異世界を駆ける
姉御
17話*「出生率」
「ちょちょちょちょ! やめっやめてくっさい!! ヒナタさん!!!」
「弟~~~~っ!!!」
魔物の殲滅後、家々の灯りが点りはじめる。
同時にベルの元に団員が集まり、被害報告がされた。幸い死者は出なかったようだが負傷者が数名。その内の一人である私は包帯を巻いてもらい、女の子を無事親元に帰すと騎舎へ招待された。
造りはルベライトと同じで、門と旗の色は緑。
中に入ると先に搬送されていたのか包帯を巻いた弟に会い、冒頭に戻る。安堵から抱きしめる私の目尻からは涙が零れるが、弟は逃れようと必死だ。すると冷たい刃が彼の頬を擦り、勢いよく両手が上がる。振り向けば笑顔で長剣(弓?)を向けるベル。
弟の代わりに睨んでやると、一息ついたベルに団長室へ案内された。
やはりフィーラの所と同じ間取りだが、本棚に囲まれているのが彼らしい。室内は暖かく、コートを脱いだ私はソファに腰を掛けた。
二人分の紅茶を置いた彼も鞘を立て掛けると、マントと青磁色のコート他、手袋も脱ぎ捨て、白の長袖シャツとズボンに黒のブーツだけになった。
お疲れのリーマンを見ている気分だが、顎に手を当て何かを考えているようにも見える。一口飲み、カップを置いた私は訊ねた。
「どうかしたのか?」
「……いえ、ちょっとバロンに報告することが出来たなと」
「バロン? 誰だ?」
聞き覚えのない名前に“男爵”と変換したがなんてことない、のほほん男だった。そう言えばヒュー……なんとかバロンだったな、うむ。
そんな私に苦笑しながら向かいに座ったベルは紅茶を飲むと頭を下げた。
「まずは魔物襲撃に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」
「きゅ、急になんだ!? 気持ち悪いぞ!!?」
今までと百八十度違う対応に鳥肌が立ち、備え付けクッションを抱きしめる。笑うベルは膝の上で手を組んだ。
「ヒナタさんがお持ちになった書類では悪くて中級が紛れ込んでいる可能性だったので、オーガット達でも充分倒せると判断したのですが、実際は上級……私のミスです」
「珍しいのか?」
問いかけに頷いたベルは魔物について説明する。
基本色は黒でサイズは様々。数が多く、ワンパターンの攻撃しかしてこないのは下級。分身や状態異常など捻ったことをするのは中級。そして上級は数こそ少ないものの魔法を使い、死傷者が多く出るそうだ。
「上級が下級と組むのは珍しいことです。今日のは統率タイプだったのでマシですが、厄介なのは魔力を消し紛れ込むこと。こればかりは結界のないベルデライトが狙われやすいでしょうね」
「結界?」
瞬きする私にベルは頷く。
聞くに『空気の壁(エア・ウォール)』という結界が上空に張られているそうだが、東西南にあって北にはないという。なんだその贔屓のようなもの。
ムッとする私に、前のめりになったベルは真剣な顔を近付けた。
「実は……」
「実は……?」
クッションを置いた私も前のめりになって真剣な顔を近付ける。お互いの額から汗が流れると、ベルの口がゆっくりと開いた。
「出生率が悪いんです」
「…………は?」
素っ頓狂な声を上げる。
出生……えーと……つまり……子供……え?
「なんだそれーーーーっ!!?」
勢いよく両手でテーブルを叩くと立ち上がる。その振動で紅茶を溢してしまったが、ベルは優雅に飲んでいる。おい! さっきの真剣な顔と冷や汗はどこいった!? 嘘か!!?
そんな思考がわかっているのか、くすくす笑いながらカップを置いたベルは立ち上がると、私の横で膝を折る。そのまま備え付けの布巾で溢した紅茶を拭きはじめた。あ、すまん。
「正しくは街の人口ですが、結局のところ出生が大事なんですよ」
「貴様が言うと嘘っぽいぞ……」
「他のみなさんにも聞いてみてください。同じように答えますから」
笑みを向けられると嘘か本当かわからなくなる。
確かに戻ってきた住民を見て少ないとは思った。守りと遠距離部隊になる騎士団でも八十人ちょっと、ルベライトよりは少ない。
それでも腑に落ちず睨んでいると、両手を握られる。ニッコリ笑顔付きで。
「て、ことで、たくさんの子供を産みましょうね」
「…………は?」
産みましょう……ね?
違和感のある言い方だが、確かにこのまま元の世界に戻れなかったら私もこの国で……ん、ちょっと待て。こいつ書庫で会った時になんかサラリと言っ……!
