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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*恥ずかしがり屋

 それは真っ直ぐ一直線だ。
 思考も行動も己が突き進む通りに駆ける背中。
 どうしようもなく思えても清清しい暴勇。

 けれど──。

 


* * *

 


 昼時のせいか、ドラバイト役所も数えるほどの所員と客しかいない。
 赤のハチマキと紫のブレスレットを左手首につけた私は木椅子に座り、ホカホカの棒チキンを左右に揺らしていた。

 

「だからな、その肉を各街と交換するんだ。特に南は野菜が高くて困る」
「ウチは日照りが多いからなー……野菜ならアズフィロラんとこか」
「うむ、最近は家庭菜園にも手を出してな。そろそろ大根の収穫時期だ」
「いや、ルベライトの話をしてるだけで、誰もヤツから奪おうとは言ってねーよ」

 

 机を挟んだ向かいに座るのは前分けされた茶髪。
 数個ボタンを開け、腕捲くりした白のシャツに濃茶のベストとズボン。左手首には同じ赤のハチマキと黒の宝石が付いたブレスレットを身に付けている旦那──アウィン。

 

 役所の『相談課』主任である彼の紫の瞳は棒チキンを追っている。すると、かぶり付かれたどころか奪われた。椅子に背を預け、大きな口でモグモグする。

 

「んじゃま、あとふぇアジュフィロリャ達にいっときゅっだ!」

 

 食べながら話す旦那に教育ハリセン。
 木霊する音に所員達に笑われるのは定番になったからだろうか、少々恥ずかしい。顔を真っ赤にしたままハリセンをヘアゴムに戻していると、駆けてくるブーツ音を耳がキャッチ。すぐさま立ち上がると、大きく両手を広げた。

 

「母ちゃーーーーん!!!」
「アンナーーーーっ!!!」

 

 跳び付いてきたのは茶髪のポニテールを赤のハチマキで結った娘、アンナ。
 抱き留めた私は同じ笑顔のアンナと頬ずりする。直後、分厚い本で頭を叩かれた。

 

「っだ!!!」
「母ちゃん!?」
「テット兄!!!」

 

 慌てて立ち上がり、机を跨いだアウィンは私とアンナを抱き込むと、共に目先の男を睨んだ。眼鏡を掛け、大きな息を吐いたドラバイト役所の所長でもあり、義兄となった手羽先を。

 

「テヴァメットスだ。その頭に学習能力はないようだな。あれほど所内でハリセンを振り回すなとも言ったのに」
「ふん、そんなの『ハリセン禁止』の紙を貼っておらぬ役所が悪ととと!」
「はいはい、昼飯いこーぜ」

 

 串をゴミ箱に捨てたアウィンに腕を引っ張られる。
 顰めた顔の手羽先を残し歩く廊下に誰もいないのは『関係者以外立入禁止』なのもあるが、殆どの者が外に昼食に出ているせいだろう。窓から射し込む陽以外は私達の靴音しか響かない。
 裏手にある新居で昼食を摂ろうとしているのだろうかと考えていると、腕から下りたアンナが口を開いた。

 

「父ちゃん、あたしと母ちゃんはもうお昼食べたよ」
「うむ、今日も姑とバトってイノシシ餃子を渡してきた」
「相変わらずだな。つーか、棒チキンがオレの飯とか言わねーよな?」
「棒チキンは癖だ。なぜか持ってきたくなんっ!」

 

 勢いよく引っ張られると顎を持ち上げられ、口付けられる。
 いつもより荒く、離れてもすぐ吸いつかれての繰り返しだ。最初は身じろいでいたが、腰に回った腕と、口内を掻き回す舌に気持ち良くなってくる。

 

「父ちゃーん、こっちの部屋あいてるよー」
「っ!?」
「おう、サンキュー」

 

 娘の声で我に返った私の顔は真っ赤。
 その隙に横抱きしたアウィンは長机と椅子が並んだ会議室に入り『じゃっ!』と、空気の読めている娘が静かにドアを閉めた。今時の五歳児は凄いな。

