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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*もしも世界~赤騎士と影騎士攻略編~

もしも男達が18禁乙女ゲームのキャラだったら?

赤騎士フィーラと影騎士スティを画面越しに攻略する姉御をお届け。

※内容的に死亡・無理矢理などがありますので、ご注意ください

 金曜の夜。

 仕事の汗を流し、ビールを片手にノートパソコンの前に座ると、とある物を鞄から取り出す。パッケージに、キラキライケメン達のイラストが描かれた18禁PC乙女ゲーム──『異世界を制覇する姉御』。

「これ、本当に乙女ゲームか?」

 

 タイトルからして恋愛させる気がないことに眉を顰めるが、仕方なくディスクを入れる。
 あまりゲームはしないのだが、コスプレ大好き友人が『絶対ひななん向けだって!』と力説するものだから借りてしまった。私は美少女ゲームが良いのに……まあ、年下キャラもいるし良いか。

 

 ダウンロード中にビールを飲みながら説明書を読むと、異世界(アーポアク)に墜ちた主人公が騎士達と触れ合い、元の世界に還る道を捜すストーリーらしい。当然18禁と銘打っているのだから、アハンな情痴や残酷的なものもあり、背後注意、イヤホン推奨と書かれてある。
 一人暮らしだが、念には念をとイヤホンを用意した。

 

 攻略キャラは騎士の四人だが、聞いたところ隠しキャラもいるようだ。まあ、順当にキャラ紹介に載っている宰相と情報屋と言ったところか。
 ダウンロードが終了し起動させると、えらく豪勢なオープニングムービーに『これが美少女だったら……』と肩を落としながら[はじめから]をクリック。名前とニックネームは恥ずかしながら自分のを入れてイヤホンを装着すると、うっかりマンホールに墜ちたドジな主人公となってゲームをはじめた。

 

 同い年&姉御肌。親近感湧いても、私はマンホールなんぞに墜ちんぞ。

 


* * *

 


 時刻が0時を回った頃、携帯に『タキシード少年』の名を表示した着信を取る。

『もっしもーし、ひななん。ゲームの調子はどう?』
「ああ、笙子。丁度五つ目のENDを迎えたところだ」
『お、早かったじゃん』

 

 ゲームを貸してくれた友人、赤石 笙子は意外そうに笑う。
 登録名には『少年』とあるが、歴とした女性。某美少女戦士に出てくる仮面男の大ファンであり、レイヤー名にもしているのだ。ちなみに私は天王星、海王星に萌える。

『で、誰と迎えたの?』
「いや、誰とも迎えてない」
『は?』

 

 素っ頓狂な声に背中をベッドに預けると、ビールを飲みながら青空画像を見つめ、地の文を読んだ。[彼らを胸に私はまた歩き出す──現代(ここ)で。 fin]と。

『って、それ帰還ENDじゃん! 【現世の空で浮かべる異世界】!? 還ってきちゃったの!!?』
「だって還るのが目的だろ?」
『お・と・め・ゲームだって! 男と恋愛せずにどうすんの!! 制覇しなきゃ意味ないって!!!』

 帰還したのに怒られた。どうやら思い出と化してはいけないらしい。
 すっかり趣旨を忘れていた私は通話を終えると冷蔵庫からビールを何本か取り、再プレイ。またマンホールに墜ち、玉座で四人の騎士達に剣を向けられると[逃げる*逃げない]の選択肢が出てきた。今までは[逃げる]を選択したが、今度は[逃げない]を選択。

 

「あ、終わった」

 

 再プレイ後三分。[この暗い牢屋で太陽を拝むことはなかった──二度と。  fin]。
 強制的にタイトル画面に変わると、ENDリストに【マンホール下の牢獄】が追加されている。どうやらBADENDだったらしい。

 

「うむ、最初はやはり逃げねばならぬか」

 

 スルメっちょを咥えたまま再プレイ。
 今度は[逃げる]を選択し、廊下で宰相と出会い、説明を受け、実は国王だったイズに自室でセクハラを受け、翌日アクロアイトに所属。ここから自由行動が出来るようになり、キャラとの好感度やステータス上げをすることになる。

 そう、選択肢だけかと思いきや、体力、知力、速さ、心遣い、おしゃれ、運、お金と、自身のステータスを上げねばならぬらしい。一日に行動出来るのは朝・昼・夜の三回で、以下のコマンドが使える。

赤…ルベライトへ行く(心遣いアップ)
緑…ベルデライトへ行く(体力アップ)
青…ラズライトへ行く(おしゃれアップ)
茶…ドラバイトへ行く(速さアップ)
仕…宰相の所で仕事をする(知力アップ、お金が貰える)
書…書庫へ行く(知力アップ、キャラのプロフィールが見れる)
研…研究医療班へ行く(後半から可。ジェビィさんからステータスが上がる薬を買える)
買……お菓子や服などが購入出来る
休……次の時間まで寝る

 使えるコマンドは『買』を除いて一日一回。ちなみに運はジェビィさんの薬(高い)か、メインキャラと会えば上がる。特にイズと遭遇すれば倍。
 

 最初の内は金がないから仕事をしそうになるが、イベント発生時期があるため好感度上げも大事だ。数ヵ月後には魔王が現れ、一定の好感度がなければ騎士達に見捨てられる。【滅亡の災厄姫】というBADENDで。ふ、当に世界を滅ぼしてやったさ。

