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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*拍手小話~男の嫉妬編~

*過去の拍手お礼SS集

*番外編*異世界からの訪問者の時の話で男視点

*~アズフィロラ編~*

 


 “ヨウイチ”という男が現れた。
 彼はヒナタが気にしていた人物で、わざわざ好きだった彼女に会いに来たという。幸いにもヒナタは残ってくれると言ってくれたが、翌日ルベライトを彼と共に訪れた彼女はとても嬉しそうに買い物をはじめた。

 

「やはり愛ちゃんには犬や猫のヌイグルミがいいだろうか」
「それ欲しいの陽菜多さんだろ。愛はクマ派だって」
「俺はスズメが好きだな」

 

 割って入った俺に二人は沈黙するが、気にせず『新商品』と書かれた中型のスズメヌイグルミを手に取る。ヒナタは苦笑した。

 

「あのな、私達は愛ちゃん……洋一の妹へのプレゼントを選んでいるんだぞ」
「俺へのプレゼントはないのか?」

 

 不満顔で言うと数度瞬きをされる。何かおかしいことを言っただろうか?
 片眉を上げる俺に、ヨウイチも苦笑混じりで口を挟む。

 

「いや……ここでなんでアンタのプレゼント選びになるんすか」
「誕生日以外に貰ってはいけないのか?」
「どうしたフィーラ? 今日は妙に苛立ってるな」
「……気のせいだ」

 

 互いを見合う二人に不思議とムカムカし、スズメを置くと店を出る。
 暖かい太陽に照らされるが、今は邪魔くさいと思えるほど俺の気持ちは落ちていた。日に当たらないよう木陰に背を預け、腕を組む。

 

 ヒナタが言っていたように今日はどうも苛立つ日のようだ。いや、それは昨日からだな。イヴァレリズを斬れば発散出来るかと問われればそれも違う気がする。原因は恐らく彼だろうが……なぜだろう。他の者(イヴァレリズを除く)にはそこまで苛立つことはないのだが……腹の奥から沸いてくるこれはなんだ。
 ムカムカしたまま瞼を閉じていると唇に何かが当たり、慌てて目を開く。

 

「フィーラ」

 

 目の前には笑みを浮かべるヒナタ。その手には先ほど俺が持っていたスズメヌイグルミがあり、その嘴が唇に付いたようだ。まだ驚いている俺の手にヌイグルミが乗る。

 

「ほら、プレゼント」
「あ、ああ……ありがとう。ヨウイチはどうした?」

 

 しどろもどろになりながら共にいた男がいないことを訊ねると、彼女は店を指した。

 

「ラッピングをしてもらってる。貴様は別にコレだけでいいだろ?」

 

 彼女が指すスズメの首元にはピンクのリボンが巻かれ“プレゼント仕様”になっている。袋に包まれていないところが彼女らしいというかなんというか。苦笑しているとヒナタもスズメを突く。

 

「貴様のスズメ好きが広まったのか、最近商品が多くなったな」
「ヒナタが漏らしたんじゃないのか?」
「わ、私か!? あー……でも子供達には言ったような……んっ」

 

 呟くヒナタの顎を上げると口付ける。
 行き交う住民もいるため普段ならしないだろうが、今は構わず何度も繰り返す。だが、抗議するような手が背を叩き、仕方なく離した。息を荒げるヒナタは俺を睨んでいるが、潤んでいるようにも見える瞳に笑みを浮かべる。さらに眉が上がった彼女に俺は指摘した。

 

「可愛くないぞっだ!」
「イズのような笑みを浮かべるヤツに言われたくないわ!!!」
「おーい、陽菜多さん!」

 

 ハリセンで叩かれた頭を押さえながら聞き捨てはならない台詞にムッとなる。さらに店からヨウイチが出てくるとムっが増えた。すると、ヨウイチに手を振っていたヒナタは溜め息をつく。

 

「まったく、珍しい顔をしよって。まだ嫉妬してるのか?」
「嫉妬……?」
「? 私が洋一ばっかりに構ってるから怒ってるんじゃないのか?」

 

 首を傾げるヒナタに目を丸くすると、彼女は笑いながら俺の頬を撫でる。

 

「バッカだな。昨日も言っただろ? 私の全部は貴様らのものだと」

 

 不特定多数の台詞に少々不満を持つが心が軽くなるような気がした。そうか、このムカムカとした感情は――嫉妬か。
 口元で弧を描いた俺はヒナタを抱きしめると炎を纏い、宙へと浮く。

