異世界を駆ける
姉御
番外編*傍にあるぬくもり
*人気投票1位の彼との話
「あれ?」
城の一階ホールで両手を広げる私は目をパチクリ。
午前中は昨夜の痛みがあるせいか、次の旦那の所へ行くのは昼前。そして今日は身につけている向日葵色の生地に、白の三日月とウサギの刺繍が施された着物をプレゼントしてくれた旦那──スティの日。だが、その姿がない。
いつも迎えに来てくれるし、自分曜日でなくともホールでお座りしてて跳びついてくるのだが……いない。習慣で抱き留めポーズを取っていたのに、オンリーワンの空振りは虚しいぞ。寝坊したか?
* * *
『宝遊郭』の五階に上がり、襖を開くと、習慣のように抱き留める。
跳びついてきたのは青ウサギを抱いたスズナ。
「はーは!」
「うむ。今日も元気だな、スズ。その調子で悪さしなかったか?」
「今週は障子が十二枚と床に穴が三箇所と窓ガラスが六枚と客に青ウサギ五発どすな」
「申し訳ありません!」
土下座すると、スズナも真似っこするように頭を下げる。
ロングソファに座り、解いた菫色の髪を流す楼閣主チェリーさんは笑うが、怒気は含まれていない。頭を上げるとスズナと向き合う。
「スズ、お世話になる家で迷惑をかけてはならぬと言っているだろ。あと、人様を叩いていいのは誰かを助ける時だけだ」
「あい、ごめんしゃい。あやまるのでマグロどんどんつくってくだしゃい」
「下手に出てもダーメ。マグロは飽きたから母はブリが食べたい。ブリの照り焼き」
「ダーメ……?」
「ダーメ」
「ちょっとでも……ダーメ?」
「ちょっとでもダー……どこかでしたやり取りだな」
「あっははは! まんまカレ坊と同じやないですか」
十年経っても変わらない美貌主の笑いに、スズナは不満そうに頬を膨らませると寝転がった。
そうか、物を投げるのも不満そうにゴロゴロ転がりはじめるのも『ダーメ』もスティの癖か。特に口癖は私もうつっている。
頬を赤めたまま転がるスズナのお腹を撫でると、チェリーさんに訊ねた。
「スティ、奥にいますか?」
「昨晩、仕事前にスズ坊を預けにきたっきりですよ。てっきりヒナ嬢と一緒に迎え来るん思うてましたけど……会(お)うとらんのですか?」
垂れた瑠璃の瞳をパチパチさせる彼女に熱かった頬は冷め、スズナを抱き上げるとカーテンが連なる奥の襖を開く。家にいなかったから遊郭で寝ているかと思ったが、隅に畳まれた布団とクッションがあるだけで誰もいない。
丸窓から明るい陽が覗いているというのに、静けさに肩を落とす。
「水盤……用意しましょか?」
気遣うように立ち上がったチェリーさんに首を横に振った。
水に向かって呼べばラズライト騎士団は、スティは気付いて来てくれる。だが今日は来てくれなかった。いつも数秒で水飛沫を散らし、満面蒼昊(笑顔)で来てくれるのに。
そんな寂しさを隠すかのようにスズナを抱きしめた。
* * *
「じゃあ、外に出てるわね」
「外?」
遊郭から騎舎へ場所を移した私は、サティからホットミルクを受け取り一口飲む。椅子に腰を掛けたサティもカップに口を付けると、海側の窓に目を向けた。
「壁の外……つまり海に出てたら範囲外なのよ。さすがに届かないわ。じゃなきゃヒナっち主義のアイツが呼んで来ないなんてあり得ないじゃない」
大きな溜め息をつくサティに数度瞬きすると考える。
外……つまり国外に出て仕事をしているということだろうか。私の日は『休業』の看板を掲げているが、イズの命令なら行くだろうし……手こずってて帰れないとか?