 他にも四騎士の好感度が一定で、忠誠と宝石を受け取ったまま[還らない]を選択すると【異世界を駆ける輝石】の、ノーマルEND。
 忠誠だけを受け、帰還前に玉座で宝石を受け取らず[還らない]を選択すると、国に残って貴族として生きていく【異世界の王族】の、貴族END。
 そしてハチマキ男と少年が魔王に襲撃された後、ジェビィさんに『研究医療班に入らない?』の誘いに乗ったら【帰還を夢見て】の研究者ENDになる。

 

 見事に恋愛以外を見てやったとも! 悲しいのは副団長達とのENDがなかったことだな!! せめて女子ENDが欲しかった!!!

「……文句を言っても仕方ないか」

 

 ビールを一気飲みすると、ひとまずキャラ紹介の最初にいる赤騎士から行ってみようと手を動かした。

 


*アズフィロラ攻略*


 ルベライト騎士団団長であり『四天貴族』当主でもある赤髪。
 出会った時から敵意なのを向けられるほど冷たく、攻略には難がありそうだ。だが一回目『赤』に入ったのが良かったのか、副団長から今日が赤髪の誕生日と聞き、夜にもう一度訪問。当然驚いた赤髪に怒られるが、今朝の騎士服とは違う正装姿には拝むしかない。しかも夜の庭園で口付けとか決まる男だ。

 

 その後はトントン拍子で進み、気付けば魔王が登場。
 屋上で赤髪=フィーラの『宝輝』が奪われるのを、数本目のビールを飲みながら鑑賞する。魔王と共に国を去る決意をした主人公に向かって、彼は血だらけの手を伸ばした。

 

[アズフィロラ:行く……な……]

 

 おおうっ、今までなかった台詞が出てくるとドキドキするな。しかも[振り向く*振り向かない]の選択肢。普通は振り向くかもしれんが、ここはカッコ良く背を向けたまま行くべきだろう。うむ。
 シリアスも乙女の欠片もなく後者を押すと、魔王と共に主人公は去って行った。

[アズフィロラ:ヒナターーーーーーーッッ!!!!]

 

 あ……なんか胸が痛い。すっごい良心が痛くなるのはなんでだろうな。選択肢、間違えたか?
 ロードし直そうかと一瞬考えるが、タイトル画面には戻らないため大丈夫だろうと、魔王城で魔物の実態を知る。そこに侵入者が現れるが、今まで四人だったのが今回は一人。炎を纏った火の鳥を従え、赤の髪と瞳を持つ男が佇んでいた。

[アズフィロラ:ヒナタを返してもらおうか]
[真っ直ぐ私を見据えるフィーラに私の動悸は高鳴り、涙が零れる顔を両手で覆った]

 私は恥ずかしさで顔を覆った。
 ただの台詞とはいえ、フィーラが言うとインパクトあるのはなんでだろうな。たまにヘタレになるが、典型的な王子様属性だぞ。イズよりよっぽど王族だ。

 そんなことを思っている間に正体を現したイズ&フィーラの斬撃が放たれる豪華なムービーが流れ、夢の中での会話が終わると七色の光に包まれた。光がやんだ先には、心配そうに顔を覗かせたフィーラのスチル。

[アズフィロラ:大丈夫か? あのバカに変なことされなかったか?]
[小さく顔を横に振ると、安堵の息をついたフィーラは優しく強く私を抱きしめる。その暖かさに私も抱き返すと、不意に上げた瞳が彼の瞳と重なる。けれど、すぐに逸らされた]
[ヒナタ:どうした?]
[アズフィロラ:すまない……こんな時に不謹慎だと思うが、今、すごくキスを……いや、それ以上のことをしたくてしょうがないんだ]

 ビールを吹き出しそうになり咽せる。
 咳き込んでいる間にくすくす笑う主人公から口付け、了承の意を告げると、ED曲が流れた。今までとは違い、フィーラの絵だけが流れるED。私は大きく頷いた。

「…………ラーメンでも作るか」

 立ち上がると、空の缶ビールを持ってキッチンに向かい、カップ麺にお湯を注ぐ。戻ってきた時には丁度曲も終わっていたが、立ったまま固まった。理由は白いベッドの上で裸体のまま組み敷くフィーラと主人公スチルが映し出されていたから。

[ヒナタ:んっ……フィーラんっ]
[フィーラ:ヒナタ、気持ち良いなら声を上げろ。それともワザと抑えて、好きなところを攻め立ててほしいのか?]
[くすくす笑いながら楔を抜いては挿し、当に知られた感じる部分を突かれると大きく身体が跳ねる。その気持ち良さに気付けば自分も腰を動かしていた]
[ヒナタ:あ……もっと……フィーラ……もっとんん!]
[アズフィロラ:仰せのままに、愛する姫君(アムール・プランセッス)]
[甘美な声と共に抱きしめられると、柔らかな口付けが落ちる。優しくすべてを包み込む愛と快楽を与えてくれるのは私だけの騎士──fin]

