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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*蝶が止まる場所

「ヒナタちゃん、用って何?」
「……貴様」

 

 茶の渡り廊下から現れたのは長いミントグリーンの髪をひとつ結びにした“素”口調の男。
 腕には脱いだ白のローブがあり、左腰には剣を掛け、首元にはアクロアイト石。そして眼鏡の奥で金色の瞳を開いている宰相は爽やか笑顔──当然。

 

「うわおっ!!!」

 

 ハリセンで叩いてやった、うむ。
 背中を擦る男は苦笑いしながら眼鏡を上げると、いつもの細い瞳で私を捉えた。

 

「よく~僕が~ドラバイトに~いるって~わかったね~~」
「うむ。ストレスが溜まると魔物討伐に加わっていて迷惑していると、アウィンがボヤいていたからな」
「うっわ、ひっど」
「ほら、フィーラからだ」

 

 “宰相”口調に戻ったのほほん男に書類を渡す。
 溜め息が聞こえたが、書類を読みながらエレベーターのスイッチを押した。

 

 正午過ぎに彼を捜すフィーラと会った私は『宰相室は書類の山だった』と聞き、思い当る節があったので書類を引き受けた。アクロアイトには副団長がおらず、次々とやってくる書類を片すのはすべてこの男。しかも王であるイズは『半永久不在』のレッテルを貼ってもいいほど国にいない分、負担もストレスも溜まりやすい。

 

 そんな彼の発散方法が魔物退治。
 元ドラバイト騎士団長だからだとは思うが、重鎮となった今は迷惑しているとアウィンが言っていた。案の定ドラバイトの団員に聞くと大当たりというわけだ。

 溜め息をつきながら一緒にエレベーターに乗り込むと、ふと思い出したように宰相は言う。

「イーちゃん~今~東の~トルリットで~温泉~入ってるって~~」
「温泉!? なんて贅沢な……」
「王様~だからね~仕事後の~温泉は~極楽なう~って~……鴉が来たよ」

 

 最後、口調と空気が変わったことに『それでストレスが爆発したな』と同情した。すると、三十階にエレベーターが着く。

「ヒーちゃん~この後は~~?」
「ん? 用も終わったし自室で何かしようかと」
「なら~僕の~手伝い~してよ~~」
「手伝い? 文字も読めない私が?」
「うん~でも~計算は~出来るでしょ~計算間違い~ないか~見てよ~~」

 

 四方とも違う文字で書かれていて読めないが計算ならと頷く。
 そんな私にのほほん男は笑みを浮かべると『よろしく~~』と、宰相室のドアを開いた──やめておけばよかったなど、後の祭りだ。

 


* * *


 お家へ帰る鴉の声が『アホ~アホ~なり~♪』と、イズに聞こえる。
 ソファに俯けで倒れた私の頭にはヒヨコの被り物をした『四聖宝』が回っていた。そんな頭を突く手に顔を上げると、最初と変わらぬ服と髪型。そして、笑みを浮かべた男にカップを差し出される。

「お疲れ様~~」
「貴様……実は凄かったんだな」
「いや~それほどでも~~」

 

 気の抜ける声にカップを受け取らず俯く。
 笑いながら頭側に座ったのほほん男はカップをテーブルに置くと、私の頭を撫でた。

 

 宰相室のドアを開けると、床からニメートルはある書類の山山山。
 よくぞここまでという量を魔法を使っているかのようにこなしていく宰相をはじめて尊敬した。そして計算頼むと言われた書類は大物……何しろ億を越して兆とか桁が違う。字が読めない分、逆になんの数字なのか気になりながら団長判子と字をチェック。

 さすがと言うか、フィーラとベルの字は綺麗で、数字も殆ど狂いはなかった。
 フィーラなんて間違えて書いた団員の書類に横線と訂正文字。ベルはペケを付け、何度も修正させた跡がある……学校じゃないんだがな。

 

 そして年少組。アウィンは字が汚い上に判がはみ出てくしゃくしゃ。スティに至っては枚数が足りない……計算は合ってるが、数式は消してから提出してほしい。
 そんな問題紙をよくも一人でと感心するように仰向けになると、見下ろす彼に問うた。

 

「副団長……作らないのか?」
「んー……八年もしてると一人に慣れてね。最近は魔物も減ったから被害書とかもなくて楽だよ」

 “素”に戻った男は笑いながらカップに口につける。
 飲み終えるとソーサーに置き、真上から顔を覗かせた。それは鼻と鼻がくっつくほど近く、さらりと柔らかい髪が頬を撫でる。動悸が徐々に激しくなる私とは違い、真上には変わらない笑み。

