異世界を駆ける
姉御
番外編*黒白ピンク
今日は第三回ラズライト観光日。
当然昼間にスティが来るはずもなく、夕刻頃に着物に着替えた三騎士と共に彼の居る『宝遊郭』を訪れた。が。
「んだよアレ」
「クッション……?」
「ですね」
「うむ」
鶯色着物のアウィン、蘇芳色のフィーラ、萌黄色のベル、露草色の私は目を丸くする。
見上げるのは五階建ての『宝遊郭』。だが、各階の屋根には大量のクッションが日干しされていた。
見てわかる。あれはスティのだ。
まさかと遊郭の玄関前で体育座りし、顔を青褪めるサティとチェリーさんの子供、フォンテ君とフォンターナちゃんに目を移す。ポツリポツリと順に呟いた。
「天気良いからって、チェリミュ様が全部干しちゃったのよ」
「そしたらカレスお兄さん怒って……」
「遊郭……お兄さんに占拠されちゃった」
「団長がテロリストかよ」
アウィンの言葉に沈黙が漂ったが、放っておくことも出来ず遊郭に足を入れ──たが、なぜか三騎士が剣の柄を握った。微笑むベルも細めた目で見上げる。
「悍ましい気配がしますね」
「上……か」
「? バカ言ってないで行くぞ」
「てめーはどんだけ鈍……って、ちょっ、待て!」
「黒ウサギ退治よろしくね~」
気にせず板の階段を上る私と追い駆ける三騎士に、サティ達は白いハンカチを振りながら見送る。黒ウサギ退治? 鬼退治じゃなくて?
桃太郎気分になった私はサル・キジ・イヌ──ではなく、ニワトリ・トラ・イノシシのお供を引き連れ五階へと辿り着く。息を呑むお供を余所に、私は平気で襖を開いた。
「なんだ、大広間(こっち)に居るとは珍しいな、スティ」
「…………………………ヒナ……さん」
七十畳ほどの大広間中央にあるのは黒のローソファ。
俯けで寝転がっているのは青髪を後ろ下で結い、空色の着物の上に青の中羽織。そして黒ウサギを枕にし、左に寄せた前髪から藍色の瞳を見せるスティ。
足を出すより先に部屋に入った三騎士が剣を抜いた。
「大魔王黒ウサギの登場だぜ」
「この殺気はヒナタ以外に向けられているものだろうな」
「さっさと退治しましょうか」
「ちょっ、貴「うるさい……」
意味不明な三騎士を問う前に遮られた。
久々に聞く低い声に肩が跳ねると声の主を見る。上体を起こし、ソファに背を預けた男の着物の隙間からは肌が見え、足を組む姿はどこぞの王を思い出す。
目を細めたスティは右手を前へ出し、横に振った。
「『墜影落(ついえいらく)』」
「のわっ!?」
「おおっと!?」
「んだよこ──っ!?」
大きな影が私達を覆うが、三騎士だけを呑み込み──消え去った。
窓の外から夕日と鴉の声が響き、一人になった私は呆然。唯一この部屋にいるスティは一息つくとソファに背を沈め、前に伸ばした両手を上下に動かす。
「ヒナさーん……こっち来てくださーい……」
「う、うむ……」
普通声に戻ったスティに冷や汗をかきながらも足を進める。
脚を開いた彼の間につま先を立て跪座すると、両手を伸ばす彼の片手に頬を当てた。不機嫌顔が笑みに変わり、細長い両手が私の頬を包むとゆっくりと自分へ動かし──唇を重ねた。
「んっ、あ……」
上と下唇の隙間にスティの冷たい舌が入り、私の熱い舌と触れ合う。
慌てて両手をカーペットが敷かれた畳につけ、身体を支えるが、頬にあった片手が後頭部を固定した。何度も舌同士が互いの口内を行き交う。
「ぁんっ……スティっん」
「ん……落ちて……いいよ」
甘美な声に、支えていた両手が力をなくすように彼へ落ちた。
互いの肩に顔を埋めるが荒い息を吐くのは私だけで、スティは嬉しそうに頬ずりする。が、途中で止めると不機嫌顔になった。
「どうした……あ、クッション……中に入れるか?」
「それはサスティス達がやる……じゃなくて、これ……」
指されたのは赤の宝石が輝くチョーカー。
フィーラの証がどうしたのかと首を傾げるが、スティの顔がいっそう不機嫌になった。首……首元……スティ……あっ!
