終わるのだろうか。人を見つけるだけでも苦労する書庫で。

  
「というか、あいつらは何を願いたいんだ?」
「さあ。ヒナタさんも何かあるならします?」

 

 翡翠のイヤリングに口付けたベルは手元にあった一冊の本を差し出す。私は暫し考えるが、笑みを浮かべると受け取った。

 

「いいだろ。私が一位だったら、一週間貴様は読書禁止だ!」
「おっと、活字中毒者には痛い願いですね。これなら私の後ろ本棚の本など渡さねば良かったです」
「なんだんっ!?」

 

 ヒントに顔を上げたが、すかさず口付けられた。
 後ろ頭も固定され、唇を舐められると抵抗することなく口を開く。薄っすらと開いた瞼の先には優しい翡翠の瞳。だが、その後ろの本棚に一冊分のスペースを見つけると口を離し、立ち上がった。

 

「一位はもらった!」
「愛よりも願いを優先されるのは悲しいですね。あと、大人げないです」
「誰のせいだ。それより肩を貸してくれ」

 

 空いたスペースは三メートルほど上にあるのだが、書庫に梯子はない。私以外は飛べるからだ。
 苦笑しながら立ち上がったベルは後ろから私を持ち上げ、肩に乗せる。本を持った手を伸ばすが、もうちょっとのところで届かない。靴を脱ぎ捨てた私は肩の上で立ち上がろうとするが、大きな両腕に掴まれた。バランスが崩れ、慌ててベルの頭を抱きこむ。

 

「ちょ、急に危ないだろ!」
「妨害は有でしょ。それに、勝負事になると危険も伴わない行動を取るのはやめていただかないと、子供達が真似しますからね」
「み、見られてないから大丈夫だ!」

 

 辺りを見渡し誰もいないことを確認するが、見下ろした男の微笑に少し寒気がした。するとスカートの中に手が入り込み、素足を撫でられる。

 

「あっ……こら!」
「見られてないならいいんですよね? それにしても、タイツもスパッツも履いてないとは珍しい。ピンクにリボンとフリルの付いた下着が丸見えですよ」
「み、見るなぁ……!」

 

 フィーラとヤった際にショーツは変えたが、タイツは面倒で脱いだまま。後悔するようにスカートを捲くし上げる手を本で叩くが、跳ね退けられ、床に落としてしまった。
 私を持ち上げたまま背を本棚に押しつけるベルは、気にする様子もなくショーツ越しに秘部を撫でる。

 

「ちょちょちょ! 読書好きが本を粗末に扱うな!!」
「何を仰います、ヒナタさんに勝るものなどありませんよ」
「……さっきは私より本を取ったくせに」

 

 頬を膨らせると、ベルはくすくす笑いながら片脚を持ち上げ、股に顔を埋めた。舌先でショーツを舐める。

 

「あっ……」
「途中から気付いてましたよ。でも、今と同じように不貞腐れる顔が可愛くて黙ってました」
「ほう……ん、意地悪か」
「はい。意地悪して意地悪して、気持ち良くして許してもらおうと」

 

 顔を上げた男は変わらない笑みを向けた。
 すべてが許されるかのような笑みと眼差しに腹が立つが、身体はその先を期待しているように疼く。私は震える指先で舐められたショーツを擦ると、隙間を開き、秘部の割れ目をさらけ出す。目を丸くするベルに命令した。

 

「こ、子供達が来るまで……私の機嫌を治せよ」

 

 そっぽを向くと、ベルは笑いながら『承知』の返事と共に秘部を舐めだす。合図のように零れだす愛液に私は喘ぎを押し殺し、ベルはその姿を楽しそうに見ながら吸い付いては舐め、大きな楔を打った。その双眸は優しく、意地悪だ──。

 

 そして、一人も帰って来なかった子供達の感想。
 ベルお父さんのお仕事はお城と書庫を護る番人です。お母さんを気持ち良くさせる方法もたくさん知っている知識豊富なお父さん。でも、習ってないトルリット語で書かれた本を渡すのはひどいと思う。しかも姿を消す結界も張って。


 

* * * 

 