「それはないわ。昨日は魔物現れなくて死んだ魚のような目で書類してたもん。裏もなかったわよね、リンロン」
サティの問いと目はスズナを肩車し、両頬を引っ張られているミッパに向けられる。容赦ないスズナの引っ張り攻撃にミッパは涙目で答えた。
「は、はい! 特に何もったた!! でも昨夜は誰も外に出てないってだだだ!!!」
「どうせ影を使ったんでしょ。出る時は誰かに言ってけって言ってんのに聞かないんだもん」
「無事だといいんだが……」
沈む私の声にサティとミッパは顔を見合わせる。
年下といってもラズライト騎士団団長、メラナイト騎士団副団長。その実力は確かかもしれないが危険な仕事も多い。特にスティは血だらけになっても気にせず笑って……色々と感覚がおかしくて肝を冷やす。
手に持つホットミルクが波を打つように揺れているのは私が震えている証拠。心配しすぎるのもどうかと思うが、スティが一度も顔を見せないなどはじめてで不安が広がる。
なんでいない?
どこにいる?
無事なのか?
わからない状況ほど怖くなる気持ちと早まる動悸にぎゅっと瞼を閉じる。想い浮かべるのは──。
「はーは!」
呼び声に我に返ると、藍色の瞳が下から覗き込んでいた。
常闇の色に見間違いそうになるが、髪は海の深い青。心配そうな顔をする輝石(スズナ)に苦笑を漏らした。
「スズ……ミッパが死にそうだぞ」
「あい?」
「ぐがががががが!!!」
ミッパの首に両足を絡ませ逆さを向くスズナ。まるで絞首刑。まるでスティ。
物静かの中に無邪気さと刃のように冷たい顔を持つスティのコロコロ変わる色は、十年経った今もなぜ変わるかはわからない。でも、どの顔でも囁かれるのは『愛』だけ。年下に関係なく、男として旦那として快楽の海に溺れさせる。
でも、溺れているのは私だけのような気がする。
たくさんの言葉と刺激をスティはくれるのに、私は与えられ酔いしれるだけで返せていない。考えるほど寂しくて大好きなのに。
「……会いたい」
「はーは?」
立ち上がると、ミッパからスズナの足を外し、抱きしめる。
スズナの背に顔を埋める私をサティと息を整えるミッパが見つめるが、構わず呟いた。
「スティに……会いたい」
返したい。私も好きだと、大好きだと伝えたいのに……いない。いつも傍にあるぬくもりがない。輝石のぬくもりとは違う、ただ一人だけのぬくもりが。
目尻に雫が溜まりだすと、サティとミッパが慌てふためいた。
「ちょちょちょ、シッカリしてよヒナっち! リ、リンロン、大至急ラズライトとメラナイト総動員してあのバカ捜すわよ!! ブッ飛ばしてやるわ!!!」
「は、はいっぶ!」
「はーはをなかせるなー!!!」
大慌ての二人の顔面にスズナの青ウサギ攻撃が炸裂。その音に涙を引っ込めると、ウサギを振り回す息子を止める。
「こらっ、スズ! 人を叩いてはならんと」
「はーはをたすけてるからいいの! ちーちが、はーはをなかすヤツはまっさつしろっていったもん!! だからころすの!!!」
「ヌイグルミに殺されるなんてシャレになんないわよ! ていうか三歳児に何教えてんのあのバカ!! やっぱブッ「殺す……」
割って入った地を這うような低く冷たい声にスズナ以外の肩が跳ねる。
同時に透明な水が私の背後で集まると、一メートル半以上の魚が勢いよくサティとミッパの顔面に直撃した。倒れ込んだ二人の腹でビチビチ跳ねる魚に呆然とするが、地に足を着く音に振り向く。
水飛沫を散らしながら現れたのは満面蒼昊などない、鋭い藍色の双眸を向ける──スティ。
団服も蒼昊の青髪も酷く濡れているが、水滴を床に落としながら私を通り過ぎ、上体を起こす二人に黒い切っ先を向けた。その刃に怯みながらもサティは声を上げる。