 

「うわわわーーーーっっ!!!」
「ひ、陽菜多さん!?」
「ヨウイチ、買い物が済んだのなら一人で帰れ」
「はあっ!? 陽菜多さんをどうする気だよ!」

 

 大きな袋を抱えたヨウイチは困惑しながら俺達を見上げるが、俺の口元は弧を描いたまま。認めたくはないが、イヴァレリズがするような笑みのまま言った。

 

「どうするも何もヒナタは俺のものだ。したがって好きにさせてもらう」
「「はああっっ!!?」」

 

 ヒナタも大声を上げるが、顔を真っ青にするヨウイチとは違い真っ赤。頬に口付けると『走炎火』でその場を去った。風のように速い速度にヒナタは両腕を首に回すが元気な声を上げる。

 

「フィフィフィーラ! なんだなんだ!! どこへ行く!!?」
「屋敷に戻ってキミのすべてを愛する」
「なんだそれーーーーっっ!!!」

 

 ジタバタと暴れる彼女に一度上空で停まると耳元で囁いた。

 

「大人しくしないなら上空(ここ)で挿入してやってもいいぞ」
「っ!?」
「キミのすべては“俺の”ものなんだろ?」

 

 大きく目を見開いた彼女はまた顔を真っ赤にするが、数度目を泳がせると唇へと口付けた。肯定と捉えた俺は唇が離れるとルベライトの上空を、太陽の下を駆ける。他に見られないよう、愛する姫君をマントで隠して。

 

 そして――――その身体に嫉妬された分の証を付けよう。


 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 


*~ラガーベルッカ編~*

 


 “ヨウイチ”という男が現れた。
 それは弟に似ていそうで似ておらず、でも腹立だしい男です。

 

「そそそそれでなんで俺を叩くんスか!!!」
「弟だからです」

 

 この場合ウサギことカレスティージ君がいいのですが、珍しくいらっしゃらないので手近な男にしておきましょう。特に身内ですし。弟ですし。弟ですし。

 

「こらこら、ベル。可愛い弟に何しとるんだ!」
「え、年下?」

 

 オーガットの背を問答無用で叩いていると、帽子棚を見ていたヒナタさんがやっとこちらを見てくださった。背中に手を当てるオーガットと同情の眼差しを向けるヨウイチ君に構わず、ヒナタさんを後ろから抱きしめる。

 

 今までならすぐ怒声が上がっていたのに慣れたのか、気にしない彼女に嬉しい半分、残念半分。苦笑しながら忠誠のイヤリングにキスを落とすと振り向かれたため、すかさず口付けた。が、叩かれてしまった。なんの差ですかね。
 笑みを浮かべる私にヒナタさんは子供用の帽子を二つ、呆れた様子のヨウイチ君に見せる。

 

「愛ちゃんはやはりピンクがいいだろうか?」
「すっげぇ、スルー技術……ていうかピンクなら持ってるよ。その色が好きなのは陽菜多さんだろ」
「バ、バカ! そんなわけないだわわわ!」

 

 ヒナタさんの頭に薄ピンクのロシア帽を被せる。
 あ、似合いますね。お買い上げしましょう。彼女から帽子を取り、店員に包んでもらうよう頼むと顔を真っ赤にさせたヒナタさんは叫んだ。

 

「なんだ急に!」
「いえ、可愛い可愛い可愛いヒナタさんにお似合いなのがあったので」
「連呼するな! わっぷ!!」

 

 恥ずかしワードに顔をさらに真っ赤にさせたヒナタさんをすぐさま抱きしめる。その行動にオーガットは呆れ、ヨウイチ君と周りの客は目を見開いた。
 だって今、ヒナタさん最高に可愛い顔してますからね。そうさせたのは私ですが他に見せるわけにはいきません。

 

「……すまんな」
「はい?」

 

 突然の謝罪に、理由がわからない私は目を丸くする。
 顔を上げたヒナタさんは伸ばした手で私の頬をつねった。痛いです。

 

「たたた、な、なんでしょう」
「いや、怒った笑みを向けてたから私が何かしたのかと思ったんだが」
「え、怒ってませんよ」

 

 いえまあ、腹が立ってはいたので“怒ってた”になるでしょうが、それはヨウイチ君に向けてでヒナタさんにではないです。と、隠しもせず言うと、オーガットが同情するような眼差しで頭を抱えるヨウイチ君を見つめた。するとヒナタさんは苦笑にも聞こえる笑いを零す。

