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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

番外編*トルリット国(6)

*第三者視点からはじまります

 海岸沿いでは円を描いた人だかりができ、人々は酒を片手に歓声を上げていた。
 群衆の先には赤いハチマキを揺らす小柄の男と、オールバックにした髪が崩れた大柄の男が──殴り合っている。

「ほうっ、やるではないか! さすが、小生の孫「じゃ、ねーーっっ!!!」

 

 エジェアウィンの拳がワンダーアイの頬に勢いよく打ち込まれると、体勢を崩したワンダーアイが倒れ込む。ゴング代わりに大きな歓声が沸き上がった。
 荒い息を吐きながら地面に刺していた槍を抜いたエジェアウィンは勝者の声を上げる。

「うっしゃー、オレの勝ち! とっとと城に」
「な……ぜ」

 

 槍を縮めた後ろで上体を起こすワンダーアイに、エジェアウィンは眉を上げる。だが、頬に青痣を作った男の眼差しは真剣だった。

 

「少なくとも……昨年会った時は……貴殿らが歯向かうことなど想像もしなかった」

 

 灰の双眸を上げた空には花火が散っていた。
 その空を横目に武器を腰ベルトに戻したエジェアウィンは土まみれになったコートを拾う。

 ワンダーアイの言う通り、過去『四聖宝』はアズフィロラ以外、喋ることはなかった。ラガーベルッカは本を読み続け、カレスティージは立ったまま眠り、エジェアウィンもとんずら。国内外問わず互いに干渉せず、面倒事を避ける男達だった。

 そんな彼らが一人の女性のことで『南十字』と戦うなど、ワンダーアイは思ってもいなかったのだろう。揺れる赤のハチマキを見つめる彼に、エジェアウィンはコートを肩に掛けた。

「……『漢とは身を挺して妻と子だけではなく孫も護る』。少し違うけど、妻候補が捕えられて待っとくヤツは漢じゃねーだろ。じいじ?」

 

 振り向いた彼の口元には笑み。
 それはワンダーアイも見たことないほど柔らかく、自然と自身も笑みが零れた。

 

「へ~ヒーちゃん~捕まったんだ~~」
「っ!?」

 

 割って入ってきた呑気な声に含まれた殺気にエジェアウィンは固まる。
 同時にニ人を囲っていた人々が道を開くと、ゆっくりとした足取りで近付いてくる人物。腰まである長いミントグリーンの髪と白のローブが熱を帯びた風に揺れ、街灯が彼を照らす。眼鏡の奥にある細い金の瞳を覗かせた男は。

「ヒューゲ!?」
「エ~ちゃん、何やってんの~~」
「なんと、クロバッズ宰相か!」

 

 不敵な笑みを浮かべるのはアーポアク国宰相ヒューゲバロン。
 背に竜など背負っておらずとも『四聖宝』以上に他国へ足を運ぶ彼も有名人だ。そんな彼の笑みにエジェアウィンは後退りする。

 

「な、なんでてめぇが……」
「うっわ、ヒっド~僕~後から合流って~言ったよ~なのに~早速~面倒起こして~~」
「う、うっせーよ! 黒王の許可出てんだからいいっ!?」

 

 慌てるエジェアウィンの頬に冷たいもの──抜刀したヒューゲバロンの切っ先が擦る。ワンダーアイも息を殺すと、金色の双眸は城を映した

「それなら話は早いね。もし彼女が競売に賭けられたら『四聖宝(キミら)』全財産はたいて取り戻しなよ」
「ぜ、全財産……?」
「そ、過去に憶越えとかあったからね。まあ、潰しちゃえばいいんだけどさ」

 

 楽しそうに笑う男は剣を鞘に戻すと白のローブを翻す。呆然とするエジェアウィンに、眼鏡を上げた男の声が響いた。

 

「行くよ、アウィン」
「お、おうっ!」

 

 振り向いた彼の笑みと声に過去を思い出したエジェアウィンは条件反射で返事をする。それでもどこか嬉しそうに追い駆けていった。

 勢いが冷める群衆の中、ワンダーアイだけが笑みを浮かべている。

 心配する団員達を他所に、彼は手を地面に付けた──。

 


~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 


「異世界人が売られたことがあるだと!?」
「ヒナタさん、もう少し声を落としてくださいね。キスしますよ」
「もうっ、して……んんっ!」
『ギャウッ!』

 

 ベルの口付け攻撃! ヒナタは百の羞恥ダメージを受けた! 子ライオンのぷに攻撃! ベルは五のダメージを受けた!