 

「そんだけ、おめーが他の連中としてるとこ見てんじゃねーか?」
「バ、バカを言うな! そもそもしてきたのはアウィんっ!?」

 

 長机の天板に下ろされると、反論の言葉がまた口で塞がれた。
 さっきほどの勢いはなく、ゆっくりと唇を合わせては舌でなぞり、私の舌と絡ませる。急に優しくなった唇に疑問を浮かべていると、服を捲くし上げられ、ピンクのブラが露になった。

 

「ちょ……アウィン」
「腹減ってんなら、傍にいた嫁を食うもんだろ」
「は、腹減りと言うより、腹を立ててないかっあ!」
「わかってんじゃねーか」

 

 背中に回った手にブラホックを外され、解放された乳房が大きく揺れる。谷間に顔を埋めたアウィンは口付けを落とし、乳輪を舐めると先端にしゃぶり付いた。

 

「ひゃっ!」
「他の連中もだけど……ん、オレらは嫉妬深いんだよ」
「嫉妬って……手羽先のことか……ああっ!」

 

 正解=禁句だったのか、臍を押され、大きく身体が仰け反った。
 片腕で支えてくれた彼に誘われるがまま天板に寝転がると手羽先など範囲外だ!、の眼差しを向ける。が、年上旦那が三人いるせいか説得力ない、みたいな意地の悪い笑みを返された。

 

 押し黙っていると臍を突かれる。
 そのまま片胸にしゃぶり付き、ミルクを搾り取るように吸い上げた。さらにショーパンのファスナーを下ろした手がショーツ越しに秘部を擦る。

 

「ああっ、あ……」
「んっ……すっげー濡れてんぜ……吸われてんのと突かれてんの……どっちで感じてんだ?」
「そ、そんなのわから……っ」

 

 楽しそうに笑う声を聞いていると、ショーパンもショーツも床に落とされ、両脚を掴まれると開脚させられた。当然秘部から零れる愛液が丸見えで、慌てて両手を伸ばすが、指を一本挿し込まれる。

 

「あああっ!」
「お、また増えた……おめー、感じるの早ぇって」
「き、貴様……なんかバロンに似てきてないか?」
「あのドSよりはマシだ!」
「ああんっ!」

 

 またしても禁句を言ってしまい、指が三本になったばかりか、臍も突かれた。このダブルパンチはキツイ。暴勇のイジメだ。
 そんな思考を読まれたのか、愛液と一緒に秘部を舐められた。

 

「ひゃあっ!」
「イジメられんのが好きなら……ん……好きなだけイジメてやんぜ……でも、おめーは……」
「あっ、あんっ……あ」

 

 愛液を舐め取る舌は速く、淫らな水音が室内に響く。
 暫くして舌が離れたと思ったが、熱を帯びた秘部がひんやりと冷気に晒された。途中で放置されるものほど拷問だと内心泣いていると、両脚をアウィンが持つ。同時に秘部に生温かいモノ、肉棒の先端が宛がわれた。股間から顔を覗かせるアウィンは口元に弧を描いている。

 

「イジメられんならこっちの方が好き──だろっ」
「ひゃああぁぁぁーーーーん!!!」

 

 答えなど聞かずとも一気に挿入された。
 太腿を掴んだまま腰を動かされるとガタガタと机の音が響くが、身体は悦ぶかのように仰け反ってしまう。膣内を暴れ回る肉棒は速さを増し、絶頂が駆け上ってくると涙目で両手を伸ばした。

 

「アウィ……ンンンっ」

 

 汗を落としながら挿入を繰り返す男は私の両手を握ると口付けを落とす。それを何度か交わすと、紫の双眸を見つめたまま訊ねた。


「お腹……まんぱん……なったか?」
「バカか……っ!」
「ンあああぁあぁーーーーっっ!!!」


 またまた禁句だったのか、勢いよく貫かれると膣内で熱いモノが飛び散り、世界が真っ白になる。それでも暴勇は私の意識が遠退いても暴れ続けた。いったいどんだけ貪る気なのか。
 けれど、それは朱に染まった顔を見せたくない照れ隠しだと知っている。