 

「結局は私が怒らせたんだろ」
「そう……なるんですかね」
「ヨウイチがスティや弟のように見えて、私が貴様に構ってやらないから嫉妬したってとこか?」
「ああー……」

 

 顔を上げ考えると、カッチリと何かと何かがハマった。
 確かにオーガットの背を叩きまくってヒナタさんが振り向いてくれた時、私はとても嬉しかった。先ほどまでなかった暖かさが自分の腕にあることに喜びを感じている。
 嬉しさに自然と笑みが零れると、ヒナタさんの顔が徐々に赤くなり、私は首を傾げた。

 

「どうしました?」
「いや……なんの裏もない笑みがこうもヒットすると……」

 

 何かを呟きながら恥ずかしそうに顔を伏せた可愛い姫君にもう我慢出来ず、横抱きする。

 

「わわわわ!!!」
「陽菜多さん!」
「ちょっ、ベル兄! こんな場所でしないで……あ」

 

 制止よりも先に口付けた。
 周りから黄色い悲鳴が上がるが、逃げようとする姫君の顎を押さえ、深く深く口付ける。息を荒げながらも私の舌に可愛い舌を絡ませる行動に気持ちは治まるどころか膨張するばかり。いけない姫君ですね。

 

「んあっ、ベ……ル……はあはあ……わっ!」

 

 唇を離すと、可愛い声で呼んでくれた彼女の顔を手で隠す。
 さらに店員から袋を受け取ると、抱えたまま店の出入り口へと向かった。慌ててオーガットとヨウイチ君が追い駆けてくるが制止を掛ける。

 

「これから奥さんとお楽しみタイムに入ります。それに付いて来ることを私は赦しません」
「奥さんじゃないだろ!」
「ベル兄……」

 

 うるさい声など気にせず店を出ると、変わらず底冷えするような寒さ。だが、雪が止んだ雲の切れ間からは薄っすらと太陽も見え、私の心を晴らすかのよう。
 もっとも大切な姫君がバタバタ動いてらっしゃるので、すぐ吹雪に変わるかもしれませんね。

 

「ヒナタさん」
「なんだ!」
「愛してますよ」
「っ!」

 

 予想外だったのか、バタバタ動いていた身体は止まり、私の肩に顔を埋める。すると真っ赤な顔を上げ、頬ずりした。可愛い仕草にまた口付けると風を纏い宙を飛ぶ。

 

 早く可愛い貴女を――――啼かすために。

 


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 


*~カレスティージ編~*

 


 “ヨウイチ”という男が現れた。
 ヒナさんの好きな年下なせいもあるけど、知り合いだけあって仲が良い……腹立つ。

 

「陽菜多さん……その男……なんとかなんないの?」
「ん? いつものことだ」

 

 両手両足をヒナさんにくっつけたコアラのようなボクを、ヨウイチは呆れた眼差しで見下ろす。そんな彼を睨むボクに構わず、ヒナさんは子供用着物を選びはじめた。

 

「う~む、桜にしようか牡丹にしようか……洋一、どれがいいと思う?」
「慣れすぎだって……えーと、確か桜は持ってたと思うから牡丹かな」
「ヒナさん……どのウサギがいいですか?」
「ウサギ? ああ、ウサギも可愛いな」

 

 ボクの声に子供用着物でウサギ柄を選びはじめるヒナさん。ボクは違うと首を横に振った。

 

「ヒナさんに……着てもらうやつです」
「私?」

 

 丸くした目で瞬きする彼女に頷く。
 今月のお給料出たからプレゼント。けど、ヒナさんは苦笑した。

 

「嬉しいが今は愛ちゃんのプレゼントが先だ。あとでな」
「ダーメ……ですか?」
「ダーメ、だ」

 

 くすくす笑う彼女に髪を撫でられ、ボクは地面に降りる。
 目先では楽しそうにヨウイチと着物を選ぶヒナさん。ボクは懐から黒ウサギを取り出すと抱きしめた。けれど、それに暖かさはない。冷たい。

 ヒナさんは還らないって言ってくれた。あの男も明日には還る。だから我慢すればいい。

 

 我慢? ボクが我慢? そもそもなんでボクはヒナさんから離れた?
 嫌な動悸が鳴り出すと憎悪のようなものが包み、周りが慌てて距離を取るが、気にせず足を彼女へと進める。その度に黒い想いが増幅する。

