異世界を駆ける
姉御
番外編*クリスマス
ターコイズ月二十五日。
言わずとしれたクリスマス! 子供達の笑顔が見れる大イベント!! 張り切るぞー!!!
「どういうことか説明してもらおうか?」
昼下がりのアーポアク城。
十階にある食事処で髪をポニーテールにし、ピンクのエプロンをした私は腕を組んだまま眉を吊り上げていた。目先には瞼を閉じたフィーラ、変わらない笑みを浮かべるベル、顔を伏せたスティ、目を逸らすアウィン、眉を八の字にしたバロンの旦那五人が床で正座中。一人いないのはいつものことだ。
数分前、フィーラの相談がまさかの『アサヒのクリスマスプレゼント何がいいと思う』。
食事処のキッチンで忙しく作っていた料理もケーキも止まり、嫌な予感を覚えた私は旦那集合をかけた。案の定、プレゼントを用意していないことが判明。私へはともかく子供達にない……だと?
御冠に背筋をピシッと伸ばして正座するフィーラから順に理由が述べられた。
「会議が重複して忘れていた」
「本を読んでいました」
「寝てました……」
「年末は揉め事が多いんだよ」
「書類に~埋もれてた~~」
全員の背にフルパワーハリセンを落とした。
さすがに鍛えた旦那達も前屈みになって背中を擦るが、構わず自分の手の平にハリセンを落とす。怒声も一緒に。
「言い訳をするぐらいならファミリーパックのお菓子でも買ってこい! ただし、自分の子からはちゃんと欲しい物を聞いて枕元に置くんだぞ!! わかったか!!?」
ビシッとハリセンで旦那達を指すが、真面目に考えるヤツもいれば、いかにもダルそうなヤツもいる。瞬間、どこかの血管が切れ、ハリセンで自身の膝を大きく叩いた。
最終警告音に全員の肩が揺れると、上擦った返事と共に解散した。
* * *
ラム酒漬けにしたドライフルーツ入り生地を直径二十センチほどのホール型に流し込むと、オーブン代わりの窯に入れる。リディカに時間を伝え、一息つくように包丁を持つ男に訊ねた。
「それで、アサヒには聞いたのか?」
「ああ」
マントとコートを脱いだフィーラはシャツを腕捲りすると、まな板にパイナップルを置き、スパパンと見事な包丁裁きを見せる。あっという間にくし形切りされたパインの出来上がり。次に葡萄を渡すと溜め息混じりに包丁で皮を剥きはじめた。
「実は……ピュルガトワールが欲しいと言われてな」
「ピュル……ああ、貴様の剣か」
一瞬悩むと、マントと一緒に置かれた剣に目を移す。
父親が騎士団長で剣術指導してもらっていると憧れるかもしれんが、さすがにプレゼント出来る物ではないと途方に暮れたかと視線を送った。
葡萄の皮剥きを数秒で終え、二つに切るフィーラは気落ちした様子で話す。
「そこで、似た物を創れないかとレウッドットー様に頼んでみたんだ」
「イズ以上に遭遇率(エンカウント)が低いのに凄いな」
「部屋に引き篭っている人と遭遇するわけがないだろ。部屋に行けば九割方会える」
手を洗うフィーラの回答に納得。
先代アーポアク国王で今は鍛冶師。医療班班長ジェビィさんの旦那でイズの父親。そして義父にもなるレウさんは私も年に数回会えるかどうかだ。まあ、用事なんてほぼないので恐らく部屋をノックすることはないだろう。
「で、なんて?」
「『今から打てるかボケ』」
「そりゃそうだ」
売り物ではなく、ちゃんと創ってもらおうというのはフィーラらしいが、如何せん当日はアウト。嫌がらせとしか思えんが、フィーラは本当に悩んでいるようで私はタオルを差し出す。