「ちょっとカレっち! アンタ今までどこ行ってたのよ!! この魚も何よ!!!」
「うるさい……喋ったら殺す……動いたら殺す……止まっても殺す」
「どうしろと!!?」
「ヒナさんを泣かすヤツは死ね」
「「それはアンタだアンタ!!!」」
「スティ!!!」
二人のツッコミに構わず刀を振り上げるスティを後ろから抱きしめる。竜と満月を背負うマントも身体も濡れていて冷たいが、知っているぬくもりだ。嬉しさからか、抱きしめる腕が強くなる。
「ヒナ……さん?」
背に顔を埋めていると頭上から良く知る声が落ち、顔を上げる。真上には刀を下ろし、鋭かった瞳を丸くしたスティ。
「あれ……なんでヒナさんが……まだ朝……ですよね?」
「「「は?」」」
我に返ったかのように濡れた前髪を上げる旦那の言葉に私、サティ、ミッパは素っ頓狂な声を上げる。そんな私の胸とスティの背に挟まっていたスズナが顔を出すと窓を指した。
「ちーち、もうすぐばんごはん。こんやはマグロどんどん」
「ボク……それ飽きた……だからブリ獲って……晩御飯?」
「ちょっ、アンタまさか今までブリ獲りしてたの!? ていうか太陽と夕日を間違えてんじゃないでしょうね!!?」
「え……」
ビチビチ跳ねる魚をミッパに渡したサティの声に、スティは丸くした目をパチパチ。そのままゆっくりと窓の外を見ると数秒停止。恐る恐る私を見る。
「ヒ、ヒナさん……もしかして……」
「うむ、私よりブリ獲りに夢中だったのだな……スティ」
微笑を浮かべる私にスティは顔面蒼白。大慌てで刀を手の平ウサギに戻すと、私の肩を掴んだ。
「ちちちち違います! ヒナさんが先週ブリ食べたいって言ってたから!! でもどれがブリなのかわからなくて時間かかって!!!」
「そうかそうか、私を喜ばせようとしたのか。しかし残念、あれはカンパチだ」
「ええええぇぇーーっ!!?」
聞いたこともない悲鳴にサティ他、遠巻きに見ていた団員も顔を青褪め、ビチビチ跳ねるカンパチを見る。ブリとは違う金色の皮が光っているな。
そして崩れ去るように身体を丸めたスティを地面に下りたスズナが青ウサギで叩く。
「ちーち、どーじ」
「魚はもういい……それより……貴重なヒナさんの日に……遅れるなんて……はじめてだ……怒られる」
頭から下までびしょ濡れだから。ではなく、ショックで全身が震えているようだ。
まさか時間を忘れるほどブリ探ししていたとは思わなかったが、無事だったことに安堵の息をつくと、嬉しさが込み上げてくる。先週ボヤいていたことも、遅れたのがはじめてなのも覚えてくれていた。今日が貴重だとも。
高鳴る動悸に足が動き、丸まった彼を後ろから抱きしめると濡れた髪を撫でる。
「ありがとう、スティ。カンパチなんて高級魚、滅多に食べられないぞ」
「嬉しくないです……ヒナさんが望んだものじゃないし……お迎え……行けなかった……ヒナさん……怒ってる」
「怒ってたら撫でたりしない。でも……そうだな、ひとつお願いを聞いてもらおうか」
「お願い……?」
振り向いたスティは眉を落としているが、はにかんだ笑みを向ける私に目を大きく見開いた。その隙に彼の後ろ頭を固定すると口付ける。
私から口付けることが少ないせいか、ピクリと跳ねた身体。唇を離すと予想通り硬直している。笑うと両肩で留められた青のマントを外し、耳元で囁いた。
「今夜は私にスティをいっぱい愛させてくれ」
心配かけた分、今までの分、抑えきれない分の愛をあげたい。
顔を赤くする男を、愛する旦那を、スティを──溺れさせたい。
~~~~*~~~~*~~~~*~~~~
人生で三回目の失態を犯した。