 還っちゃうのは嫌だ。ボクから離れちゃうのも嫌だ。けど、ボク以外の誰かと一緒にいるのはもっと嫌だ。
 

 ボクはいつからこんなにドン欲になってしまったんだろ。ボクだけをずっと見ててもらいたい。傍にいてほしい。ボクだけのヒナさんでいてほしい。それは彼女にしかない恋情。愛情。たまに愛憎。ただ、それだけで他は何もいらない。目の前の男も。

 『解放』された刀を握ったまま一歩ずつ進む足。藍色の双眸を細めると――。

 

「スッティー!」
「うわあああっ!!!」

 

 刀を振り上げようとしたが、後ろからヒナさんに抱きしめられ悲鳴を上げてしまった。ヒナさんは目を見開くが、ボクを抱きしめたまま上から顔を覗かせると笑みを向ける。

 

「スティの悲鳴なんて最初の鬼ごっこ以来だな」
「そ、それは忘れて……ください」

 

 急に恥ずかしくなって、刀から戻った黒ウサギに顔を埋める。
 メラナイトでもあろう者が簡単に後ろを取られるなんて……ヒナさんは魔力ないから気配がわかりにくい。ヨウイチが会計しているのが見えるが、先ほどの黒い想いなど頬ずりするヒナさんの温かさと気持ち良さにどうでもよくなり、笑顔になった。

 

「さっきは後回しにしてすまなかったな。怒ったか?」
「怒った……けど、今はもう……どこかにいきました」
「なんだそれ。じゃあ、着物んっ」

 

 黒ウサギを影に入れると振り向き、笑うヒナさんの首に腕を回して口付ける。
 さっきまで本当に怒ってた。ヨウイチを世から消そうとしてたぐらい。でも、やっぱりヒナさんが現れ、こうして何度も口付けていると『幸せ』が勝ってしまう。唇を離すと首元に吸い付き、愛しい姫君の喘ぎを聞きながら証を付ける。

 

「ん……ヒナさん……大好き」
「う、嬉しいが……恥ずかしいぞ」
「ヒナさん……顔真っ赤……可愛い、あう」

 

 なんでか頬をつねられた。でも彼女の顔は真っ赤のまま。
 高揚感は増すばかりで、彼女を抱きしめたまま水を纏うと袋を持ったヨウイチが慌ててやってきた。

 

「ちょっ、どこ連れてくんだよ!?」
「キミには関係ない」
「ここここら、スティ! 着物を選ぶんじゃなかったのか!?」
「それはまた今度……ボク、もう我慢出来ないから」

 

 慌てるヒナさんに口付けるとヨウイチが手を伸ばすが、その手に『解放』した切っ先を向けた。当然ヒナさんには見えないように水の壁を作って。この姿は内緒だから。
 そんな内緒の笑みを冷や汗を流すヨウイチに向ける。

 

「これ以上……ヒナさんに近付かないでね」
「はあ!? なんでそうなるん――っ!」
「二度目はないよ……」

 

 鋭い殺気と瞳が素人のヨウイチもわかったのか、焦った表情でボクを見つめる。そんな嫉妬を作った男に宣告した。

 

「ヒナさんの前に現れるモノは――殺す」
「ひ、陽菜多さんっ、そいつヤバイってっわ!!!」
「な、なんだ!? どうした!!?」
「なーんもないですよ」

 

 ヨウイチに『瞬水針』を飛ばすと水の世界へと入った。
 ヒナさんははじめて入るせいかジタバタするが、抱きしめると口付けを何度もする。

 

 そう、邪魔するヤツは敵。王(イズ)様でもダーメ。
 ボクはヒナさんの騎士で、ヒナさんはボクの姫君だから。愛しい愛しい女性だから。ボクを止めることが出来るのはヒナさんだけ。ボクを夢中にさせるのもヒナさんだけ……あ。

 『宝遊郭』まで我慢出来ないから、もう水の世界(ここ)でしようかな――――。

 


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 


*~エジェアウィン編~*


 

 “ヨウイチ”という男が現れた。
 妹がいるだけあってすぐ教会のガキ共とも仲良くなり、オレは訊ねる。

 

「妹っていくつだ?」
「え? 十ニ」
「すっげー離れてんのな。オレも兄貴いるけど五歳差だぜ」

 

 一回りってことはテット兄っつーより、ヒューゲとの方がオレは近いか。まあ、兄弟と元上司じゃ関係は違うだろうけど、オレはまた訊ねた。

 