「新しい剣はまた誕生日にプレゼントすればいい。そもそもアサヒが父の大事にしている剣に憧れを抱いていても欲しがるとは思えん。もう一度聞き直してこい」
我侭を言えと言っているが、双子ではないのだから困ることをするわけがない。それは目の前の夫を見ればわかる。驚くぐらいソックリだからな。
笑みを浮かべる私からタオルを受け取ったフィーラは手を拭きながら溜め息をついた。
「ヒナタの血も考えるなら俺を困らせる子になっててもおかしくはないぞ」
「わ、私!?」
「真っ先に突っ込んで成敗するのはキミだろ」
「うっ……」
タオルを置いたフィーラは顔を近付けると、少し意地悪な笑みを浮かべた。
立場が逆転したように見えるのはマントも剣も持っていない“素”だからか。それでも肯定するのは嫌で口を尖らせたまま顔を逸らす。が、頬に小さなキスを間隔をあけながら落とされ、気付けば唇は耳元までやってきた。
小さなリップ音が聞こえると小刻みだった身体が大きく跳ねる。
「っ!」
「それで……ヒナタは何が欲しいんだ?」
「わ、私……っんあ」
腰に回された腕で逃げることは叶わず、耳朶を甘噛みするフィーラの声が全身に響く。
「俺から何を貰いたい?」
「え……えーとだな、っん」
疼く身体を抑えるように考えるが、顎を持ち上げられると唇が重なった。
舌先で唇をなぞり、吐息で開いた隙間から口内に侵入した舌先に舌を突かれる。応えるように伸ばしては絡ませを繰り返し、息が荒くなりだしたところで唇が離れた。
フィーラは変わらない笑みで再度問いかける。
「で、何が欲しい?」
「………………物干し竿」
「は?」
フィーラの目が点になる。
ささやかな抵抗とはいえ、屋敷のが劣化しているのも本当なのでお言葉に甘えよう。だが、火照った身体と口内を一瞬で“彼”に変えられた今は別のことも口に出る。
「あとはまあ……いっぱいキス……もらえたらなー……とか」
「……了解した。俺もそれでいい」
頬を赤めたままそっぽ向く私の額に、フィーラは笑いながら口付けを落とす。
それから捲くっていたシャツを下ろし、剣を腰に掛けると、コートとマントを手にキッチンから去って行った。私は悩む。
ヤツも物干し竿が欲しいのだろうか。
* * *
「お外に洗濯物を干せるのはいいですね」
「貴様の街では決して出来ないからな。ほら、次を頼む」
水氷の入ったボウルの上に生クリームとグラニュー糖の入ったボウルを重ねテーブルに置くと、丸椅子に座り、片手に本を持つベルが指を鳴らす。『風』で浮いたボウルは斜めに傾き、同じように『風』で浮いた泡立て器で掻き混ぜ開始。
別のボウルでココア生地を作る私も混ぜながら訊ねた。
「で、貴様はちゃんと用意したのか?」
「はい、ちゃんとリクエスト通りに。セツ君には一千ページの六大国辞典、キョウカさんには剛速球が打てるソフトボール、ルルさんには本格おままごとフルーツセット。本物のフルーツとフルーツナイフが付いてくるそうです」
「全部却下」
「え? もう買ってしまったんですが」
本から顔を上げた男に、手を止めた私は盛大に頭を抱えた。
セツに一千ページの本なんかあげたらベルの二の舞だ! キョウカなんて剛速球のボールってもうソフトボールじゃないだろ!! 危険なおままごとセットもどこの会社が作った!!!