 

「七ニ番、一千五百万ジュエリー落札!」

 

 アホなやり取りをしている間に、真下では続々と品物が落札されていく。
 薄暗い三日月形のホールには目元に仮面を付け、正装した男女が椅子に座っている。司会の声が上がる度に自身の札を上げては金額を叫ぶオークション。目下開催中のステージ真上にある照明上で、私達は会場入りしてしまった忠誠の宝石登場を待っていた。

 

 その間にベルから過去、異世界人がオークションで賭けられたという恐ろしい話を聞く。
 稀だがやはり人間もアーポアク外に墜ちることがあるらしく、莫大な値段で競り落とされたらしい。子ライオンのような動物は珍しい生き物として高いのだが、私もとい、異世界人はその倍。魔力がなくても生き、殆どの結界を無視出来る他、豊富な知識を持っているからだ。

「もっとも、審判に懸けることなく歴代王が殺したそうですが」
「ああ……レウさんならやるな。おっ、イエローダイヤが一億で落札された。まったく、宝石集めてどうするんだ」

 

 宝石収集家の気持ちがわからず、早く忠誠のが出てきてもらいたい私は身震いしながら子ライオンの頭に顎を置いた。そんな私を後ろから抱きしめるベルのマントがいつもと違うことを思い出す。

 

「白緑はどうした。イメチェンか?」
「まあ、そんなものです。ヒナタさんこそ、子ライオンが付けているのは……」
「ん? ああ、プレシャス・オパー『ヒナタ! ラガーベルッカ様!!』

 

 突然の声に肩が跳ねたが、見上げると赤い鳥──スズメフィーラが飛んでいた。
 必死に捕まえようとする子ライオンを押えると、スズメフィーラはベルの頭に着陸。片羽で汗を払いながら安堵する。

『無事に合流出来たんだな』
「うむ、心配かけてすまん」
『奇怪なキミを考えれば騒ぎ損っだ!』

 

 子ライオンのひっかく攻撃! スズメフィーラは瀕死だ!!
 スズメやイズの鴉は自身の分身のようで、攻撃すれば術者もダメージを食らうらしい。子ライオンを持ち上げ大打撃を負わせた私に、スズメフィーラは俯けでピクピク体を動かしながら力無い声を発した。

 

『それで……何をしてるんだ……早く出てきてもらいたいんだが』
「それがですね……あ、ヒナタさん、出てきましたよ」
「何!?」

 

 別の“出てきた”に慌てて見下ろすと、黒の台に乗せられた箱が五つ、ステージに上がる。同時に黒服の男達の手で開かれ現れたのは──赤、翡翠、藍、紫、金の宝石が光る装飾品。間違いない。
 スズメフィーラの痛い眼差しが刺さるが、赤黒のロープを着た司会者の呑気で胸糞悪い声が会場を湧かせる。

 

「これほどの輝きを放つ宝石が今までに揃うことがあったでしょうか!? 衰えることない輝きは真の主が付けてこそ! 我こそは主だと言う御方は是非とも上げていただきたい。それでは初期価格五百万ジェリーから」

 

 はじまりの合図と共に歓声は止まず、プレートが次々に上がっていく。数センチほどしかなくとも色が珍しいのか、先ほどのダイヤを越す金額に握り拳を作った。それはスズメフィーラも一緒。

 

『とんだクズ共だな……』
「ですね。輸出している宝石だけで我慢していただきたいものです。それで、アズフィロア君は今どちらに?」
『丁度オークション会場のある真上辺りです。先ほどエジェアウィンから連絡があり、ヒューゲバロン様が到着しましたので頃合を見て突入を「主は私だーーっっ!!!」

 

 気付けば子ライオンと共に照明から飛び降りた私。
 ベルとスズメフィーラは目を点にし、司会者、黒服、客人達は唖然とした様子で着地した私を見る。そんな輩を指した。

 

「その宝石達は私の物だ! やられた分、私も力尽くで奪い返してやる!! 呑気に手を挙げてる貴様らも含め覚悟しろ!!!」

 会場が静寂に包まれる。
 その間に子ライオンが黒服に噛み付くと宝石が手から離れキャッチ。すると、観客が悲鳴を上げた。

 

