異世界を駆ける
姉御
番外編*拍手小話~童話編~
*過去の拍手お礼SS集
*実際の内容と180度違う展開&語り口調です
*赤頭巾フィーラくん*(※ベースは『赤ずきんちゃん』)
昔々あるところに、赤髪の男フィーラくんがいました。
とても無愛想な彼は自身の赤い髪を嫌い、知人のジェビィさんに頭巾を作ってもらうようお願いしました。しかし、赤布で作られてしまい『赤頭巾』と、もっと恥ずかしい名で呼ばれることになったのです。
その日から頭巾を深く被るようになってしまったある日。
ジェビィさんの旦那レウさんに呼び止められました。
「ジェビィが引き篭もって出てこないから、ぱぱっと様子見てこい」
いつもなら『自分で行ってください』と言う赤頭巾でしたが、吊り上った眉と不機嫌な顔に彼自身が怒らせたのだと悟りました。プライドの高いレウさんが妻に謝るはずもないと溜め息をついた赤頭巾は引き受けることにし、ケーキとお酒を貰いました。
見舞品だと思われる物に困っている赤頭巾に、レウさんは言います。
「途中で道草したら雷を打つ。オオカミに襲われたのなら勝手に喰われとけ」
「自分で行ってください」
そんな一悶着がありながら、渋々赤頭巾は森の奥にあるジェビィさんの家に向かいました。
今日はとても天気が良いのに赤頭巾の顔はムッスリ。そこに耳を生やし、ふさふさ尻尾を揺らすオオカミイズくんが現れました。
「不機嫌な顔してどうしたなり~甘い物と交換に、イズくん相談室開いてっ!」
やけくそのように赤頭巾はオオカミイズくんにケーキをぶつけました。しかし綺麗に避けられたばかりかキャッチされ、オオカミイズくんはパクパクもぐもぐ。
「で、そんな怒ってどうしたなり?」
「律儀に聞くのか」
「礼儀を重んじるのが俺なりよ。で、お前は女のバストはどんくらいあるのが好み?」
「斬るぞ!!!」
顔まで真っ赤にした赤頭巾は、すかさず護身用ナイフを取り出します。けれど、オオカミイズくんは生クリームが付いた指をペロリし、楽しそうに笑いました。
「そんな仏頂面じゃ、女が寄ってこねぇぜ」
「望んでなどいない」
「望めよ。男ってのはな、護るべき女を見つけ喰って強くなるんだぜ」
「外道が……!」
意地悪そうに笑うオオカミイズくんに赤頭巾は歯軋りしながら切っ先を向けます。同じようにオオカミイズくんも目を細めると、互いの足が同時に動きました。
「ちょおおぉぉと待ったあぁぁーーーー!!!」
「やあぁ~~~~ん!!!」
制止の声と一緒に、オオカミイズくんの背中を叩く音と悲鳴。
赤頭巾の横を勢いよく通り過ぎ、数メートル先にある崖に落とすほどの威力がありました。目を丸くする赤頭巾の前には漆黒の髪をひとつに結び、白のシャツに赤のつなぎを着たムッスリ顔の女性。
その手にはライフル銃ではなく、ハリセン。女性は慌てて赤頭巾に駆け寄りました。
「大丈夫か! どこかケガは!?」
「い、いや、大丈夫だ……ありがとう」
突然のことに驚く赤頭巾でしたが、なんとかお礼を言うと女性は微笑みました。
「それなら良かった。私は森の警備をしているヒナタ。こんな森深いところを一人とは、何か用事でもあるのか?」
「あ、知人のところへ行く途中で……」
「この森と言うと……ああ、ジェビィさんか」
どうやらヒナタもジェビィさんの知り合いらしく、一緒に行くことになりました。しかしヒナタは屈んだまま動こうとはしません。疑問に思った赤頭巾はどうしたのか訊ねると、彼女は微笑みました。
「せっかく綺麗な花があるのだし、見舞いに摘んでいこうと思ってな」
「え……」
その時になってやっと赤頭巾は自身が立つ場所に花が咲いているのに気付きました。
立ち尽くす赤頭巾にヒナタの手が伸びますが、彼は反射のように下がってしまいます。戸惑う赤頭巾にヒナタは瞬きをしました。
「皮膚のアレルギーでもあるのか?」
「いや、そう言うわけでは……」
「なら外せ。こんな天気が良い日にお日様に当たらないのは不健康だし、視野が狭くては素敵な物を逃すぞ」
太陽で輝く漆黒の髪と笑みを向ける彼女に、赤頭巾は大きく目を見開きます。気付けば手はゆっくりと結び目を解き、するりと頭巾を脱いでいました。その真っ赤な髪と瞳に今度はヒナタが目を見開きますが、赤頭巾は辺りを見渡します。
目前に広がるのは花畑。
決して大きくはない。けれど木々から射し込む太陽によって、小さな花達が一斉に花を開いています。まるで二人を歓迎しているように見える景色に、赤頭巾はポツリと呟きました。