「んで、妹を置いてまでわざわざこっちに来たのか?」
「……ちゃんと『陽菜多さんに会ってくる』って言って来たから大丈夫。笑顔で見送られたおかげで来れたんだ」
「ふーん……」

 

 笑顔で言ってけっど、普通に考えりゃ自殺する人間を見送ったもんだぜ。それでこっち来れたんだからすっげーよな……アイツに会うため、か。

 

「アウィーン!」
「のわあああーーーーっっ!!!」

 

 考えが別にあったせいか背後からの抱擁に反応が遅れると悲鳴を上げた。女は驚いたように目を見開き、オレも恥ずかしさで顔真っ赤。しばし見つめ合った。
 そんな俺達を見ていたヨウイチが苦笑する。

 

「陽菜多さん、相変わらず抱きしめんの好きだな」
「うむ、つい見つけてしまうとな。あ、そうだ」

 

 オレに頬ずりしながら話す女はラッピングされた袋をヨウイチに渡す。

 

「ほれ。中に愛ちゃん用のポンチョが入ってる」
「サンキュ、陽菜多さん」

 

 互いに笑みを浮かべながら話す二人に靄が広がり、オレは女を“おんぶ”した。

 

「わわわ! な、なんだ!?」
「うっせーよ! 買い物終わったんならもういいだろ!! じゃあな、ヨウイチ!!!」
「え、ちょっ!?」

 

 返答を待たず、おんぶしたまま『駆空走』で駆ける。
 オレの首に腕を回して掴まる女は大絶叫。だが、左手首に巻かれたハチマキと紫のブレスレットに頬が熱くなったオレに反応してかスピードが上がり、バランスを崩してしまった。

 

「「ぎぃやああああーーーーっっ!!!」」

 

 いつかの時と同じように今度は牧草に突っ込むことになったが今回はオレが下だ。デカくて柔い胸が顔に当たっても黒王みたいなことはしねーぞ! する時もあっけど!! 今は違ぇーー!!!
 そんな葛藤をしながら強く抱きしめると、顔に当たっていた胸を退けた女の頬と頬がくっつく。

 

「どうした、アウィン?」
「別に……なんか嫉妬しただけだよ」

 

 言ってから気付く。オレは嫉妬してたんだと。
 他の連中とはあんま差はねーように見えるけど、女とヨウイチの間には二人にしかわからない話がある。ヨウイチの妹のことは聞いたことあるが、内容はオレにはわからないことばっかだ。それがなんか腹立って羨ましくて……嫉妬した。
 黙ったまま顔を逸らすオレの頬を女は優しく撫でる。

 

「アウィン、ちょっとこっち向け」
「んだよ……!」

 

 素直に向くと柔らかい唇が重なった。
 それは昨日『還らない』と言った時と同じで、女……ヒナタからするのは珍しかった。離れようとするのを止めるように後ろ頭を押さえると、さっきよりも荒い口付けをする。

 

「んっ、あ……うぃんん」
「誘ったの……そっちだろ」
「あんっ」

 

 口付けながら頭を押さえるのとは反対の手で脚を撫で、尻を撫でる。が、さすがに叩かれた。ちぇ。

 

「何が『ちぇ』だ! 寂しそうだったから恥を忍んでキスしたのに!!」
「それはそれは、あんがとです」
「……なんでそんなに不貞腐れてるんだ?」
「いや……ヨウイチと同い歳なのに、なんで俺だけ抱きしめられんのかと」

 

 以前と変わらず抱きしめられると何も関係が変わってないように思えて嫌だった。前までヨウイチにも抱きしめてたみたいなのに、こっちきてからは一度も抱きしめてねーし。
 そっぽを向いてるとヒナタは首を傾げた。

 

「抱きしめられるの嫌いか?」
「嫌いじゃねーけど……男として思われてねーみてーで……」

 

 ああ、ったく。オレはどんだけ嫉妬深くなりゃいいんだよ。カレスティージみたいに歳なんて関係ねーはずなのに。
 もう自分でもわけがわからず黙り込んでいると、苦笑するヒナタがオレのハチマキを握った。

 

「そうは言っても、好きなヤツを見つけると抱きしめたくなるんだ」
「好きな……ヤツ?」
「うむ。特にアウィンはヒーローハチマキで目立つから、見つけた時は嬉しくなる」
「ホントかよ? 年下にはいっつも抱きついてんじゃん」
「だって、洋一に抱き付いたらアウィン怒るだろ?」

