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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*出来る場所

 それはひらひらと飛んで行く。
 昼夜問わず翅をはばたかせ、空を飛ぶ。
 決して地上に下りてくることはない。

 けれど──。


* * *


 荒い息を吐きながら螺旋階段を上り、三十階に辿りつくと両扉に手を付ける。
 昔は紙束が扉前まで積み重なり倒したことがあるが、今はないとわかっているため勢いよく開いた。

 

「大変だバロン! イズが死んだ!!」
「ええ~今の~バンジ~ジャンプで~~?」

 

 黒の宝石が付いた金色のバレッタで留められたミントグリーンの髪を揺らす旦那──バロンは後ろの窓を指す。見れば、一本の縄がピンッと張られた縄を巻き付けたイズがドヤ顔ピースで上げられて行った。
 バロンの隣で書類束を持つ息子、ヒュウガが金色の双眸を私に向ける。

 

「母上、もしかして家の植物のことですか?」
「え? ああ、そうそ。バロンタウンのな、六丁目に住んでいたイズが三丁目に住むスティに喰われて死んだんだ」
「ヒュウガくん、通訳」
「食虫植物を置いてるハウスのことを母上は『バロンタウン』と呼んでいて、種類事に町内分け、父上方の名前を付けてるんです。アンダースタン?」
「紛らわしいな~~」

 

 ヒュウガと同じ笑みを向けながらバロンは息子の頭を猛スピードで何度も叩く。バロンの頭をハリセンで叩いた私はヒュウガの頭を撫でた。
 さすがヒュウガは理解が早くて助かるな、うむ。そもそもスティには『人を殺すのダメ』と言い聞かせてあるから殺すわけなかろう。

 

(毎月四人ぐらい死亡届け来るよね~?)
(きますね。母上に手を出したからって理由で)
「? コソコソ何を言っておるのだ」
「いえ、何も」
「ともかく~植物世界も~弱肉強食~だから~気にしないで~~」

 

 同じ笑みを返す父子に頷くと、バロンは判子を終えた書類をヒュウガの持つ書類の上に乗せる。礼をとったヒュウガはそのまま各部署に届けに出て行った。
 まだ小さいのに出来た息子だと頷いていると手を引っ張られ、椅子に座るバロンの膝に背を向け座る。振り向こうとしたが服越しに両手で胸を揉みしだかれ、うなじを舌が這う。

 

「あっ……こら、ん」
「終わったんだから……別にいいだろ」
「んっ!」

 

 語尾が伸びない囁きに身体が跳ねる。
 くすくす笑うバロンは首筋に吸い付くと服越しのままブラの隙間に両手を入れ、指で先端を擦った。薄いカットソー一枚のせいか布生地のくすぐったさが簡単に全身に伝わり、下腹部を疼かせる。

 

「こらっ……するなら……ちゃんとしろ」
「なんのことかな~?」
「とぼけ……っあん!」

 

 服と一緒に先端を引っ張られ声を上げる。
 同時に搾られたミルクが服を濡らし、薄っすらとシミが見えた。私の顔は真っ赤。恥ずかしさに身体を動かすが、バロンは笑いながら濡れた服の上から胸の先端を摘んでは押す。

 

「こらこら~そんな~動かない~」
「なら、せめて服を脱がせろ! 服越しは嫌だ!! 生が良い!!!」
『なり~~~~~~!!!』

 

 私のとんでもない大声と共に、バンジーを楽しむイズが猛スピードで墜ちて行くのが窓越しに見えた。私を抱えたたままバロンは窓を開けるとローブの下に隠していた剣を抜き、縄をブチッ。あ。

 

「や~~~~~~ん!!!」
「「父さーーーーんっ!!!」」

 

 命綱を無くしたイズは真っ逆さまに墜ち、双子の声が屋上から響く。が、そんなの気にしないバロンは『解放』した剣を伸ばすと、数メートルほどに切った縄を手に入れ窓を閉めた。
 呆然としている間に服も下着も脱がされた私は椅子に座らされるが、ニ等分に切られた縄で両手を後ろで、両足は太腿で縛られ……。

