異世界を駆ける
姉御
38話*「バレた」
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昔々あるところに、一人の少年がいました。
少年は帽子をかぶり、リュックを背負うとドアを開けます。目の前に広がるのは太陽、青空、海、大地。新しい世界を夢見て、少年は冒険の旅へと出掛けました。
旅立って数日の寒い日の夜。森を歩いていると倒れている少女を見つけました。凍える少女に少年は火を起こし、暖かい毛布をかけます。少女はお礼にと虹色に光る石を渡しました。
少女と別れた後も少年は困っていた人達を助け、食べ物や飲み物を交換しながら旅を続けましたが、少女から貰った石だけは不思議と手放すことができませんでした。
そんなある日。天にまで届くほど大きな岩山にたどり着きました。
ここを登れば新しい世界が広がっているんだと頂上を目指しましたが、そこには恐ろしい魔物が待っていたのです。
あまりにも恐ろしい魔物に少年の足は動きません。
少年はここで死ぬのだろうかと目を閉じましたが、一筋の光が見えました。それは新しい世界を見るという夢の光。少年は目を開けるとリュックからナイフを取り出し、勇敢に立ち向かったのです。
けれど、恐ろしい魔物には敵わず少年は倒れてしまいます。
それでも諦めない少年は立ち上がり、天に向かって大声を上げました──すると、リュックの中から虹色の光。少女から貰った石が光っていたのです。少年が手に取ると石は四つに割れ、四人の少女が生まれました。
綺麗な髪は緋、翠、蒼、金。しかし、顔は助けた少女。
少女達は少年の手を取り微笑むと虹色の光を輝かせ、恐ろしい魔物を倒したのです。
少年は少女達にたくさんのお礼を言うと、共にその先にある世界を見ました。けれど、そこは何もない荒野。
少女達は悲しい顔をしましたが少年は微笑みます。
求めるものが見つからないのなら自分で創ろう。そう、ここに新しい世界を、国を創ることにしたのです。少女達も微笑むと、一緒に豊かな国を創ることを誓いました。
一人の少年と四人の少女。
虹色の輝石から今日──アーポアク国が生まれたのです。
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「その少年が……初代王」
静寂が訪れると頭の重さも消える。振り向くと、ベルは自身の右肩に手を置いていた。
「虹色の輝きによって生まれた少女達こそ四大の化身と呼ばれ、四方に恩恵を与えると同時に私達『四聖宝』が護る『宝輝』だと云われています」
つまり史実に基づいて書かれた本。疑問に思うところはあるが絵本なら仕方ないか。
考え込んでいると大きな腕が腰に周り、抱きしめられる。睨むように見上げると、額と頬にキスが落ちた。
「それと何がなくなったら滅ぶかは私も存じ上げません。何しろ、この話ですら信じていなかったので……ですが実際『宝輝』を宿し、その力と今回のことを考えると……」
「異常気象で滅ぶかもしれない……と?」
「ええ。ベルデライトまで地鳴りは響いていますし、門を出れば雪が溶けるほど川が氾濫して……ホント忙しいんですよ。もう、面倒で面倒で」
おい、なんか愚痴りだしたぞ。
右肩に顔を埋め、ネチネチ言っていることに呆れるが、久し振りに『面倒』をベルから聞いた。実際私に忠誠(仮)を誓って以降、見回りの回数も増え、騎舎で寝ることも多くなっている。彼なりに『ベルデライトも護る』という約束を守ってくれているのだ。
そんな彼を一瞬でも疑っていたことに胸が痛むと、白銀の髪を撫でる。翡翠の瞳が見えたが、私は顔を逸らした。
「……すまなかったな」
「? まあ、それが私の仕事でもありますから……?」
「それとは違うがその通りだな!」
面と向かった謝罪は出来なかったのに、もっともな返事には頭を叩くことが出来た。ベルは『いたたっ』と言っているが変わらない笑みを向ける。毒気も抜ける笑みに私も笑みを向けると口付けられた。今度はシッカリと舌を入れて。
「ちょっ、んっ……べ……ル」
「……だって……ん…今、ヒナタさんが……凄く可愛らしいので……」
「か、可愛……いいっ!?」
突然のことに私の顔は真っ赤になり、唇を離したベルは不思議そうに瞬きする。
年下などに可愛いと言う私だが、実は自分が言われることに慣れていない。こんな性格なせいか“可愛い”より“カッコイイ”や“野蛮”が多かったからだ。そんな聞き慣れない言葉に戸惑っていると、天井に向けた目を私に戻したベルは最高の笑顔を浮かべた。バレた!?