 

 その言葉に目を見開くと、ヒナタは寂しそうにオレの肩に顔を埋めた。

 

「まったく、アウィンに抱き付いても怒られ、洋一に抱き付いても怒られ、私にどうしろと言うんだ」

 

 文句を言うヒナタに瞼を閉じたオレは抱きしめる。
 それはオレの心が狭かったせいだ。オレだって、こんなに触りたい、触ってもらいたいって思ってるくせに反対のことを言っちまう。

 

「……悪かったよ」

 

 小さく謝罪するとヒナタは一瞬目を見開いたがすぐ頷き、抱きしめ返した。
 コイツにとってオレは可愛いでも年下でもなんでも、オレにとっては『愛する姫君』で手放すことが出来ねー女。それだけは絶対でこれからも変わらない。
 顔を上げると嫉妬した分、困らせた分、何度も口付ける。

 

 それでも足りねー分は――――ベッドの上だ。

 


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 

*~ヒューゲバロン編~*

 


 “ヨウイチ”という男が現れた。
 なんか誠実そうだよね。眩しい子で腹が立つな~~。

 

「ちょっ、マジで足の踏み場ないじゃないっすか!」
「つま先で進め、洋一!」
「無茶言うなよ陽菜多さん! うわああーーっ!!」
「は~い、ヨウく~ん~片付けは~自分で~してね~~」

 

 書類山に埋もれたヨウイチくんにハンカチを振ると、ヒナタちゃんが慌てて助けようとする。が、後ろから抱きしめ、僕の膝に乗せた。

 

「ちょっ、バロン!?」
「ダメ~だよ~男はね~自力で~這い上がって~こそ~なんだから~~」

 

 あれ、なんでか冷たい目を向けられたんだけど?
 もしかして地魔法で彼の足を滑らせたのバレたかな?
 伸ばされる手に痛いハリセンを覚悟すると、手は僕の眉間を押さえた。目の前には難しそうな顔をするヒナタちゃん。

 

「えーと……何?」
「いや、眉間に皺が寄りすぎてる気がしてな……疲れてるのではないのか?」
「え~元気だよ~ほら~」
「こらっ、ちょ!」

 

 意外なことを言われたが、元気アピールのため片手は胸を揉み、片手は股間に入れ、ズボン越しに擦る。その度にビクビク動くヒナタちゃんだが、近くにヨウイチくんがいるせいで声を出さまいと必死だ。それがまた可愛くて面白くて、忠誠の髪留めに口付けると耳朶を舐める。

 

「っ!」
「頑張るね……声……出していいんだよ」
「あ……あっ」

 

 耳孔にも舌を這わせるとさすがに我慢出来なくなったのか、小さな喘ぎを漏らす。横目で見ると熱を帯びた頬、潤んだ瞳、そそる顔にもっと啼かしたくなる。くすりと笑いながら首筋を舐め、鎖骨部分で歯を立て吸い付く。

 

「あん……バロン……Sになるの……早い、ぞ」
「ん、そうかな?」

 

 指摘に口を離すと赤い証を横目に考え込む。
 だいたいいつもSだと思ってるんだけど、ヒナタちゃんは違うと言う。おかしいな。啼かせて啼かせてがボクなんだけど、ヒナタちゃんに手加減してたっけ?
 そんなことを考えていると、また冷たい目を向けられた。

 

「いや……貴様にも手加減なんて文字はないだろ」
「あ、だよね。良かった」
「でも……いつもは……最初少し……優しいぞ」

 

 顔を赤く染めたまま頬を膨らませる彼女に金色の双眸が大きく開く。あれ……最初って、優しくしてたっけ?
 ああ、してたな。色々な彼女の表情が見たいから最初は優しく、徐々に激しく激しく……そう思い出していると、今の自分が性急だと気付いた。

 

 首を傾げる僕にヒナタちゃんも首を傾げる。
 僕達の目の前にはアウィンのように必死に書類を片すヨウイチくん。そんな彼とヒナタちゃんを交互で見てると『何、してるんだ?』と問われるが考え込む。

 

 今、僕の胸の内にある気持ちは昨日ヒナタちゃんが彼を連れて来た時と同じだ。
 いつものように遊びに来たかと思えば知らない男を連れて来た彼女。しかも嬉しそうな笑顔で。それを見た時、眉が上がり、喉の奥がムカムカしてくるのがわかった。その感情は――嫉妬だ。