「それに、ヒナタちゃんのおかげで他の連中も前よりは書類出してくれるようになったしね」
「そ、それは良かったな……が、ちちち近いぞ!?」
「うん、そうだね。でも他の連中とはもっと近いだろ?」

 楽しそうな金色の双眸を向ける男に目を逸らせずいると──口付けられた。

 

「んっ……ぁん」

 

 慣れない真上からの口付けに身じろぐが、唇を外しても追いかけては重ねられる。そして、お仕置きとばかりに舌を差し込まれた。身体が跳ねようとするが、疲れが溜まっているのか小さな浮き。それを見たのほほん男は唇を離すと笑いだした。

 

「あっははは!」
「や、やかましい!」
「だ、だって……はは……跳ねかた小さっ……そんなに疲れてた?」
「慣れんことさせた貴様が悪い! 第一、疲れてるのわかってるならするな!! むしろ何しとるんだ!!!」
「遅っ!」

 

 今さらツッコミを入れた私にのほほん男はまた笑う。
 あまり見ない笑いに心臓が早鐘を打ち、身体は火照ったままだ。目尻から出ていた涙を拭いた男は笑いを治めると、また顔を近付け人差し指で私の唇をなぞる。

「疲れてるなら好都合だよね……ヒーちゃん?」
「ちょちょちょちょ! 変なことするなよ!?」
「他の連中に怒られるから?」

 微笑が怖く頭を叩くが、表情は変わらない。
 それどころか唇をなぞっていた指を口内に差し込まれ、舌を撫でられる。小さな刺激に下腹部がゾクゾクし出し、身体を横に向けるが、耳朶を甘噛みされながら囁かれた。

「僕……言ったよ?」
「ふゅんん……」
「“今度は僕と内緒でヤろうね”……って」
「んんーーっ!」

 

 囁きと同時に口内の指がニ本になり、耳を舐められる。
 大きな刺激に仰け反ると指を抜かれ、荒い息を吐きながら唾液を垂らした。それを舌で舐め取りながら私の上着を脱がしていく行動に脳が快楽に揺れる。目も虚ろになるが、必死に口を開いた。

 

「こらっ……ダメだと……と言うかなんで……んあっ」
「なんでって……そりゃ」

 

 抵抗空しく簡単に上着を脱がされると、下着が露になる。さらにズラされると、両手で乳房を揉み込まれた。形を変えながら親指と人差し指で捏ねられる度に喘ぎが漏れ、また耳元で囁かれる。

 

「好きな女を抱きたくなるのが男だろ?」
「ああぁんっ!」

 

 強く両乳首を引っ張られ声を響かせるが、脳では彼の言葉が木霊する。それがいっそう頬の熱を上げると下腹部が濡れるのを感じた。気付いたかのようにズボンとタイツを下げられると、ショーツ越しに秘部を撫でられる。

「あれぇ、結構濡れてるね……もしかして言葉(こえ)だけで感じちゃった?」
「ち、違う……っ!」
「本当?」
「はあぁあん……」

 

 面白がるように耳元で囁きながらショーツを撫でられると“ぐちゅっ”と音。
 赤くなった顔は跨る彼の胸板に覆われ、胸元に顔を寄せた男の舌が尖った先端を舐める。乳首を口に含みながらショーツを撫でている手が隙間を通り、秘部を擦ると愛液が簡単に絡みついた。

「あーあ……ん、ドッロドロだね。もう穿いてる意味ないんじゃない?」
「ゃあぁ……やめ……」
「気持ち良いくせに……」
「ああぁ……っ!」

 くすくす笑う男は半分までしか下げていなかったズボンの他、ショーツも床に落とす。そして丸見えとなった秘部をじっと見つめている。けれど、私の目の前には跨った彼の股があり、膨らんでいるようにも見え、指で突いてやった。

「あっ、ちょっ……ヒナタちゃん」
「いや……目の前に気になるもの……ひゃんんっ!」

 

 多少は効いた気がしたが、すぐ両脚を屈曲されると愛液を舐められた。
 ワザと厭らしい水音を鳴らしているようでゾクゾクが止まらない。すると彼の手が自身のズボンを脱がし、膨れ上がった肉棒が目の前に現れた。目を見開くと愛液を舐めながら囁く声。

 

「欲しい……?」
「そ、そんなこと……んっ」

 楽しそうな金色の双眸を向けながら、肉棒の先端が唇に付く。
 他の男達とは違うモノに興奮しているのか、愛液が零れるのを感じると舌で“ちろり”と舐めた。小さな呻きが聞こえたが、私の愛液を舐め吸い取る激しさは変わらない。負けじと私も大きく口を開くと奥まで咥え込んだ。

