異世界を駆ける
姉御
番外編*普通の色
それはすべてを覆い、魅せる漆黒。
混ざり合うことも染まることもない色はひとつの証。
静かに笑い、静かに佇む孤高の王。
けれど──。
* * *
拝啓、愛しき子供達。その他、賑やかな旦那達。元気にしていますか?
九人の輝石達の育児も一息ついた頃『新婚旅行いくなり☆』と、誘ってきた男に深く考えず頷きました。そして後悔しています。その男が俺様誰様法螺吹き王だったことを──。
アーポアクと変わらない空。
どこまでも続く青を皆も見ているのではないかと思うと不思議と笑みが零れる。が、大きな鉄の鳥──飛行機が通過し、真下には大勢の観光客、警官らしき者達がスピーカー越しに流暢な英語で何か言っているのが聞こえると口は“へ”の字。
ついにはヘリコプターまで現れ、漆黒の髪が揺れる。テレビ局っぽいロゴに頭を抱えると叫んだ。
「イズー! ナツキー!! イヅキー!!!」
「や~ん、もうちょい待つ……今なり!」
「やった☆ さっすが父さん、ちょうどホクホク!」
「スイートポテトみたいに甘ぇ~」
「自由の女神様で焼き芋するなーーーーっっ!!!」
懐かしき地球の大国アメリカにて、自由の女神様が持つ松明内で焚き火どころか焼き芋を作る三馬鹿。魔法もない地球ではハリセンも出せず、必死に頭部展望台で叫ぶしかない。焼き芋の作り方を聞かれ教えた私が愚かだった。
イズに誘われた『新婚旅行』。それは『地球旅行』という大規模。
まあ、久々の帰郷だし、双子も一緒の『家族旅行』も兼ねているようだから文句は言えん。双子が生まれてからもずっとイズは留守にしてたからな、うむ。しかし、ここで感心してはならなかった。
──エジプト。
「ハイヨー!」
「「シルバーー!!」」
「スフィンクスは馬じゃない!!!」
──ペルー。
「よっしゃ、出来た!」
「「黒竜!!」」
「地上絵増やすなーーっっ!!!」
──オーストラリア。
「お、ここ登ったらアーポアクあるんじゃね?」
「「ただいまー!!」」
「地球のヘソにあるなら作者だって行くわっ!!!」
──カンボジア。
「んじゃ、ヒナが鬼なりよ!」
「「かっくれろー!!」」
「アンコール遺跡で捜せるかーーっっ!!!」
──フランス。
「アズん家に寄ってこーぜ」
「「アッサヒー!!」」
「ベルサイユ住まいだと!!?」
──スイス。
「よーれろーれろひほーん♪」
「「ヨヒドゥディ ヤホッホー!!」
「登っても……はあ…おんじは、はあ……いないぞ」
──日本。
「このブラ、ヒナによくね?」
「「パンツも!!」」
「おまわりさーーんっっ!!!」
などなど、地球は三馬鹿(こいつら)にとって、またとない遊び場だった。
しかも揃って魔法が使えるせいか警察に捕まることなく空にも影にも移動し放題。ちゃんと入場料は払っているのだが立入禁止区域侵入しまくりと、どの世界にいても迷惑をかける一家。良い子も悪い子もマナーを守って旅行をしてくれ。
「なんだヒナ。楽しくねぇのか?」
昼下がり、都心から離れた山道を歩いていると、いつもより低い声に振り向く。
腰まである漆黒の髪を後ろでひとつに結い、黒の長袖、ジーンズ、ブーツを履いた男はどこから見ても“日本人”。整いすぎてる顔には文句を言いたいが。
そんな男の身長と肩幅はいつも見るものより大きくて広く、胸元には『宝輝』が付いた十字架のネックレス。正真正銘アーポアク国王であり旦那でもあるイズの意地悪な笑みに溜め息をついた。
「楽しいのは楽しいが、疲れが数十万倍あるし、残してきた子供達が……ああ、あいつらちゃんと世話してるだろうか! 風邪引かせてないだろうか!? あああ!!!」
立ち止まった私は両手で顔を覆う。
地球に来た時は春だったのに気付けば冬! 半年以上子供達に会えないのは辛い!! うわあああん!!!