「そうだな……無愛想だと自分でわかっているのだから、変わろうと思うなら自分でなんとかしなければ」
「いや……どこが無愛想なんだ?」
頬を赤めたヒナタは腰を抜かしたのか尻餅を着きました。
それは先ほどまでへの字だった赤頭巾の口元が弧を描き、優しい笑みを向けているからです。しかし本人は気付いてないのか首を傾げるだけ。すると、脱いだ頭巾をヒナタに被せました。
「わわっ、なんだ!?」
突然のことにヒナタは慌てて頭巾を外そうとしましたが、大きな両手で止められました。目前には端正な顔を近付ける赤頭巾。
「不健康だと言うが、女性(キミ)にとっては紫外線が敵だ」
「わ、私は別に気に「ダメだ」
ハッキリと遮った赤頭巾はヒナタの鼻と自身の鼻をくっつけます。唇も近いせいか、ヒナタは金魚のように口をパクパクさせ、赤頭巾はくすりと笑いました。
「それに、好きになった者の顔は誰にも見せたくない」
「は? 好っん!」
目を瞠ったヒナタの言葉は塞がれました。唇で。
それはすぐに離れましたがヒナタには充分すぎたのか、硬直したように動きません。笑う赤頭巾は花を何本か摘むとヒナタを抱え上げました。もちろん、お姫様抱っこです。そのまま晴れ晴れとした笑顔で言いました。
「では急ぎジェビィ様の所へ行こう。そしてキミを……ヒナタを愛そう」
「あ、愛そうって……貴様」
「フィーラだ。よろしくな」
その微笑みはまさに王子様。
奇しくもオオカミイズくんが言っていたように仏頂面をやめて出来た縁。それ以来フィーラくんは頭巾を被ることはありませんでした。けれど、傍らにはあの赤の頭巾を被った女性……。
それは他の人には秘密の、フィーラくんの護るべき大切なお姫様です――――。
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*ベルさまと青い鳥*(※ベースは『青い鳥』)
昔々、あるところに貧しい兄弟がいました。
けれど貧しさにも負けない笑顔を持つのが兄のベルさま。そんな兄に気苦労が絶えないのが弟のオーガットくん。クリスマスの前夜、二人の元に魔法使いヒナタさんがやってきました。
「私の孫が今、病気でな。幸福を呼ぶ青い鳥を見つければ治ると聞いたんだが、生憎ケガをして探しにいけないんだ。代わりに探してきてくれないか?」
「はい、私と結婚しましょう」
「ベル兄いいぃぃ~~!!!」
爽やか笑顔でヒナタさんの両手を握ったベルさまに、すかさずオーガットくんはツッコミを入れます。
「何、突拍子もないこと言ってんすか! しかも孫ってことはこの人は既婚者っスよ!?」
「貴方こそ何バカなことを言っているんですか。ここは夢の世界なんですから、彼女が言っていることはウソです」
「な、なぜここが夢だとわかる!?」
突然の話にヒナタさんは驚きます。
それはオーガットくんもですが、ベルさまだけはニコニコ笑顔。
「昔、本で読んだことありますよ。クリスマスの前夜に魔法使いがやってきて、青い鳥を探してくれと言われた兄弟が色々な国へ行く。けれど本当は貧しくても日々は幸せであると魔法使いさんが教えてくれる夢で、青い鳥というのは私達が飼っている鳩のことだと。確かタイトルは『青い「完全ネタバレするなーーーーっっ!!!」
両手でベルさまの口を塞いだヒナタさんでしたが、変わらず彼はニコニコ。オーガットくんは唖然。
するとベルさまがヒナタさんを抱きしめました。『しまった』とヒナタさんが気付いた時には顎を持ち上げられ、微笑むベルさまが目の前にいました。
「まさか魔法使いがこんな可愛らしいお嬢さんだとは思いませんでしたけどね」
「か、可愛いって言うな!」
「本当のことですよ。さて、タネ明かしも済んだことですし、私と結婚してください」
「いんんんんっ!」
ヒナタさんの悲鳴は唇で塞がれてしまいました。物知りで悟る大人ってとても面倒ですね。
けれど予想以上に可愛かった魔法使いさんを手に入れられたベルさまにとっては良いお話だったかもしれません。
さて、オーガットくん頑張ってと、エールを送りましょう――――。
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*マッチ売りのスティくん*(※ベースは『マッチ売りの少女』)
昔々、雪が降りしきるベルデライト国に、みすぼらしい服を着たマッチ売りの少年スティくんがいました。彼は通行人にマッチを差し出しますが、無言+長い前髪が怖く、立ち去ってしまいます。首を傾げるスティくんは理由をわかっていないようで、仕方なく移動することにしました。