 ズルをしていたベルにハリセンをお見舞いすると、痛い腰を支えながらエレベーターで一階へ向かう。扉が開いたホールには堂々と大の字で寝転がる男がいた。

 

「「あー! 父さんだーー!!」」
「なんだ、帰ってたのか。イズ」
「よ~、お揃いで何やってるなり?」

 

 双子が喜ぶように駆け出すと、数週間振りに見るイズが上体を起こす。
 ルルとスズナもはしゃいでいるように、意外と子供達には人気らしい。アサヒは敵視ピンピンだが。そんなアーポアク国王であり旦那でもあるイズは趣旨を聞くと影に潜り、後ろから私を抱きしめた。当然、胸を揉まれる。

 

「っあ……!」
「いいか~、まずは緊張を解すように揉んで、一気に快感を与えるように先端を摘まむ。揉んでる時、先端は触らないように~」
「変態講座するな! っん!!」

 

 服越しでも先端を探し当てられ、摘まれると声を上げてしまった。顔を赤くする私に、青ウサギを抱きしめるスズナがニッコリ笑顔。

 

「はーはは、ちーちのゆびがすきー」
「いえ、父様の接吻です」
「ええ~、父ちゃんの舌じゃないの?」
「パパの声……」
「今まさに父さんの攻撃が一番!」
「縛ってもなんでも攻撃すれば母上はよろこぶと思います」
「や~ん、以外と見られてんのね~。恥ずかし~い」

 

 とんでもない会話に眩暈がする。
 ナツキとキョウカも呆れているように、夜の営みについて考えねばならんな、本気で。イズを睨むと不満そうな顔をされたが、すぐ意地悪な笑みに変わる。

 

「んじゃ、世界王として大国情報を教えてやろうかね」
「なぜ、自国ではないんだ」
「自国は自分で見て考えるためにあるもんだ、必要ねぇよ」

 

 どこか“王”を思わせる笑みに目を丸くすると、イズは指を鳴らす。影が私達を覆った。
 慣れない暗闇に身体が震えるが、抱きしめる腕の強さと温かさに恐怖は一瞬だけ。世界が開けると同時に大きな風を受ける。目先には銀の竜と十字架が描かれた旗が揺れ、私達は空に浮いていた。ここは。

 

「東大国トルリット。火山活動が活発な分、温泉もぼこぼこ沸いててリゾート地にもなってるなり」

 

 抱きしめるイズの説明に、外国をはじめて見る子供達は物珍しそうにトルリットを見下ろしている。胸を揉み続けられているのは気のせいだろうか。

 

「守護するは南十字騎士団(スタヴロス・トゥ・ノトゥ)。今のところ平和だな」
「うむ、ユフィが頑張っ……!」

 頑張り屋な女王に頬が緩むが、抱きしめていた片手が服の中に入り、片手は下腹部を撫でる。文句を言う前にまた影に覆われてしまい、声に詰まった。次に出てきた場所は七色の竜と薔薇の国旗が揺れる場所。

 

「西大国フルオライト。多種多様の花々と、世界で唯一の薔薇を生産する花大国なり」

 

 ルベライトのような植物や花が溢れる街に、年少組は飛んできた花弁を掴もうとする。私はナマ乳を掴まれた。

 

「守護するはアルコイリス騎士団。ただいま陰謀に巻き込まれ中~」
「は、今なんっ!」

 

 聞き返そうとするも、胸を揉みながらスカートの中に手を入れ、取り替えたばかりのショーツを下ろされる。文句よりも恥ずかしさが勝ってしまい、また影に覆われた。次に出てきた場所は灼熱の太陽と砂漠が広がる場所。
 だが、金の竜と四葉のクローバーの国旗が揺れる場には緑と水がある。

 

「南大国ユナカイト。砂漠に包まれながら水源に恵まれ、オアシスにもなってるなり」

 

 『天命の壁』のように大樹が城代わりなのか、窓が嵌めこまれ、人々が行き交っている。古代都市のような街には水路も通り、とても綺麗だ。美しい光景に子供達と感動するが、胸の先端を引っ張られると同時に指が秘部に入り、感動が吹っ飛ぶ。