一回目は彼女がはじめてラズライトを訪れた日。二回目は彼女が国から去ってしまった日。そして、はじめて遅れてしまった今日。大切な妻、ヒナさんとの日に。
明日来るヒナさんに喜んでもらおうと外に出たけど、邪魔な魔物はいるし、魚はどれだかわからないし、魚の着ぐるみを着たイズ様が紛れてるし散々。しかも海中で息が出来るせいか、朝なのか夜なのかもわからなかった。
結果、喜んでもらうどころか心配をかけ、悲しませるとか最悪だ。これはヒナさん怒る。怒られる。嫌われる──そう思ってたのに。
「ちょ、ちょっと待っ……!」
「ダーメだ。いまさら恥ずかしがることはないだろ」
「い、いえ、恥ず……っ!」
殆ど使わない団長室の奥で、いつもとは反対の声が上がる。
スズをサスティス達に頼み、ヒナさんに引っ張られてきた場所はお風呂。息は出来ても潜ってたことに変わりはないボクが海水まみれだからだ。
湯煙が舞う浴室には樽型の浴槽がニ桶あり、ひとつはお湯、ひとつは水。ラズライトでは普通のお風呂。そんな浴槽には入らずボクは椅子に座り、後ろで膝を折るヒナさんに背中を洗われていた。いつもなら嬉しい。とっても嬉しい。でも今日は違う。
失態後に囁かれた『お願い』と、脱衣所で問答無用に脱がされたせいで困惑していた。
「前を洗うぞ」
「じ、自分で出来ます!」
「ダーメだ」
逃げようとしても力強く抱きしめられ硬直。
その隙に前へと移動したヒナさんは股間に座るが、タオルも巻いていない肌にはスポンジから零れた泡がついている。が、殆ど見えていた。
九人の子を産んだとは思えない身体は華奢で、白い肌には吸い付きたくなる。何より彼女の胸元には藍の宝石。顔が熱くなるボクの胸元にも黒の宝石が揺れ、手に取ったヒナさんはスポンジで胸板を洗いはじめる。
「スティも妙なところで恥ずかしがるな」
「いえ……っヒナさんが……!」
「私?」
スポンジを置いたヒナさんは両手をボクの首に回すと身体を密着させる。
胸板に柔らかい乳房と尖った先端が上下に肌を擦るだけで身体が跳ねた。いつも布団の上で抱きしめてる時は気にしないのに、明るいところで見るヒナさんの身体は十年経っても慣れない。
「スティ」
「は、はい……んっ!」
直視出来ず裏返った返事をすると口付けられる。
唇を覆い、隙間から舌が入ってくると絡ませようとするヒナさん。ヒナさんからしてくることは少ない。だから嬉しい。動悸が激しく鳴ってても舌を絡み返し、彼女の背に両手を回す。
「ダーメ……だ」
「え……」
唇を外されると両手を取られ、膝に置かれる。
却下にやっぱり怒ってるのではと汗をかくボクに構わず、ヒナさんは自分の乳房に泡を立てると身を屈めた。その先にあるのはまだ洗われていない肉棒。気付いた時には泡が立った乳房に挟まれていた。
「ヒ、ヒナさ……ん」
「言っただろ……今夜は愛させてくれって」
「あ、愛させて……って!」
肉棒を包む柔らかい乳房を上下に動かされる。
それがゆっくりなせいか余計に刺激が駆け上り、両手をヒナさんの肩に乗せた。顔を下げた先にはボクを見上げる黒の瞳。硬直してると小さく口付けられた。
「スティ……好きだ」
「はいっ!?」
「なんだ、疑っているのか?」
顔を赤め、頬を膨らませるヒナさんにボクは戸惑う。
う、疑ってるわけじゃないけど、ヒナさんは素直じゃないからキスと同じで中々言ってくれない言葉だ。特に邪魔な男が五人もいると『好き』も『愛してる』も本当かわからない。不安が……ある。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、胸の動きを止めたヒナさんは指先で肉棒の先端をつつく。
「そりゃ……他の男とも結婚した私が言うとウソっぽいが」
「やっ、あの……っ」