その怒りを表すかのようにベルの両肩を揺す振る。
「だいたい危険かそうかじゃないぐらい父として見極めろ! 与えるだけでは良い大人にはなれんぞ!! そんなダメな夫には雪玉の中に剛速球ボール入れて成敗してやる!!!」
「それ、良い大人が一番してはいけないことだと思うのですが」
揺す振られながらも微笑むベルは本をテーブルに置くと私の両肩を握る。
力強い両手に身体を反転、膝に乗せられた。定位置に頬を膨らます私の腰には大きな両腕が回り、後ろからくすくす笑う声。そして、イヤリングと唇に口付けが落ちた。
「んっ……」
「ん……おや、味が……アズフィロラ君ですか」
「なっ、あん!」
唇が触れただけでバレてしまい驚くが、後ろ頭を固定されると強引に舌が入り込む。口内の味を変えながら片手はエプロン越しに胸を揉みしだき、息が上がる。
「あっ、んあ……ふっ」
「エプロン姿のヒナタさんは……んっ……とても可愛いですが……フリルとかあると……もっと可愛いですよ」
「う、うるさ……あぁ」
なんの捻りもない普通エプロンに指摘されると唇が離れる。
だが首筋に吸い付かれ、両手は上着の中。ブラから乳房を取り出すと先端を摘ままれた。
「ぁん、あ……」
「じゃあ……ヒナタさんへのプレゼントは……可愛いエプロンにしますね」
「んっ……あ、エプロンより……ソリが欲しい」
「は?」
乳首を捏ねながら目が点になるベル。
いや、大通りはまだしも他の道は舗装されてないから、重い荷物を持っていると歩き難い。だからソリがあると助かると言うと、苦笑するベルは胸から両手を離し、イヤリングに口付けた。
「承知しました、姫君。では私はこっちをいただきましょう」
「は……あぅっ!」
今度は私の目が点になるが、すぐ股に手が入り込み、ズボン越しに上下に動かされる。
秘部を刺激されても疼くのを堪えるが、ベルは笑いながら私の手を取ると股間に入れ乗せた。秘部を擦する手よりも先、大きくなったモノの上に。
「コレをいっぱい可愛いヒナタさんのナカに入れさせてくださいね」
「その前に食いついてやる……」
「はいはい、可愛いですっだ!」
空いていた手でハリセンを取り出し、成敗した。
* * *
ふんわりと柔らかい生クリームが入ったボウルに一本の指がソロリと伸びる。が、ペシンと手の甲を叩くと下がる。また伸びる。叩いて下がる。繰り返し×十回。
「……スティ、ダーメだと言ってるだろ」
フルーツを飾る手を止めた私の目に、空色の着物で丸椅子に座るスティは片肘を付いたままボウルを指した。
「ダーメ……?」
「ダーメ」
「ちょっとでも……ダーメ?」
「ちょっとでもダーメ」
「……ダメ?」
「……………………ちょびっとなら」
「やったあ……」
くっ、一言ずつ首を傾け、瞳を揺らす姿に降伏してしまった! 笑顔が見返りならば悔いはない!! ないぞ!!!
咳払いすると自分の小指に生クリームを付け、スティの口元に持ってくる。彼自身に取らせたら“ちょびっと”どころではないからだ。
その手を両手で持ったスティは口を小さく開き、舌先で一度ペロリと舐めてパクリ。二段階仕様にピクリと身体が跳ねるが、逸らすように訊ねた。
「スズのプレゼント……決まったか?」
「それなんですけど……やっぱり……新鮮が一番ですよね」
「なんの話だ?」
指を食べられていることも忘れ聞き返すと、口を離したスティは舌先で舐めながら藍色の目を向けた。
「マグロが欲しいって……」
「は? あ、ああ……そういえば好きだったな」
海にも魔物がいるとはいえ、魚も普通に泳いでいる。
特に北と連携を取るようになってからは結界も張れて一石二鳥。そんな折に捕れたマグロを刺身や寿司にしたらスズナがえらく気に入ったのだ。が、頼まれたスティは眉を落とす。
「でも……新鮮なマグロを獲った方がいいのか……冷凍マグロがいいのかわからなくて……」
一本釣りマグロ漁をするスティが浮かぶが、引っ張られて海に沈む図となり顔を青褪める。反対にスティは生クリームの入ったボウルに私の小指を付けると舐めてはパクリ。刺激で我に返った。