 

「守護するはバルセィーム騎士団。訪れると幸せになれるってジンクスがあるせいか、ハネムーンに人気だな」
「ハ、ハネムーン……っあ」

 

 メイド服を思い出すが、口付けられると影が覆う。
 さすがに文句を言ってやろうと次の場所に出ると同時に口を開いた。が、猛吹雪という寒さに口は閉じ、子供達もコートを着る雪街組に抱きつく。私もイズを抱きしめたまま見下ろすと、吹雪の中で大きく揺れる青緑の竜と歯車の国旗が薄っすら見えた。

 

「北大国セレスタイト。極寒の山々に囲まれ、絶壁の砦を持ち合わせた要塞都市。まあ、文明は進んでる方かね」

 

 私を抱き上げるイズは首筋に口付けながら話すが、赤の瞳は鋭かった。
 確かに他国とは違い、鉄など金属らしい物が見えるが吹雪でよく見えない。なんだか不気味だな。

 

「守護するはヴェリェーミア騎士団。内戦中だから、さっさと離脱するぞ」
「な、内戦……っ!?」

 

 耳を疑い顔を上げたが、口付けられると影に覆われる。
 薄暗い中、子供達がはしゃいでる声が聞こえるが、私は秘部に入れられた二本の指を上下に動かされ、必死に声を堪えていた。暗い中でされるなど恐怖が沸くが、知っている腕と指、口付けに沸くのは快楽。耳朶を舐めながらイズは楽しそうに囁く。

 

「あーあ、子供が見てないとこでお母さんがはしたないぐらい濡らしてる」
「だ、誰のせい……っ」
「淫乱な奥様のせいだろ。大きなモノ、やろうか?」
「ちょ、こんなとこで挿入は……!」
「や~ん、俺は指四本予定してたのに、ヒナったら何を想像したなり?」

 

 勘違いに顔を真っ赤にすると、イズはニヤニヤしながら指を増やす。音が響きだす中、青空が戻った場所はよく知る黒竜の旗が揺れるアーポアク。ナツキが振り向く。

 

「父さん、パイライトは?」
「そっちは今度連れてってやるよ。つーわけで、お勉強おっしまーーい!」
『え……うわあーーーーー!!!』

 

 大きく振り下ろしたイズの手に、風に乗った子供達が両窓が開いた宰相室に投げこまれた。平静を装っていた私の顔は真っ青。

 

「ななななんてことするんだ!」
「ちゃんと影で防御してるって。日常にはちょっとした刺激があるぐらいが丁度いいんだぜ」
「ちょっとじゃないだろ! っあ!!」

 

 叱っていると上着を捲られ、露になった乳房の谷間にイズは顔を埋める。そして秘部を弄っていた手を抜く代わりに大きなモノが宛がわれた。だが、ここはまだ城の上空。

 

「イ、イズ……」
「ヒナには特別良い刺激をやるぜ。見つかるかもしれない、落とした愛液が知らない誰かに舐められるかもしれない羞恥って刺激を」
「い、いら……あ、ああっ……!」

 

 構うことなく挿入されるモノに背が弓形になる。
 その背を支えながらイズは胸の先端をしゃぶり、腰を突き動かす。国と世界の頂点に立つ男に羞恥などありはせず、望むがまま、時に望みを叶えながら私を支配していった──。

 

 その間に書いた子供達の感想。
 イズお父さんは王様です。街の人は知らないみたいだけど、いろいろな魔法も持ってて世界で一番強い、おっぱい星人のお父さん。でも過激な遊びはおさえてほしい。腰打った。


 

* * * 

 


「もう~ノーパンで~いいんじゃ~ない~~?」
「うるさ……っ!」

 

 ズブリと入ってくるモノに身体が丸くなる。
 だが、子供達を前に不審な行動は出来ず、なんとか立ったまま堪えた。

 

 それを隣に座る男。宰相であり旦那であるバロンはくすくす笑いながら片手は判子を押し、片手はショーツを穿いていない私の秘部に入れた指を上下に動かす。
 足で椅子を蹴っていると、子供達が音(ね)をあげた。