雪が積もっているというのに、スティくんは裸足にボロボロの下駄。
ついには鼻緒が切れ、とても冷たい冷たい雪の上に転んでしまいました。それでもスティくんは弱音を吐かず散らばったマッチを拾うと、裸足のまま歩き出しました。しばらく歩いていると、どこからか美味しそうな匂い。スティくんのお腹が鳴ります。
「……殺して奪おうかな」
懐からナイフを取り出しましたが、その刃先はボロボロでダメだと肩を落としました。
今日マッチは一本も売れていません。一本も売れず居候先に帰っても、ベルおじさんに『無能ですね』と微笑まれるだけ。思い浮かべるだけで腹が立つスティくんでしたが、寒い風を避けるのが先でした。
屈み込んでも隙間風に身体もふるふる震えます。
「もう……マッチ……使おう」
そう言って、一気に十本のマッチを壁にすりつけ、火を起こしました。が、強い風によって一瞬で消えてしまいました。
「…………」
めげないスティくんは更に十本のマッチを壁にすりつけました。しかし何度やっても風に邪魔されて消えてしまいます。まるでベルおじさんの悪戯のようにも感じてしまったスティくんは、ナイフでガシガシと壁を刺しました。
けれど、かじかんでしまった手は思うように動かず、仕方なく刃先で雪に絵を描きはじめました。
描くのは食べ物でも洋服でもない、ウサギです。
いつだったか『あおいウサギ』という曲を聴いてから、自分はウサギのようだと思うようになったからです。みんな自分を見るだけで過ぎ去ってしまう。ただちょっとの言葉を、目を見て話したいだけ。それが叶わない理由など彼は知らず、目の前が薄れていきます。
気付けば雪の上に倒れ込んでしまったスティくん。そんな彼に駆け寄るものはいません。
「別に……寂しく……ない」
両親もおらず、ベルおじさんも意地悪で、ずっと一人だったスティくん。それは昔も今も、そしてこれからも変わらないと静かに瞼を閉じました――。
「おいっ、少年! 大丈夫か!?」
その時、慌てる女性の声が聞こえました。
それが自分に向けられているとは思いません。けれど温かな両腕に包まれているのがわかると、心配そうに覗き込む女性が確かにいることに目を見開きました。
「よかった……無事だったか。まったく、こんな幼い子を放置するなど腐った大人連中だ」
「あの……」
「ん? ああ、寒いままではいかんな。マッチを買わせてもらぞ」
微笑む女性はお金と持っていた手の平サイズの白ウサギのヌイグルミをマッチと交換しました。そしてマッチを十本、壁にすりつけると火を起こします。するとまた強い風が吹きましたが、女性とスティくん、二人の身体が壁となって消えることはありませんでした。
それどころか次第に火は大きくなり、とてもとても温かいのです。
「いや~温かいな~。こう、寒いときは誰かと一緒に囲む暖が一番だ」
「お姉さん……一人?」
「うむ、独り身だ。だからといって少年のような幼子を放っておくほど悪い大人でもないぞ」
言葉を聞いてくれたばかりか、また笑顔を向けてくれた女性にスティくんの頬は熱くなります。その姿に火をつけすぎたせいかと勘違いした女性は雪で火を消すと、またお金とマッチを交換しました。当然のように手の平サイズの、今度は黒ウサギを一緒に入れました。
「ではな、少年。気を付けて帰るのだぞ」
「あの……なんで……ウサギ?」
『ではな』と言われた時、スティくんの胸は一瞬痛みましたが、それよりもなぜウサギをくれるのか不思議でなりません。女性は雪に描かれた絵を指しました。
「描くほど好きなのだろ? 一匹だと寂しいだろうが、二匹一緒なら寂しくない。少年も加わればもっとな」
「一緒……」
自分は先ほどまで『寂しくない』。そう思っていました。
けれど、微笑む女性が去って行く姿に、気付けばスティくんは立ち上がり、彼女を抱きしめていたのです。突然のことに驚く女性が振り向くと、乱れた前髪から覗く藍色の瞳から涙を零すスティくんは言いました。
「三匹だったら……ボク余る……でも……お姉さんが入ってくれたら……一緒……ボク、お姉さんと一緒……いたいです……!」
必死にしがみつくスティくんに女性は一瞬困った顔をしました。けれど膝を折ると、スティくんと同じ目線になって言いました。
「そうだな……これも何かの縁だし……一緒に住むか!」
「……っ、はい!」