急いで立ち上がると両脚を掴まれる。
よろけた身体は後ろに倒れ、背中は本棚に、大きな尻は座っているベルの顔面にぶつかった。
「わ、悪い……じゃなくて、何をするっ!?」
「とっても恥ずかしそうな顔が可愛かったので。あとは……」
「だ、だから可愛いと……あぁっ!」
あろうことかベルは膝上まであったワンピを腰近くまで上げ、股間に顔を埋める。そのまま舌を伸ばし、ショーツを舐めた。ザラリとした感触が布越しでも伝い、身じろぐ。
「や……ん……だめだ」
「綺麗な脚と……ん……可愛い下着を見せた……んっ……ヒナタさんが悪いです」
太腿を固定され動けない私は必死に彼の頬を叩く。だが舌の愛撫に身体はビクビク反応し、ショーツの濡れとは違うものが溢れる。
「んっ、ヒナタさん……可愛い蜜が出てきてますよ……」
「そ、そんな可愛いあるわ……ああんっ!」
“可愛い”を連呼される度に顔は赤く染まり愛液が零れる。
ベルはショーツを下ろし、直で秘部と愛液を舐めた。布越しとは違う刺激に身体は驚くほど跳ねるが、ベルの手がそれを許さない。彼の唇に秘部は押し付けられ、舌へ喉へと愛液が吸い込まれていく。
「ああっ、ああぁぁっ……」
「んっ……可愛い顔を見れないのは残念です……んっ、でも、もっと乱れて……ください……」
「ひゃあぁっ……ベ、ル……もうっ……ああぁっ」
舌の動きが激しさを増し、腰を持つベルの両手に自分の両手を乗せると声を上げる。漂う甘い香りに快楽が襲うと、愛液が流れる秘部をベルの口元に寄せた。股下からくすくす笑う声が聞こえる。
「自分から……とは、可愛いですよ……ヒナタさん」
「っ!!!」
囁きに我慢出来ず、愛液が一気に噴出すと世界が真っ白になった──。
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大きく跳ねて停まったヒナタさんが、前のめりに倒れるのを支えると膝に下ろす。綺麗に潮を噴きイった彼女に微笑むと、顔に散った愛液を拭いては舐める。
「本当はもう少しヤりたかったんですけどね……」
声を落としながら抱えると、奥にある寝室のベッドに寝かせる。もちろん暗いのが苦手な彼女のために灯火をつけて。
部屋を出ると武器を背負い、ヒナタさんが持っていた手帳と紙を見ながら『空風浮』で上を目指す。一階に着くと、バロン、アズフィロラ君。そしてジェビィさんが待っていた。
「良かったわ、ラっちゃん気付いてくれて」
「なんとも良いところで呼び出してくれましたね」
「ラ、ラガーベルッカ様……御加減でも悪いんですか?」
「いや~御加減って~いうか~御機嫌の問題~~?」
“可愛い”が苦手なヒナタさんと楽しく遊んでいる最中、脳内に“重要”の音が鳴るも無視。けれど、ジェビィさんの小瓶から出た“誘惑”、快楽を増幅させる匂いが書庫を包み、予想よりも早くヒナタさんがイってしまった。私自身危なかったのも本当だが、出来れば挿入したかったです。残念。
大きな溜め息をつくと三人が後退りした気がしたが笑みを向ける。
「それで、なんの御用でしょう? エジェアウィン君が起きたことはヒナタさんにお聞きしましたよ」
「ヒナタに?」
「そ~僕らも~今~聞いたとこ~~」
ということは別の件かと、普段いない女性を見る。
チェリミュ様にも負けない美貌を持つ彼女だが、ヒナタさんを愛している私は何も感じない。もっとも何かを感じた時点で旦那に殺されそうですけどね。