「ああー、どの騎士団に回せばいいかわかんねーよ!」
「現れたら現れたで退治すればいいじゃない!」
「バカを言うな。魔物はお前達以上に珍妙な動きをするんだぞ」
「予想立てるの……難しい」

 

 宰相の仕事体験している年長組は頭を抱えていた。
 毎日毎日判子をポンポン押してるだけかと思われるバロンだが、ちゃんと内容判断していて、許可できない紙は避けたりしている。他にも魔物の出現予想を立てたり、連携をはじめた騎士団への指示を出したりと頭を使っていたらしい。それだけ聞くと偉かったとわかるが。

 

「セクハラは……どうかと思うぞ」
「僕は君の上司だよ?」
「パワハラか。しかし、残念。今の私は育児休暇中。よって上司の思い通りには……っ!」

 

 二本にされた上、動かすスピードも速くなる。睨むが、バロンは思い出したように言った。

 

「そうだ~ヒュウガくん~ヒーちゃん用の~縄~返して~~」
「私専用!?」
「うん~太くは~ないけど~頑丈な~拘束縄~~」
「父上、捕まえるなんて器用なことできたんですか」
「失礼な~僕~元~騎士団長~だよ~~」

 

 指を抜いたバロンは微笑むヒュウガから縄を受け取る。その隙に子供達の元へ走るが、足を引っ掛けられた。縄で。

 

「うわっ!」

 

 突然のことに態勢を崩し、受身を取ろうとしたがすぐ腰に縄が回ると引っ張られる。操作されるがまま、後退する足と身体は座る男の膝へと落ちた。驚いている間に両手が後ろで縛られ、拍手が送られる。

 

「しゅご~い!」
「ヒーちゃん~みたいに~逃げ足が~速い子は~足引っ掛けが~いいよね~~」
「さすが、あざとさ一位だね!」

 

 元気なアンナの声にバロンの眉がピクリと動くと、口元に弧が描かれた。

 

「……それ、アウィンが言ったのかな?」
「きゃー! しゃっきー!!」

 

 静かな声と放たれたものに、スズナ以外が固まった。
 背筋にゾクリと重いものが圧し掛かった私も背後を見る。微笑みながらも眼鏡の奥で金色の双眸を覗かせる男を。

 

 恐らくアンナの発言に怒ったのではない。ただ放出しただけの殺気。
 子供達にも伝わっているのか、ナツキ、イヅキ、アサヒは構え、抱き合うキョウカ、ルル、アンナの前をセツが遮る。ヒュウガは同じ金色の瞳を細めているが、冷や汗をかいているようにも見えた。感覚が麻痺しているスズナだけは駆け回り、目を伏せたバロンはくすくす笑う。

 

「ごめん~ごめん~久々に出すと~ダメだね~驚かしたお詫びに~お茶でも~淹れようかな~~」

 

 笑いながら手首の拘束を解いたバロンは立ち上がると給湯室へ向かう。
 安堵の息をつく子供達を横目に、旦那を追い駆ける。水晶に手を付け、お湯を沸かすバロンがいた。

 

「ジュース組のは私が用意するぞ」
「ああ~お願い~僕~ヒュウガくん~以外と~あまり~会わないから~わからなくてさ~~」

 

 いつもの呑気な声。横から見ても変わらない笑み。
 だが“夫婦”となった今では違和感があり、ジュース瓶を置くと頬を抓ってやった。

 

「っだだ~何~~?」
「貴様がやったことと同じだ」

 

 流し台に背を預け、腕を組む私にバロンは目を丸くした。
 すぐに苦笑が返されると水晶に手を付けたまま私の髪に口付けを落とす。頬にミントグリーンの髪が掛かりながら口付けが耳朶に、頬に落ち、腰を抱かれた。胸板に寄り掛かる。

 

「……遊び半分ってわけじゃないよ。情報部隊だって戦う時はあるし、騙すのも仕事だしさ」
「人と魔物とでは違うだろうに……不器用な父親だな」
「なんとでも」

 

