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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*炎帝の寵愛

 それは太陽の色。灼熱の赤を宿した色。
 暗闇の中でも決して揺るぎはしない火光は出逢った時と変わらない。
 信念も、向ける背も、誰よりも大きくて強い緋(あか)き王(ロワ)──炎帝。

 けれど──。

 


* * *

 


 『天命の壁』から少しずつ姿を現す太陽が紅水晶と私を照らす。
 直後、お玉でフライパンを叩くような音が大音量で鳴り響くが、気にせず膝を折ると手を合わせた。暫くして破壊光線のような光と音も聞こえたが、気にせず赤の宝石が光るチョーカーを揺らしながら立ち上がる。

 

「ヒナタ母様ーっ!」

 

 可愛い声を耳がキャッチ。
 振り向くと、白い息を吐きながら鮮やかな茜色の髪を持つ我が子、アサヒが駆けてくる。私は笑顔で両手を広げた。

 

「アサヒーっ!」
「あ、タマゴを抱えているのでハグ却下です」

 

 制止の手に、前に出た足が停止。
 よく見れば、息子の腕には竹細工の籠。中には朝食となるプール&コックJr.s(現十羽)の卵が入っている。だが、しかし!

 

「ハグぐらい良いではないか! ウハキャッキャコミュニケーション!!」
「また珍妙な発言が……わかりましたよ」

 

 身を屈め、両手で顔を覆っていると溜め息が聞こえた。
 聞き慣れたものに頬を膨らませながら顔を上げたが、籠を置いたアサヒは手を広げている。そっぽを向きながらも頬は赤く、赤の瞳には私が映っている。父親ソックリな仕草に笑みを浮かべると、大切な輝石を抱きしめた。

 

 胸元で埋まるアサヒは慌てるが、柔らかな茜の髪を撫でると空に上る太陽を見上げた。
 うむ、朝食はアサヒの好きなオムレツに目玉焼きを乗せて、ケチャップでハートを描いてやろう。

 


* * *


 

「それがなぜ、卵焼きになったんだ?」
「足りなかったからだ」

 

 正午過ぎ。昼食を摂りに一時帰宅した男はナポリタン、アボカドとトマトの豆腐サラダ、話題に上がった卵焼きを完食。食器を片付けた私はソファに腰を掛け、隣で息子と同じ赤の瞳を向ける旦那──フィーラにブラックコーヒーを手渡した。

 

「アサヒは六個摘んだはずなのに、三個なくなってたんだ」
「…………盗まれたな」

 

 苦虫顔でコーヒーに口を付けるフィーラに私も頷く。
 犯人は言わずもがな、イズ家(ファミリー)。恐らく籠を置いた隙に、影に潜っていたヤツらに盗られたのだろう。血を受け継いだ双子もバッチリ影の技を使えるし、三人揃ってゆで卵を持ってたからな。当然ハリセン叩きの刑だったが。

 

「アサヒだけのなら作れたのだが『同じでいいです』と拒否されてな。籠を置かせた私のせいだというのに、甘えないところまでフィーラに似よって」
「成敗しに出て行くのはヒナタ似だがな」
「おい、それは貴様も……んっ」

 

 不満の声は、コーヒーを置いた彼の唇で塞がれた。
 苦味に離れようとするが、既に背に回った手が後ろ頭を固定し、口付けたまま押し倒される。

 

「んっ……フィーラ……苦い」
「知らないな……んっ」

 

 文句は受付けてもらえず、舌で上も下唇も舐められると隙間から口内へと入る。変わらず優しい口付けだが、どこか性急な気がした。

 

「すぐ、ん……騎舎に戻らないと……いけないからな」
「サボり……か……あんっ」
「適度な休憩をと言った妻との約束を守る俺にそんなことを言うか」

 

 唇が離されると、耳元で囁かれる不機嫌な声に身体が跳ねる。
 その隙に上着を捲くられ、ブラが露になった。チョーカーに付いた赤の宝石に口付けが落ちると、彼のチョーカーに付いた黒の宝石が胸元にあたる。冷たさにビクリと身体が揺れ、フィーラが顔を覗かせた。心配しているようにも見える彼は自身のチョーカーに手を置く。

 

「外すか……?」
「心配性だな……冷たかっただけだ。それに『外せ』と言ったら『宝輝』も含まれるぞ」
「その時はイヴァレリズを斬ればいい」
「相変わらずだ……んっ」

 

 苦笑する私に溜め息を付いたフィーラは胸元に口付けるとブラをズラす。
 零れた乳房の片方は優しく手で撫で、片方はくるりと円を描くように舌で乳暈を舐めるが、両方とも先端に触れることはしない……またこのテか。
 フィーラは舐めながら視線を上げる。

 