 

 私のヒーローはとても恥ずかしがり屋だと、内心笑いながらイったのは内緒だ──。


 

~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 


 臍を押すと一瞬身体が動いた。
 何度かツンツン。応答なし。よっし、イったな。

 

 無意識に頷くと肉棒を抜き、同じハチマキと紫のブレスレットに口付けを落とす。荒い息を整えながら火照った頬を冷やし、ズボンのファスナーを上げているとノック音。小さな輝石が顔を覗かせた。

 

「父ちゃん、タオルと母ちゃんのパンツ」
「アンナ……その察しの良さはなんだよ」

 

 オレもヒナタも自分は鈍い方だと思っているせいか、タイミングが良すぎる娘に疑問を持つ。すると、タオルを手渡したアンナは人差し指を天井に向けた。

 

「時間だ! 答えを聞こう!!」
「は?」
「「「「バ○ス!!」」」」

 

 アンナの大声にヒナタも大声で叫ぶ。影から出てきた黒王家も一緒に。
 静寂だけが包んでいると、すすすー……と、黒王と双子は影の中に帰って行った。ヒナタも規則正しい寝息を立て、唖然とするしかない。

 

「な、なんだったんだ……」
「入るタイミング教えるかわりに、さっきのを叫んでくれって」
「さっきのって……変な呪文を言いたかっただけなのか?」
「ほろびの呪文だって」
「縁起悪っ」

 

 一国の王が、は、黒王には関係ねーけど、ヒナタも反応したってことは新婚旅行ん時になんか教えやがったな。
 変なフィーバーに溜め息をつきながらヒナタの身体を拭くと、ショーツとズボンを穿かせ背負う。

 

「アンナ、行くぞ」
「家に帰ってご飯?」
「いや、腹は満たしたし教会だ。そのあと実家な」

 

 頭を撫でるとアンナは笑顔で頷き、ヒナタの背中に張り付いた。それじゃ落ちるとオレの胸板に張り付かせると会議室を後にし、裏口から外に出る。

 

 冬が近いせいか、枯れ木ばかりの風景の中に新居と実家が見える。
 新居から実家まで歩いて十分。そんな距離に造りたくはなかったが、結婚条件のひとつでもあったからしゃーね。パンツもすぐ届いたしな。
 足元に『駆空走』のボードを生むと、妻と娘を落とさないスピードで大通りを駆ける。

 

 オレの他に五人と結婚したヒナタ。
 アズフィロラ、カレスティージ、ヒューゲに親はおらず、ラガーベルッカと黒王の親は放置主義。特に問題なく籍を入れることが出来た五人と違って、オレの家が一番面倒だった。

 

 何しろ仕事一筋の親父、遊んでばかりのお袋だから絶対放置だと思ってたんだ。なのに『五人と結婚してる女』『どこの誰かもわからない女』と、まさかの結婚反対。呆気に取られながらオレも逆ギレした挙句ヒナタも声を上げた。

 

『必ず息子さんを幸せにします!!!』
『お前がかよっ!!!』

 

 アホなことを言いやがって悪くなる一方。
 そんな久々にする親子喧嘩を止めてくれたのは意外にもテット兄。ヒナタのこと嫌ってるのかと思ったが、オレが何言っても聞かないと知ってるせいか、家の近くに新居、実家の手伝い、週に一回は実家に帰って来いとかいう約束を作って説得してくれた──あの人と一緒に。

 


 

「ああ、団長……じゃなかった。元・団長、どうも」
「てめー……こっち向いて言えよ、ミレンジェ」

 

 大きな十字架が目立つ教会に辿り着くと『駆空走』を下りる。
 教会前を箒で掃くのは黒のシスター服に黒縁眼鏡を掛けた元・部下。そして今もドラバイト騎士団副団長を続けているミレンジェだ。
 オレにはムッスリ顔のくせして、跳び下りたアンナが嬉しそうに駆けて行くと笑みを浮かべる。ヒナタと同じツンデレか。