「きゃああああーーーー!」
「なんだ、あの変な生き物は! 魔物か!?」
「くそっ、その女と生き物を捕えろ!!!」
「やかましいわーーーー!!!」

 

 キャッチしたのが丁度バロンのだったおかげか、アクロアイト石からハリセンを取り出すと黒服達をブッ叩く。乱暴者を見慣れてない仮面夫婦達は慌てて逃げるように扉へと走り、会場は大混乱となった──。


~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 


 スズメが見ているものが映像として脳内に流れてくるアズフィロラは頭を抱えた。ラガーベルッカの笑い声も一緒に。

『さすがヒナタさん。我々騎士の面目が丸潰れになる戦いっぶりです』
「呑気なことを仰ってないで止めてください……」
『そうですね、そろそろ閉じ込めていたウサギを解放しますか。まあ、一番楽なのは真上にいるアズフィロラ君が床を斬り落として生き埋めにする方法ですね』

 とんでもない提案だがアズフィロラ自身考えなかったわけではない。
 強度の結界魔法を持つラガーベルッカがいれば、地下の人々を護れる他、不快なオークション会場も消せる。が、それは他国城の破壊にもなり、何より目先に佇む男──ルーファスが許さないだろう。

 

 トルリット城一階、玄関ホールには竜と剣のマントを背負うアズフィロラ。そして竜と十字架を背負うルーファスが睨み合っていた。もっとも、ルーファスは先の戦いでラガーベルッカに負わされた傷が深く、息を荒げ、左肩を押さえていた。
 

 彼の後ろには白緑のマントを掛け、気絶したネジェリエッタと心配そうに見守る団員達。鋭い琥珀の双眸を向けるルーファスは十字架のイヤリングを取ると、必死に怒りを抑え込んだ声を発した。

 

「火映揺ららか α(アルファ)の星域にて 咎の業火を点けろ──解放(アフェシス)」

 

 炎が十字を描くと辺りの温度が上昇していく。
 汗をかく団員達とは違い、変わらない表情を向けるアズフィロラも自身の剣を抜いた。ルーファスの手元には炎を纏った細身のレイピアが形を成す。浅葱の髪を揺らす男にアズフィロラも切っ先を向けるが、開かれた口からは問い。

 

「ひとつ訊ねたい。ルーファス殿は此度の件をどこまで知っている?」
「……なんのお話でしょうか」
「王女の持つ輝石のことだ。総団長ともあろう貴殿が何も知らない、と言うわけではないだろ?」

 

 昨夜、ヒナタと王女の密会中アズフィロラとルーファスは扉の外にいた。
 だが、結界も張られていない部屋を盗み聞くのはニ人にとっては朝飯前で、アズフィロラは疑問に思っていたのだ。一瞬、レイピアを持つ手が揺れたルーファスは静かに瞼を閉じる。

 

「……知っていようがなかろうが、今の私の任務は『新月の盗賊』。もとい、自国に害をなす貴方方を捕えること……姫は関係「あります!!!」

 

 悲鳴にも聞こえる叫びに、アズフィロラも顔を伏せていたルーファスも見上げる。
 ニ階へ続く階段の踊り場には息を荒げ、金色の髪を後ろでひとつ結びにしたユーフェルティアと、血だらけのソランジュを抱えるワンダーアイ。
 ホールにいる者は息を呑み、ユーフェルティアは赤の双眸をルーファスに向ける。

 

「わ、わたしが招いた惨事です! わたしがルー達に何も言わなかったから……皆に大怪我を……ランジュなんて……」
「ボクが死んだ……みたいな発言……やめてよ……姫様」

 

 目尻から涙を落とすユーフェルティアに、血を流しながらもツッコミを入れるソランジュにルーファスは安堵する。同時に王女の胸元で光る輝石に眉を上げるが、先に口を開いたのはユーフェルティアだった。

 

「ワンダーから聞きました! 四人ともプレシャスが偽物だと知ってて捜してくれていたと!!」
「……挙動不審の姫を見れば誰もがわかります」
「だ、誰もがですか!?」

 

 強気に出ていたはずのユーフェルティアは一言の返しだけで後退りした。溜め息をついたルーファスは剣を下ろす。

 

「もっとも、メイドに白状させた時は“なくした”としか言わなかったので、またドジなさったかと思えば……昨夜盗られたと聞いて驚きましたよ」
「ぬ、盗み聞きしていたのですか!? プライバシーの侵害です!!!」