 タイトル画面に戻ると、リストに【炎帝の寵愛】が追加された。
 ラーメンを啜っているのに関係なく私の顔は真っ赤。みそ味を食べているのに甘く感じるのはなんでだろうな。石を投げてやりたい気分で笙子にメールを送ると、すぐに返事がきた。

『凄いね! 赤騎士様、全ステータス八十以上じゃないと進まなくて、あたし最後だったよ』

 意外な返事に驚きながら『ひななん、他のルート行く方が難しいかもね』に瞬きする。恋愛ゲーム初心者のせいか、ENDがひとつではないことをはじめて知った。

 

 笙子ヒントを頼りにステータスに差をつけたり、選択肢を反対に選びながら再プレイ。
 最初と違い、フィーラの対応が冷たいのが痛いが忠誠は誓ってくれた。が、自分が災厄の輝石で、死ぬ運命にあることを[話す*話さない]の選択肢で後者を選ぶと、フィーラが『宝輝』ごと魔王に壊(殺)された。

「…………マジか」

 強制的にタイトル画面に戻り、リストに追加された【墜ちた太陽】に呆然とする。
 さ、最近の恋愛ゲームはすごいな。いや、18禁だからかもしれんが、先ほどまでイチャイチャしていた男が死ぬって後味悪いぞ。ラーメン食べ終わってて良かった。

 カップ麺を片付け再プレイすると今度は[話す]を選択。

 ルベライトに魔王が現れるとイズも参戦するが、フィーラが二人を殺した。

「なんでそうなったーーーーーっっ!!!」

 黒い空の下、遺体の前で佇む男のスチルに叫びを上げると、同じように主人公が訊ねた。手に持つ剣にも服にも頬にも返り血を浴びたフィーラは答える。

[アズフィロラ:なぜ? こいつらがいなくなれば、すべてが収まる話だろ。元より、キミと楽しく話していたイヴァレリズは気に食わなかった]

 その返答にいつもよりイズと遭遇し、好感度があったことを思い出す。だが、それだけで殺すものか?
 ゴクリと息を呑む私のように、主人公も腰を抜かしたが、フィーラは優しく抱きしめた。

 

[アズフィロラ:大丈夫だ。王(イヴァレリズ)が死んでも『宝輝』と異世界人(ヒナタ)がいる限り世界は滅ばない。それにキミには俺がいる。生涯仕え、愛そう──我が王よ]
[ほくそ笑んだ唇が唇に重なる。それは今まで感じたことないほど冷たかった。けれど、太陽のような赤い瞳だけは変わらず、静かに瞼を閉じた私は涙を零した──fin]

 リストには【赤騎士だけの王】が追加されたが、開いた口が塞がらないまま笙子にメール。だが『今時フツーだよ』と、なんでもない様子にゲーム業界のすごさというか必死さを感じた。

 頭を切り替えようとビールを数本飲んで再プレイ。
 イズとの遭遇がさほどなかったおかげか順調に魔王と屋上で対峙し『宝輝』を奪われる。さて、立ち去る際に出てくる選択肢[振り向く]を押してみようか……怖いが。

 

 激しくなる動悸の中、意を決して押すと、フィーラは声を上げながら握りしめた剣で魔王を貫いた。同時に赤い閃光が走り『あ、ダメだった……』と私は内心思ったが、タイトル画面には戻らない。それどころか『研究医療班』に場所を移し、ジェビィさんが顔を覗かせた。

 

[ジェビィ:良かった、目を覚ましたのね]
[ヒナタ:私は……]
[ジェビィ:アズちゃんが黒いソレを刺したのは覚えてる? その時に彼の魔力が暴発して巻き込まれたのよ]
[ヒナタ:巻き……そうだ、フィーラは!?]
[慌ててベッドから起き上がった私の瞳が向かいのベッドに座る赤髪の男を映す。額と上体に包帯を巻き、白のシャツを着た男、フィーラを]
[ヒナタ:フィーラ、無事だったか!]
[ベッドから飛び出した私は無事を喜ぶように駆け寄るが、フィーラはなんの反応も示さない]
[ヒナタ:フィーラ……?]
[小さくなった呼び声に彼はゆっくりと振り向く。だが、赤の瞳は光を失ったかのように暗く、か細い声が聞こえた]
[アズフィロラ:キミは…………誰だ?]

 記憶喪失(そっち)になりやがったーーーーー!!!
 しかも『ヒナちゃんのことだけ覚えてないの』と、漫画のようなお約束展開。そんな彼を主人公はショックを受けながらも支え続けるが、記憶は戻らないまま【傍らで】というフィーラを静かに見守るENDを迎えた。
 タイトル画面のBGMを聞きながら俯いたまま肩を震わせると、眉を吊り上げる。

 

「くっそ、何が私の記憶だけがないだ! 絶対思い出せるルートあるだろ!! やってやる!!!」

 

 妙な気合いを入れると、ステータス調整をはじめる。
 さっきは知識、心遣い、おしゃれとか女性的部分が高かったからな、元祖体力重視で上げてみよう! Shiftキー押すと飛び出すハリセンを鍛え上げた肉体美で使ってやるぞ!! ふははは!!!