 

「なんでこうなった!!?」
「え? 服より裸がいいんでしょ?」
「いやいや、それで縄はおかしいだろ!? あとフィーラよりイズの扱いが酷いぞ!!!」
「この世で一番死なない男だから大丈夫だよ。多分」
「鬼畜っん!」

 

 ツッコミを唇で塞がれると片手は胸を揉まれ、片手は零れる愛液を止めるように指を秘部に入れられる。ゆっくりではない荒い口付け、胸を揉みしだく手、ニ本の指を上下に激しく抜き挿しされ、一瞬で身体が快楽に変わった。

 

「んああっ……んっ、はァああんっ……あぁ!」
「んっ……すっごい感じてるね……希望が叶って嬉しいんだ」
「バ……カっあああ!」

 

 強い刺激に大きく身体が跳ねても、手足の自由を奪われた私は逃れることは出来ず、ただされるがまま。その快楽を楽しそうに与えるバロンは金色の瞳を細め笑う。

 

「もう色々と噴き出してるくせに……バカとか言うと……もっと“啼かせろ”って言ってるもんだろ」
「ひゃああぁああっ!!!」

 

 さらに加速する動きに口からも喘ぎと共に唾液が、ミルクが、愛液が零れる。抱きつきたくても、肌を感じたくても、囚われた身体では叶わず涙を零すと一気に秘部から指を抜かれた。荒い息を吐く私の前には、指に付いた愛液を舐めながら自身のズボンを脱ぐ男。
 妖しく見える姿に身体は紅潮するばかりで、すぐ愛液が零れる。

 

「あ~あ……何もしてなくて零すとか……本当に奥様はドMだね」
「き、鬼畜な……旦那のせいだろ、んっ」

 

 頬に膨張した肉棒を宛がわれると口を開き、咥える。
 頭は手で押さえられ、何度も喉の奥まで招いては出して舐めるを繰り返した。次第に、頭上で笑うバロンも呻きに変わる。

 

「ああっ……ドMのくせして……可愛いことするよね」
「うるしゃ……んんっ!」

 

 “可愛い”に反応していると口内で射精され、肉棒を離すと椅子に背を預ける。
 だがすぐに縛られている脚を上げられ、自分の口から垂れているものと同じ白液が付いた肉棒の先端を秘部に挿し込まれた。

 

「んっああぁぁ……!」
「まだっ……零れてくるとか……どんだけMっ!」
「バロ……っんん!」

 

 緩むことなく真っ直ぐ突き進む肉棒は優しくない。
 それでも身体は悦ぶように繋がった場所から愛液を零し、口付けられるといっそう高揚感が高まる。わかっている男は口元に弧を描くと腰を大きく振り、何度も癒着を繰り返しながら絶頂へと導いた。


「ほらっ……気持ち良いって……言って……イきなよっ」
「き……気持ちいぃいっああああ!!!」


 すべてを噴き出すと大きく身体が反る。
 薄っすらと目を開いた先には窓の外を飛ぶ蝶。決して自由ではない目先の蝶とは違い優雅に飛ぶ蝶。

 

 けれど、私を抱きしめ全身に口付けを落とす彼にとって、今が翅を休ませることが出来る場所だと嬉しい──。


 

~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 


 一匹の蝶に気付くが、すぐどこかへ行ってしまった。
 構わず意識を飛ばしたヒナタちゃんの腕と足を解放し抱き上げると、奥の寝室へと運ぶ。以前まで置いていた食虫植物はドラバイトに建てた新居に移したため、今はベッドだけ。
 愛液を拭き取った裸体のまま寝かせるのは、起きてもすぐヤるとわかっているからだ。半分は顔を真っ赤にさせて怒る彼女を黙らせるのが楽しいから。