「私は冷凍派だな!」
「でも、お寿司……美味しくなくなる」
「ビチビチ跳ねては枕元に置けんだろ! ここは冷凍マグロをそっと置くべきだ!!」
「ボク……隣でマグロが寝てたらヤだ」
「うーん……確かに解凍されて臭いが充満するのは……って、こら!」
考え込む前に、異様に減っている生クリームに気付く。
見れば小指だけだったはずが五本指全部に付けられ食べられていた。慌てて引っ込めるが、手首を掴まれ、座る彼に抱きついてしまう。両膝は床に、頬は開いた着物の胸板に当たり、顔を上げると小さな口付けが落ちた。
「んっ……」
冷たい舌に、ほんのりとクリームの味。
唇が離れると小さな笑みを浮かべるスティはクリームの付いた私の手を持つと、私の首筋に付けた。
「こっ……!?」
叱る声は細められた藍色の瞳で止まる。まだ小指に付いていたクリームを舐められるが、先ほどよりも舌が冷たく感じるのは気のせいだろうか。ついでに冷気まで肌にピリピリくると、頬にスティの頬が当たり、囁かれる。
「いけないのは……ヒナさんだよね……ボクの場所に痕つけて……」
「は……んっ!」
低い声にゾクリとしたものが背筋を這うと同時にクリームの付いた首筋に吸いかれた。そして思い出す。さっきベルに吸われた=キスマークがついていることを。
「んっあ、スティ……」
「ん……なーに?」
いつもより強い吸い付きに身体を捻っていると、スティの頬に生クリームが付く。慌てて拭き取ろうとしたが、スティは首筋を舐めるのに夢中。喘ぎを漏らす私も舌を伸ばし、彼のクリームを舐め取った。
「──っ!!!」
瞬間、大きくスティの身体が跳ねる。
同時に舌も止まり、私の肩に顔を埋めた。静まった男に慌てて訊ねる。
「ど、どうした? 大丈夫か?」
「大丈夫……じゃない……です」
「ええっ!?」
まさかの告白に困惑するが、顔を上げたスティの頬は少々赤い。熱かと額に手を当てる前に彼の頬が手の平に乗った。が、その表情は影から取り出した大きな黒ウサギでガードされわからない。ボロボロになった黒ウサギの後ろからスティのか細い声が聞こえた。
「ボク……ヒナさんに弱いんです」
「は?」
「ヒナさんに攻められると……それ以上したいって……理性切れる」
「は?」
「でも……今したら……クリスマス出来ないって……泣かれるから……夜まで……頭冷やしてきます」
「そう……か……気を付けて……行ってこい?」
「はい……いってきます」
珍しく戸惑った様子で水に溶け消えたスティは黒ウサギだけを残していった。
頭を冷やすって──マグロ獲りだろうか。
* * *
「魔物で発散すんだろ」
「発散云々の話しなのか?」
ミニシューを積み重ねている横でフライパンを持つアウィンはホットケーキを引っくり返す。それはもう見事なフライ返しだ。
「妙なとこで、カレスティージもアズフィロラと一緒で恥ずかしがり屋だかんなー」
「貴様もだろ?」
「オレが恥ずかしいとか思うわけねーだろ!」
「うむ、顔を真っ赤にしてる今のことだ!」
真っ赤アウィンに皿を差し出すと、苛立った様子でもふわふわに焼けたホットケーキを乗せてくれた。フライパンを置き、火を消したアウィンが隣に座ると頭を撫でる。昔は散々怒られたが“ありがとう”の意味だと理解している今は大人しい。
「じゃあ、アンナのプレゼントは買ったんだな」
「おう、新しいサッカーボールでいいってよ」
「最近女子の間で剛速球が流行っとるのか?」
「は?」
目を点にするアウィンに構わずミニシューを積み重ねる。
キョウカもソフトボールだったし、女子組はわんぱくだな。完全私に似てきているのが否めんが。そんなことに手が止まっているとシュータワーに手が伸び、一個取ったアウィンはパクリ。デコピンをお見舞いした。
「っだ! 一個ぐらいいいじゃねーか!!」
「教育だ。第一これはバロン家のだぞ」
「家別ケーキ作るとかすげーな……つーか、尚のこと問題ねーよ。ヒュウガのだけ残しときゃいいって」