 

 その言葉が大きくアズフィロラの胸に刺さった。
 だが、良心が痛む彼とは違い“へのかっぱ”のルーファスは王女と言い争う。そこにトルリット兵を掻い潜り、エジェアウィンとヒューゲバロンが顔を出した。

 

「胸押さえて何やってんだよ、アズフィロラ」
「こ、心が痛い……」
「アーちゃん~打たれ弱く~なったね~~」
「そもそも、姫がさっさと南十字(我々)に相談していればこんな面倒なことにはならなかったんですよバーカ! しかも、その輝石!! いつの間に嘘が上手くなったんですか!!!」
「う、嘘などついていません! これは黒竜が持って『うわあああーーーーっっ!!!』

 

 ユーフェルティアの言葉にアズフィロラの眉が極限まで上がったが、突如悲鳴が響き渡る。全員が辺りを見回すと、灯りで出来た自身らの影が集まり、直径三メートルほどの黒い球体が床から突如現れた。
 慌てて下がったアズフィロラとルーファスは球体を斬ると、大きな音を鳴らしながら破裂。現れたのは──。

「ったたた……スティ……もうちょっと緩やかな魔法は……あー、わかったわかった。ウサギはちゃんと直してやるから泣くな」
「ヒナさー……ん……うっ、ウサギがぁ……」
「まったく、メラナイトはデタラメな技を持って……おや、皆さん御揃いで」

 

 泣きじゃくるカレスティージを抱きしめるヒナタ。そして、笑顔で立ち上がったラガーベルッカの登場に誰もが驚く。何より三人以外にも仮面や赤黒のローブを着た数百人の人々が気絶した状態でホールを埋め尽くした。
 唖然とする周囲に立ち上がったヒナタは疑問符を浮かべるが、ユーフェルティアを見つけると嬉しそうに子ライオンを持ち上げた。

「ユフィー! これが“ライオン”だぞ!!」
『ギャウ!』
「ちょっ、女! そいつが付けてるのってプレシャスじゃねーのか!?」

 

 エジェアウィンの声に全員が子ライオンが首から下げる宝石と王女の宝石を見る。だが、宝石嫌いのはずのヒナタは平然と子ライオンの宝石を取った。

 

「ヒ、ヒナタ!?」
「ああ、これは模造品の方だ。ユフィがしているのが本物。なんでか取れなくてな、いったいどうなってるんだか」

 

 それは自分らの台詞だと『四聖宝』と『南十字』は思う。
 そんな彼女にぶら下がり、胸元から顔を出したカレスティージが子ライオンを跳ね除けると問うた。

 

「ヒナさん……ボクらと別れた後……王女様とすれ違いました?」
「ん? ああ。無我夢中だったから停まらなかったが、ユフィとそこの年上ニ人……あと」

 

 ヒナタは取り戻した忠誠の証を身に付けながらユーフェルティア、ソランジュ、ワンダーアイに目を移すと、髪を後ろで結びながら片眉を上げた。

 

「イズがいたな」
「イヴァレリズだと!?」

 

 苦虫顔と怒声を上げるアズフィロラにヒナタは気にせず藍色のネックレスを付け終えると、ユーフェルティアを見る。

 

「ユフィの前に年上ニ人、後ろに騎士が三人の隊列だっただろ?」
「え、ええ。そうです」
「その後ろの騎士の一人がイズだった。フィーラの誕生会ではあるまいに何をして……どうした?」
『まんまとアヤツにはめられたというわけだな』

 

 静まり返るホールに低い声が響く。
 同時に“闇”が集まり『四聖宝』は構えるが、ヒナタが制止をかけた。影で形を取り現れたのは、ヘビを肩に乗せた魔王。だが不機嫌そうにも見える彼にヒナタは訊ねた。

 

「イズは見つかったのか?」
『ああ。ついでに牢の結界をといてもらったから人質は解放された』
「結界?」
『主が捕まっていたばしょだ。この国で『影騎士(ウンブラ)』がとおれぬ結界は『空騎士(カエルム)』または黒王の結界だけだ。恐らく『影騎士』を南十字と当てたいがためにはったのだろ』
「やっぱり……」
「イズが妨害していたのか!?」
『妨害というなの試験だな。これをわたされた』

 

 さすがのヒナタも目を見開くと、渡されたニ枚の紙を開く。各紙には『四聖宝・南十字試験結果』と書かれ、五段階で評価されていた。

 