 

「バロ……ンの……鬼畜」
「はいはい、褒め言葉だね」

 

 寝言でも文句を言う彼女に笑うと口付け、外れかけていたヘアゴムを髪の毛が絡まないように取る。アクロアイト石に翼のある竜と蝶が彫られた物は本来はブローチ。けれど、いつの間にかヘアゴムになってしまった。まあ、使ってもらえているならいいんだけどね。居場所を掴むための物だったとしても。
 苦笑しながら彼女の手首に巻くと、金色に変わった蝶を撫で、静かに部屋を後にした。

 

 自分の汗も拭きバレッタを外すと、ゴムで長い髪を後ろで結いながら部屋を出る。扉の前では小さな輝石が新しい書類を積み重ねていた。固まった僕に同じ金色の瞳が向けられる。

 

「あ、終わったなら仕事してください」
「もう少し父を労わろうよ~僕~もうそんな若くないよ~~」
「母上を襲う体力あるくせに何言ってるんですか」
「笑顔でひっど! 誰に似たの!?」
「残念ながら目の前の人ですね」

 

 笑みを向ける息子に溜め息をつくと頭を撫でる。
 それが意外だったのかヒュウガくんは数度目をパチクリ。そういうとこは彼女に似てるなと苦笑すると背を向けた。

 

「ちょっと風に当たってから仕事するよ。書類はそのままでいいから、ヒュウガくんも休憩しといで」
「……逃げませんよね?」
「逃げないよ~今日は~家に~帰る日~だからね~~」
「ロジエット殿のところには行かないんですか?」
「行かないよ……それは僕の役じゃないからね」

 

 彼がもう長くないことは体調を崩した時からわかっていたことだ。
 だからこそ彼も僕には来てもらいたくはないだろう。僕の居場所、仕事は『宰相』だと叱咤する姿が浮かぶし、そういう“親”だ。
 ドラバイトの将来もバカアウィンが継ぐと先に宣言しちゃったから、何がなんでも離れるわけにも辞めるわけにもいかない。

 

 でも休憩は大事だと言うように上を指すとヒュウガくんは一息つき、書類を中へと運び入れる。真面目なところも彼女に似たようで笑うしかない。そんな妻に習うように螺旋階段を上るが、さすがに四十五にもなると辛い。今でも一階から三十階まで駆け上がる彼女ってなんなんだろうね。

 

 そんなことを思いながら屋上に出ると眩しい太陽を手で遮った。
 髪とローブが風で流され、頭上で揺れる黒竜の旗をしばし見つめると顔を伏せる。が、目先に立つ珍しい背中に目を見開いた。それは彼女と同じ漆黒の髪。けれどローブと、地面に着きそうな長いマフラーを巻いた──前王、レウッドットー。

 

「どしたの~昼間に~出てくるなんて~珍しいね~~」

 

 変わらない声で訊ねる僕に漆黒ではない、赤の双眸を向けたレウくんもいつもの無表情で返すと顔を戻した。慣れているせいか、背中合わせになるとドラバイトを見つめる。
 冬の冷たさが肌を伝っても『地』の恩恵を受ける南の大地は乾いていた。それでも多くの人々の姿が見えると呟きを漏らす。

 

「十八年前と……何か変わったかな」

 

 静かな声に答えは返ってこない。
 けれど白と黒のローブが当たる音に彼がまだそこにいるのがわかり続けた。

 

「この場所で『宰相になれ』って言われたけどさ……結局僕は何も出来なかったと思うんだ……全部……ヒナタちゃんのおかげ」

 

 懐から取り出したバレッタには宝石で創られた黒蝶が飛んでいる。
 嘘を付き続けてきた僕にも渡された証に苦渋の色を浮かべていると、低く静かな声が聞こえた。

 

「…………好きな女じゃなかったのか?」

 

