異世界を駆ける
姉御
番外編*黒竜の弱音
五月だというのに暑い。
暑がりな私は薄いトップスとショートパンツを穿き、木陰で涼んでいる。目先では──。
『ドルルルルーーーーンンン!!!』
やかましい工事音のような音を立てながら『安全第一』のヘルメットを被り、巨大な壁に穴を開けていくイズ。四大元素が使えるせいか水や地を分解し、手だけで簡単に穴を開けることが出来るらしい。そんな男を呆然と見ながら水筒から御茶を注ぐ。
イズに誘われ、アーポアク国を出た私は海を渡り、見知らぬ土地へとやってきた。ヤツの目的は──国創り。
魔王の一件以来、姿を見せないと思えばコロンブスではあるまいに新大陸を発見。周辺調査をした結果『人間住める!』と創りはじめたそうだ。元々歴代の王達がアーポアクを含め、今ある五つの大国を創ったらしく、統治に興味はないが国創りは面白いとイズは楽しそうに掘っている。
上手くいけば十年以内に出来るらしいぞ。マジか。
しかし、ついてきたのはいいが暇だ。
何もない上に魔物も出るせいか迂闊に動けんし誰か連れてくればよかった。団長達は無理だろうがサティとか。そんなことを考えていると、やかましい音を停めたイズが黒髪を揺らしながら赤の双眸を向けた。
「ヒナ~休憩なり~」
「当に休憩しとるわああぁっ!」
ヘルメットを捨てたイズが胸ダーイブ。
谷間に顔を埋めると、頬ずりしながら両手で胸を鷲掴みにして揉む。くっ、私としたことが暑さ対策ばかりでエロ魔人の対策を怠っていた。必死に離そうとするが手だけは胸を離れない。この胸フェチめ!
「男のアソコを女が気になるのと一っだ!!!」
大きなハリセン音が響いた。
やっぱ、フィーラを連れてくればよかった。
* * *
日も暮れ、焚き火を前に寝袋に背を預けていると満天の星空。
そんな綺麗な夜空を遮るようにタオルを頭に被せ、肩までの漆黒の髪を揺らす男が顔を覗かせる。ポツポツと滴が落ちてきた。
「こら、拭いてからこい」
「自然乾燥~自然乾燥~だっ!」
ハリセンで叩くと、股の間に背を向かせて座らせる。
髪を拭きながら風呂を作った時みたいに火と風を出させ、即席ドライヤーで乾かせば数分で出来上がり。こいつ便利だな。
「お得なイズ君、一家に一人いかがなり?」
「エロと半永久不在のレッテルがなければな!」
頭を叩くが、すぐ谷間に顔を埋め押し倒される。
もう無駄な体力は使わまいと頭を叩くだけだが、サラリと綺麗な漆黒には腹が立つ。そしてスリスリする様がスティみたいだ。
「あー……カレスとはニ年ぐらい一緒いたからな。うつったなり」
「貴様がうつるのか? というか愛称で呼ばないんだな」
「愛称呼ぶのは“王”に戻った時だけ。カレスは今の俺でもいうこと聞くけど他の連中はテンとダメだな。アズなんて何もしてねぇのに会っただけで『斬るぞ』、だぜ」
フィーラのモノマネをしながらブーブー言ってるが、普通に楽しんでるとしか思えん。
そんなイズは『もみもみ代金』と言って、甘い物嫌いのフィーラが唯一フルーツケーキが食べれたり、戦闘時にベルがフードを被るのは殺気を出す姿を隠すためとか、夜型スティは裏仕事がなければ普通に朝から起きてることとか、アウィンは武器よりも素手が強いとか、バロンのローブの下には剣以外にも武器があるとか、知りたいような知りたくないような情報をくれた。
なんだかんだでよく観察してる男だと関心していると“もみもみ”しながらドヤ顔。
「趣味は覗きなり~」
「おいっ!」
「ヒナが野外や書庫やソファや風呂でアンアン啼いてたのも知ってるなり~」
「うおおぉぉーーいっっ!!!」
最近の出来事が一気に脳内で呼び起こされ顔を真っ赤にする。
そんな私にニヤリとしたイズは素早くトップスを捲くし上げると、露になったブラの隙間に両手を滑り込ませ、指で先端を弄りだした。
「やぁ……こらっ」
「一人とする度に感度も上がってんな……エッロ~い」
「どっちが……だああっ……あん」
ブラホックまで外されると、解放された乳房に笑みを浮かべたイズが片方に吸い付く。さらに舌で転がし、もう片方の手は反対の先端を捏ねる。刺激と喘ぎに下腹部が疼くが『なぜこいつに!!?』と内心慌てていた。
イズも気付いたのか、先端から口を離すと舐めながらニヤニヤする。
「気持ち良いくせに『認めんぞ!』みたいな顔してんなー。前も言ったろ。身体は正直だって」
「ひゃあぁあっ!」
「そういやヒューゲともソファか……んで、忠誠の証──金色の蝶ね」
「ああんっ!」
先端を舐めながらヘアゴムに手を伸ばすと、アクロアイト石に止まった蝶(バロン)を撫でる。五ミリサイズなのに『四聖宝(あいつら)』といい、気付くの早すぎだろ!