手を出すよりも先に首筋を咬まれ、痛みが走る。
「あぁっ!」
悲鳴を上げた瞬間、口でチョーカーを外したスティは“癖”の首に吸いつく。うなじも首根も激しく吸っては赤い花弁をつけ、咬みついた箇所を優しく舐めた。
「ん、ヒナさん……痛かった? ごめんなさい……」
性格がコロコロ変わることに困惑しながら、まだ忠誠の装飾を首元に出来なかったのを根に持っていたのかと思い出す。
何しろ彼が首元で浮かんだ装飾は首輪。変えたらしいが、チョーカーのフィーラを見た時はショックのあまり、しばらく塞ぎ込んでいた。未だ胸元で不貞腐れている様子に苦笑しながら耳と手首のも外すと黒ウサギのお腹に乗せる。
「ほら、これでいいだろ。というか、チェリーさんや三人をどうした?」
「チェリミュ様は家……さっきの三人なら遊郭のどっか……多分姐さん達の餌食になってる」
「は……ひゃっ!」
目を丸くすると着物の襟を大きく開かれ、ブラもしていない乳房や藍色のネックレスが露になる。笑みを浮かべたスティは両手で乳房を掬い、中央に寄せると両先端を舐めた。
「ああ……こらぁ」
「んっ……なんでですか? ……今はボクだけの姫君(プリンリペッサ)でしょ……ん」
「姫君と言うより……ん、桃太郎だ……あぁん」
「ももたろう?」
首を傾げながら片方の乳首を吸い、片方は手で弄るスティ。
そんな彼を抱きしめた私は喘ぎながら語る。あまりの刺激に語る口は遅く、気付けば日が沈みはじめ、壁掛けの行灯が部屋を灯した。
胸から顔を離したスティの股間に座ると、荒い息を吐く唇に人差し指をつけられる。同じように自身の唇にも指をつけ、片方だけ藍色の瞳を覗かせる男は楽しそうに言った。
「じゃあ、ボクが“鬼”で……ヒナさんが退治する人……なんですね?」
「うむ、まあ……」
「なら……お供を倒したボクと一騎打ちです」
「一騎う………ひゃんっ!」
自分の唇につけていた手を、太腿が見える私の下腹部へと這わせる。
ショーツの隙間を通った手は茂みを割って、ニ本の指で秘部を撫でた。気持ち良い指に喘ぎを漏らすと笑われる。
「先に……イかせた方が勝ち……ですよ?」
「へっ!? ああぁっ!」
まさかの勝負に目を見開くと、勢いよく膣内に挿入された指が淫らに動く。同時に片方の手が胸を掴み、寄せた唇に吸われると、いっそう気持ち良さに愛液が零れた。
「あ、はあぁん、ああぁっ……」
「んっ……あれ……もう負けですか?」
「そ、そんな……あん……わけないだろ……っ」
「わっ!」
負けず嫌いなせいか、スティの首根に噛みつくと驚いた声が上がる。
あまり聞かない声に調子に乗って普段彼がするように吸っては舐めるが、秘部に挿し込んでいた指を抜かれると、後ろから挿し込まれた。
「ああんっ!」
「こっちの方が……んっ、気持ち良いで……んっ」
乳首を甘噛みしていたスティの頬を両手で包み、目を合わせると口付ける。
舌を行き来させ、口元と下腹部からは淫らな音が響く。すると、突然外から大きな音と地響きが伝わった。慌てて身体も唇も離すと、左の上半身が露になったスティは不機嫌な顔をした。
「ヒナさーん……なんで止めるんですかー」
「え、だって今……すごい音ぁあっ!」
瞬間、前後から三本ずつ指を蜜口に挿し込まれ、六本の指が膣内で暴れる。
今までにない刺激に大きく弓形になると、窓の向こうで煙が上がっているのが見えた。考えればスティは仕事じゃ……。
「ボクの今日の仕事は……桃太郎(ヒナさん)退治です」
「いや、魔物……あんっ!」
同時に指を抜かれるとソファに押し倒される。
跨るスティは愛液で濡れた片方の手を舐めながら片方の手を畳みに付け、『水伝響(すいでんきょう》)』と呟いた。数秒の停止後、手を離すと私の着物の帯を解きながら爽やか笑顔を浮かべた。
「大丈夫だそうです」
「本当か!? ふぁああっ!」
露になった肌に慌てて胸と下腹部を隠すが、解いた帯で両手を頭の上で縛られる。
「ちょっ! こらっ……ぁああっ」
「綺麗な身体……見せてくれないヒナさんが悪いです」
丸見えの乳房を揉みながら、スティは愛液で濡れているショーツを舐める。布越しでも舌が当たる度に快感が駆け上り身じろぐ。
「動いちゃダーメ……あまり動くと全身縛りますよ」
「ス、スティ……」
「もうちょっとでヒナさんイきそう……そしたらボクの勝ち」
「ず、するいぞ……!」
「ぅあっ!」
体勢的に不利な私は片足をスティの股に潜らせると、丁度大きくなりだしていたモノを擦った。それに小さな悲鳴を上げたスティは上体を私の上に落とす。してやったり。だが、何かのスイッチを押したらしく空気が黒………ん?