 珍しい返答に少し驚くと苦笑する。
 だって“好きじゃない女”だったら結婚なんてしない。一緒にいたいと思わない。少なくとも僕も他の連中も。そりゃあ『四聖宝』と違って僕が彼女に忠誠を誓ったのは後だ。“好き”だと気付いたのもその時。それまでは……まだ手探りだったんだと思う。

 

「レウくんはさ……なんでジェビィちゃんと結婚したの?」
「…………傍で縛っとくため」
「うっわ、重っ! 拉致人間が言いそうな台詞!! そんなんでよく好きになってもらえたね」
「…………“好き”と言われたことがない」
「それ……大丈夫?」

 

 結婚して四十年以上は経つくせになんて男だ。
 でも、それは僕にも言えることで押し黙るしかない。考えれば、あんまりヒナタちゃんに『好き』って言われたことないかもしれない。むしろ……あったけ?

 

「「…………」」

 

 長い沈黙が続く。
 いや、今になって考えるっておかしいけどね。好きじゃなかったら結婚してないと思うけどね。ヒナタちゃんツンデレだからね。優柔不断だから六人とも結婚しちゃっ……選べなくて全員と結婚したんだろうか。

 嫌な考えに唸っていると、レウくんは階段に向かって歩き出す。途中止まった彼はチラリと僕を見ると小さく口を開いた。

 

「……………『四宝の扉』もだが……お前とイヴァレリズが結婚しただけ……変わっただろ……特に昔のお前は……空っぽの身体で、たださ迷うだけの死神だったからな」

 

 その言葉に目を瞠る。死神なら騎士団長時代の頃だ。
 でも、あの頃は王に、レウくんに会う目標が……ああ、会えなくて苛立ってた時なら“さ迷う”は当たってるかもしれない。そしてそれは変わらない。

 

「今も迷ってるよ……奥さんが本当に僕が好きか」

 

 風で揺れる髪を流しながら苦笑を向ける。
 そんな“らしくもない”僕に、レウくんは数度瞬きすると首を傾げた。

 

「それが…………夫婦だろ」
「え?」
「相手が自分を好きか考えるのは当然だ……そして……それを口から言わすため……身体を繋ぐんだろ……怒られてもな」

 

 淡々と話す男に唖然とするしかない。
 完全に言ってることが無理やりに聞こえるが、それが彼の属性とも言っている。溜め息と共にふと気付いた。

 

「もしかしてレウくん……ヤりすぎてジェビィちゃんを怒らせたから屋上に逃「『墜影落』」

 

 静かな声と共に僕の足元に穴が広がり──墜ちた。

 


「うわあああぁぁあーーーーっっっ!!!」

 


 断末魔にも聞こえる悲鳴は『大あたり』と言うのにふさわしい声で、痛い床に全身強打するという仕置き付き。痛い上体を起き上がらせると、目先にはシャツ一枚のヒナタちゃんとヒュウガくんが宰相室のソファに座っていた。

 

「貴様、愉快なことをするのは構わんが、歳を考えろ」
「母上をヤったバツじゃないですか?」
「む、それはザマーだな」

 

 微笑むヒュウガくんを抱きしめるヒナタちゃんは笑顔。
 その笑顔にプツンと何かがキレると、立ち上がり彼女の顎を持つ。さすがに空気でわかったのか、彼女の顔が青くなるが、僕は笑みを向けたまま訊ねた。


「ヒナタちゃん、僕のこと好きかな?」
「い、今は……キライ……デスネ」
「そっか~それなら~──好きって言わせようか」


 声にならない悲鳴が部屋を包もうとするが、額を押さえるヒュウガくんに構わずソファに押し倒す。一瞬目に映ったのは三枚の写真。ツンデレな彼女は早々に言ってくれる子ではない。だから他の男達のように“好き”を“愛している”を言わせよう。

 

 “愛する妻(ワイフ・ラブ)”の前では弱音も不安も悟らせはせず、快楽だけを与え、言葉を言わせる。それが僕だから────。

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