「こらこらっん!」
またタワーから取る手を止めようとしたが、そのシューは私の口へ。
サクサク生地の中から出てきた甘いカスタードが口内に広がる。うむ、中々良い具合だ。と、自画自賛していると口付けられた。
「んっ……あ!」
後ろ頭を押さえられ舌が入り込むと、残っていたカスタードを奪われた。同時に唇が離れ、アウィンはモグモグ。眉を上げてしまうが、つい訊ねてしまった。
「美味いか?」
「んー……わかんね。もういっちょ」
「は……んっ!」
目を見開いている間に次のシューを口に入れられ口付けられる。今度はアウィンの舌がシュー生地を破り、カスタードを広げた。甘い物と刺激させるモノに口内は混ざり、わけがわからなくなる。
「アウィ……んあっ」
「んっ……あー、確かに美味いぜ……お前の味と一緒混じったら……余計な」
「あ、こらっ……また」
恥ずかしい言葉に頬を赤めると、すぐまたシューを入れられ口付けられる。感想はわかったというのに止めない男に全身は蕩け、抵抗も少ない。
しかし、さすがにシューの半分が消えたのに気付いた時にはハリセンで叩いていた。
うむ、作り直すか。
* * *
立ったまま掻き混ぜるボウルには甘い甘いチョコ。
匂いはいつしかキッチンを包むが、目先で座る男の顔は甘い物など何もない。美形ではあるというのに苦い顔をしていた。
「どうした、バロン」
「いや~ヒュウガくん~誰に~似たんだろ~と思って~~」
「貴様だろ」
即答すると、同じようにチョコレートを混ぜていたバロンの手が止まる。その顔は無心にも近い。その状態のまま口を開いた。
「欲しいの何かない~って~聞いたらさ~~」
「うむ」
「宰相の座だって」
「お、最年少宰相の誕生か!」
キラッキラ目で見つめる私にバロンはまた無心の表情。
どうせヒュウガのことだから冗談半分爽やか笑顔で『ください』とか言ったんだろうな。まんまバロンに似たではないかと笑みを向けると苦笑された。
「宰相しても~面白くないと~思うよ~~」
「どうだろうな。相手の思惑を読み取っては覆して嵌めての心理に加え、剣を踊るように操り蝶のように舞う父の二つの顔に憧れたかもしれないぞ」
笑う私にバロンの金色の双眸が薄っすら開かれる。
何より宰相の椅子に座っている時の崩さない笑みと、椅子から立ち上がった時の静かな佇まいは明らかに纏う空気が違う。それは過去に騎士団長をしていたのもあるのだろうが、強さに加え心理戦までいけたら紛うことなく王の右腕だ。
「うっわ~イーちゃんの~右腕~とか~最悪~~」
「じゃあ、頑張って乗っ取りでもしてみたらどうだ。まあ、今とあまり変わら……」
不吉な提案にも笑みを浮かべる私の背後に音もなくバロンが立っていた。ひんやりとした空気に背筋が凍るが、抱きしめられると耳元で笑う声。
「そうだねー……乗っ取ったらヒナタちゃんを完全に独り占め出来るかもね。イヴァレリズの命が出ると僕もキミも従っちゃうから」
「……勝てればな……あん」
低い声にピクリと肩が揺れながらも平静を装った返答をする。が、バロンの手がデニムのボタンとチャックを外し、お尻に手が潜り込んだ。指が秘部に到着すると“くちゅり”といった水音。頬に冷たい眼鏡を当てるバロンは笑う。
「結構濡れてるね……この蜜も一緒にボウルに入れれば甘くなるんじゃない?」
「美味いわけないだろ……バカ」
「やってみようか?」
「は……あっ!」
静かな笑いと共にズボンもショーツも下ろされ、慌ててボウルを置くとテーブルに両手を付く。お尻を突き出す格好となってしまい、バロンは零れる愛液を指で絡める。のではなく、さっきチョコを混ぜていた泡立て器で秘部を擦り出す。
「こらあぁぁ……っ!」
「この方が早いでしょ。あーあ……怒った顔してるくせに、こっちは悦ぶように零してるよ」
「あんっ、あっ……!」
肩を押さえ込まれて上半身は動けないが、下半身は感じたことのない器具で激しく揺れていた。その度に零れる愛液が器具に付いたチョコと混ざり合う。