 もはや何をしているのかも分からなくなるが、気にしたら終わりだ。

 そんな目論見が叶ったのか、ハリセンをお見舞いせずとも話が続いた。
 

 団長休業中の彼を外に連れ出す主人公。

 最初の頃のように当然彼は嫌がったが、日が経つに連れて表情が柔らかくなっているのが分かる。屋敷の庭のベンチに座る二人は、月が顔を出す空を見上げた。

[アズフィロラ:まったく、毎日毎日キミも懲りないな]
[ヒナタ:奇っ怪な女、だろ?]
[意地悪く笑う私にフィーラは目を丸くするが、すぐ目を伏せると頷いた]
[アズフィロラ:ああ……とても奇っ怪だ。だが不思議と、キミと共にいることは嫌じゃない……なのに……すまない、やはり思い出せないんだ]
[膝の上で両手を組んだフィーラはどこか苦しそうに頭を下げた。そんな彼に私は寄りかかる]
[ヒナタ:悲観的になるのは貴様らしくない。貴様が……フィーラが一ミリでも思い出す気があるなら、主である私は努力を惜しまないさ]
[アズフィロラ:主……?]
[ヒナタ:ああ、フィーラは私に忠誠を誓ってくれた騎士だ。だから離れることはしないしできない]
[アズフィロラ:それは、ただの義務ではないのか……?]
[眉を八の字に寄せる彼に、私の胸はきゅうっと締めつけられるように痛い。けれど、はじめてこのベンチに座った時とは違う想いを伝えるように顔を寄せた]
[ヒナタ:義務じゃない……私はフィーラが好きなんだ……主ではない一人の女として、騎士じゃないただのフィーラという男を……愛してるんだ]

 おおうっ、私と同じで恥ずかしがり屋の主人公かと思ったが、堂々と言い切った。恋すると、こんなの平気で言えるんだろうか。
 顔を覆った指の隙間から目を丸くするフィーラを見つめるが、そこに割り込む者がいた。

 

[?:なりなり~!]
[ヒナタ:イズ!?]
[突然の声に身体が跳ねると、目先に集まった影からイズが現れる。だがその姿は漆黒の髪と瞳を持つ──王。冷や汗を流す私に、イズは口元に孤を描いた]
[イヴァレリズ:ヒナ、殺しにきたぜ]

 出だしの呑気な声とは一変。冷たい声に覆っていた両手を離す。
 漆黒のマントを羽織るイズの大剣が向けられた。

 

[イヴァレリズ:魔力を糧とする魔王に滅びはない。また回復次第やってくる前に危険分子であるお前を殺す]
[アズフィロラ:なぜ今になってきた?]
[わけがわからないと立ち上がった私の前をフィーラが遮ると、鋭い目をイズに向ける。だがイズは鼻で笑った]
[イヴァレリズ:魔王の動向を探るのに時間がかかったのがひとつ。けど、一番の理由はお前が役立たずだからだよ、アズフィロラ]
[アズフィロラ:なっ!?]
[イヴァレリズ:今のお前は弱い。精神的にも実力的にも。そんなヤツは『宝輝』どころかヒナも護れず、また奪われるだけだ。そのせいで世界が滅ぶのは御免だ]
[昂然たる態度で言い放つ王は影を使い、後ろから私を捕まえる。いつも胸を揉んでいた片手は首に、片手は大剣を握り、耳朶を甘噛みしながら囁いた]
[イヴァレリズ:だからバイバイ、ヒナ]
[アズフィロラ:ピュルガトワーーーーールっっ!!!]

 大きな叫び声と画面を覆う火に、Shiftキーを押す手が止まった。
 赤い火の鳥と炎の渦を巻くフィーラのスチルが出るが、その瞳は虚ろだった瞳とは違う。月にも負けない太陽の瞳。

 

[アズフィロラ:イヴァレリズ、今すぐ彼女から離れろ。さもなくば斬る]
[イヴァレリズ:……こいつとの記憶は残ってねぇんだろ? なのになんで切っ先向けんの]
[大剣がフィーラに向けられるように私も視線を動かすと、太陽の瞳と目が合う。それだけで囚われた感覚に陥り、顔を伏せた]
[アズフィロラ:正直俺にもわからない……だが覚えていなくとも、脳と身体は彼女を……ヒナタを護れと、手に入れろと言っている! たとえお前が相手だろうと構わないと思えるほどにな!]
[断言する声に目を見開いたまま伏せていた顔を上げる。そこには出会った時と変わらない鋭い瞳。けれど確かに私の騎士の姿があった]
[ヒナタ:フィー……ラ……]
[涙を零しながら呼ぶ私に、フィーラは小さな微笑を向ける。すると、一息吐いたイズに背中を勢いよく押され、私はフィーラの胸板に収まった。互いに顔を見合わせると、大剣を消したイズの背中を見る]
[イヴァレリズ:二十年来の腐れ縁の勘が大丈夫だって言ってっから、帰るわ。ああ、アズ。約束破ったら大量チョコの中に頭から突っ込ませてやっから覚悟しとけよ]
[アズフィロラ:百パーセントないから安心しろ]

 顔を横に向けたイズのように、フィーラも意地の悪い笑みを向けている。
 二十年来の幼馴染というのはすごいな。さっきは殺されてしまったが、ちゃんと信頼し合っているように思える。羨ましくもあるし、こっちが嫉妬しそうだ。
 イズが去ると火の鳥も消え、フィーラが主人公を抱きしめるスチルに変わる。