「っああ……ヒナタちゃん……負けず嫌いだからね……んんっ」
「人にょこと……あぁあっ……言ふぇるか……んっあぁ!」

 

 必死に咥えていたが、愛液を舐めながら指を一本挿入される。
 それが出たり入ったりを繰り返し、つい肉棒を口から離してしまった。だが片手で自身の肉棒を持った男にまた咥え込まされる。

「ひゃああぅっ……!」
「負けるの……嫌なんだろ……ほら……もうちょっとで……っ」
「もうひょっ──んんんっ!!!」

 

 膨張した肉棒は我慢を越えたのか、口内で白液が噴き出す。
 口から零れながらも喉の奥へ流れ、彼色に染まっていく。白液を落としながら肉棒を抜いた男は上体を起こし、汗を拭きながら嬉しそうに私を見下ろした。

 

 その表情に心臓が大きく跳ねると、上体を支えられながら起こされ、真正面から抱きしめられる。同時に結んでいた私の髪を解いた。彼の手には白の竜と蝶が刻まれたアクロアイト石のヘアゴム。

「金色の蝶……飛ばすから……受け止めて」
「は……んっ」

 

 耳朶に口付け、優しい声を響かせると親指で石を擦る。と──白だった蝶が金色に変わった。
 驚きながら触った蝶は紛れもなく宝石。宝石恐怖症なせいか本物だとわか……じゃなくて!

 

「ちょっ……それ!」
「そ、“忠誠の証”。僕があげるなら……これしかないよね?」
「いや、でも……」
「残念、もう付けちゃった」
「おいいぃぃーーーーんんっ!?」

 

 羞恥で叫ぶが、口付けを受ける。
 同時に腕を回した彼の手が器用に私の髪を結び、金色の蝶を止める。

 

 荒々しく舌で口内を掻き回しながら片手を後ろから股に潜らせると秘部を撫でられた。既に口内は彼の白液と舌に染められ、唇を離すと白い糸で繋がる。糸と一緒に唇を舐められると身体が跳ね、彼は笑いながら耳元で囁いた。

 

「遅れた分……これからいっぱい愛を言ってあげる……だから姫君(プリンセス)も僕の名を呼んで」
「名前って……あぁ」

 秘部を撫でる指が膣内に入り、乱されながら囁かれる彼の愛称。同時に腰を浮かされ、彼の股の上に跨ると、覚えのある言葉が聞こえてきた。


「ここにヒューゲバロン・クロッバズは絶対なる君主(ひかり)であるヒナタ・ウオズミに忠誠を誓いましょう──よろしくね、愛する姫君(ビーラブド・プリンセス)」
「ひゃあああああぁぁぁーーーーっ!!!」


 言い終えるとすぐ腰を下ろされ、肉棒に貫かれる。
 突然だったせいで奇声を上げたが、互いに濡れたモノは簡単に奥へと入り込み、あとは激しさを求めるように動くだけ。

「あぁぁんっ、ああっ……」
「あぁっ……ヒナタちゃん……色々な大きさの……挿れてきたから……簡単だね……でも悔しいな」
「ひゃぁああっ!」

 

 激しく揺さぶりながら首元に吸いつき胸を掴み、乳首を弄るすべてが荒く、いっそう激しさを強める。痛みと快楽に溺れはじめていると、彼に抱きつき耳元で呼んだ。

 

「はぁぁああ……バ……ロンんんっ!!!」
「やっと呼んだ……っ!」

 

 直後、膣内で一気に膨張した肉棒に締め付けられる痛みに必死にしがみ付くと口付けを求められた。それに応えるように舌をバロンの口内へと入れ、舌を絡ませると大きな電流が走る。

 

「んんぁっ……はぁ、もうっ……ムリぃっ……」
「んっ……膣内も全部僕に染めて……イきな……っ!」
「あぁっ……ぁあああああっ!!!」

 

 大きな声と一緒に絶頂が駆け上り真っ白となる。
 それは他とは違いすぎる激しさで、何かを思う暇もなく意識を飛ばした。そんな私を抱きしめる両腕は優しい。だが、息を整えながら髪に止まった蝶に口付けた男は楽しそうに笑っていた。

 


「まだまだ……お楽しみはこれから……だよ」

 


 その声は届くことなく私は気持ち良い世界に飛んだ。が、死神騎士(グリム・リーパー)に無理やり元の世界に意識を戻され、他の四人との差を埋めるように何度も何度もイかされては戻される。そんな彼の首元で光るアクロアイト石を見て思い出した。

 そういえばこいつ──ドSだ。

 翌日すぐ『四聖宝』に蝶が見つかり、責(攻)められることは知る由もない────。

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