瞬時に思い出した私は速攻で手を抜き、ベルの頭をチョップする。変わらない笑みを向ける男とは反対に私は怒りの笑み。
「き~さ~ま~、まさかとは思うが~」
「はい、私が旦那様になりますよ」
「『NO』と言っただ──ひゃっ!」
『お嫁さん』を忘れていなかったことに濡れた銀色の頭を叩くが、両肩を押されソファに深く沈む。真上にはベルが覆い被さり、翡翠の瞳が私を捉える。
「『諦めてません』と言いましたし“忠誠”も誓いましたよ?」
「ちゅ、忠誠と嫁は違うだろ!」
「んー……では、お返事はまた後日に。先に頑張ったご褒美をいただきましょうかね」
「何を……あっ!」
頬に小さなキスを落としたベルは右肩に顔を埋め、首筋を舌で這っては吸う。チクリと走った痛みと小さなリップ音に自然と顔が上がると口付けられた。
「っふ、んあっ……こら、んっ」
優しかったフィーラとは違い、強引に歯列を割ったベルの舌が口内を掻き回す。その激しさに引き離そうとするが、片手で両手を押さえつけられた。口付けは深さを増し、脳内が視界が揺れる。
唇が離れ、荒い息を吐く私に、ベルは嬉しそうな笑みを見せると額にキスを落とした。
「気持ち良くなってきましたか?」
「……キスは……フィーラが良い……」
おっと、何か失言が……ベルの笑みが固まってるぞ。頼むから脳内が乱れている時に声は掛けないでくれ。そんなことを思いながら顔をゆっくりと横にするが、すぐに戻され、顎を固定される。ベルの笑みが怖い。
「私の姫君は浮気性なんですかね?」
「いや~……貴様を騎士にする前のことだからな~」
冷ややかな笑みに汗が止まらない。成り行きとはいえ、忠誠を誓ってくれたのならキス……とか、何かしら礼がいるのだろうか。頬を赤に染めていると小さなキスを受け、左の太腿をタイツ越しに撫でられる。
「ひゃんっ!」
「別に誓ったからといって何かをしてもらう必要はありませんよ。私は欲しいですけど。それに正式に忠誠を誓う場合は自分の瞳と同じ色の宝石を贈ることになっているので、残念ながらまだ“仮”状態です」
「ほ、宝石って……首元にあるやつか?」
「首?」
“宝石”に身体が震えるが、瞳と同じと聞いてフィーラの首元にあったのを思い出す。
ベルはしばし考え込んでいたが理解したように頷き、ベストとデニムを脱がすとタンクトップの隙間を通って片胸を揉みはじめた。
「ヒナタさんが言っているのとは違う宝石ですよ。首元というのはアズフィロラ君のですね?」
「そ、そうだ……やんっ……貴様には……ないな」
胸の先端を親指と人差し指で弄られ身体が跳ねそうになるが堪える。そして彼の襟を捲ったが、宝石はなかった。
安堵する私に、胸を弄っているのとは反対の手で、ベルは自身のシャツボタンを外す。肌と鎖骨が見えると頬が熱くなってきた。
「こっ、こらっ!」
「恐らく、コレのことでしょう?」
「っ!?」
右のシャツを引っ張っり現れた肩には、緑の宝石が埋め込まれていた。
掛かった影で光る物に、慌てて彼のシャツを引っ張って隠した私は息を荒げる。呆気に取られているベルに、落ち着きを取り戻した私は宝石がダメなことを伝えた。弄る手を止めたベルの瞳が細くなる。
「そういうのは早めに言ってください。失礼をしてしまったではないですか」
「いや……この場合は私が悪い……」
「貴女のブローチにも付いていますが、大丈夫なんですか?」
「頻繁に見たり触ったりしなければ問題ない……」
汗を流しながら苦笑いするが、ベルの表情は冴えない。
年上など関係なく、本当に優しい騎士の頬を両手で包むと、目を丸くした翡翠の瞳を見つめた。
「こんな……宝石がダメな女じゃ……ベルに……正式に忠誠を誓ってもらえないな」
「そうですね……ピアスや指輪が主流なので難しいかもしれません……でも」
「んっ!」
右手に顔を寄せたベルは手の平に小さなキスを落とし、微笑む。
「宝石(もの)がなくとも貴女が私の主です。何しろ貴女が墜ちてきた時、既に囚われた騎士(男)ですから」
「……は?」
墜ちてきた時?
目を見開いた私は詳しく聞こうとしたが、大きな左手で口を塞がれると上半身が寒くなる。うわわっ! タンクトップとブラを上げるな!!
露になった胸に手を動かすが、右手で腰のくびれを摘まれ反応が遅れる。胸元にベルの髪の毛を感じると、胸の先端を吸われる音と舌のザラ付きにゾクゾクした。
「んっ、んんっん……!」
「ん……本当は良い声を聞かせてもらいたいんですが……まずどこが気持ち良いか教えてくださいね」
なんでそうなる!、と言いたいのに言えないのは、駆け上る何かのせいか。
「んー……乳首の反応も中々良いようですが……やはりこっちですかね」
「ちょっ!」
胸の先端を舐めながら右手がタイツとショーツの中を通り、下腹部へと到達する。長い指が自分でも触らない所を擦ると、身体がビクビク動いた。
「あ、良い反応ですね。結構濡れてますし、もしかして当たりですか?」
くすくす笑う男とは反対に必死に身体を動かすが、余計に指を秘部に招き入れているようで、太い指がズブズブとナカに入ってきた。思考が溶けはじめていると口付けられる。
「んっ、ふゃん……あっ」
「ん……気持ち良い場所……見つけたので……イってください」
「イく……ってこ……あぁん!」
唇が離れると同時に指が一本ニ本とナカに入り、掻き混ぜられる。
“ぐちゅぐちゅ”と大きく淫らな音が聞こえるが、自分の喘ぎが恥ずかしくてベルの首にしがみ付いた。肩に顔を埋めた男は耳を舐め囁く。
「もう少し私を知ってもらってから挿入(いれ)てあげますね……」
「べ……る……あああぁあぁぁーーーーっ!」
奥を勢い良く指で突かれ、蜜が溢れ出たのを感じた。
そう、感じただけで私の頭は真っ白だ。そんな世界で笑うベルが『おやすみなさい』と、何かを言ったのを最後に意識が途切れる。
何を言ったんだろ────。