笑顔を見せたスティくんに女性は目を見開きましたが、嬉しそうに抱きしめ返しました。その後、女性、ヒナタの家へと二人は歩きはじめます。
「よろしくな、スティ」
「はい……ボク……きっと……ヒナさんを幸せにしてみませます」
「おいおい、大袈裟だな。ところでご家族は「いません」
キッパリと言い切ったスティくん。
そんな彼の手には白黒ウサギ。そしてもう片方には温かい手。これで彼はもう二度と寂しい思いをすることはなくなったのです――――。
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*三匹の子ブタの末っ子アウィンくん*(※ベースは『三匹の小ブタ』)
昔々あるところに、三匹の子ブタがいました。
一番目は『テットくん』。二番目は『ヒナタちゃん』。三番目は『アウィンくん』です。
三匹は親の支配からの卒業。つまるところの独り立ちをしようと各々で家を造る事にしました。
テットくんは緻密な計算設計を元に堅くて丈夫な煉瓦を使い、煙突付きの立派な家を建設。一方ヒナタちゃんは末っ子アウィンくんに甘々なブラコンのため、一緒に住む家を造ります。
「なんで姉貴と……」
「いいではないか。アウィンも一人は寂しいだろ?」
「これじゃ独り立ちの意味ねーだろ! そもそも寂しいのはてめーじゃねーのか!?」
「うむ! アウィンと離れるのは寂しい!!」
「ハッキリ言うな……つーか、テット兄と親も入れてやれよ……」
ワラを積み重ねるヒナタちゃんにアウィンくんは呆れましたが、その頬はどこか赤く見えます。なんだかんだでアウィンくんもヒナタちゃんが大好きなのです。
しかしそんな二人、とてもぶきっちょなのか、ただワラを数メートル重ねただけで『完成!』と言って終わりました。窓から見ていたテットくんは頭を抱えるしかありません。
気付けば夜になりましたが、屋根もないワラの家(?)でアウィンくんとヒナタちゃんは寝転がりました。
「綺麗な星空だな」
「けっ、部屋にいた時と変わらねーだろ」
「そんなことはない。真っ暗の中でも輝いてくれる月と星には感謝せねば……」
その言葉に背中を向けていたアウィンくんは気付きます。彼女、ヒナタちゃんが暗所恐怖症であることを。アウィンくんの背中を抱きしめるヒナタちゃんは震えているように見え、慌てて起き上がりました。
「無理しねーで、実家かテット兄の家に入れてもらえよ」
「嫌だ。私はアウィンと一緒がいいんだ。それに充分明るい」
空を指していたヒナタちゃんは次にお隣の家を指します。
それはテットくんの家。もう夜遅いというのに窓からは明かりが漏れ、ワラの家(?)を、二人を照らしていました。『まあ、たまたまだろう』とヒナタちゃんは笑いますが、アウィンくんはムッとしたように彼女を抱きしめます。
柔らかな胸に顔を埋めるアウィンくんにヒナタちゃんは瞬きをしました。
「どうした? アウィン」
「……なんかテット兄に取られた気がして」
頬を赤めているようにも見えるアウィンくんにヒナタちゃんも赤くなると、むぎゅむぎゅとアウィンくんを抱き返しました。胸に埋まるアウィンくんは必死に身じろぎますが、ヒナタちゃんは離してくれません。
「もうもう、可愛いヤツめ! 嫉妬しなくても私はアウィンのものだぞ!!」
「それ……“姉弟”じゃなくてもか?」
ピタリと身じろぐのをやめたアウィンくんの声に、ヒナタちゃんも止まります。見下ろした胸元には薄暗い中でも真っ直ぐな紫の瞳を向けるアウィンくん。ヒナタちゃんの顔は見る見る赤くなり、抱きしめる手が緩くなります。
上体を起こしたアウィンくんはヒナタちゃんに跨り、顔を近付けました。
「オレが弟じゃなくても……姉貴……ヒナタはオレを男として見てくれるか……?」
「アウィ……んっ」
ゆっくりと落ちてきた唇に唇が重なり、ヒナタちゃんは目を見開きます。でも決して振り払うことも、身じろぐこともせず、口付けを受けました。唇を離したアウィンくんはそっぽを向きます。
「なんだよ……動じてねーのかよ……」
ばつが悪いような悔しいような顔をするアウィンくんでしたが、唇を手の甲で塞いだヒナタちゃんもそっぽを向きます。するとポツリと呟きました。
「いや……今ので、はじめて“弟”から“男”に見てしまって……どうすればいいか困っている……」
「は……?」
アウィンくんは素っ頓狂な声を上げましたが、よく見ればヒナタちゃんの顔は真っ赤のまんま。その姿にアウィンくんも恥ずかしくなったのか、同じように顔を真っ赤にました。でも徐々に笑いが込み上げ、ヒナタちゃんをぎゅっと抱きしめたのです。