股から抜かれると荒い息を吐くが、笑みを浮かべる男にソレを見せられると顔は火照るどこではない。
「じゃ、食べようか……」
「やめんかーーーーっっ!!!!」
舌を伸ばす男に最大級のハリセンをお見舞いすると意外にも飛んだ。
泡立て器、新しいのを買ってもらおう。
* * *
ヒュウガを呼んでバロンを引き取ってもらうと一息。
直後、ボウルに入ったチョコをウマウマと食べる漆黒の髪と赤の瞳をした男と目が合った。
「イズーーっ!!!」
勢いよくハリセンを振るが、ボウルを持ったまま影に潜られ避けられた。背後から出てきたイズはスティのように指にチョコを付け舐める。その顔はとてもハッピー。
「幸せなり~」
「おい、それ以上食べたら貴様と双子のケーキはなしになるぞ」
「や~ん、これは今から俺のおやつにすっから、新しいの作って」
「そんな暇あるかーー!!!」
ケーキは六家族分完成したが、まだ料理がある。
さすがにコックやメイド達にも頼んであるが基本は家族内でのクリスマス。作れる分は作りたい。そこで思い出す。
「貴様、双子のクリスマスプレゼント用意してあるだろうな?」
「ん? あるよん」
「お、意外と真面目ではないか。何を用意したんだ」
「ん」
ポケットから二枚の紙を取り出した。
しかもイズの字で『一日アーポアク王体験券』『『宝輝』を魔王に渡して世界が滅ぶ一歩手前までを体験してみよう券』。
「アホかーーーーっっ!!!」
「や~ぐっほ!!!」
全力でハリセンを振り、また影に潜られそうになるが足が顔面にヒット。フィーラ直伝だ。
チョコの入ったボウルは影がキャッチしてくれて無事だが、構うことなく床に倒れ込んだ男の腹をハリセンでベシベシ叩く。鬼の形相で。
「貴様という男は冗談にもならんことをしよって! しかも手書きだと!? 肩叩き券か!!!」
「や~ん、じゃあヒナには肩叩き券やるから、俺にはおっぱい揉み揉み券くっごふ!!!」
「黄泉逝き券をやろう! 今すぐ!!」
ハリセンからついにヒールのある靴で腹を踏むという行為になってしまい、まんまフィーラが乗り移った気分だ。だが、ニヤニヤする男の表情に眉を顰めると、イズは二枚の券を見る。
「ま、社会勉強ってやつだよ。実際体験してみねーと国書だけじゃピンとこねーしな」
「それわ分かるが後者はやめろ。危険すぎる」
『四聖宝』に護らせている『宝輝』。
それが王の下に戻る意味で抜かれるなら問題ないが、他の物が持てば十年前の異常気象が再び起こる。今、魔物を統べる王=魔王に世界を滅ぼす気があるかはわからないが、体験ということだけで世界を巻き込むわけにはいかない。
足を退け、屈んだ私はイズと目を合わせる。
「それに、魔王に渡したら他の魔物が寄ってくるだろ。まだヤツは完全ではないのだから迷惑を掛けるな」
「や~ん、ヒナが魔王を庇護するなんて妬ける~」
「そうだな。貴様よりは好きか……っと!」
ちょっと澄まし顔になっていると、両腕を引っ張られイズの胸板に埋まった。
顔を上げた先には私を映すイズ。いつものおちゃらけよりは“王”に近い眼差しに私は上体を起こすが、すぐ両手で胸を揉みはじめ、いつものニヤニヤ顔になった。
「貴様……あの一瞬はなんだったんだ」
「や~ん、なんのことなり? つーかヒナ、ここは裸エプロンをするべきだろ」
「だから、そんな暇はないと……あんっ」
服越しで器用にブラホックを外され、乳房が服の中で解放される。垂れる乳房をイズは揉み込み、親指で先端を押した。
「ひゃっ!」
「じゃ、聖夜の夜にイズ君サンタがプレゼントしてやるよ」
「こ……断る、んっ」
エロサンタのプレゼントなどロクなものではないと見下ろすが、後ろ頭を押され、頭を浮かせたイズの唇と重なった。ゆっくりと舌で唇を、口内を、舌を巡り、片手が背中を優しく撫でる。半開きの目の先には赤の瞳で私を捉える男。
唇が離れると鼻をくっつけたままイズは口を開いた。
「他の旦那より激しく乱れる夜をな」
「~~~~いらんっ!!!」