「ス、スティ……あぁああんっ!」
ショーツを無理やり脱がされると蜜口に三本の指が入り、荒々しく混ぜられる。
上体を起こした彼は片方の手で自身の帯を解き、均等に割れた筋肉と肌を露にした。目を奪われていると首元に吸いつかれる。
「あぁっ、あぁ……」
「ヒナさん……もうイこうか」
「ああぁ……まだぁ」
「ダーメ……好きなのココだよね?」
「ふゃああーーーんっ!!!」
いつもより低い声と違う口調に犯されると、巧い指使いでイイところを擦っては突いて混ぜ、降伏の声を上げさせた。
「い……イくぅーーっ!!!」
瞬間、潮を噴き出し、膣内に入っていたスティの指と手を濡らす。
ぐったりとソファに沈み、荒い息を吐く私の両手を解いたスティは空色の着物を脱ぐと濡れた手で長い前髪を掬い上げた。藍色の双眸を細め、笑みを浮かべる妖艶な姿に動悸が激しく頬が熱くなると耳元で囁かれる。
「はい、ボクの勝ち……勝ったんだから何してもいいよね……ヒナさん?」
既に熱い身体と秘部を濡らした私が勝てる要素はなく、降伏の頷きを返した。
微笑んだスティは口付けると、私の両脚を持ち上げ屈曲させる。隙間から見えるのは雄雄しく勃った肉棒。
「早く挿入たかったのに……ヒナさん頑固だから……」
「じゃあ……私が勝ってたんじゃ……あぁっ」
「ん、でもダーメ……最後に勝ったのは……ボク」
「ひゃぁああぁーーーーっ!」
挿入された肉棒によって喘ぎを響かせる。
屈曲と潮を噴いた後ではいっそう深く入り込み、快感も大きい。同時に先ほども感じた地響きのような音が伝わり、喘ぎながら汗を落とす男に訊ねた。
「このっ……揺れ……やっぱ何か……あったんじゃ……ひゃあぁあーーっ!!!」
「揺れって……ん、コレ?」
首に両腕を回されると激しく上下に揺す振られる。
パンッパンッと出たり入ったりの快楽にもう何も考えられない。同じように汗と息を荒げるスティも挿入を繰り返しながら胸に首元に頬に口付けを落とし囁く。
「ん……ヒナさんは……ボクの……誰にも渡さなあぁっ……」
「スティっ……ああぁん!」
視界が揺れるが、藍色の双眸を向ける彼を抱きしめ、口付けを交わす。膣内で大きく硬く熱くなる肉棒に互いが限界なのがわかった。
「んっ、はあぁっ……スティ……もうっ……!」
「うん……いいよ……イこ──っ」
「んっあああ゛ぁぁぁーーーーっ!!!」
熱い白液が膣内で噴き出され、一瞬で世界が真っ白になる。
力なく倒れる私を抱きしめるスティは一緒にソファに沈むと嬉しそうに頬ずりした。
「ヒナさん好き……大好き……愛してる」
その声に両頬を熱くしたまま絶頂に瞼を閉じた──。
翌朝、痛い身体を支えながら白の着物にスティの中羽織を着て大広間を出る。と、クッションが山積みにされた廊下でサティとミッパが体育座りで暗い空気を纏っていた。
「ど、どうした!?」
「え……ああ、おはよヒナっち……黒ウサギ退治ありがと……」
「は? いや、私は別に……」
「遊郭の結界取れたので……仕事してくれる証拠ですよ」
暗すぎるニ人に戸惑っていると、襖の奥から寝ていたはずのスティの不機嫌声が届いた。
『ヒナさーん……どこー……』
「ちょ、手洗いぐらい!」
『泣きますー……』
「ああ! 待て!! で、ではなニ人とも!!!」
「うん、上司(大魔王)をよろしく~……」
わけがわからないまま大広間に戻る私は、ニ人の会話など聞こえず襖を閉めた。
「団長……白っていうか……ピンク?」
「黒で『水響伝(あれ)』言われるのと同じ怖さだわ……」
「あー……『魔物と一緒にボクに殺されるのと自力で頑張るのどっちがいい?』ですからね……上級相手に後者を選んだ俺達も俺達ですけど」
「だって前者100%死だもん……」
「……三騎士がいて助かった」
ニ人お疲れの昨夜、魔物襲撃があったこと、妓女に遊ばれた三騎士が初の他騎士団と連携を取ったことを私が知るのはまだ先──しかし。
「じゃあ……潮を噴かなかったら手洗いに行かせてあげますね」
「無理いぃぃーーーーーーっっ!!!」
私が団長(ウサギ)の機嫌(色)を変え、ラズライトの行く末を決めていることは一生知ることはない────。