 *四聖宝*
 個人力…★★★★★
 連携度…★★☆☆☆
 柔軟度…★★★☆☆
 主張力…★★★★★
 なかよし度…★☆☆☆☆

 

 総評……まだまだ無鉄砲で自分勝手なとこがあるあり。もうちょい仲良くしろよ。

 

 *南十字*
 個人力…★★★★☆
 連携度…★★★★☆
 柔軟度…★★☆☆☆
 主張力…★☆☆☆☆
 なかよし度…★★★★☆

 

 総評……さすがにウチと違って仲が良く連携もなってるが、突然のことに弱いなり。命令を待つだけではなく自身からも王に主張すべし。

 

 覗き込んだアズフィロラとルーファス、そしてヒナタの手と肩は震えている。子ライオンを抱えたユーフェルティアは恐る恐る口を開いた。

「き、騎士団の力量を計るのも世界王の役目だと仰っていました……ライオンちゃんが墜ちてきてプレシャスが盗られたのは偶然ですが、それを黒竜は……」
「我々とアズフィロラ様達を戦わせる為に利用したと……!」
「私がすれ違った隙にユフィの偽物を奪い、子ライオンがしていた本物とすり替え……!」
「『新月の盗賊』も捕らえることが出来て一石二鳥……とどのつまり、すべては……!」

 


「「「あんのっクソったれ王かーーーーっっっ!!!」」」


 紙を握り潰す音と三人の大声が響く。
 珍しい総団長の声に騎士達は驚き、ネジェリエッタも目を覚ますが、残りの四聖宝、ワンダーアイ、ソランジュは一気に脱力

 夜空に流れ星が光ると、なんともお騒がせな王の戯れが終わった──。

 


~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 


 翌日、快晴の太陽がステンドグラスを輝かせ、王の間を照らす。
 中央に敷かれた赤絨毯を白のエンパイアドレスと、竜に十字架のマントを羽織り、金色の髪を上でまとめたユフィが歩く。胸元には虹色に輝くプレシャス・オパール。

 

 階段を上り、両手を組んで膝を折ると、父王タージェラッドから同じプレシャスが光る王冠が被せられる。私を含め、各国からも大きな拍手が贈られたが、バルコニーから彼女が顔を出すとそれ以上の拍手と歓声が上がった。
 

 それは今日誕生した第十二代トルリット国王を笑顔で迎える国民達。

 今日から彼女が護る輝石(宝)だ──。

 


* * *

 


「ヒナさん……戴冠式……昨日で終わりましたよ……」
「わ、わかってるが……うっうっ」
「涙もろすぎだろ。親戚の結婚式じゃあるまいに」

 

 今夜も綺麗な月と星空の下。
 夜風が当たるバルコニーのベンチには、昨日直した黒ウサギを持ったスティとハチマキを外したアウィン。そして二人に挟まれている私が座っていた。

 

 ニ人は団服で、私は以前リディカから貰った青のシフォンワンピースにヒールを履き、髪を上げている。だが、涙が服を濡らす。昨日行われた戴冠式の感動が忘れられないからだ。
 すると、スティとアウィンが舌で涙を舐め取る。ハンカチを持っとらんのか。

 

 そんな私達のいる場所からは王の間が見える。
 もうじき舞踏会が行われるためか、集まった各国で賑わっているのが窓越しでもわかった。もっとも私が出ると色々と面倒になるため、挨拶回りは大人組よろしくだ。が。

 

「んっ、ちょっ、アウィン……」
「昨日……出来なかったからな」
「ボクも……ほしい……」

 

 顔の向きを変えられるとアウィンに口付けられる。
 同時にチョーカーの下に吸い付いたスティは服の間から手を潜らせると胸を揉む。いつもより荒く、すぐブラのホックを外された。ニ人が溜まってる証拠だ。

 

 理由は昨日の戴冠式後、ユフィの部屋に報酬のお泊まりに行ったからだ。
 『男禁止!!!』の札を貼った効果もあり、それは楽しく楽しくユフィとお風呂、邪魔されない女子トークに裁縫伝授などをした。が、そのツケが回っているらしく、早々にドレスのファスナーを下ろされ、ワンピースが腰元まで落ちる。露になった胸を隠すのは当然許されず、ニ人に揉まれては先端に吸い付かれ、喘ぎを漏らした。