悲鳴を上げる私に、ストールを巻いた息子、キャスケットを被った娘がイズの元へ駆け寄ってきた。
「母さん、またホームシック?」
「向こうなんてまだ三週間ぐらいしかたってねーのに、心配性だなー」
「しかも旦那達への心配がひとつもないなりね。ま、ガキが生まれると旦那なんて二番三番って落ちてくもんか」
「「イズ父さん何番目に入ってるかな?」」
「もち、一番☆」
「今回ので最下位だーーーーっっ!!!」
自信満々で自身を指す男の背中を叩くが、すぐ手を掴まれた。
背中と同じように硬くて大きな手に目を見開くと、口付けた指輪の宝石と同じ漆黒の瞳と目が合う。
「んじゃ、今日中に一位にしようか。ヒナ?」
「~~今日はフィーラかっ!!!」
「や~ん、顔真っ赤でかっわいいっだ!」
おちゃらけた態度に戻ったイズの脚を蹴る。
さすがに痛かったのか、ぴょんぴょん跳ね回っているのに構わず足を進めた。
毎日のように他の旦那達の仕草を言葉を刺激を与える男。
もちろん本物には及ばないが、顔が赤くなるのは“イズ”自身に言われているように錯覚するからだ。あまり傍にいない男など旦那ランキングでも最下位だというのに。
「父さん、この辺じゃない?」
「母さんと同じ匂いするぜ」
「匂い?」
生い茂った草を風魔法で切った双子達が元気に両手を振る。
無計画な三馬鹿のおかげでてっきり今度は鬼ごっこでもするのかと思ったが、双子の頭を撫でるイズの優しい笑みに違う気がした。
「ビンゴだな。やっぱさすがに残ってはねぇか」
「なんだ? 何かあるのか?」
「覚えがあんのはヒナだと思うけどな」
変わらずわけのわからないことを話す男に片眉が上がるが、手招きされた私は三人の元へ向かう。するとイズは地面を指した。
「ここにヒナの両親と祖母(ばあ)さんが眠る墓があったんだよ」
「!?」
目を見開くと大きな風が吹く。
私が異世界(アーポアク)へ墜ちて十年。けれど、時の流れが違うアーポアクでの一ヶ月は地球だと一年。つまりこの“日本”という国から私が消えて──百二十年の時が流れたのだ。
百年なんて聞いただけではピンとこない。
最初降り立った時、目に映るものが殆ど高層ビルで、乗り物も私が知る物ではなく“日本”とは思えなかった。洋一も愛ちゃんももういない、自分の家も両親と祖母が眠る場所も何もわからない“ここ”が本当に自分の国なのか戸惑うほど。
「ワールドツアー、はじまりとおわりは母国で。そんで“妻”のご家族に挨拶ってな」
呆然と立ち尽くす私とは反対に、イズはバックから取り出した五つの写真立てを地面に並べる。それは他五人の旦那達の写真だが、なぜか写真立ての上には白と黒のリボン……。
「って、それ遺影じゃないのか!?」
「一番のキメ顔を選んだんだぜ。えーと、早死にしそうな順に並べんなら一位のアズが最初か」
「歳順にバロンが先じゃねーの?」
「だったら次はベル父さん」
「やめんかーーーーっっ!!!」
不吉すぎる会話に三人の頭を叩くとリボンを解き地面に置く。
ここが本当に家族が眠る場所かはわからない。でもイズの笑みに嘘とも思えず、身を屈めると静かに口を開いた。
「えっと……お久し振りです……いなくなってしまって心配をかけたと思います」
「母さんが敬語で話してる」
「こえ~っわ!」
コソコソ話す双子を抱き寄せると、写真を横目に笑みを浮かべる。
「暴れ回る私にも愛する人達と出会うことが出来て……九人の子供達に恵まれました」
「は、はじめまして……ナツキです」
「イヅキ……です」
照れくさいのか、急に大人しくなった双子だったが、ナツキもキャスケットを外して頭を下げる。そんな私達を後ろから抱きしめたイズは手を上げた。
「どうもー、俺様誰様ヒナを嫁に貰っちゃったイズでーす」
「チャラ男か」
雰囲気台無しな男に双子と共に呆れる。
くすくす笑うイズは双子の頭を撫でると私の頬に口付け、地面に視線を移した。
「改めて、イヴァレリズ・アンモライト・アーポアク。強気でツンデレでハリセン振り回すお嬢さんにいつもイジメられてます」
「おい」
「けど、バカなほど一直線で一生懸命な彼女に俺達も国も助けられました」
恐れ多い言葉に口を挟もうとしたが、微笑むイズの横顔に魅入ってしまい何も言えなくなってしまった私は耳だけを傾ける。
「御二人と御祖母さんが護ってくれたおかげで娘さんは俺達の下へと来てくれた。今、腕の中にいる輝石達は宝物です。ありがとう、そしてこれからも空から見守ってください」