「どうした? 不満そうな顔をしているな……の割に、先端は尖っている」
「わかってるくせに……時間ないんじゃないのか?」
「それは遠回しに『早くシてくれ』の命令か?」
「バ、バカっああん!」

 

 楽しそうな眼差しに頬を赤くすると先端に吸い付かれ、反対も摘まれた。
 突然の刺激に声を上げるが、フィーラは構わず舐めては甘噛みし、揉んでは摘む。止まらない刺激に先端からはミルクが、下腹部からは蜜が零れる。モゾモゾしているのがバレたのか、垂れるミルクを舐めながらフィーラは股間に手を潜らせた。

 

「ああっ!」
「いい具合に濡れていそうだ……」
「あっ……!」

 

 ショーパンを下ろされると白のショーツ越しに指で突かれる。
 秘芽ごと押される度に疼きも愛液も声も増すが、先ほどのように意地悪しているのがわかり、フィーラの首に腕を回した。赤の瞳と合い、口付ける。

 

「んっ……甘えているのは……ん、ヒナタの方だな」
「誰かの……あ、意地悪の……せいっああ!」

 

 少し荒い口付けを返されるとショーツの中に指が入り、秘部を擦られる。水音が聞こえると顔を赤くするが、反対にフィーラの顔は怖い。そればかりか青くなった。な、なんだ?
 疑問を浮かべる私に意地の悪い笑みが向けられる。

 

「なぜ俺が意地悪していると思う……?」
「やっぱり意地悪だったのか!?」
「当然だ。剣もマントもしていないのにセーブするわけがないだろ……いつもならな」

 

 確かに“騎士”なら緩やかな愛撫だが“普通”になれば激しい愛撫をしてくれる。しかし今は中間……つまり意地悪っ子。なぜに意地悪っ子……昼食は作ったし、甘い物は出してないし、ハリセンも出てないし、悪戯もしていない。あ、デザートにメロンを出すのを忘れていたな。
 両手を叩くと一本の指で膣内を掻き回された。

 

「ああっ!」
「デザートは今食べている……ではなく、今日のことじゃない」
「きょ、今日じゃないって……あんっ、じゃあ先週……先週……先……ひゃあああっ!」

 

 はたと思い出した時には手遅れだった。
 二本になった指が膣内の最奥を突き、胸の先端も噛まれると嬌声が響く。両方から噴き出るモノに構わずフィーラは舌と指を動かし、赤の瞳を細めた。意地悪な理由がわかった……一ヶ月、私がいなかったからだ!

 

 贅沢にも六人と結ばれ、九人の子宝に恵まれた私。
 曜日事に家を変え、残り一日は子供達と過ごす日となっている。まあ、だいたいニ人とか三人混ざって……ではなくて、先週までイズに誘われた新婚旅行で一ヶ月いなかった。つまり……溜まってる! 色々なものが!!

 そんな心の叫びを相変わらずキャッチされたのか笑みを向けられた。正解、という名の笑みを。ショーツとブーツをゆっくり脱がしたフィーラは自身のズボンに手を掛ける。

 

「また……俺の前で旅立ってしまったからな……笑顔で」
「あああれは知らなかったんだ! 旅行しか聞いてなくて!! っああぁあ!!!」

 

 秘部を擦りながら熱いモノが入ってきた。
 十年経っても魔王にやられ、目の前で私が去って行ったのがトラウマになっているフィーラは拗ねた顔をしている。そう言えばアサヒが毎日ボーとしてたとか、屋上に出向いていたとか言ってたな。ついでに恒例魔物退治の斬撃も強すぎて騎士団に被害を出したとか副団長に聞い……。

 

「考え事とは……余裕だな」
「ひゃああっ!!!」

 

 両脚を持ち上げられると一気に肉棒を突き進められる。
 いつもより大きく熱い肉棒に喘ぎを上げながら両手を伸ばすと、優しい口付けが返ってきた。それに安堵したのか膣内が緩み、最奥へと招く。フィーラのモノだと主張する肉棒を。


「っああ……ヒナ……タ……!」
「フィー……あああ゛あ゛あぁんんんっ!!!」


 優しく強く抱きしめられると膣内で噴き出したモノに弾ける。
 虚ろな中で口付けと暖かな手に身を任せるように私は意識を手放した。

 私を包む光は街に国に与えるものより優しく、時に激しい炎帝の寵愛──。


 

~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 


 息を荒げながら腕で眠る彼女を見つめていると自然と頬が緩み、額に口付ける。
 一ヶ月振りに帰還した時は他がいたのもあってすべては出せず、溜まりに溜まっていた。本当はまだしたいが……こういう時、団長を辞めたくなるな。
 溜め息をつくと寝室へと運び、窓から零れる光で照らされる漆黒の髪を撫で、口付ける。

 