 

「あっ、ちょっ……こんなとこで……ん」
「あん? いまさら……ん、場所きにしねーだろ」
「雲もない月だから……ヒナさん……いつも以上に綺麗、んっ」
「あぁっ!」

 

 恥ずかしい台詞を聞きながらスティと口付けていると、胸を舐めながらアウィンの手がショーツを下ろし指を入れる。愛液を増やすように指を動かされ、服にベンチに愛液が零れると、アウィンが股間に座り込む。同時にヒールを脱がされ、開脚させられた。零れる愛液をアウィンは舌で舐め取る。

「ひゃあんっ、あぁっ……」
「いっぱい出てんな……おめーも昨日してなくて我慢……してたんじゃねーのか?」
「そんな……わけ……」
「ヒナさん……ボクらだったら淫乱でしょ?」

 

 違うと否定出来ないのは秘部から溢れる愛液が止まらないせいか。
 頬を赤く染めているとスティは小さく笑いながら後ろに回って頬に口付ける。両胸を揉みながら先端を引っ張った。

 

「ああっ!」
「あんま良い声……出すなよ……他のヤツにバレる」
「特にニワトリとかトラとかトラとかトラとか「狐狸も入れて欲しいな~~」

 

 呑気だが殺気ある声に肩が跳ねると一斉に振り向く。
 当然と言わんばかりに黒い気配を纏い佇んでいるのは挨拶回りに行っていたフィーラ、ベル、バロン。大人組!!!

 慌てて開脚された足を閉じようとしたが、気にせずアウィンは股の間に顔を埋め、秘部を舐める。

 

「ああぁあっ! アウィン……だめぇ」
「ヒナタ、それは俺達の台詞だ」
「ウサギも、その小さい手でヒナタさんの柔らかいのを持ち上げるのは無理でしょう。退きなさい」
「無理じゃ……ああっ!」

 

 掬い上げていた胸の片方をベルに取られたスティは悲鳴を上げるが、すぐ先端にベルが吸い付く。喘ぎは横に回ったフィーラの唇に止められ、口内を優しくも荒い舌で混ぜられる。

 

「ふんっ、んっ……あぁ」
「うっわ、キミら本当に場所考えないね」
「バ、バロン……止め……んんっ」
「ん~、本当はニ人っきりでしたいんだけどね……たまには混ざろうかな」
「「「「「えっ?」」」」」

 

 衝撃発言に全員が停止。
 変わらない笑みを浮かべるバロンはアウィンの隣で膝を折ると私の片脚を持ち上げ、内股を舐める。くすぐったさと別の快楽に身体が跳ねた。

 

「ひゃんっ!」
「あっははは、ヒーちゃん感じすぎ。厭らしい蜜が出てるよ」
「あっ、ヒューゲとんな!」

 

 アウィンとは違う舌が垂れる愛液と秘芽を舐め、ゾクゾクが増す。
 積極バロンをアウィン以外は殆ど見ないせいか呆気に取られていたが、すぐ自分達も堪能するように手を口を舌を動かす。下腹部はアウィンとバロンの舌で同時に愛液を舐められ、くびれを押しながらベルは胸に吸い付き、反対の胸はフィーラが舐め、首元と口付けはスティによって快楽を与えられる。

 

「はあ、ああん……ああぁっダメだ……イく……」
「誰のを挿れてもらいたいですか?」
「は!? ちょっ」
「いや~ここで全員~全裸はマズイと~思うよ~~」

 

 バロンの声に私以外がズボンにかける手を止めた。
 おいこら、本気でここで挿れる気だったのか。ある意味怖い話を聞いてしまったせいか、イきそうだった身体が停止すると全員が笑みを向けた……え?

 

「イけなかったのなら好都合ですね」
「ボクので……イかせられる」
「どうせ堅っ苦しい舞踏会なんて出る気ねーしよ」
「とんずら~こいちゃおうか~~」
「ちょちょちょ、それはマズイだろ!」

 

 舞踏会といえど、アーポアクの人間が一人もいないのは失礼だ!
 イズなんて戴冠式にも出なかったしと汗をダラダラ流すが、フィーラに口付けられる。離れると笑みを向けられるが、カッコイイのに怖い。

 

「ヤツが王で良かったと思えることがひとつだけある。自身だけではなく俺達(民)も他国であろうと──好き放題出来る特権を与えたことだ」
「それを自分勝手と言うんだあああぁぁぁーーーーンンっっ!!!」