変わらない声は静かに、けれど心地良いほどに優しい。
全然態度の違う男に頬を膨らませながらも熱を帯びた頬は朱に染まる。と、耳朶を舐められた。
「ひゃっ!」
「おっ、厭らしい声が出たな。双子、テキトーに連中への土産でも買ってこい。魔法は『冬の七不思議』特集に出演しない程度に使えよ」
「「はーい!!」」
元気な声と手を上げた双子は『風』を纏うと宙へと飛び立った。
慌てて手を伸ばすが、イズの両手に上着を捲くられると黒のインナーが露になる。そして当然のように両胸を鷲掴みにした。
「あっ、ちょっ!」
「ほらほら、成長したとこ両親に見せようぜ。お胸なんて出産でさらにパワーアップ」
「一番いらん報告だ! っん!!」
服越しでも、大きな手で揉みしだかれる胸が厭らしく形を変える。結界類が張られている思うが、ベル以上に意地悪な男が本当に張っているかはわからず、必死に声を堪える。
「いつまで保てるかね~。そしてやっぱ生じゃねぇと俺ヤだわ」
「あっ、こらっ!」
インナーも大きく捲き上げられると同時にブラホックも外され、ぶるりと大きな乳房が揺れながら露になった。耳朶と首筋を舐めるイズは嬉しそうに乳房を掬い上げては揺らす。
「ああっ、あ……」
「ん、大きくなったどころか感度も良くなったよな。ほら、こんなにツンツン」
「んあっ!」
冷たい風のせい、と言いたいが、既に硬くなっている乳首は摘まれただけで刺激に変わる。徐々に震えだす脚に気付いたのか、イズは地面に座り込むと手を差し出した。息を荒げたまま応えるように彼の膝に向かい合って座ると抱きしめられる。両手を首に回せば漆黒の瞳が合い、口付けた。
「んっ……あん、ん」
「ん……さっすが半年以上……一緒いるとわかるか」
後ろ頭を押さえられ、入り込んだ舌が奥まで伸ばされる。
どの国、どの場所でも構わずはじめる男に慣れたというより、身体が覚え、求めてしまうのだ。特にあまりしない唇と唇が触れた時は嬉しくて、何度も繰り返す。
「や~ん……ヒナがエッロ~い……やっぱ俺が一番じゃねぇか」
「ち、違う……こともない……かも」
「………………ツンデレって可愛いね」
「は……っああん!」
からかうのではない照れた声が聞こえた気がしたが、両手で胸を中央に寄せた男は谷間に顔を埋め、グリグリと顔を揺らす。そのまま舌で両胸の乳輪を円を描くように這わせるとカプリと先端に吸い付いた。
「はあぁぁっん……んっああ」
「んっ……ミルクも零して……よっぽど気持ち良いのか……ヒナ?」
「んんっ」
吸い取られる乳房と、揉まれ搾り取られる母乳に身体はもう快楽に溺れている。先端から口を離したイズと口付けると甘い味。小さな口付けを繰り返しながらズボンのチャックを開くイズに、慣らされた身体を屈め、いつもより大きな肉棒を両手で取り出す。
「ほら、次は俺を気持ちよくさせろよ」
「んっ……」
ニヤニヤ顔の男に構わず胸の谷間に肉棒を挟むと上下に揺する。
なんの抵抗もなく場所も関係ない自分が怖いが、今は頭上から聞こえる呻きと頭を撫でる手が嬉しい。頬を赤めたまま先端を舐め吸い付くと、口内で肉棒が大きくなった。
「や~ん……ヒナがプロになってきた……んっ、帰ったら……あいつら一発でイかせられるぜ」
「今は……んんっ、貴様だ、んっ!」
肉棒を咥えているとイズの手がタイツとショーツに入り、既に濡れている秘部に指を入れられる。グチュグチュと聞こえる音が恥ずかしくて、咥える肉棒を激しく上下に揺すった。
「っ!」
「あんっ!」
呻きと共に肉棒から口を離されると膝立ちさせられ、タイツとショーツを下げられた。驚く暇もなく両手で腰を落とされると肉棒に貫かれる。
「あああぁぁんっ!!!」
「っあ……マジで先にイくとこだった」
「あんっあっ……」
先ほどのお返しのように今度は腰を上下に揺す振られ激しく突き上げられる。彼の形を覚えた膣内は滑るように簡単に入っては出てを繰り返すが、大きくなる肉棒までは予想外。締め付けると同時に絶頂が上る。
「先に……っイけ」
「あああぁああああっっ!!!」
描かれる口元の弧と噴き出す白液に背が大きく反る。
眩しい太陽と空はアーポアクと何も変わらない。抱きしめてくれる男が一国の王であり、世界で珍しい漆黒の黒竜ということ以外は。
けれど、この国では普通の色。
太陽で光る艶やかな彼の漆黒は、この地球で一番綺麗だ──。
~~~~*~~~~*~~~~*~~~~
雲の隙間から月が顔を出す。