「ぐおっ!」
両肩を思いっきり押すと同時に股間に割って入っていた膝でアソコを攻撃。床に頭を打つ音と悲鳴が響き、彼の顔に胸を挟み込んで倒れた私の頬は熱い。
いつものおちゃらけとは違う顔はホントやめてくれ。調子が狂う。
だが、嬉しそうに胸の谷間で顔を動かす男に容赦なくハリセンを落とした。
* * *
時刻は夜の六時を過ぎ『小会議室』でクリスマスパーティーがはじまった。
室内は子供達と副団長達が折り紙で作った飾りで溢れ、奥にはジェビィさんから貰った高さ二メートルほどのクリスマスツリーが光る。
テーブルには城のコックやメイド達に手伝ってもらった料理と手製ケーキ。
甘いのが苦手なフィーラとアサヒにはラム酒入りのフルーツケーキ。北国のベル、セツ、キョウカ、ルルにはドーム状に生クリームをぬり、切ったイチゴを付けたドームケーキ。好奇心旺盛なスティとスズナにはチョコや抹茶など様々な生地で作ったミニロールケーキ。いっぱい乗っているのを喜ぶアウィンとアンナにはフルーツを山盛り乗せたフィーラとは違うフルーツケーキ。面白さ狙いでやってみたバロンとヒュウガにはホットケーキの上に乗せたミニシュータワー。チョコ好きは言わずもがなイズ、ナツキ、イヅキにはブラウニー、生チョコ、チョコムースの三段層チョコケーキ。コッソリと魔王にはカップケーキだ。
毎年作る度に邪魔は入るし時間かかるし大変だが、皆の喜ぶ顔を見れば疲れなど吹っ飛んでしまう。プレゼントなどなくても私はそれだけで充分だ。昔も今も変わらず喜び傍にいてくれるだけで。
その笑みが愛する者達であれば尚のこと──。
* * *
──そう“普通”の喜ぶ顔なら大歓迎だ。
「や~ん、俺らもヒナの“悦ぶ”顔は大歓迎だぜ。今みたいにっ」
「ふゅんんんっ!」
横向きにした身体で咥えていた肉棒から白液が噴き出す。
だが、いつもより太い“王”の肉棒に加え量も多く、口から垂れ流してしまう。その白液を早く退かそうと、抜かれてすぐ口付けるフィーラ。いつもより激しく口内で舌を暴れさせ、自身の味に変えていく。
「珍しく……ん、意見が合ったな」
「んっ……あん」
「乳首もツンツンに尖ってるね……ほら」
「ふゃあ!」
「お、もっと動きてーのか?」
ベッドに着いていた片方の胸を掬ったバロンは揉みながら勃ち上がった乳首に肉棒の先端を宛てがう。擦り合う度にビクビク動く身体を後ろに座るアウィンが片腕で押さえ込むが、その指は臍を弄りさらに刺激を与えていた。
同時に動く腰が下腹部のモノ達を快楽へと誘う。
「ああっ……ヒナタさんイいですね……奥底まで挿れてイかせたいです……だから退きなさい、ウサギ」
「ダーメ……ヒナさんを無茶苦茶にするのは……ボク」
「ひゃあああぁぁんンンっあ!!!」
アウィンの横に座り、片脚を持つスティは内腿を舐めながら肉棒の先端を膣内に押し込む。だが、バロンの隣に座るベルも同じように先端を押し込んではどっちが最奥を突くか競っていた。
カーテンの隙間からは綺麗な星空が見え、サンタクロースとトナカイが鈴を鳴らす幻聴が聞こえる。実際聞こえるのは顔に散らすイズの白液、それを舐め取るフィーラの舌、アウィンとバロンが胸を吸う、ベルとスティが肉棒で秘部を突く音。そして自分の声。
子供達の場から拉致られ叱っていた声は今では求める声へと変わり、愛しかない快楽のクリスマスプレゼントが贈られる。
予想以上に多い気がするのはケーキと共に感謝の手紙を渡すなど似合わないことをしたせいだろうか。でも、嬉しい気持ちに違いはなく、今夜はいっそう真っ白な世界へと落ちた。
翌朝、子供達が眠る場所に戻っていた私は痛い身体を起こす。
すやすや眠る子供達の枕元には包装されたプレゼント。ギチギチの水槽に収められたマグロと目が合ったのはスルーだ。
さらに振り向くと、二人乗りほどの木で出来たソリの中に物干し竿、冷凍マグロ、手作りシュークリーム、泡立て器、肩叩き回数券が入っていた。ミカンは魔王だろうか。
うむ────次は正月だな。