 

 誰も逆らうことは出来ない世界王。
 王(そ)の特権『俺が許すから好き放題しちゃえ』が国民に与えられるのは良いのか悪いのか。もっともその特権を知る者はアーポアクには少ないだろ。

 

 だが、一番知られてはマズイ男達が知っている時点で、私の未来は決まった──。


 

* * *


 

 遠くで聞こえるのは楽しそうな音楽と人々の笑い声。
 だが、灯りが数個灯った部屋には喘ぎと腰を打つ音だけ。全裸にされた身体は汗と白液で濡らされ、今はアウィンの肉棒が膣内を行き来している。手にはスティとバロンの肉棒を握り、胸には跨ったフィーラの肉棒が挟まり、頭上から垂れたベルの肉棒を咥えていた。
  とっくに羞恥の域は越し、求めるがまま求められがまま繰り返す。

 

「ああっ……ナカで…出すぞっ!」
「んんっっ!」
「あ……ヒナタさん、まだまだ余裕ありそうですね」
「ヒーちゃん、どんだけ挿れ慣れてんだか……んっ」
「エジェアウィン……代われ」
「ヒナさん……ボクの咥えて……あーん」
「ああんっ、んっ……アウィン、また挿れたな」

 

 次から次へと変わるモノに身体は付いていかないが、誰のモノかはわかる。
 男達は笑みを浮かべると、いっそう快楽を与えるように刺激を与えた。膣内でも外でも出される白液に、見ていた月が真っ白になったが、それで本当にイったかはわからない。

 

 翌朝『誰のでイった!?』と聞いてきたヤツらは全力で叩いてはやったが──。

 


* * *

 


「だ、大丈夫ですか、ヒナタ様……」
「うむ、心配ない!」
「杖を付いてる人の台詞とは思えませんね」

 

 浅葱少年の溜め息にユフィが背を叩く。結構仲良いなニ人。
 そんな私は腰が痛いため杖を持ち、イズちゃん号の前でユフィと浅葱少年に見送られていた。背後ではベルを追い駆ける紫紺少女、包帯ぐるぐる巻きの年上ちびを黒ウサギで殴るスティ、巨漢年上に抱きしめられ悲鳴を上げるアウィン、バロンと話すフィーラ。
 最初から最後まで賑やかだと苦笑しているとユフィに耳打ちされる。

 

「ヒナタ様は“異世界の輝石”だったのですね」
「……イズから聞いたのか?」
「聞いたと言うよりは“悟った”と言うのかもしれません。王を継承しましたので……でも、もう関係ないのですよね?」

 

 眉を落とすユフィの瞳は揺れている。
 トルリットに異世界人が現れた場合、王になったユフィは保護をし、処刑人である黒竜を待たなければならない。優しい彼女にそれは残酷すぎる話……だが。

 

「うむ、今バロンと今後の異世界人について話し合ってる最中だ。ちゃんとした規定がなくともイズには殺すなと言ってあるから安心してくれ。それと、もし異世界人が来た時は優しく手を差し伸べてもらえると嬉しい。マオンみたいにな」
『ギャウッ!』

 

 笑みを向ける私はユフィの腕に抱えられた子ライオン=マオンを撫でる。
 イズに元の世界へ還してもらおうかと思ったが、何かの縁だとユフィが引き取ってくれることになった。当然今回の元凶であるため浅葱少年達は反対したが、早速“王権限”で黙らせたらしい。うむうむ、良きことだ。
 頷いていると、浅葱少年から受け取った物をユフィは差し出す。

「一昨日、ヒナタ様から教えてもらって作ってみたんです」
「おおー! ありがとう!!」

 

 それはピンク生地で出来た手の平サイズのテディベア。
 裁縫が得意だと聞いて教えたのに、まさかのニ日で出来るとは! 才能あるな!! しかもお土産に貰ってしまった!!!
 背景がお花畑になっていると浅葱少年が十字架のイヤリングに手を当てるのが見えたが、フィーラの声が掛かる。

 

「ヒナタ、そろそろ出発するぞ」
「うむ。では、ユフィ、浅葱少年。世話になったな」
「まったく、黒竜のせいで余計な仕事と被害が増えましだっ!」
「こちらこそ、本当にありがとうございました。盗賊達も捕らえることが出来ましたし、これで地下のギャンブル場も壊せます」