「ちゃんと好きだと……愛していると伝えるには言葉と行動……両方が必要だろ?」
谷間から突き出ていた肉棒の先端を舌先で舐められる。
息を漏らすボクを見上げるヒナさんは少し意地悪な声だけど頬は赤い。九つも年上なのに可愛く思えるのはボクがヒナさんしか見てないし、愛してないからだ。そんな彼女、妻の言葉と行動に困惑は消え、嬉しさだけが込み上げてくると耳元で囁いた。
「いっぱいいっぱい……愛してくれる……?」
「っん……くれた分、返すぞ」
「ボクの……重いですよ……六人の中で一番」
「でも一番……私に弱いだろ?」
同じように耳元で囁かれる声は甘い。そしてアタリだ。
誘われる声が罠だったとしてもヒナさんならいい。ボクを狂わせ夢中にさせるヒナさんになら何をされてもいい。それ全部がヒナさんの愛だと言うなら嬉しいことはない。十年経っても想いは変わらない……ボクはずっと。
「ヒナさん……大好き……愛してる」
「ん、私も好き……愛してる」
「“大好き”……じゃないの?」
「今日、きてくれなかったからな」
くすくす笑うヒナさんにバツが悪そうに顔を逸らすと、両手で向き直され口付けられる。手と同じように優しく包み、ボクの全部を満たしていく。でも、両手を回そうとすると止められた。
「ダーメだ。今夜は私がするんだ」
「そんな……っ!」
『おあずけ』に情けない声が出たが、また肉棒を胸で挟まれ上下に動かされる。
速いせいかさっき以上の刺激が上り、彼女の肩に顔を埋め、息を漏らす。それが耳元なせいかヒナさんは少しピクピク動き、感じているのがわかった。可愛い。
それがもっと見たくて首筋に歯を立てる。が、肉棒の先端をパクリと咥えられた。
「っあ!」
「んっ……ダーメだ」
先手を打たれ、顔が上がる。
口を離したヒナさんは桶に入れていたお湯で肉棒を挟んだまま泡を洗い流すと、今度は喉奥まで咥え込んだ。柔らかいものに包まれたまましゃぶられるのも気持ち良いけど、それをするヒナさんの姿にボクの気持ちは高ぶる。
「っん……大きくなって……どうした?」
「それ……聞いたらダーメです……よ」
「んあ!」
彼女の髪を撫でながら身元で囁くと潤んだ瞳が見えた。
それだけで肉棒が大きさを増すと、咥えたまま両手で上下に擦られる。口と手と違うリズムの刺激に我慢したくても、先走るように亀頭から白液が零れはじめた。けれどヒナさんが口を離し、舌先で舐める。
「ヒナさん……ヒドイ……思わせぶりな聞き方して」
「ん……口の中で……出すのはダーメだ……んっ……降りてくれ」
命令に従うように椅子から降りると、浴槽に背を預ける。
両膝を曲げるボクの股間に膝立ちしたヒナさんは両手を首に回すと口付けた。彼女の唾液とボクの精液が混ざった味を味わうように何度も舌と唾液を行き来させる。けれど、お腹の上にヒナさんが乗ったことでボクは止まった。
「ヒ、ヒナさん……?」
「口より……こっちで出したいだろ」
含み笑いを向けたまま、ヒナさんは片手で白液を垂らすボクの肉棒を握る。その真上には自身の秘部。
確かに出すならそっちが嬉しいけど、殆ど解してないから急に入れたら痛いと思う。
そんなボクの考えとは反対に、ヒナさんは握った肉棒を秘部に宛がった。先端が擦れるとピクリとボクの身体は動くが、お湯とは違うヌメリのようなものに気付く。目を見開いた先には頬を赤め、目を逸らしているヒナさん。
意地の悪い笑みを作ると、頬と頬をくっつけた。
「ヒナさん……いつから……濡れてたんですか?」
「さ、さあな……」
「もしかして、自分が早く入れてもらいたっあ!」
図星を突いてしまったのか首筋に噛みつかれ、先端が濡れた秘部に入り込むと一瞬で思考が飛ぶ。