そのゴムと一緒に他の“証”も外しはじめる男に慌てて手を出すが、両手を頭の上で、足は開いた状態で影に捕らわれる。
「ちょっ、何する!」
「何って、お姫様の独り占め。他の男の付けてるなんて許せないだろ? あと縛った反応見たかったから」
満面の意地悪笑みに必死に身じろぐが、跨がったイズは上着を脱ぎ、肌を見せる。今は二十歳の身体のせいか肩幅も狭いし声も高いし筋肉もあまり付いていない……だが、赤の瞳の奥に漆黒が見えた気がして、顔が急に熱くなった。
楽しそうな笑みを見せるイズは捕らわれている右手に小さなキスを落とし、身体を重ねる。彼の熱い胸板と乳房の先端が擦り合い、私は小さな喘ぎを漏らした。
「あん……っ」
「お、ツンツン尖ってるな。どした? 何にその乳首と心臓は上がってんだ?」
その声は砂糖水のように耳元から下腹部まで落ち、秘部(出口)から零れる。それを指に絡ませたイズはトロリとした愛液を私に見せると舐めた。スロモーションのようにゆっくり映り、羞恥でイきそうだ。
呼吸が荒くなっていると、上体を起こしたイズは足元まで下がり、ショーパンもショーツも外すと、股間に顔を埋める。直後訪れるのはザラリとした舌先と卑猥な音と私の声。
「ひゃっ……あ……だめ……ああああぁぁ」
「んっ、こんなに濡らすなんて……んっ、ヒナって淫乱~」
「あああぁぁんっ……ああ」
“淫乱”を証明するかのように愛液が増すと、舐め取っては舌先を伸ばして奥を突く男に疼きを増す。忠誠の男達以外にこんなことされたら普通は嫌なはずなのに快楽に襲われるなんて。
「答えは簡単……俺の証をお前が持っているからだ」
「き……貴様の証など持って……」
「ふ~ん……じゃ、右手薬指見てみろよ」
「はあっ……──!?」
言われるがまま右手を見ると朦朧としていた脳が覚醒した。薬指には先ほどまでなかったはずの黒の宝石が輝く──指輪。
「ちょおおぉぉーーーーーっ!」
突然のことに大声を上げるが、跨り直したイズは楽しそうな漆黒の双眸を向けた。魔力を高めれば戻る瞳に心臓が大きく跳ねると、愛液で濡れた手で頬を撫で、指先を唇に付ける。
「勘違いすんな。それは“忠誠の証”じゃねぇよ」
「……は?」
「さて問題なり。お前の世界じゃ左手の薬指は結婚指輪と言いますが、右手の薬指はなんでしょう?」
「……婚約……指……はああぁぁぁーーーーっっ!!?」
まさかのクイズに一瞬浮かばなかったが、友達が嬉しそうに見せてくれたのを思い出す。そして答えると『ピンポンピンポ~ン♪』と言うイズに、乳房の先端をインターホンのように押された。刺激に大きく跳ねると同時に腕と足を捕えていた影が消え、抱きしめられる。
横向きに倒れた私の目の前には胸板。頬には漆黒の髪が当たり動悸が激しくなる。そんな状況に顔を伏せていたがすぐ手によって上げられた。私を見つめる笑みは“王”の時に似ていて、端正な顔立ちと漆黒の瞳が近付くと額と額がくっつく。
「この世界に婚約とか結婚指輪って概念はない。けど、意味を知っているお前にとっては見る度にドキドキするだろ?」
「っ~~!!!」
おちゃらけた声とは違う甘い声に不覚にも心臓が跳ね、股間にあったイズの手に愛液が零れた。その羞恥を面白がるように指を膣内に挿入されると掻き乱される。
「や、ああぁんっ……」
「俺はお前に誓わねぇよ……ヒナが俺に誓うんだからな」
「誰が……貴様に……忠誠など……ああん」
騎士でもない私が誓えるわけないだろ! そんなに男勝りか!? 悪かったな!!!