「こ、今度はなん」
「“男”になったならいい……」
呟きはとても嬉しそうで、ヒナタちゃんは驚いたように目を丸くします。そんなヒナタちゃんに顔を寄せたアウィンくんはどこか意地悪そうに言いました。
「今日から一緒に暮らすんだ。毎日飽きるほどオレがどれだけヒナタが好きだったか教えてやるよ」
その瞳にはヒナタちゃんしか映っていません。
頬を赤めたヒナタちゃんは口を結びましたが、ぎゅっとアウィンくんを抱きしめ返しました。そんな二人を窓越しに見ていたテットくんは溜め息をつきながら眼鏡を上げると振り向きます。
「おいっ、あのリア充共を喰うか、ラブホに放り投げるか、吹き飛ばしてこい」
「や~ん、お兄ちゃんも混ざりたいなっだだだだ!」
ふさふさな尻尾をテットくんに握られ悲鳴が上がります。その声の主は耳を生やし、チョコ棒の罠に引っ掛かったオオカミイズくん。
はてはて、二人の行く末は――――。
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*バロンさんとランプ*(※ベースは『アラジンとランプ』)
昔々あるところに、バロンさんという男がいました。
ある日、魔法使いを名乗るイズくんという男がバロンさんの元へやってきて言いました。
「俺、ちょっとそこのパフェ食いたいから、代わりにあの洞窟から古いランプ持ってきて」
「え~面倒~くさい~~」
「とっとと行ってくるな~り!」
イズくんは魔法で勢いよく洞窟にバロンさんを突っ込ませました。腰を打ち、恨みごとを言いながらも、仕方なくバロンさんは洞窟の奥へと進みます。
しばらく歩いていると、お菓子が所狭しと詰まった場所に着きました。
幾つかくすねていると、ランプらしき物を発見。お菓子ではないことを確認して持って帰ると、頬袋を作ったイズくんが両手を差し出しました。
「ひゃんぷ~よこしゅ~なり~~」
「もう~ランプより~これで~いいだろ~~」
互いに語尾を伸ばす奇妙な光景ですが、バロンさんはくすねてきたお菓子をイズくんの口に突っ込みます。すると、胸に抱いたランプをバロンさんは不意にこすってしまいました。
ランプからもくもくと白い煙が上がり、漆黒の髪に瞳をしたアラビアーン女性が現れたのです。目を真ん丸にする二人に女性は腕を組みました。
「私はランプの魔神ヒナタ。気まぐれだが、どんな願いでも叶えてやるぞ」
「スリーサイズ教えてなり」
「お断りだ。ついでに言うと私の主人は貴様ではなく、そっちのロンゲだ」
「スリーサイズ~教えて~~」
「うおおおお~~~い!!!」
同じことを言い放ったバロンさんにヒナタはツッコミながら両手で胸を隠します。ブラ式トップスとはいえ、恥ずかしいのに変わりはない様子。
「ダメだダメ! そんなの教えん!!」
「「ちぇっ」」
「子供かっ!!!」
どこまでも似ている二人に、ヒナタは顔を真っ赤にします。そんな彼女にバロンさんはくすくす笑いながら命じました。
「じゃあ~そこの男~遠~くまで~ブっ飛ばして~」
「それなら任せろ!!!」
「や~~ん!!!」
主人の命に、巨大ハリセンを取り出したヒナタはイズくんをぶっ飛ばしました。お空の星になった彼にバロンさんは満足すると、同じような顔をしたヒナタを見ます。
しかし彼女はバロンさんのニコニコ笑顔に片眉を上げました。
「なんだ? まだ願いがあるのか?」
「ん~その前に~確認~本当に~なんでも~叶えて~くれるの~~?」
「うむ、先ほどのように利害が一致すればな。死者を甦らせるなら七つの玉を捜してくれ」
「別ネタは~置いといて~じゃあ~……そうだね」
口元に弧を描くバロンさんは眼鏡越しに細めた金色の双眸でヒナタを見据えます。その瞳にピクリと小さく肩が跳ねた彼女を、バロンさんは抱き寄せました。胸元に埋まったヒナタは慌てて顔を上げましたが、長い指先に頬を撫でられ硬直します。バロンさんは微笑んだまま口元の傍で言いました。
「人間になって」
「は……ひゃっ!」
目を見開いたヒナタの唇をバロンさんは舌先で舐めました。咄嗟にヒナタは顔を胸元に埋めましたが、今度は耳をしゃぶられながら囁かれます。
「一目惚れっていうのかな? すごくキミを手元に置いて苛めたいんだよね」
卑猥な水音が響きますが、羞恥よりもゾクゾクと何かを感じたヒナタは急ぎランプの中へ戻りました。しかしまたランプをこすられ元通り。バロンさんの胸元に埋まったまま声だけを上げます。