そんなジェビィさんは前に出るとヒナタさんと同じ漆黒の瞳を向けた。
「今回は私から二つ。ひとつはさっき言った通りエジェちゃんが目覚めたこと。リハビリは必要だけど、一週間以内には動けると思うわ。カレちゃんもエジェちゃんより傷は浅いから数日の内に目覚めそうね」
安堵しながらも、数日でカレスティージ君が目覚めるのは厄介。動けない内に手を打っておこうかと考えていると次の報告に移る。
「もうひとつは今回ラズライトで死亡した遺体を解剖した結果とエジェちゃんの話から死因は……魔力消失死。つまり、すべての魔力がなくなって死んだってことね」
細められた漆黒の報告に緊張感が増す。
この世界に生きる者にとって“魔力”とは“命”。片方がなくなっても死ぬ私達には最悪すぎる話だ。
「エジェちゃんがミっちゃん達を呼ばなかったのは戦闘中に黒いのに触れた家畜達が息絶えたのを見たからそうよ」
「野生の~勘かな~~」
バロンの苦笑に同意するしかない。
団長就任時は、がむしゃらに突っ込んでくるだけな子かと思ったが、成長する子のようで良かったです。しかし、そんな彼とカレスティージ君はソレに触っても何もなかった……つまり。
「『宝輝』が私達を護っているということですね」
「だと思うわ。奪われた二人が今どうかはわからないけど」
「てことは~団長しか~ソレの~相手は~出来ないって~ことだね~~」
触れるだけで“魔力消失”など普通なら御免。けれど相手が狙う『宝輝』で私達が護られているのならと、赤騎士と視線を合わせると頷いた。
「一対一で来るなら俺には都合が良い」
「年少組のも合わせ、落とさせていただきましょう」
強い声にバロンとジェビィさんは笑みを見せる。
敵討ちなど興味はありませんが、たまには年長者として働かないと主君に怒られてしまいますからねと微笑む。すると間を置かず、北の廊下から団員が慌しく駆け込んできた。
「ラガーベルッカ団長! 上空から敵襲です!! 数は百以上の下級で中級が数体!!!」
「まったく……少しは休ませていただきたいですね。せっかくヒナタさんと一夜過ごせると思いましたのに」
「「「え?」」」
呟きに三人が素っ頓狂な声を上げた。
けれどすぐなんでもないですよと笑みを向けると『伝風鳩』に伝言を頼み、白緑のフードを被る。慌てる団員とは反対に、いつものペースで廊下を進むと『緑の扉』を開いた。
時刻は朝の五時を向かえ、陽が昇りはじめている。
だが、空には羽をバタつかせ、無数に飛び回る黒いモノ達がいた。白い息を吐きながら背負った柄に手を添えると翡翠の双眸を細め──飛ぶ。
さっさと終わらせて、寝ているヒナタさんに愛を囁きましょうか──。
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ぼんやりとした頭で目覚める。
灯火が部屋を照らし、寝返りを打って毛布を抱きしめるが自室のではないと気付く。急いで起き上がると白の壁にキングサイズのベッド。そしてミニキッチンと積み重なった本……書庫の寝室だと気付き慌てた。
「ちょっ! あっ、ベル!! 貴様なっ……あれ?」
ベッドには私一人。
もっこりと浮き上がっている毛布を叩くが枕。ショーツはぐっしょりと濡れていて、恥ずかしさで逝けるが時刻は六時。全然寝ていないはずなのに目覚めてしまった。
「あいつ……どこ行ったんだ……?」
静まり返った部屋は明るいのに、寂しさが襲った────。