乱されながら頬を膨らませるとイズは苦笑いし、膣内の指を抜くと私の口に入れた。
「ふゅんっ!」
トロトロしたものが自分の愛液だとわかっていると恥ずかしさが増す。楽しそうに見ていたイズは指を抜くと、呼吸を荒くしていた私に口付けた。
「んっ……あぁんっ」
「んっ、愛液と唾液混じって……ん、エッロ~い……ん?」
彼が口付けすることが殆どないせいか嬉しく、腕を首に回すと深く口付ける。イズは目を見開いたが、応えるように深く重ねると、抱きしめたまま押し倒した。唇を離すと同じ漆黒の双眸が合わさり、大きな手が頬を撫でる。
「ちょっとは俺を好きになったか?」
「……好き要素など……何も浮かばんのだが……」
「恋愛ってそんなもんじゃね? 気付いたら惹かれてましたーって……まあ、少なくとも」
「ああっ……!」
上体を起こしたイズは片手で私を抱きしめたまま自身のズボンを下ろし、トロトロに溶けた秘部に雄雄しい肉棒の先端を擦りつけた。刺激に喘ぎを漏らしながら抱きつくと首元に口付けられる。
「俺のをナカでぐちゃぐちゃにしてやりたいほど、ヒナが好きなのは確かだな」
「胸フェチの……イズが……か?」
「そ。おっぱい大好きの俺が胸だけじゃなく“魚住陽菜多”って女の全部を手に入れたいほど……な」
意地悪ではない微笑と共に、指輪に小さなキスが落とされる。
その姿は夜なのに、焚き火で髪も瞳も光を発するように見え、動悸の高鳴りは止まない。漆黒同士を合わせると、優しい手で頬を撫でられた。耳元で囁かれるのは甘い声。
「俺のもんになれヒナ。まだ“ちょっと好き”だろうが、すぐ“愛してる”って誓いの言葉、言わしてやるよ」
変わらずな俺様に頭を抱えそうになるが、両頬を熱くするとそっぽを向いた。
「や、やれるもんなら……やってみろ」
「や~ん、ツンデレかっわいい~」
「だ、誰がツンデレあ、あああぁぁーーーーーっっ!!!」
顔を赤めたまま叫んだ声は勢いよく挿入されたものによって喘ぎに変わる。
必死に首にしがみつくが、それを良いことに片手は胸を掴み、片手は腰を持ち、上下に揺す振って強い刺激を与えていく。小さく目を開いた先には汗をかきながら笑みを向ける男。王でもなんでもない、ただ一人の男が映り、瞼を閉じると自分で腰を動かして挿入を繰り返す。
「っあ……ヒナ……エッロ……いっ」
「あ、ああぁん……ああっ」
「いいぜ……ぐちゃぐちゃにしてやる……よっ」
「ああぁ、あ゛ああ゛ぁぁーーーーっ!!!」
宣言通り膣内を掻き回しては最奥を突き、潮を噴いても抜くことはしない。
それらすべてが全身に刺激と快楽を伝え、簡単に夜空と星の世界が真っ白になった。倒れ込む私を抱きしめる男は笑みを浮かべたまま夜空を見上げる。
「世界の王様も、やっぱ一人の人間だよな──良かった」
それは大きな力を持つが故に零した弱音だったかもしれない。
もし右手に輝く指輪が左手にくる日が来たら、仕方ないが慰めてやろうと思った──。
* * *
「つーわけで、俺もお嫁さん(ヒナ)争奪戦に加わるからヨロなり☆」
帰国してすぐ私を後ろから抱きしめるイズはホールに集まっていた『四聖宝』と宰相に向けて言った。全員が沈黙すると同時に、視線は私の右手にある指輪に向けられる。勘、良いな貴様ら!!!
額に手を当てたフィーラは溜め息をつくとイズを睨んだ。
「争奪戦……と言うが、勝敗などありはしないだろ」
「うんにゃ、この場合ヒナを孕ませ「「貴様ーーーーーっっ!!!」」
私とフィーラの怒号が響く中、残りの四人は『まあ、それが一番ですよね』『……それより他を殺した方が』『のんびりいこうぜ』『ん~プロポーズ~どうしようかな~』と呑気に話している。フィーラは既に剣を抜いているが、人質にも取れる私に手が出せず苦虫顔で睨むだけ。
そんな彼らにニヤニヤするイズは拍車をかけた。
「争奪戦って言っただけ感謝しろよ。王権限で『ヒナはもう俺の嫁。何人たりとも手は出してはならぬ』って言っても「「「「「解放」」」」」
全員の輝きが放たれ、城が大きく傾いたことは言うまでもない────。