 笑顔で浅葱少年の背中を叩いたユフィだったが最後の言葉にフィーラとニ人、首を傾げる。今、ギャンブル場とか言わなかったか? しかも壊せます?
 ユフィも気付いたのか可愛い苦笑を見せた。

 

「あの地下は初代トルリット王がギャンブル好きで創った賭博場で、父も臣下を集めては時々なさっていたのです」
「「は……?」」
「前王が病に倒れてからは閉鎖していたのですが、まさかその間に盗賊達の住処になっているとは我々も驚きました」
「ルーもたまにやってたではないですか。ともかく、これに懲りてギャンブル場は取り壊すと父に約束させましたので大丈夫だと思います。お騒がせしました」

 

 ユ、ユフィの笑顔がキラキラしているのに怖い。
 フィーラと顔が引き攣りながら、どの国も“秘密”があるものだと聞かなかったことにした。そして別れを惜しむようにニ人と握手を交わす。フィーラが浅葱少年と『再戦』の約束をしていることにユフィと笑うと船に乗り込んだ。

 

 船から見えるのは訪れた時と変わらない火山と白地に竜と十字架を揺らすトルリット城。
 下を見れば多くの人々が手を振り、その中でも輝く笑みを向けるのは王となった少女。後ろに控えるは小さな銀竜を護る『南十字騎士団』。

 

 そんな銀竜が大きなライオンをお供に付け、テディベアが観光土産になるのは数年後の話だ──。


 

 

 

 帰りは五人に増えたせいか行き以上の疲れが私を襲う。
 が、たまに菓子の盗み食いにひょこひょこ出て来るイズを見つけては全力で追い駆けた。

「や~ん、俺が何したなり~!」
「そんなもん、自分の胸に聞け!!!」
「よくも俺達をダシに使ったな!」
「おーい、黒王、なんかポッケから落ちたぜ」
「イエロー……ダイヤ?」
「おや、どこかで見たことあるような……」
「そう言えば~イーちゃんの~趣味って~宝石集……うん、気のせいだよね」

 


 イズちゃん号は賑やかにアーポアクへと航路を取る────。

トルリットシリーズ完結です。長々とありがとうございました。

ユフィを主人公とした「銀竜の天運サイコロ」もよろしくお願いします。

*トルリット国詳細*

 

東大陸を治める大国で南十字騎士団が所属。古語はギリシャ語。
火山活動が活発だが温泉も沸き、観光名物になっている。初代王はアーポアクのドラバイトの人間が選ばれ、ドラバイトから南十字座が見えた事から騎士団名にしたが、トルリットから南十字座は見えない。
ギャンブル好きだったせいもあり内緒で城に賭博場を創った。

*ルーファス・リッテンバルク(27歳)
南十字騎士団総団長。冷静沈着で毒舌。幼き日からユーフェルティア王女の護衛も勤めている。

 

*ネジェリエッタ・ツベッチェ(26歳)
南十字騎士団トップ四の紅一点。普段は女王様な口調だが、ラガーベルッカを前にすると甘々。昔、ラガーベルッカが落とした本を拾い、笑みを向けられてから大ファンに。

 

*ソランジュ・マーモンラ(29歳)
南十字騎士団トップ四の一人で情報関係をまとめている。だいたいそれにカレスティージが絡んでいる上に無茶苦茶にされるため彼が大っキライ。

 

*ワンダーアイ・グリッツォ(41歳)
南十字騎士団トップ四の一人で最年長。結婚してないが、団員は第二の父のように慕っている(三人は除く)。反抗期みたいなエジェアウィンが可愛くてしょうがない。

 

*ユーフェルティア・イーリス・トルリット(20歳)
トルリット国第一王女、現国王。おどおどとし、自分に自信がなかったが、ヒナタやイズに会ったことで多少強気になれた様子。昔なじみのルーファスとは仲が良い。ちなみに血のせいか、ギャンブルさせると強い(特にサイコロ)

 

*タージェラッド・イーリス・トルリット
トルリット国前王。優しく民からも慕われているが血のせいか、ストレスが溜まると賭けなしのギャンブルに走る。今回のことでガックシ。妻は数年前に亡くなっている。

 

*マオン(子ライオン)
ユーフェルティアの下に墜ちて来た子ライオン。動物園の穴から墜ちたらしく、まだまだヤンチャでルーファス達を困らせながら日々成長中。

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