 

[アズフィロラ:逃げないでくれ。無事だったこともそうだが……隣にいる時とは違う暖かさに安心しているんだ。いや、キミが欲しいと身体が疼いている]
[ヒナタ:ほ、欲しいって……!]
[戸惑っていると手を取られ、彼の心臓に運ばれる。その動悸は私と同じように早く、頬も赤い]
[アズフィロラ:記憶を失っていても尚、心と身体が教えてくれる。この気持ちは恋だと。キミだけにしか反応しないと]
[ヒナタ:フィーラ……]
[アズフィロラ:だからヒナタ。俺をまたキミの騎士に、愛する男として誓わせてくれ。キミを護り愛す男として]
[片膝を折り、手の甲に口付ける姿は忠誠を誓ってくれた時と同じ。記憶など関係ない。やはりフィーラはフィーラなのだ。両手で彼の頬を包んだ私は涙を零しながら微笑んだ]
[ヒナタ:もう離すなよ、私の騎士]
[アズフィロラ:……ああ、誓おう。今日ここでもう一度]
[微笑が返されると同時に口付けられる。忘れてしまった分、我慢していた分、欲しかった分。すべてをまた彼に与え与えられるために]

 口付ける二人のスチルからED曲に変わるが、私はクッションを離せないでいた。恥ずかしいの半分、涙が止まらないの半分だ。ともかく無事でよかった。今度はイズに殺されるかとドキドキしたぞ、もう。
 完全にBADENDに反応してしまうが、ED曲後の喘ぎはそれ以上に反応した。

 

[ヒナタ:っあ……フィーラ……誰かきたら……]
[アズフィロラ:そんなことを考える余裕があるなら、もう少し進めていいな]
[ヒナタ:あああっ……!]
[太陽が差し込むフィーラ邸の庭先。木陰の下で両手を木につけた私は、後ろからフィーラの愛撫を受けていた。やはり身体は覚えているのか、ぴとりと楔は収まるが、それだけでは足りないと知っているフィーラは激しく腰を動かすと、片方の手で胸を揉みしだく。力尽きるように地面に倒れ込んでも、腰を打ち続け、胸の頂を舐めては吸う。どこか、からかいを含む瞳に頬を膨らませるが、口付けられるとすべてが溶かされてしまった。前より意地悪で、少しエッチな騎士に今日も包まれる──fin]

 イチャイチャが変わらないことに安堵すればいいのか呆れたらいいのか分からない。だが【赤き太陽は姫君を包む】がリストに加わったことで、フィーラのENDは全部揃った。
 中々ハードなゲームに残りのキャラが怖い。

 

 よっし……年下にいくか!


 

*カレスティージ攻略*


 順番的には銀髪なのだが、やはり年下好きとしては黒ウサギ少年を逃すことは出来ない。赤騎士でだいぶん腕を慣らしたからな。ちょちょいと攻略してやるぞ……と思ったが、予想以上に手強かった。

 まず、朝、昼にラズライトに行っても会えない。

 唯一、夜だけ開く『宝遊郭』で会えるのだが、ちゃっかり入場料として千円取られる。だが、着物姿に藍色の瞳を見せる少年が笑顔で迎えてくれるなら悔いはない! 完全に貢いでる女だな!! くそっ、もってけドロボー!!!

 そんな彼のために日夜働いていると、一定の好感度に達したのか、夜、部屋を訪ねてきてくれた。

 

[カレスティージ:お姉さん……お喋りして……いいですか?]

 

 選択肢に[いいぞ*ダメだ]が出るが当然前者。承諾した時の、はにかんだ笑みがとても可愛い。しかし、一度は断ってみるべきだろうかと恐る恐る[ダメだ]を選択すると、少年は黒ウサギを抱きしめた。

 

[カレスティージ:そう……ですか]

 

 切ない表情に胸が痛くなる。
 すまん、少年……と、見送った私だったが、ここでビックリ。ステータス&好感度が分かる表を確認したら少年が攻略不可になっている。

「なぜだーーーーっ! 一度でもダメなのか!? ダメなのか!!?」

 

 まさかの事態に慌ててロードし直すが、訪問はランダムのため同じ日には来なかった。しかも別の日に断っても、やはり攻略不可。これは……結構厳しいかもしれない。

 その厳しさから好感度上げに苦労したが、やっと忠誠を誓うイベントが発生。喜ぶようにビールを掲げるが、先に他キャラの忠誠を受けていることを知った少年の眉が吊り上がった。ん? なんか雲行きが怪しいぞ?