「い、苛めって……そんな願い聞き入れるわけ……ああっ!」
パレオの隙間から潜り込んだ手が太股を撫でると、ショーツを擦ります。指先が下腹部を突けばヒナタの喘ぎが響き、バロンさんはくすくす笑いました。
「すごい官能をくすぐる声だね。愉しくなるよ」
「あ、遊ぶ……なあぁあっ!」
ショーツの中に入った指先が愛液を溢す秘部に挿し込まれ、ヒナタはバロンさんの服を握りしめたまま腰を振ります。そんな彼女を笑いながら見下ろすバロンさんはまた耳元で囁きました。
「まだ気が乗らないならいいよ。これからじっくりゆっくり、ヒナタちゃんの身体に僕という存在を染み込ませてあげる」
「染みこ……っんん」
「そう……ランプの中に帰りたくない、人間になりたいと渇望するほどの調教を……ね」
不敵に笑うバロンさんにヒナタは背筋に這う悪寒とは別の何かを感じました。けれどそれは彼の口付けによって吸い込まれてしまいます。喘ぎも身動ぎも心も何もかも。元より拒否権はあっても逃げ場はありません。彼女は彼の侍従であり、彼は彼女の主人なのだから。
これからもずっと────。
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*眠れる森のイズくん*(※ベースは『眠り姫』(眠れる森の美女)
昔々、アーポアク国でイズ王子が生まれました。
関心のないレウ王様は誕生を公表しませんでしたが、見知った五人の魔法使いが一応お祝いにと駆けつけてくれました。魔法使いの一人、ベルから順に魔法の贈り物を捧げます。
「レウ王に似ませんように」
「一人で……ホームレスも出来る……逞しい子になりますように」
「塀を飛び越えるほど元気な子になりますように!」
「レウ王に~代わって~仕事~して~くれます~ように~~」
あまり祝ってないようにも聞こえる中、五人目の魔法使い、フィーラが進み出ます。
すると突然辺りが暗闇に包まれると、肩に蛇を乗せた六人目の魔法使い、魔王が現れました。不敵な笑みが向けられます。
『こそこそと生誕を祝う主らに習って我もこそこそと祝ってやろう。そこの王子は十五の誕生日に、ポ○キーを食って死ぬ!』
バババーン!と、BGMを流しながら宣言した魔王は影の中へと帰って行きました。沈黙が続く中、ジェビィ王妃があらあらと首を傾げます。
「多分大変なことよね。どうしたらいいと思う、フィーラちゃん」
「俺的にはそれでも良いと思ってしまうのは王子のせいでしょうね」
フィーラの目にはジェビィ王妃が腕に抱く、イズ王子。
まだまだ赤ん坊の彼はなぜかニヤニヤしているようにも見え、フィーラの顔は引き攣りました。しかし王はともかく、王妃のニコニコな笑顔に咳払いをすると、仕方ないといった様子で魔法の贈り物を捧げます。
「ポ○キーを食べても王子はぐっすり睡眠を取るだけで、甘い匂いに誘われて自力で起きることでしょう。起きるまで他の者は用事でおらず、城は茨が護ります。以上」
「なんだか投げやりね。まあ、念には念を入れて、すべてのポ○キーを燃やしましょうか」
ふふふと微笑むジェビィ王妃に全員が息を呑んだのは言うまでもありません。そんな王妃様の命で、国からポ○キーは消えたのでした。
やがてイズ王子は元気に塀を飛び越え、悪戯が大好きな十五才の少年になりました。
今日はフィーラになんの悪戯を仕掛けようかと一人お城の中を歩いていると、廊下に落ちている物に気付きます。屈んで見ると台形の形にウサギのマーク。
「チ○ルチョコなり! もーらい!! お、向こうにもある!!!」
点々と置かれたチ○ルを拾いながら進んだ先には、皿に置かれた一本のト○ポ。可愛く黒いリボンも巻かれたト○ポを手に持ったイズ王子は匂いを嗅ぎました。
「くんかくんか。お、美味そうな匂い。いっただきまーす!」
パクリと食べたイズ王子はそのままバターンと倒れてしまいました。
なぜト○ポで。そんな疑問を晴らすかのように影から六人目の魔法使い、魔王が現れ言いました。
『ト○ポの中にポ○キーを入れた』
だ、そうです。どうやら王子は匂いを嗅いでおきながら未知の美味しそうな匂いに負けた様子。誘惑とは恐ろしいものですね。
魔王はそのままどこかへ消え去ってしまいました。
同時に王子が倒れたことでフィーラの魔法が発動。
フィーラは遠方にある実家に墓参りに、ベルは新しい本を求め旅に、スティは魚を獲りに行ったっきり戻らず、アウィンは危篤の祖父ロジじいの元へ、バロンは食虫植物に食べられ、ジェビィ王妃は趣味の薬開発のため引き篭もり、レウ王は昼寝に入りました。