 柔らかな唇に何度だって口付けたくなるのは十年経っても変わらない。湧き上がる想いも、手に入れたい想いも。いや、手に入れることは出来た。半分。

 サイドテーブルに目を向けると、ヒヨコとニワトリのヌイグルミ、鳥の編みぐるみと一緒に立て掛けられた三枚の“写真”。一枚は結婚式、一枚はアサヒと三人。もう一枚は──。

 

「フィーラ父様……」
「ん? ああ、お帰りアサヒ」

 

 小声に振り向くと、小さな輝石が顔を覗かせていた。
 ベッドの隅に座る俺は手招きすると、息子のアサヒは足音を立てないよう寄ってくる。よく出来たと言うように頭を撫でると抱き上げ、膝に乗せた。恥ずかしい半分、嬉しい半分で笑みを浮かべる息子と共に寝息を立てる妻を見つめる。

 

「母様、寝てる時が一番静かでかわいいですよね」

 

 意味深に頷く息子に苦笑するしかない。
 実際十年経っても彼女は何も変わらなかった。奇怪な行動も、斬りたくなる思考も、怒りのハリセンも、向けてくれる笑みも、好きになった時と何も変わらない。だが、写真に目を向ける俺はアサヒの髪を撫でながら問いかけた。

 

「アサヒ、寂しくないか?」
「はい?」
「俺も仕事で殆どいないし、母様と一緒にいられる時間も少ないだろ?」

 

 アサヒが生まれてからも一年毎に子を成してきたヒナタ。
 それは自分の子ではなくとも嬉しいことだが、九歳といってもまだまだアサヒも子供。ヒナタが言っていたように甘えるのを我慢しているのではと不安になる。どうしても妻(ヒナタ)に向いてしまう俺も悪いが。
 溜め息をつくと、同じ赤の瞳を持つ息子は首を傾げた。

 

「さびしくないですよ。毎日母様も父様も抱きしめてくれますし、ウリュグスさんも騎士団の人も街の人も声をかけてくれます。それに……腹は立ちますが双子も他のきょうだいも父様方もいるウチは大家族ですから、さびしくないです」

 

 途中、嫌な顔をしながらも満面の笑みを向けるアサヒに目を見開く。だがそれは一瞬で、すぐ頭を撫でた。

 

「そうか……それじゃ、今日の稽古をするか。また双子に負けたんだろ?」
「うぐっ……アイツらはひきょうなんです」

 

 口を尖らせるアサヒの想いもわからんでもないが、それは言い訳だと背を叩く。
 俺とて魔法となるとイヴァレリズには劣るが、純粋な剣技ならヤツにも他にも負けない。ヒナタを想う気持ちも。
 アサヒを下ろすと立ち上がり、三枚目の写真を見つめながら首元のチョーカーに触れる。

 

 全員が揃った“家族写真”。
 変わらず彼女を愛し続ける者達は敵であり、戦友であり、国竜であり、家族だ。
 そして、彼女もまた愛の証をくれた。

 

 宝石嫌いの彼女が汗を流しながら加工し、作ってくれた証(チョーカー)。
 ハラハラしていた気持ちも贈り際の笑顔で消え去り、涙を流しながら抱きしめたのを覚えている。アサヒを身ごもった時も変わらず笑みを向ける彼女には適わない。

 

「フィー……ラ?」

 

 呼び声に振り向く。
 まだぼんやりしているヒナタだが、顔を覗かせると漆黒の瞳が俺を映し、彼女の頬を撫でると意地悪く言った。

 

「イき足りなかったのか?」
「バ、バカ……とっとと行ってこい」
「呼び止めたのはどこの誰だったか」

 

 溜め息をつく俺にヒナタは頬を膨らませると、掛け布団で顔を隠した。
 可愛い仕草にくすくす笑うと、掛け布団を退かし顔を近付ける。真っ赤な顔にまた笑いたくなるが、堪えるようにチョーカーと唇に口付けると耳元で囁いた。


「夜にもっと激しく抱いてやるから大人しく待ってろ。いいな?」
「っ!!!」


 瞬間、頭を叩いたヒナタは掛け布団を被り、丸まった。
 さすがに十年も経つと恥ずかしがっているとわかり、笑いを堪えたまま静かに扉を閉めた。首を傾げるアサヒから紅のマントを受け取ると身に付け、また扉を見つめると剣を握る。

 

「行くぞ、アサヒ」
「はいっ!」

 

 息子の頭を撫でると屋敷を出る。晴れた空と一緒にある太陽に笑みを浮かべた。
 早々に仕事を片付け、またコロコロ変わる表情と変わらぬ笑みを向けるキミの下へ輝石と共に帰ろう。そして、また半分しか満たしていない想いを囁こう。

 

 ただ、一人の────愛する妻(アムール・エプーズ)よ。

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