 

[カレスティージ:今すぐ……その人達の忠誠を……取り下げてきてください]

 主人公と共に『は?』と口に出したが[取り下げる*取り下げない]の選択肢。戸惑いながらも他の忠誠の取り下げは罪悪感があり、後者を選んだ。しかし、少年の背景は暗さを増し、藍色の瞳を覗かせたまま再度取り下げの選択肢が出る。不穏な空気に[取り下げる]を選択すると『そうですか……』と少年スティは小さな微笑を向け、忠誠を誓ってくれた。
 翌日、忠誠を誓ってくれていたフィーラと銀髪が少年に殺された。

「なぜだーーーーっ!!!」

 掲げていたビールを勢いよくテーブに置くと、血だらけの男達の前で背中を向け佇む青髪の男のスチルを見つめる。その手と黒い刀には赤黒い血がつき、ゴクリと唾を呑み込む私のように主人公は呼びかけた。

[ヒナタ:ス、スティ……?]
[カレスティージ:…………なーに、ヒナさん]
[愉しそうにも聞こえる声が、ゆっくりと振り向く。その頬には血がつき、掻き上げた前髪から覗く常闇の瞳に捉えられると身体が強張る。それでも私は必死に声を出した]
[ヒナタ:なんで……こんなこと……]

 同調(シンクロ)したかのように私も同じ疑問を持つが、スティは不敵に微笑んだ。

[カレスティージ:だって……ヒナさんの騎士はボクだけでしょ?]
[ヒナタ:あ、ああ……だから忠誠を……]
[カレスティージ:ダーメ……一度でもヒナさんが認めた男なんて……ボクは許せない……嫉妬する]

 フィーラがイズを殺した嫉妬ENDと同じだと気付くが、彼以上の冷たさを感じる。身震いしていると、スティは『そうだ』と何か閃いたように笑顔を向けた。

[カレスティージ:ボク以外の騎士が全員いなくなればいいんですよね]
[ヒナタ:え……?]
[カレスティージ:そしたらボクも嫉妬しない……ヒナさんもボクだけの姫君……]
[ヒナタ:ス、スティ……っ!]
[咄嗟に伸ばした手は血がついた手に捕まる。その手は目先で微笑む彼のように冷たく、私は動くことができない。唇に小さな口付けを落としたスティは囁いた]
[カレスティージ:ちょっと待っててね……すぐ終わらせてくるから]
[刃物のように鋭い声を最後に、私の意識は遠退いていった。次に目を覚ました時、血の海に積み重なった屍の上で微笑む常闇に、私は生涯囚われる──fin]

 リストに【影騎士の姫君】が追加されているのを確認すると、カチコチと時計の音だけが響く。一度立ち上がった私は俯けでベッドに沈んだ。

「なんだなんだなんだ! なんだこの少年は!? 怖いっ!!!」

 フィーラとは違う恐怖に、まだ身体が震えている。
 可愛い顔をしてなんというギャップ! 場合によってはオイシイキャラなのかもしれんが、私にはちょっとホラーすぎる!! 目を覚ましたら血の海って怖いだろ!!!

 これは他の道を行かねばならんと慌ててロードし直すが、気付けば[取り下げない]を二回とも押していた。こ、怖いもの見たさというのは恐ろしいな……嫉妬に狂ったスティに自分が殺されてしまったが。
 リストに【嫉妬の影】が追加され、最初から取り下げる以外の道がなかったことを知ると、握り拳を作った。私の心はひとつ。スティを正しき道(幸福END)へ連れて行くぞ!!!

 気合を入れ直すように進めると、彼の過去が少しずつ明かされる。
 幼き頃に親に捨てられたこと、十五まで一人で生きてきたこと、誰かを好きになったのが主人公がはじめてだということ。一人の辛さが身に染みて分かるせいかボロボロ涙を零していると、イズが現れた。

 

[イヴァレリズ:よっ。悪いんだけど、カレスのとこに届けもん頼んでいいか?]

 

 相変わらず呑気な男に[いいぞ*嫌だ]が出るが、スティ関連なら前者だ。
 そのまま夜のラズライトに移るが、雲は黒く雨が降っている。何かのイベントの前触れだと察した時、悲鳴が響いた。バシャバシャと水音を立てながら走る主人公の目の前には背中を向けたスティ。
 それは嫉妬ENDと同じスチルだが、血を流しているのは一般人。何より振り向いたスティが困惑の色を見せていた。

[カレスティージ:ヒナさん……なんで……あっ]
[震える声で話すスティは慌てて血がついた黒い刀を背に隠す。だが彼の足元に倒れている者は血を流したままピクリとも動かない]
[ヒナタ:スティが……殺したのか……?]

 その会話に先ほど見た残酷な彼の姿は別ルートであり、このルートでははじめて見ることに気付く。
 顔を伏せたスティは『……はい』と、か細く答えると『宝遊郭』に場所を移し、服を団服から着物に変えた。辛そうに語るのは裏に存在する暗殺部隊メラナイトのこと。そして自身が副団長をしていること。

 

[カレスティージ:今まで誰に見られても気にしなかったし……殺してきました。でも今日……ヒナさんに見られて……っ]
[ヒナタ:わっ!]
[歯を食い縛ったように見えたスティは一瞬で私を畳へと押し倒すと覆い被さる。開かれた胸元よりも、真上から覗く藍色の瞳が酷く揺れていることに動悸が激しい]
[カレスティージ:ボクはヒナさんが好きです……愛してます。でも……こんなボクを受け入れてもらえるのか……怖い……]
[苦しそうに告白した彼は頭を胸に沈めるが、その身体は小刻みに震えている。いつも共にあった黒ウサギは投げ捨てられ、まるで私だけに助けを……許しを乞うているように見えた。私は彼を……]