すべてを拒絶するように、お城は茨に包まれたのです――――。
それから幾つもの月日が過ぎた日。一人の女性が現れました。
「これはまたすごいな。ま、仕事だし仕方ない」
漆黒の髪をひとつ結びにすると、タオルを首に巻き、手には刈込挟。
彼女、ヒナタの職業は年下&女性のみの依頼なら受ける『なんでも屋』。今回は伸びに伸びた茨が隣国トルリットまで入ったため、可愛い女王に頼まれ処理にきたのです。
早速ヒナタが茨を切って切りまくっていると、背後から鋭い針を見せる茨が襲いかかりました。しかし反射神経がいいのか、すんなり避けるとバッチンと切断。
「なんだ? ここは国をやめて遊園地にでもなったのか?」
ただのアトラクションと勘違いしたヒナタはその後も構わず切りまくりました。何ひとつ恐れず敷地内を丸裸にしていく彼女に、次第に茨達が恐れをなし、気付けば攻撃するものはいませんでした。
そんなことは露知らないヒナタは一休憩入れようと地面に座ります。
「ふー、仕事疲れには甘い物を食べるのが良いな」
そう言うと、鞄から何種類物の甘いお菓子を取り出しパリポリもぐもぐ。鮮やかな夕焼けを一人で見ながらパリポリもぐもぐ。
「~~~~し~~~」
「ん?」
一人しかいないはずなのに声が聞こえた気がしました。
しかし気のせいかと、ヒナタはト○ポを口の中に入れ――。
「お~~菓~~子~~っ!!!」
「うわあああああっっ!!!」
突然背後から抱きしめられ、ヒナタは持っていたト○ポを離してしまいました。代わりにパクリと食べたのは、なんと眠っていたはずのイズ王子。
「な、なんだ貴様は!?」
「ずっと寝てたけど美味そうなお菓子の匂いにつられて参上した、この国の王子イズ様なり!」
「どうでもいい理由で起きるな!!!」
すかさずヒナタはツッコミを入れましたが、それはもう元気に嬉しそうに目をランランに輝かせるイズ王子。その目にはヒナタが持つお菓子があり、一息ついた彼女は王子の口にト○ポを入れました。
「まあ、一緒に食べた方が美味いしな。年下(?)だし、許そう」
「あんがと。お礼に結婚してやるよ」
「要らぬ世話だ」
まだ独身だったせいか、痛い台詞にポ○キーを食べたヒナタ。
すると、下からイズ王子がポ○キーを食べ、気付けば口付けまでしてしまいました。目を見開くヒナタにイズ王子は目を細め、口元に弧を描きます。
「結婚しようぜ“お姉さん”」
「……っ!」
恋愛経験が疎いヒナタにはそれだけで充分の刺激になり、そのまま押し倒されてしまいました。
その後、茨から解放された城には悪戯王子様を怒鳴りつけ駆けるお姫様の声が聞こえるようになったのです――――。
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*白雪姫と小人たち*(※ベースは『白雪姫』)
昔々あるところに、白い雪のような肌に黒耀石のように黒い髪と瞳を持つ白雪姫がいました。
しかし見た目とは裏腹にとてもお転婆。日向でも駆け回る姿から“ヒナタ姫”と呼ばれるようになりました。そんなヒナタ姫、内緒で潜り込んだ継母の部屋にある鏡と喋るのが日課です。
「鏡よ鏡、今日は何をする?」
『外に出て、森に行くな~り』
「? いつもと声が違うが風邪でも引いたか?」
『大丈夫な~り。早く行くな~り』
こんなに『なりなり』言う鏡だっただろうかと考えるヒナタ姫でしたが、普段危ないと言われている森に早く行きたくて仕方ありません。バタバタと外に出ると、隣国のユフィ姫と護衛のルーファスに出会いました。
「まあヒナタ姫、どちらに?」
「冒険の旅だ!」
キラキラ瞳のヒナタ姫にユフィ姫は瞬きし、ルーファスは溜め息をつきます。その隙に駆け出すヒナタ姫に、ユフィ姫は慌ててルーファスに振り向きました。
「ル、ルー! ヒナタ姫が」
「外にいるランジュ達に任せましょう。ここで私が行っては貴女が行方不明になるというのが目に見えていますからね」
サラリと言った護衛にユフィ姫は言葉を失ってしまいました。
そしてルーファスが言った通り、ユフィ姫の護衛として来ていたソランジュ、ネジェリエッタ、ワンダーアイがヒナタ姫を追い駆けます。しかし、追いつくことが出来ません。
「な、なんという足の速さだ!」
「ていうか、なんでボクらがこんなことしなきゃならないのさ!」
「ヒナタ姫、お待ちになってくださいま……!」
「ジェリー?」