 

「ああ~……三十後半入ってそれはキツイよ」
「バロン?」

 

 大きな溜め息をつくとヒナタちゃんを抱きしめたまま肩に顔を埋める。
 三十路を越した良い大人が、まさか一回り下の男相手に嫉妬するとは見っともない。宰相職と一緒で大人らしく悠長に構えることが出来ると昨日はイヴァレリズの言葉にも惑わされず部屋に残った。けど実際は分身である金色の蝶を飛ばし盗み聴き。大人気ない。
 そして彼女が『還らない』と言ってくれた時、安堵したし嬉しかった。

 

「ヒーちゃんは……どんだけ僕らを惨めにすればいいのさ」
「はあ? なんのことだ」

 

 うん、わからないよね。僕も何を言ってるかわからない。
 でもね、キミに触れる度、口付ける度、囁く度に余裕は奪われ、僕の中をいっぱいにするんだ。国も仕事も関係なく、他の連中と同じ、ただのバロンで。
 漆黒の髪を撫でながら頬に口付けていると、ヒナタちゃんは首を傾げたまま僕の手に手を乗せる。

 

「急に優しくなって……貴様も他の連中同様わからんな」
「そんなもんだよ……男って。好きな女には自分一人を選んでもらいたいし、他の男には負けたくないからね」
「それ……私に言ってるだろ」
「…………さあね」

 

 意地の悪い笑みを向けるとヒナタちゃんはまた頬を膨らませる。そんな頬に口付けると抱き上げ、席を立った。

 

「ちょちょちょちょ!」
「え? あ、陽菜多さん!?」
「じゃ~ヨウく~ん~片付け~全部~よろしくね~」
「な、なんでそうなるんすか!?」

 

 慌てて書類を退かす男とは違い、僕は慣れた足取りで書類の隙間を通ると自室の前で振り向く。

 

「極刑書を持つ僕には逆らわない方がいいよ」

 

 細めた金色の双眸から殺気を放つと彼は固まった。同時にヒナタちゃんも感じてしまったのか、青褪めた顔で僕を見る。
 おっと、これはいけないね。久々に向けると調整が利かないもんだ。最初は『優しく』が僕なのに最初から『怖く』じゃヒナタちゃんが逃げちゃう。でも、ま。

 

 口元で笑みを浮かべると自室のドアを開き、ゆっくりと歩き出す。
 腕に抱えるヒナタちゃんは多少怯えているが内心僕は楽しみにしている。だって『愛する姫君』を前にセーブが利いたら苦労はしない。セーブが利かず本能がままに求めるのが人間だ。それはもう獣のようなものかもしれないけど……間違いじゃない。

 

 ベッドの上で――――美味しくいただくんだからね。

 


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 


*~イヴァレリズ編~*


 

 “ヨウイチ”という男が現れた。
 でも俺には関係ないなり~。

 

「ぎいやああああっ!!!」
「ひ、陽菜多さん!!!」

 

 影の中から現れた俺は後ろからヒナを抱きしめる。当然胸を鷲掴みで。
 何度もしてんのに発狂は直んねぇな。まあ、なくなったらなくなったで面白くねぇからいいけど。しかし今日も良い大きさと弾力……にしちゃ、よく張ってんなーと揉み揉み。

 

「いい加減にせんか、変態(イズ)!!!」
「や~ん、誰に命令してるなりか」
「この人……本当に王様?」
「おう、国どころか世界王様だ。恐れ入ったか」

 

 共に呆れた表情を向けられた。や~ん、信用ねぇな俺。
 んなもん今更だと指先でヒナの胸を下から揺らしては大きく跳ねさせると。徐々にヨウイチの顔が赤くなってくる。アズと同じタイプか。
 ピーンと悪魔耳と尻尾が出るとニヤニヤ顔で服越しにヒナの両乳首を摘む。

 

「あああんっ!」
「!!!」
「お、少年。ホントにヒナ意外興味ねぇ童貞だ「うっせーーよ!!!」

 

 アズをからかった時のように顔を真っ赤にさせた男が突撃してくるが、ヒナを横抱きすると風を纏い螺旋階段を上る。ヒナの大絶叫を聞きながら視線を落とすと、頑張ってヨウイチが上ってくるのが見えた。さすが異世界人だけあって瞬発力がいいのか、三段、四段越えとかしてやがる。イヤだね~アズ達より面倒くせぇ。

 