 静かな雨音を聞きながら[受け入れる*受け入れない]の選択肢。先のこともあり悩むが、前者を選んだ。

[ヒナタ:私はどんなスティでも受け入れる……だから怖がらなくていい]
[カレスティージ:ヒナさん……]
[小さな雫を落とす彼に微笑を向けると、唇と身体が重なった]

 正しき選択だったかは分からない。

 だが、暗くなった画面から聞こえてくるのは喘ぎ声。そして、両手と足を帯で縛られた主人公が、裸体のスティに組み敷いているスチルが現れた。手で顔を覆う。

[ヒナタ:んっあ……ああっ]
[カレスティージ:んっ……ヒナさん……もっと啼いて……もっと]
[首筋に歯を立てながら溢れた蜜を指先でなぞり、蜜口に差し込まれる。それだけで当に愛撫された身体が大きく跳ねるが、縛られた両手を強く押さえ込まれた。細めた目で微笑むスティは耳元で囁く]
[カレスティージ:動いちゃダーメ……ボクの全部を……受け入れて]
[どこか冷たさもある声だが、今はとても甘美に聞こえ、頷くことしかできない。頬ずりするスティが両足の帯を解くと、私は脚を広げた。彼の楔を、すべてを受け入れるかのように打ち込まれる]

 一応タイトル画面には戻らないが、あまり幸せに見えないのはなんでだろうか。
 いっそう甲高い声が響くと画面が翌日に切り替わるが、微笑むスティに『今日も受け入れて』と言われ[受け入れる*受け入れない]の選択肢。こ、このパターンは……。

 完全に嫉妬ENDと重なり躊躇うが、今まで受け入れてきたので今回も受け入れる。早朝から啼かされるだけで、翌日また同じ選択肢が出てきた。こ、これ、大丈夫……か?


 嫌な汗が流れるのを感じながら受け入れて啼き、また翌日になる。だが今度は選択肢は出なかった。代わりに裸体の主人公が直径一メートル半ほどの檻に入れられ、その扉を開けている着物姿のスティのスチル。

[カレスティージ:おはよう、ヒナさん]
[ヒナタ:ん、スティ……今日は遅かったな]
[檻に入ってきたスティを抱きしめると数度口付けを交わす。唇を離した後は彼の股の間に入り、硬くて太いモノを咥えた。頭を撫でられる]
[カレスティージ:ごめんなさい……ちょっとうるさい上司に捕まって……怒りました?]
[喉元まで咥えながら首を横に振ると、口内のモノが膨張する。頭上からは笑う声]
[カレスティージ:よかった……ヒナさん……大好き……愛してる]
[言霊のように響く声に熱いモノが溢れる。真意なんてどうでもいい。私を愛してくれる彼のすべてを受け入れればいいだけだ。この狭い世界でも、彼さえいてくれれば──fin]

 静かにタイトル画面に戻ると、リストに【私だけのゲージ】が追加される。カチコチと時計が鳴る中、ぬるくなったビールを一気飲みし、勢いよくテーブルに置いた。

「なんでそうなったーーーーーっっ!!!」

 身を屈めたまま心の内を叫ぶ。
 なぜだ。なぜそうなった。なぜそっちにいった主人公(わたし)。受け入れすぎだろオイッ。

 

 ともかくこれは私的に幸せではないと頭を切り替え急ぎロード。

 イズの頼みを断ると攻略不可になったため、最初のスティの問いで[受け入れない]を選択。だが、気絶させられた上、両手と足を鎖で繋がれたスチルに変わった。一度受け入れ、二度目受け入れなくても同じ。ベッドに頭を沈めた私の耳には、無理やり犯される声が届く。

[ヒナタ:スティっ……あっ……やめ……ああんっ!]
[カレスティージ:ダーメ……受け入れてくれないなら……受け入れたいほど……ボクに溺れさせて……あげる]
[後ろから楔を打ち続けるスティの瞳はただ狂気を宿している。それでも必死にやめるよう懇願するが、苛立った様子で彼は熱い何かを体内で噴出した。嬌声と共に大粒の涙が落ちると、私の影が伸びる。一箇所に集まった影が人の形を取り、一人の男が不機嫌そうに現れた]
[イヴァレリズ:その辺にしとけ、スティ]

 イッズーーーーー!!!
 まさかの男の登場に起き上がるほど喜ぶ。だが重い空気は変わらず、自身のモノを抜いたスティは黒い切っ先をイズに向けた。

[カレスティージ:ヒナさんの前に現れるモノは、たとえイズ様でも殺す……]
[イヴァレリズ:んじゃ、そのヒナさんに聞いてみようぜ。おい、助けてもらいたいか?]