 互いに笑っていると唇が近くなり、躊躇うことなく唇を重ねた。
 口内に入り込んだ舌に舌を絡ませると、水音を鳴らしながら速度を速める。腰を持ち上げられ流し台の上に座らされると、スカートを捲くし上げられた。

 覆う物がない秘部からは愛液が零れるが、バロンは触れようとはせず、上着を上げる。ブラから乳房を掬い出すと舌先で一度舐め、置いていたジュース瓶を開けた。
 甘く冷たいジュースが乳房にかけられる。

 

「ああっ……!」
「下にかけると思った? 残念、かけてあげないよ」

 

 くすくすと、いつもの意地の悪い笑みを零しながらジュースの付いた乳房にしゃぶりつかれる。決して愛液を零す秘部に触れることはせず、ひたすら乳房だけ。

 

「ああぁっ、バロ……ン」
「あーあ……こんなに零して……でもダメだよ。そう簡単に僕がお願いを聞くわけないのは……よく知ってるだろ?」
「あぁあ、んふ……あ……!」

 

 懇願は届かず、乳房から零れたジュースが下腹部まで落ちると愛液と交ざる。
 彼の指先が少しだけ秘部に触れただけで、媚薬が塗られているかのように身体は大きく跳ねた。それを楽しそうに見ながら、甘い甘い匂いと声と刺激を与える男は私の限界まで貫くことはなかった──。

 

 その間の子供達の感想。
 バロンお父さんのお仕事は国をまとめる宰相です。いつもたくさんの紙と遊んでるように見えて、実は全部読んでる頭の良いお父さん。でも、怒らせると一番怖い気がする……それにしてもお茶が遅い。

 


* * *


 

「ヒューゲと離婚するならこの用紙に書いて、判子ポンな」

 

 机に突っ伏す私に、向かいに座る旦那アウィンはヒラリと離婚届を見せる。彼の仕事が役所(ここ)の相談兼戸籍係だからだが、覗き見る子供達から隠すとハリセンで頭を叩いた。

 

「っだ!」
「子供の前で出すな! っだ!!」
「貴様もだ」

 

 代わるように私も叩かれた。
 頭を押さえたまま顔を上げると、眼鏡を光らせ、分厚い本を持つ義兄。

 

「何をする、手羽先!」
「テヴァメットスだ。そして、館内でのハリセンは禁止になっている」
「そんなのな……ん?」

 

 眉を顰める私に、アウィンがなんともいえない顔で『お客様へのご案内』の紙を見せる。注意事項によると①館内はお静かに、②飲食は所定の場所で、③ハリセン禁止……。

 

(なんだこれ! 前までなかっただろ!?)
「①に引っ掛からないようにするのが、おめーの美点だよな。そういうとこ、好きだぜ」
(ありがとう!!!)

 

 褒めるアウィンの頭を撫でると手羽先を睨むが、ドヤ顔を見せつけられ、ピシリと背景にヒビが入る。そんな私達にニヤニヤ顔の双子が手を挙げた。

 

「アウィン父さんのとこに婚姻届け出す人もくるんでしょ?」
「ならさ、母さんと手羽兄をお客さんに見立てて接客見せてくれよ!」
「「「はあ!?」」」

 

 とんでもない提案に三人ハモる。
 いやいや、客に見立てるって私と手羽先にカップルをやれと言うのか!? い、嫌だ!!!

 

「やるなら離婚にきた夫婦だ! こいつときたら罵声は飛ばすし叩くし私を欠片も愛してないんだぞ!?  慰謝料ふんだくってやる!!!」
「それはこちらの台詞だ! こんな上から目線と叩き癖と浮気癖のある女など二度と御免だな!! 判子で切れるものならば精々する!!!」
「ノリノリでなりきってんじゃねーよ!!!」

 

 ツッコミの声と同時に私と手羽先は頭を叩かれた。
 苛立つように椅子に足を組んだアウィンの後ろに年長組が並び、アサヒが口を開く。

 

「では、お二人はなぜ結婚を望むのですか?」
「マジで進めんのかよ。しかも結婚で」

 

 アウィンのツッコミに構わず、座り直した私と手羽先は互いを見た。一息つくと婚姻届を出しにきたカップルになりきる。

 