でも一気に貫くことはせず、噛んだ箇所を舐め、鎖骨を舐め、胸板を舐められる。小さな刺激に焦らされている感があるが、彼女が下がるにつれ、肉棒も膣内へゆっくりと押し進んでいった。
「あ……あぁ……ヒナさん……」
「んっ……ああ……スティ……もうあ……っんんん!!!」
「あ、ああぁっ!」
必死に我慢していたのか、一気に腰を下ろされ、肉棒が奥を突く。
知らない内に愛液を零していたとしてもやっぱり彼女のナカはいつもより狭い。でも、両手をボクの首に回したヒナさんは上下に腰を動かし、押し広げようとする。
「ヒナ……さ……ん…っあ、ああ」
「んっ……スティ……好きっ……スティああぁんっ!」
官能をくすぐる声にボクのモノが早く早くと唱え『ダーメ』と言われた両手を腰に回すと激しく前後に揺らす。増す水音と愛液、喘ぎを聞きながらが瞼を閉じた。
「っ!」
声にならない気持ち良さに白液が噴き出すと、真っ白になる世界でヒナさんが声を上げるのが聞こえた。朧げで見た先には、いつもの凛とした姿などないヒナさん。絶頂を迎える時の彼女はどんな時よりも可愛いくて、ボクの欲情を刺激する。
「ん……ヒナさん……もっと」
ねだるように息を荒げる彼女に口付ける。
もっといっぱい満たしてほしい。もっといっぱい囁いてほしい。もっといっぱい乱れてほしい。そんなボクの口付けに応えるように舌を絡ませたヒナさんは唇を離し、はにかん。
「ん、続きは布団でな。もうダーメだろ……スティが」
「……よく、ご存知で」
瞬間、ヒナさんの胸元に頭が落ちる。
柔らかい弾力を感じるよりも先に、頭が茹でダコのように煙を上げ、ボクは目を回した。ただでさえ長時間のお風呂は苦手なのに、達した上にヒナさんのはにかんだ笑みなんて反則だ……死ぬ。
*
*
*
──本当に死ぬかもしれない。
行灯が照らす団長室の寝室は畳。
布団が敷かれた上で、空色の着物のボクはお風呂に入ったのに汗をかいていた。張り付いた着物を今すぐ脱ぎたい。
「ダーメ……だ」
制止の声と一緒に両手がシーツに縫い付けられる。
真上には笑みを向けるヒナさん。だが、白の生地に黒ウサギの刺繍が施された着物を身につけた彼女はボクに跨っていた。しかも開けた着物からは片方の乳房が露になり、ショーツを脱いだ秘部を肉棒に宛がっては離している。
「っあ、ヒナさ……ん……入れてくださいよ」
「そう私が言って……あ……スティは入れて……くれたか?」
「いつの……仕返しですか……ぅあ」
過去ボクがしてきたようなイジワルで寸止めするヒナさんは上体を屈め、黒のペンダントに口付けを落とす。そのまま自身の帯を解くと、隠れていた乳房もお臍も下腹部もすべてが露になった。凝視するボクに構わずヒナさんは脱いだ着物を放り投げる。
お風呂場とは違い、薄暗い行灯だけで見る彼女の身体。
汗と藍のネックレスがいっそう光って見えるのは夜目のボクが悪いのか。ともかく入浴後にスイッチが戻ったのがダメだった。まだヒナさんの攻めに対応出来ない。裸体も見れない。両手で顔を覆いたい。部屋を真っ暗にしたい。反転してもらいたい。
そんな葛藤に震えていると、ヒナさんはボクの両手を握ったまま顔を近付けた。
「スティ、跨られるの嫌いか?」
「今……嫌いになりました……だから代わりましょう」
「ダーメだ」
くすくす笑うヒナさんは頬、耳朶、首筋、鎖骨、胸板と順に口付けては汗を舐め取る。くすぐったさと胸板を擦る乳房に身じろぐが、手の甲を叩かれ停止。その間にボクの帯を解き、襟を捲ったヒナさんは乳首やお臍を舐めながら下腹部へと下りていく。
そして、膨らんでいるものに到達すると手で捏ねだした。
「っあ、ヒナさ……ん」
「んっ……硬くなってるな……解してやる」