一番後ろを走っていたネジェリエッタが消えたことにソランジュは目を丸くします。すると、隣を走っていたワンダーアイまで消えたことに気付きました。
「ちょ、何? なんでいないのさ? ちょ、ヒナタ姫、ワンダー達っが!」
直後、背後から何かで頭を叩かれたソランジュは意識を飛ばしてしまいました。
そんな三人がいなくなったことなど気付かないヒナタ姫は森の奥へと駆けていきます。しかし日も沈みはじめた頃、帰り道がわからないことに気付きました。
「うむ、失敗した。こういう時は北斗七星を探すべきだろうが、暗いのダメなんだよな……ん?」
腕を組んだまま唸っていると、ヒナタ姫の前を通過する者達。
それは三十センチほどの身長に赤、緑、青、茶色の三角帽子にお洋服を着た小人達。電車ごっこしながら通り過ぎる彼らにヒナタ姫は声をかけました。先頭を歩く赤小人が眉を顰めます。
「こんな暗い森を一人で歩くなど奇怪な姫君だ」
「まあまあ、とても可愛らしい方ですから、誘拐されてきたのかもしれませんよ」
「お姉さん……ボクのお家に……くる?」
「オ・レ・達・の、だろーが!」
「うむうむ、行きたーい!」
可愛いものが大好きなヒナタ姫はすぐに手を挙げ、小人達の家へと向かうことにしました。黄、灰色帽子と服を着た小人が出迎えました。
「や~お帰り~~」
『ほう、女連れとは主らもやりおるな』
呑気に本を読む黄小人と、肩に小さな黒蛇を乗せた灰小人は笑います。
小人達に囲まれて摂る食事や会話は城では味わえない楽しさ。そこでふと、食器や椅子、ベッドが七つ。でも小人は六人しかいないことに気付きました。
「もう一人いるのか? それとも黒蛇か?」
「別にもう一匹いる。もっとも、ふらふらするのが趣味のようなヤツで、帰りは深夜だろ」
「なのでどうぞ泊まって行ってください」
スープを飲みながら答えてくれた赤小人、緑小人にヒナタは考え込みます。すると、左右の裾を青小人と茶小人に引っ張られました。
「ずっと……いてもいいよ……」
「お前さ良ければだがよ」
「貴様ら……」
可愛い可愛い申し出にヒナタ姫は二つ返事。
その後ろで黄小人が『懐柔~されやす~~』と笑い、灰小人は『早く帰ってくるよう黒に伝えるか』と呟きました。
食事を終えた後は一緒に食器を洗い、一緒に風呂に入り、一緒に寝る。それは彼女にとってとても嬉しいこと。しかしヒナタ姫は気付いていなかったのです。なぜ小人達の家の屋根は高く、お風呂もベッドも広いのか。その答えは深夜にガチャリと帰ってきた者によって知ります。
「おっぱい柔いな~り」
夜も遅い時間。どこかで聞いた語尾にヒナタ姫は瞼を開けました。
ボンやりとした目で見ると、胸の谷間でモゴモゴ動く黒い者。小人が埋まっているんだろうかと気にしませんでしたが、突然強い刺激が身体中を駆け巡りました。
「ひゃああっっ!」
それは両耳をしゃぶられ、片方の乳首を引っ張られ、片方の胸を吸われ、秘部に二本の違う指を入れられた刺激。一瞬で目が覚める刺激に跳び起きようとしましたが、身体は思うように動きません。
窓辺から射し込む月夜と小さな蝋燭が灯す状況に、ヒナタ姫は目を瞠りました。
「ちょ、ま、な……え、貴様ら……」
服を脱がされ白い肌を魅せる彼女の周りには七人の男達。
一名を除き、それは先ほどまで一緒に食事し眠った小人達……のはずですが、その身体は成人したかのように大きいではありませんか。いえ、もう大人です。赤小人だった男がヒナタ姫の耳元で囁きます。
「起きてくれたか。これでやっと……」
「愛しい貴女を抱けますね」
「いっぱいいっぱい……啼いて……」
「乱れろよ」
「結構~僕ら~我慢~……してたからね」
『抵抗は無駄だとおもえ』
「んじゃまあ、美味しくいただきながら説明しますかね」
「え……ちょ……は?」
整った容姿へと変貌した小人=男達にヒナタ姫の脳は追いつかず、優しい手だけが伸びます。それらは快楽を与える手。
彼ら七人。実は各国でも名の知れた職の男達。
しかし、駆け回るヒナタ姫を一目見て気に入った彼らは結託し、彼女を手に入れる策を練ったのです。
自国を捨て、新しい家を建て、可愛いもの好きと知れば『世界の皇帝』と呼ばれる男の力を使って小人になり、ソランジュ達を襲い、彼女を誘い込む。感服するほどの執着心。
けれど、囁く声、与えられる口付けと刺激に、ヒナタ姫は知ることも理解することも出来ません。深い森の奥で、今日も姫君は艶やかな声で愛を受けるだけでした。
それはまるで毒のようで口付けのように甘い日々――――。