「そうだな、いわゆる親同士が決めた相手というやつだ。会ったのも今日がはじめて、そのまま届けを出してこいと言われた」
「親の権力に屈した哀れな大人だ」
「中途半端に設定作っておきながら生々しいよ。ヒュウガ、何か言ってやれ」
「そうですね、では互いのどこを治せば愛せると思いますか?」
「「口の悪さと叩くとこ」」
「それ治ったらお前らじゃねーよ! 別人だよ!!」
「では……夜の愛し方はどんな感じで?」
「年上だし食指が動かんな」
「そもそもタイプじゃない」
「もう帰れよ! お前らみたいなの一番迷惑!! つーか、結婚とかダメに決まってんだろ!!!」

 

 堪忍袋の緒が切れたのか、声を荒げたアウィンに両手を捕まれる。
 そのままつられるように立つと、真っ直ぐな紫の瞳を向けられた。動悸が高鳴る私に、アウィンは大きく口を開く。

 

「オレと結婚してくれ!」
「もうしてるぞ」

 

 アッサリと返答した私に、アウィンは顔を真っ赤にしたまま脱力した。周りからは『ガンバレ!』と、小さな応援がかかる。と、顔を伏せたアウィンから呟きのような声。

 

「そ、そりゃ……もう結婚してるけど……やっぱ……好きなヤツには……何度も言いたいっていうか……ヒナタはオレのっつー……ん!」

 

 気付けば彼の頬を両手で包み、顔を上げさせると口付けていた。黄色い悲鳴が聞こえても、隣で溜め息をつく男がいても、ニコニコする子供達がいても構わない。
 唇を離すと、目を見開く男に微笑んだ。

 

「うむ、私も大好きだぞ。アウィン」
「…………あんがと」

 

 そっぽを向く可愛い旦那を撫でる私に、回りは安堵したように拍手を送り、手羽先が立ち上がる。

 

「まったく、くだらん仕事をさせおって。続きは閉館後にでもしろ」
「おわるまで~あと~ごふん」
「もうちょっとー!」
「手羽兄やっさしいじゃん!」

 

 年少組に絡まれながらも邪険にはしない義兄に私は苦笑し、アウィンは呆れる。だが、互いの顔は手首に巻かれたハチマキのような色をし、閉館と同時にたくさんの言葉と刺激を贈り、贈られた──。

 

 そして子供達の感想。
 アウィンお父さんのお仕事はカップルを夫婦にさせ、終わらせる街の役員です。そのしゅんかんを見た時はハラハラドキドキ。あと、意外にも所長さんが優しくて、今度棒チキンをあげようと思う。

 


* * * 


 

 時刻は夜の六時になり、夜空には月が現れる。
 同じ紋が施された騎舎に入って早々、着物の私は呆れ、目先で団服を着た男は目を丸くした。

 

「ヒナさ……ん!?」
「スティ……仕事する気ないだろ」
「さぼりだー!」

 

 スズナの元気な声に団長室の一角に作られた畳で寝転がっていた旦那。ラズライト騎士団長スティは慌てて起き上がると正座した。その顔は困惑。

 

「え? え? ど、どうしたんですか……来るなら……呼んでくれれば……」
「来られたら困るから呼ばなかった」
「え!?」
「ヒナっちー、『捨てられた』とか勘違いされたわよー」

 

 笑顔の私にスティの頭に稲妻が落ちた気がすると、茶を運んできたサティが口を挟む。
 いつもなら『青の扉』に入ってすぐ呼ぶのだが、今日はお忍びのため子供達も騎舎までお喋り禁止。ちょっとでも私の声がすると耳の良いスティは聞こえるからな。空気が読めているナズナも泣かなかったし、驚かし成功。

 

 改めて説明すると、スティは私の腕で両手を伸ばすナズナを代わるように抱き上げる。娘の濃藍の髪を指先で払いながら安堵のような息をついた。

 

「ビックリした……あんまり心臓に悪いことしないでください……」

 

 心配性だなあと苦笑するが、藍色の瞳が本気だったため、それ以上は言えず沈黙。すると双子が手を挙げた。

 