そう言いながら、なぜか後ろ向き四つん這いで跨り直したヒナさん。
そんな彼女の愛液を垂らす秘部が目の前にあるが……これ、舐めても触ってもダメですよね。そう考えるボクに振り向いたヒナさんは答えた。
「指一本なら許す」
「拷問っ!!!」
悲鳴を上げると肉棒に食いつかれる。
勢いよく吸いつく口と音に意識を持っていかれそうになるが、目先の秘部からトロリと出るモノ。喉を鳴らし、右手の中指だけで絡め取った愛液を舐める。それはヒナさんの味。唇とも胸とも違うヒナさんだけのモノ。
それだけで何かのスイッチが入ったように口元が弧を描き、中指で秘芽を押し込む。
「あ、あぁ……スティ」
「なーに、ヒナさん……」
ピクピクとお尻を揺らすヒナさんの口が肉棒から離れる。
ボクはヒナさんに弱い。とても弱い。自他共に認めるほど。だって大好きだから。愛してるから。だからこそ知ってる。ヒナさんがボクの指に弱いことを。
迷うこと無く指を膣内に入れ掻き回すと、声が上がる。
「んっ、あ、あぁぁ……スティ……やめ」
「ボク……約束守ってる……指……一本」
「んっ!」
ヒナさんは必死に肉棒を咥え、声を止めようとしている。
必死さと卑猥な音が鳴る度に腰を振る姿がすごく可愛い。抜いた指にはヒナさんの愛液がペットリとつき、残さないよう舐める。でも足りない。ちゃんと零れるものすべてを舐めたい。吸いたい。挿入したい。
高揚感に指を勢いよく挿し込むと、さっき以上のスピードで掻き混ぜた。ヒナさんはすぐに喘ぐ。
「ああぁぁ……ああ!」
「ん……いっぱい出てきた……ヒナさん……もっと」
「スティ……っあああ!」
一本だけでも気持ち良かったのか、また我慢していたのか、愛液が噴き出しボクの顔にかかった。
力を無くしたように倒れ込んだヒナさんは息を荒げたままボクを見ると目を見開く。その顔は真っ赤だが、気にすることなく顔についた愛液を手で拭き取るとヒナさんの腰を持ち、秘部に口付けた。
「ああぁ……スティ……今夜は私が」
「ダーメ……ボクにもいっぱい……愛させて……」
「これじゃ……あん……いつも通りっん」
「いいえ……気持ち良くしてくれた今夜の分を……返すだけです」
小さな笑みを向けると零れる愛液を舐める。
やっと触れた肌、やっと口を付けることが出来た秘部、やっと堪能できる愛液。狂おしいほどに欲しかったものに歓喜すると同時にムチャクチャにしたい衝動に駆られた。
秘芽を舐めながら膣内に指先を三本入れると、一本ずつ奥へと挿し込んでいく。
「あんっあ……あぁ……」
「ヒナさんも……ん、ボクの咥えて……愛して」
「んんっ……」
頷いたヒナさんは握った肉棒の先端と胸の先端を擦り合わせた。
ボクは息を漏らすが、その刺激を返すように三本の指を膣内で同時に動かす。ヒナさんは腰を振りながら肉棒に食いつき、的確にイいところを舐めては握った。
「うっあ……あ……ヒナさ……ん……気持ちイい」
「んっ……んっはあぁ……スティ……ナカ……入れていいか?」
「……いいよ……ヒナさんが先ね……」
咥えたまま振り向く彼女に意地悪な笑みを向けると指を抜く。
頬を赤めた彼女はゆっくりと身体をボクに向け跨ると肉棒を宛がう。背中を向けたまま挿入しても良かったのに、なんてことは言わない。恥ずかしがってる顔が可愛いから。
そんなことなど知らない彼女は肉棒を膣内に沈めていく。
「んっ、あ……ああああぁぁ!」
「あぁ……っ!」
滑るように入った肉棒は暖かい膣内を悦ぶように大きくなる。
それをさらに大きくするようにヒナさんが腰を振ると、乳房も大きく揺れた。その乳房を両手で掴むと弄るように揉み込む。
「ああっ……スティ……」
「揺らして……くれる刺激の……お返しっあ!」