何も変わらない空にアーポアクと勘違いしそうになるが、身体は“違う”と言っている。けど、受け継いだ記憶と手に握る『宝輝』は高揚感に包まれていた。まるで帰郷を喜ぶかのように。
「んんっ……」
「お、エロい」
座敷に敷かれた布団で眠るヒナが横を向くと、着物の隙間からブラもしていない胸がポロリと出る。ギリギリ乳首が見えないとこが余計エロくて俺は親指を立てた。
くっそ、スティのヤツ、美味しい服の街に生まれやがって。
はじめて訪れた異世界。そして一応、俺の故郷にもなる国は小さかった。
けど、見たことないもの、面白いものがいっぱい。しかも何百国もある国は国ごとに違う文化を持ち、言葉を持ち、全部が勉強になった。インディアンや中国服のヒナはエロかったし、今度町か村を創る時の参考にしようと思う。自由の女神様が貧乳だったのは残念だったけど。
そんなことを考えていると火ではない『でんき』が点いた隣室から同じ漆黒の髪と瞳、着物を着た小さな輝石達が顔を覗かせた。ヒナが寝ているのがわかったのか双子は小声で話す。
「父さん、ラピ○タ観ないの?」
「金曜ロード~」
「ん~今日は千尋みたいに夜空を見とくなりよ」
小さな隙間を開けた窓から風を受ける俺に、双子は顔を見合わせると部屋の『でんき』を消し、影を使って俺の元へとやってきた。まだまだ危なっかしい部分はあるが、前回会った時よりは上達している我が子達を褒めるように頭をガシガシ回す。
ヒナと出会い、双子が生まれて十年。
最初の内は育児放棄に等しいほど国に帰らなかった。北でいざこざがあったり、新しい国にかかりっきりだったってのが言い訳。まあ、既に『永久不在』のレッテルを張られていたから意味ねぇけど。
そんな新しく創った国が三年前に出来た。俺命名の国の名は──パイライト。
……今、アレが浮かんだヤツはエロいなりね。ちゃんと宝石があるんだぜ。
それが無事終わったのと、育児が一息ついたヒナに妻孝行、あんま遊んでやれなかったガキ共に父っぽいことをと考えた『地球旅行』。仕事脳になるのは仕方ねぇけど、なんだかんだでヒナと双子も笑顔見せてくれたし、来て良かったと思う。
「父さん、明日からはどうするの?」
「ん~、ツアー最後はこの日本だからな。南から北に行く感じ」
「じゃあ『おきなわ』で母さんの水着だ!」
「お、イヅキわかってんじゃねぇか」
さすが俺の息子と手を握る。
ドヤ顔を見せるイヅキとは違いナツキは呆れているが、構わず俺は言った。
「ナツキも早く胸大きくなると良「母さん、父さんがセクハラした!」
眉を上げたナツキは眠るヒナに抱きつく。瞬間、俺とイヅキはハリセン。ではない、旅館の土産屋で購入したピコハンで叩かれた。
「「いっだ!!!」」
加減なしはさすがに効いて頭を抱えるが、不機嫌顔で上体を起こしたヒナの胸ポロリのエロさに親指を立てた。また叩かれる。
「こんのっ、エロ男。娘にまで手を出すとは……」
「や~ん、誤解なり。俺は巨乳、特にヒナのしか興味なっとと!」
「っあん!」
またピコハンが来たが、影に潜り、後ろから抱きしめる。当然おっぱい揉み揉み。ん、デカくて柔いし百点満点花丸~~。
大満足で胸を揉んでいるとジタバタ動くヒナの薬指と自分の薬指で光る指輪が目に入る。
子に無関心な親父から唯一貰った指輪。
いつか一目惚れした女に渡せと言われた指輪。なんで“一目惚れ”前提かはわからなかったが間違いではなかった。頬が緩む俺にジタバタ動いていたヒナは身体を止め、首を傾げる。
「どうした?」
「いや……な、ヒナ。キスして」
「はあっ!!?」
「キスキスキスキスキスキスキス」
「「キースキースキースキース」」
連呼する俺にヒナは耳まで真っ赤にするが、面白がるように双子もハモりだすと観念したような逆ギレのようなキスをした。“ちゅっ”と、小さなリップ音がしただけで、すぐ離れたキス。
俺は笑みを作るとヒナの顎を持ち上げた。
「全然ダメだ。もう一回」
「「もーいっかい!!」」
「かかかか勘弁してくれ!!!」
素直じゃないツンデレにニヤニヤすると布団に押し倒し顔を肩に埋める。
頬に掛かる髪は、俺を映す瞳は同じ漆黒。けど他にもたくさんいたことに内心喜ぶと同時に肩を落とした。世界で俺と同じはヒナと血を分けたガキ達だけで良いという独占欲。
鎖骨を舐め、胸に舌を這わせると頬を朱に染める女。
こんな面白くて可愛い女を見つけたら捕まえておかないとダメだ。たとえ他に旦那がいても、黒竜の名の下に蹴散らして溺れさせてやる。
ただ一人、愛する妻だけを────。