「スティ父さんは、ウチの父さんと同じメラナイトよね?」
「どんな仕事してんだ?」
「どんなって……普通にイズ様にとって……不都合な人を殺……消す仕事」

 

 言い直したスティに親指を立てる。
 裏で暗躍するメラナイト騎士団。正直続けてもらいたくはないが、最近は情報をまとめるだけで暗殺まではしてないと聞くし、大丈夫でありたい。頷く私に構わず質疑応答が続く。

 

「王様みたいに外国へは行かれないんですか?」
「行くよ……でも長くて三日ぐらい……あまり空けたら……ヒナさん切れで死んじゃう」
「パ~パといっしょだ~」
「殺すよ?」
「スティパパ……本気でナイフ出さないで」
「メラナイトのお給料ってどうなってるんですか?」
「内容による……機密なら一回で百とか……小さいのならチョコ一個とか……」
「母ちゃん以外と寝たりするの!?」
「ヒナさん以外に興味ないから……さっさと攻めて口割らせて終わり」
「攻めるってどうやるですです?」
「ごーご!」

 

 不吉な質問の回答を求めるように私へと一斉に向けられる視線。
 それは楽しそうだが寒気しかなく、後退りする。だが、両肩、両袖、裾にナイフが貫通し、一瞬で壁に縫いつけられた。顔を青褪める私とは反対に子供達は拍手。片腕にナズナを抱く旦那は笑顔。

 

「ちょちょちょ、スティ! 危ないことをするな!!」
「指導してるだけです……相手の隙をついて……動きを止めるのが……一番大事」

 

 ゆっくりとした足取りでやってくる靴音がなぜか恐い。必死に身じろぐがナイフは抜けず、立ち止まった男に頬を撫でられる。ビクリと動いていた身体は止まり、顔を上げた先にはナズナの額に口付けるスティ。
 その瞳は優しいはずなのに細く、唇を離すと私に顔を寄せ、耳元で囁いた。

 

「つーかまえた……」
「っ!?」

 

 官能な声はゾクリと下腹部まで落ちる。
 だが私は腰を抜かすのではなく、勢いよく足が上がった。平然と片手で受け止めたスティは口角を上げ、私は我に返る。

 

「あ……すま、んっ!」

 

 謝る唇を唇で塞いだスティは颯爽と現れたサティにナズナを預ける。
 そのまま彼女は子供達と一緒に部屋を出て行った。静かになった団長室では吐息が漏れ、上がっていた足を下ろされる。

 

「ん……いけない人……身体検査しなきゃ」
「し、身体検査って……私は何も……あ」

 

 口付けを受けているとヘアゴムを外され、床に捨てられる。下ろされた髪に口付けが落ちた。

 

「ハリセンと……あと何……持ってるの?」
「な、何も……あ、ちょ!?」

 

 私の所持している物など知っているだろうに、スティはナイフを一本抜くと帯を切る。着崩れた着物が開かれ、露になるのは肌着を付けていない乳房と藍色のネックレス。そして、ショーツ。
 ネックレスに口付けながらショーツもナイフで切るスティに焦る。

 

「ス、スティ! 私は何も隠してない!! ないだろ!!?」
「ダーメ……まだココにあるかもしれない」
「こ、ここって……!?」

 

 既に露になった秘部に、ナイフの柄部分が宛てがわれる。冷たさに声を上げるが、指とも大きなモノとも違う異物がナカへと入ってきた。

 

「あ゛ぁっ……スティ……っやめ」
「ダーメ……」

 

 制止を掛けてもスティは胸の先端を舐めながら異物を、柄を入れる手を止めない。藍色の瞳は細いままで、怒っているのがわかった。恐らく呼ばなかったことと、足を上げたことだろ。
 目尻に溜まる雫をスティは舐める。

 

「ヒナさん……どうしたの?」

 

 優しい声が聞こえる。ナカに入っていた物も進みを止め、暖かな手が頬を撫でると、私は口を開いた。

 

「……触るのも……ナカも……スティのがいい」

 