「ああぁ……っぁ!」
乱れるヒナさんの胸の形を大きく変えていると膣内を締めつけられる。
その拍子に白液が噴き出し、ヒナさんは痙攣したかのようにビクンビクンと小刻みに動く。上体を起こしたボクは抱きしめると口付けた。
「はぁん……ん……スティああんっ!」
数度口付けを繰り返すと肩に顔を埋め、今日一度も吸いついていない首筋に口付け吸いつく。それこそ何箇所にも何箇所にも吸いつき、両手で乳房を寄せると尖った先端にも吸いついた。
「ん……ヒナさ……ん……大好き」
「スティ……私も……あっ!」
汗ばんだ着物を放り投げると、抱きしめたまま押し倒すようにシーツに沈む。
まだ繋がったままだから刺激も大きいが、ヒナさんが腕の中にいることが嬉しい。ずっと腕の中に閉じ込めていたい。傍にあるぬくもりを消したくない。失いたくない。奪われたくない。
愛しいからこそ考えてしまう想いはどんどん黒くなる……でも。
「ん……どうした……スティ」
額と額がくっつけられ、目が合う。
吸い込まれそうなほど綺麗な漆黒なのに、何も疑わない純粋無垢に映る瞳。そんな瞳にボクしか映っていないことがわかるとダメだった。
「……もっと……呼んで……ボクを」
「スティ……?」
「もっと……いっぱいいっぱい……」
「スティ……スティ……スティっああ!」
呼ばれる度に膨張する肉棒に腰を揺らして最奥を突く。
出したばかりの気持ち良さをまた与えたい。感じたい。そして喘ぎながら呼ばれたい。
「スティ……ああぁ……ス……ティ……んっあ」
多分ボクは『好き』『愛してる』と言われるより、呼んでもらうことが一番嬉しい。
数少ない“愛称(スティ)”を呼べる人。大切な人。底なんて見えない深い海に沈め溺れさせたい人。ボクすら溺れ沈めることが出来る人。
ただ一人の女性、愛する姫君、妻、ヒナさんに呼んでもらえることが何より嬉しくて、幸福を、愛してくれていると感じる。だからいっぱい呼んで。ボクの名を。いつでもどこでもどんな時でも。ボクも何度だって言うから。
「ヒナさん……大好き……愛してる……」
「スティ……──っっ!!!」
官能的な声はボクの耳をくすぐり全身を支配する。酔いしれる。
何度世界が真っ白になっても、また繰り返すように抱きしめ絶頂へと誘う。誘ってくれる。
十年経った今もこれからも手放すことはしない。ヒナさんはボクのもので、ボクはヒナさんのものだから。他が奪おうとするなら殺す。引き離そうとするなら殺す。邪魔するヤツはすべて殺す。もし、ヒナさんに嫌われることがあったら……──。
貫く腰を止めると汗にまみれ、潤んだ瞳で見上げるヒナさんが両手を伸ばす。その姿に口元で弧を描いたボクも手を伸ばすと抱きしめ口付けた。
その時は……──内緒。
翌朝、痛い腰で動けないヒナさんに頼まれハマチを獲ってきた。が。
「残念、これはブリだ。出世魚だから気を付けろって言っただろ」
「ええぇっ!? だってスズが小さいのがブリで、大きいのがハマチって!!!」
「はんたいだったー」
「スズ!!!」
「こら、自分で覚えてなかったことを人のせいにするな。それ以上スズを怒ったら嫌いになるからな」
結構簡単に『嫌い』と言うヒナさんに落ち込んだ。
ボクの弱点の中で一番効果ある言葉だったとしても酷い。やっぱりボクより子供が一番なのかと一ヶ月ほどは不貞腐れていた。サスティスもリロアンジェもチェリミュ様も呆れてたけど関係ない。
でも、それから少し後に満面の笑みで新しい命の報告をされ、黒いものも簡単に吹き飛ぶと、彼女にしか見せない笑みで抱きしめた。
ボクのすべてはヒナさんによって変わる。
今日も明日もこれからも────。
(ラズライトの未来も。byサスティス&リロアンジェ)