 小さな舌打ちをすると晴天の空と太陽、黒竜の旗が揺れる屋上へと跳びだす。宙に浮いたまま手を階段に向けた。

 

「『影方柱陣』!」
「うわっ、なんだ!!?」
「洋一!?」

 

 影が階段の出入り口を包むと、ぶつかったヨウイチの声が響く。だが、それ以降は叩く音だけになったため地面に着地。

 

「ふー、余計な魔力使わせんじゃないなっだ!!!」
「何をしとるんだ貴様は!!!」

 

 痛いハリセンで頭を叩かれた。
 なんでアズはあんま叩かねぇのに俺には叩くのかね。俺だって今ピッチピチの二十……また叩かれた。

 

「正体を知った今“年下”と思えるわけなかろう。ついでにフィーラは貴様のような悪事はせん」
「や~ん、あいつだって昔は……良い子だったな」

 

 思い返しても悪事の『あ』の字もない良い子ちゃんだった。王道まっしぐらにいきやがったな。つまんねぇ男。と、溜め息をついてるとなんでか東方から斬撃が飛ばされてきた。や~ん、こっわ~い。
 影で防御する俺の口笛にヒナが呆れているのがわかり、座り込むと前から胸を揉み揉み。

 

「今日はいったいなんなんだ……」
「いつも通りじゃね?」

 

 呆れた顔のままだが叩こうとはしないヒナに抱きつくと顔を柔らかい胸の谷間に埋め、左右に動かす。頭上から一息が落ちる。

 

「えらく洋一に突っ掛かっていたが、何か苛立つことでもあったのか?」
「俺が遊ぶのはいつも通りじゃねぇか」
「? さっき舌打ちしてたじゃないか。はじめて聞いたぞ」

 

 指摘に顔を上げた。
 俺を見下ろすのは瞬きするヒナの顔。頬には長くなった同じ漆黒の髪が擦る。それは、この世界に俺とヒナだけ(親父達は除外)の色。他にはいない色。けど、同じ色を持つヤツが――。

 

「や~ん、そういうことか」
「なん……わっ!」

 

 抱きしめたまま後ろへ押し倒すと跨る。
 今度は俺が赤ではなく漆黒の瞳でヒナを見下ろした。偽者ではない本物の色。目を見開くヒナに顔を近付けると、ゆっくりと口付ける。

 

「んっ……あん」

 

 小さな喘ぎが耳に届くと気持ち良くて、もっと舌を伸ばして突く。その度に大きくなる声は全身を刺激し、口付けながらヒナの上着を捲くると大きな乳房を露にさせた。

 

「あっ……こらっ、ん」

 

 開かれた口に指を挿し込み止めると、綺麗な薄ピンクの先端に吸い付く。コリコリ甘噛みしたり、ちゅっと吸い付くとヒナの身体がビクビク跳ねるが両脚で固定。反対の先端にも吸い付いていると潤んだヒナが見え、口から指を離すと小さく口付けた。

 

「どうした?」
「それ……は……貴様だろ……なんなん……だ……キスも普段そんなに……んっ」

 

 また口付ける。
 そうな、あんま俺はキスはしねぇな。胸フェチだし。キスばっかするアズの気持ちはわからない。けど。

 

「ヒナ」
「ん?」
「好きだぜ」
「はあ!?」

 

 息を荒げていたヒナは大きく目を見開き顔を真っ赤にさせる。
 小さく笑うと、右手で光る黒の証に口付け、また唇に口付けた。すぐ離すと目の前で漆黒の瞳を揺らすヒナは腕を俺の首に回し、髪を撫でる。

 

「“好き値”を上げさせる作戦か……?」
「や~ん、ホント俺ってば信用されてねぇな。んじゃ、逆に聞くけど“好き値”はどんだけ上がったなり?」
「……」
「ヒ~ナ~」
「う、うるさい!!!」

 

 顔を真っ赤にさせたヒナは頭を上げると口付ける。それは一瞬で離れたが、俺の口元には弧が描かれ、すぐ口付けを返した。

 

 それは今までで一番長く触れ、舌を絡ませ、唾液を混ぜ、俺のすべてを、ヒナのすべてを互いに渡すほど。嫉妬と言う名の苛立ちは口付けをする度に、肌に触る度に薄れ、“幸福(しあわせ)”を感じた。その想いを伝えるには言葉よりも身体に染み付けた方がいいと、服を脱がしはじめる。

 

 黒竜の旗の下で――――愛を誓わせてやるよ。

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