 涙目ながらも頬を膨らませる私にスティは目を丸くする。だがすぐに、はにかんだ笑みを向けると頬擦りした。

 

「ヒナさん我儘……全然痛いって……思ってない……」
「痛いぞ。冷たい目を向けるスティに胸が痛い」
「ん……じゃあ……責任取る」

 

 既に五人分の刺激を受けた身体は麻痺しているが、向けられる瞳に胸は痛んでいた。服を貫いていたナイフは抜かれたが、ナカのを入れたまま抱き上げたスティは畳へと押し倒す。ナイフを抜くと指を挿し込まれ、愛液が零れた。

 

「いっぱい出てきた……柄じゃ全然出てこなかったのに」
「ん……スティの指……好き……っああ!」
「全部って言ってくれなきゃ……ダーメ」

 

 速度が上がる指と、首筋に噛みつき舐める舌。そして愛を囁き、口付ける唇に与えられる痛みは快楽へと変わる──。

 

 その間に書いた子供達の感想。
 スティお父さんのお仕事はフィーラお父さんと同じ騎士団長。夜専門の騎士様で、ねらったものは逃がさない、すばやい攻撃が得意。でも短気なので、あまりイタズラはしないようにしよう。

 


* * *

 


 時刻は十時。
 私を中心に、床に敷かれた何組もの布団には寝巻きに着替えた子供達が横になっている。ここは城の二十階と三十階の間にイズが無理やり創った『子供部屋』。

 

 お風呂と手洗い場以外は壁や仕切りもない繋がった部屋で、遊ぶ場所、寝室、リビングキッチンと大まかに分けている。出産後で毎日家を変えるわけにはいかないため、育児休暇中はここで寝起きしているのだ。
 既にルル、スズナ、ナズナは夢の中で、髪を撫でながら残りの七人に今日のことを訊ねる。メモを見ていたアサヒが父親と同じ赤の瞳を向けた。

 

「父様以外のお仕事ははじめてだったので勉強になりました」
「本に……書かれたものだけじゃなかった」
「つーか、ちゃんと仕事してたんだなー」
「父上もなんだかんだで真面目でしたしね」
「イズ父さんなんて一瞬で他国だもん」
「あたしは父ちゃんやベル父ちゃんが騎士してたころも見たかったな」
「どのパパも仕事中はちがう顔でカッコ良かったですです。ベルパパは変わらずですです」

 

 笑いながら今日を思い出す我が子達に私も嬉しくなる。
 アクロアイトで書類を届けたりはするが、受け取る時の旦那達の顔は私に向ける表情で、仕事の表情ではない。いつもとは少し違う表情は胸の奥から沸くものがあった。
 そんな私に、なんとも言えない顔が向けられる。

 

「でも、やっぱ母さんが行くとデレデレ父さん達だったな」
「むしろ、母さんがデレデレ」
「母様、割り切りすぎです」
「誰が……一番好きなの?」
「はい、おやすみー!」

 

 居た堪れなさに布団を被せると、きゃーきゃー楽しそうに騒ぐ声。
 覗かせた顔は笑顔だ。

「母ちゃん、はぐらかした!」
「ですです!」
「別に構いませんけど、あまり恥ずかしいことはひかえてくださいね。母上」
「……努力する」

 

 頬を赤める私に、笑う子供達の声はどこか旦那達が意地悪をする時に似ていた。そんな子供達一人ずつに口付けると灯りを消す。
 すべての灯りを消すと訪れるのは暗闇。恐怖すべき暗闇。だが、悪戯大好き男のおかげか、天井には塗料で光る星屑がポツポツと広がる。それを愛すべき輝石達に囲まれ見ることが出来るのは幸福なことだ。

 

 当然、輝石以上に彼らがいてくれれば幸福はそれ以上。
 でも大丈夫。目覚める頃には大人げない旦那達が輝石達を端に寄せ、私の身体を抱きしめ寝ているだろうから寂しくない。また忙しい日々を送る彼らの寝顔を最初に見て、私もまた一日をはじめるのだ。同じ日などない、明日を。

 

 まあ、途中で起こされ、犯されては台無しもんだがな。
 コンチクショー共め────。

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