 

 その問いに[助けてくれ*いらない]の選択肢が出ると、つい前者を選んでしまった。感情任せがダメだったのか、逆上したスティをイズが殺す結果となり【赤いウサギ】が追加される。なのに、血だらけのまま主人公の腕の中で逝った彼は微笑んでいて、どこか幸せそうにも見えた。

「って、全然幸せじゃない……私が」

 半べそで鼻水をすすり上げながらロードし直すと、イズに[いらない]と、助けを断る。
 すると今度は主人公が必死にスティを説得するが、すべてを拒絶するかのように窓際に寄った彼は、大粒の涙を落としながら微笑み『ヒナさん……ごめんね』と、遊郭から身を投げた。鎖に繋がった主人公の手が届くはずはなく、泣き叫ぶ声が木霊する。

 時が流れ、青の中羽織りを羽織り、黒ウサギを持つ主人公。
 ラズライトのゴロツキ連中を成敗しながら遊郭の最上階奥に帰ると、積み重なったクッションと一緒に、ゲージに入った本物の黒ウサギが出迎える。微笑んだ彼女は『ただいま、スティ……』と言った。【身代わりウサギ】に。

「…………あ、もしもし笙子か? 夜分にすまんが聞きたい……どうやったらスティを幸せに出来るんだ!!!」
『は?』

 主人公のように泣き叫びながら懇願する私に、眠そうな笙子は間を置く。
 もうっ、もうっ、いったいどうすればいいんだ! どの選択肢押してもスティが死んでしまう!! それともこれが本当に幸福ENDなのか!!?

 

 しゃくり上げる私に察したのか、笙子様は力強く『叩け』と、それだけを言った。そのお告げに涙を拭うと、イズの助けを断り、自殺しようとする彼に出したくなかったshiftキーハリセンを出す。届かないから畳だ、と、新しい文が出た。

[ヒナタ:貴様は私に忠誠を誓った騎士だろ!? 私の断りなく死ぬことは許さんぞ!]
[窓に掛ける足を止めたスティは、立ち上がった私を凝視する。裸であろうとも構わず、私は涙を零しながら必死に言葉を紡いだ]
[ヒナタ:私はスティを受け入れると言った。だが、それは私だけなのか? 貴様は私を……私のすべてを受け入れてくれないのか?]
[カレスティージ:ヒナさ……ん]
[震える声で呼ばれるだけでも私の身体は歓喜するように疼き、ゆっくりと両手を広げた]
[ヒナタ:受け入れてくれ……傷物にした責任も含めて、私の身体も愛も全部……スティ]
[カレスティージ:…………っ、はい……我が姫君(プリンチペッサ)]
[同じ涙を零しながら、勢いよく抱きついてきたスティと共に畳へと倒れる。首筋や胸元を優しく舐めては口付ける彼は囁いた]
[カレスティージ:んっ……ヒナさん……大好き……愛してる]
[イヴァレリズ:やれやれ……]

 ゲージENDとは違う優しい愛の告白に、私の涙腺は崩壊。
 そのままスッカリ忘れていた魔王がやってくるが、ちゃんとスティ一人が助けにきてくれて、ED曲が流れた。終わると当然聞こえてくるのは喘ぎだが、目が丸くなる。

[ヒナタ:あっ……スティ……ダメっ……大きい]
[カレスティージ:それこそダーメだよ……ほら覚えて……新しいボクを]
[奥へ奥へと沈む楔はとても大きい。興奮もあるが、私よりも身長が伸び、逞しくなった彼に身体も心も追いついてないのだ。だが、ゆっくり、時に激しく腰を打ち立てられると愉悦を、容を覚える。交わす口付けと囁かれる言葉と同じように、騎士であり夫である彼に包まれる──fin]

 大きく成長したスティと抱き合うスチルに呆然としたのは一瞬で、【蒼昊の微笑】のリスト名に私は涙をボロボロ落とす。鼻をかみながら全部のスティENDが揃ったこと、幸福になったことに喜ぶ。そう、私は──

 

 

 

「やった~~~~~~!!!!」
「「は?」」

 大きくバンザーイをする私に、赤と青の髪を揺らす男二人が顔を覗かせる。
 それは先ほどまで画面越しに見ていた顔、フィーラとスティ。明るい日差しが窓から差し込み、鳥がチュンチュン鳴くここは私の部屋ではない、異世界アーポアク城にある『子供部屋』。

 ソファに寝転がったまま瞬きする私に、団服のフィーラは溜め息をつきながら積み重なった服を畳み、着物のスティはおもちゃを箱の中に投げ入れる。

「疲れて昼寝をしていたかと思えば……起きて早々、奇怪なことを言うのはやめてくれ」
「ヒナさん……楽しい夢でも見てたんですか?」
「夢……!」

 

 瞬間、鮮明に浮かんだ内容に、勢いよく二人を抱きしめる。突然のことに目を丸くされるが、私は泣き叫んだ。

「ああ~ん、フィーラ! イズのことが嫌いなのは分かるが、それなりに考えてるヤツだから許してやってくれ!! 記憶を失っても私は大好きだからな!!!」
「は、はあ?」
「スティも嫉妬心なんて全部私が包んでやるから、殺すとかバカなマネはやめてくれ! 檻なんて狭いのは嫌だからな!! あと幸せENDいくまでが鬼すぎる~~!!!」
「エンディング……?」

 二人は分からないといった様子で互いを見合っているが、ゲームではない本物の暖かさと安堵感に、私はまた眠くなる。頭に浮かぶのは、銀髪の男と赤いハチマキを揺らす男。

 

 ああ、この二人なら少しは優しいだろうか────。

*次話、空騎士ベルと騎兵アウィンの攻略編

*一部内容は許可を得て、某親衛隊様にご協力いただきました(ありがとうございます)

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