 

「真っ昼間から嫁を犯す男の妄想に使われるなんて最悪です」
「てっめ、アンナの前で変なこと言うなよ……それより様子は?」

 

 さすがに付き合いが長くなったせいか怒りを抑え訊ねると、ミレンジェは顔を曇らせた。片眉を上げると、アンナの手を握ったミレンジェは教会へと背を向ける。
 何も言わずヒナタを抱えたまま中に入ると、団員になるより前から通い慣れた廊下を進み、閉じられた両扉の前に立つ。アンナの小さな手とミレンジェの手で開かれると、ステンドグラスの光に迎えられた。

 

 静かな礼拝堂中央には十字架の祭壇。
 そして、影が出来た場所にはロッキングチェアに背を埋める大きな身体。小走りで向かうアンナは肘掛けに置かれた皺々の手を握った。

 

「ロジじい、きたよ!」

 

 元気なアンナの声にジジイ──ロジエットは答えない。
 顔も身体も痩せ衰え、白髪と顎髭は地面に付きそうだ。強く優しいはずの紫紺の双眸も閉じられているが、アンナの手の上にオレも手を乗せると温かさが伝わってくる。

 

「今日はまだ一度もお目覚めになっておられませんので……チューブでなんとか食事を摂ってます」
「……まだまだ抗ってる証拠じゃねーか」

 

 沈むミレンジェの声に苦笑すると長椅子に腰を掛ける。
 肩に寄せたヒナタの髪を撫でながらゆっくりと瞼を閉じた。

 

 ヒナタが現れて十年。
 もう、九十一にもなったジジイは数年前から本格的に体調を崩し、今では声を聞くことも稀になっった。それでも入院は嫌だと言って変わらずこの定位置で日々を過ごしている。

 

 そんなジジイとアンナが産まれたのを機に団長を辞めたオレは次の『四天貴族』を継承することを決めた。当初はヒューゲが継ぐ気でいたらしいが、次の宰相を決めるより団長を決める方が早い。パレッドが入団してくれたおかげで将来も期待出来るしな。

 何より団長になる時も、魔王戦の時も、結婚の時も助力してくれたジジイに何も返せないのは嫌だ。オレはバカだから他に返す方法が浮かばない。
 そんなオレの決意に当然ヒューゲ、テット兄、ミレンジェは呆れた。けど、ヒナタとジジイは笑い飛ばした。

 

『なっははは! バロンよりバカなアウィンが継承するか!! そんな遠い話ではワシはまだまだ続けねばな!!!』
『うむ、今度はドラバイトを護るヒーローか。それはぜひロジーさんに見せねばならんぞ』

 

 今までもドラバイトを護ってたつもりだったけど、国竜を背負ってたならアーポアクを護ってたことになる。特に魔王戦が終わって『四宝の扉』を開けられるようになってからはドラバイトを抜けることが多かったから、ヒナタの言葉は間違ってない。

 

 瞼を開くと教会の壁に飾られた三枚の写真に目を移す。
 それだけで頬が緩むのは親戚に先輩『四天貴族』が二人もいるからだろう。容赦ねーし、すっげー厳しいけど、やりがいみたいなのを感じているところだ。

 

 そんな笑みを浮かべるオレにミレンジェは苦笑し、アンナが隣に座る。
 オレと同じ笑みを浮かべる娘の髪を撫でながらヒナタの髪に口付けを落とすと、左手首とリボンに姿を変えた赤いハチマキを見つめたまま静かに呟いた。


「ちゃんとオレが一人前になるの見てから……フミエのとこ逝けよ……ロジエット」


 なるべく早く、遅く、なってやるから。
 三途の川を渡りそうになったらオレらが止めてやる。

 

 愛する妻(ワイフ・ラブ)がこっえー、ヒーロー一家がよ────。

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