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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

​09話*「三騎士」

 三人を見た瞬間、勢いよく駆け出した私は少年を抱きしめた。

 

「少年~っ!!!」

「ご、ごんばん……ぐ、ぐるじいでず……!」

 

 胸の谷間にスッポリ埋まった少年がジタバタする。

 すると、踵を返すハリマキ男の服の裾を引っ張ると、同じように抱きしめた。私と同じぐらいの身長だが、頭を押えたため一緒に胸に埋もれる。

 

「おおいっ~でっめぇ~!!!」

「ああ~! 癒されるな~!!」

 

 先ほどまで重苦しく考え込み、子供達とも遊べなかったせいか、年下達の癒しに私の脳内は花畑。すると、両腰のくびれを摘まれた。

 

「ふひゃあっ!」

「あ、結構弱いんですね」

 

 突然の事でニ人を放してしまい、背後にいた銀髪を睨む。

 だが、副団長と同じほどの体格と身長に、身丈程の長剣を背負った男はニッコリ笑顔。

 

「なんだか私には冷たい気がしますね」

「それは貴様が年上だからだ」

「あん? 年上って、てめーいくつだ?」

 

 荒い息を吐くハチマキ男の問いに答えると、少年は息を一瞬止め、銀髪は数度瞬き、ハチマキ男は顔を青褪めた。なんか知らんが、昼間来なかった三人がなぜここにと問い返す。と。

 

「「「そー言えばなんか呼ばれてたなって」」」

「今頃かーーーーっ!!!」

 

 見事にハモった三人の背中を勢いよくハリセンで叩くと『全員床に正座!』の大声が木霊する。ハチマキ男は文句を言ったが睨んで黙らせた。

 年下にこんな事はしたくないが愛の鞭だ! 銀髪には鞭しかないがな!! 背中の剣は下ろしておけよ!!!

 

 どうやら遅くなっても“軽い案件”も聞く事になっているらしく、三人バッタリ会ったそうだ。遅れた理由を正座中の三人に問いただす。

 

「本を読んでいましっだ!」

「……寝てましっだ!」

「ケンカしてっだ!」

 

 再ハリセンに三人は前のめりになって背中を押さえる。

 まさかの理由に色々な血管が切れそうだ。既にキレているが。しかも殆どその理由で間に合ったことがないだと!? そしてまだ内容聞いてない!? 揃って『赤髪を困らせ隊』か!!!

 説教をする私に銀髪は変わらずだが、年少組はバツの悪そうな表情をする。すると銀髪が手を挙げたのでハリセンで指した。はい、どうぞ。

 

「と言うことは、今日の案件もアズフィロラ君が?」

「うむ。だが貴様らにも頼む内容だから詳しくは宰相に聞いてくれ」

「ちぇ、アイツってホント真面目だよな」

「貴様らも少しは見習……」

 

 ふと『他の街を護る意味などない』と言った赤髪を思い出す。

 押し黙った私に黒ウサギを持った少年が心配そうに首を傾げるのが見え、悩みながらも訊ねた。

 

「貴様らは……他の騎士団と連携とか……する気はないのか?」

「あん?」

「それは『四宝の扉』がなかったら他騎士団と手を組む気があるか、と、捉えても?」

 

 冷静な分析に頷くと三人は数分考え込む。

 静かな場所でこの沈黙はキツイと赤髪ではないのにドキドキする。すると、三人の口が同時に開かれた。

 

 

「「「どーでもいい」です」」

「……は?」

 

 

 また綺麗にハモッたが……どうでもいい? どうでもいいとはなんだ!?

 混乱しているとハチマキ男は足を崩し、胡坐をかきはじめた。

 

「別にー、自分んトコも大事っちゃ大事だけど、ウチは人数いるし助っ人いるんなら貸すって感じだな」

「……協力出来ることならしても良いですし……望まれないなら……しません」

「面倒は増えそうですが、守備の北としては他騎士団の戦力は欲しいところですね」

 

 あまりにも赤髪の反発が酷かったせいか三騎士の返事に拍子抜けする。同時に笑いが込み上げてきた。

 

「……ふふふ……あははははは!」

「な、なんだよ、気持ち悪ぃーな……」

 

 突然笑いだす私に三人は数度瞬きし、顔を見合わせる。

 なんだ赤髪のヤツ、“今”の団長達に聞いてなかったのか。それなら……可能性あるじゃないか。

 口角を上げ、ハリセンをブローチに戻した私は『赤の扉』に向かって駆け出した。慌てた声が背中にかけられる。

 

「おいっ! 女!?」

「『四宝の扉』は『通行宝』がないと入れませんよー」

「その辺は宰相に聞いてくれ! あと、ありがとー!!」

「……なんで……お礼?」

 

 すぐ三人の声が遠ざかるほど足は軽く速い。

 重い気持ちもなくなった今、私がやる事は彼らの言葉を赤髪に伝えることだ。そう意気込むと、勢いよく『赤の扉』を開き、跳び出──

 

「っ!!?」

 

 ──した瞬間、後ろから両胸を鷲掴みさにされた。

 後ろに体勢が崩れるが、また胸板に収まる。それは覚えがない胸板で、振り向くと黒い男が手を挙げていた。

 

「よう」

「イズ!?」

 

 抱きしめるのは昨日私室の窓から入ってきて消えた全身黒づくめのイズ。また突然現れた男は両腋の隙間から両手を入れ、胸を揉みしだく。ブラの間も通り本生だ。

 

「や~ん、やっぱり柔くてデカいなり~」

「おいっ、貴様……あっ……なんでここ……ぁんっ!」

「なんでって仕事に決まってんだろ。それと、アクロアイト入り、おっめ~」

 

 淡々とした祝いの言葉に、そう言えばこいつと同僚になるんだったと思い出す。だがそれよりも掬い上げられた胸を大きく揉まれ、先端まで弄られると身体がビクビク反応する。が、勢いよく後ろに向かって足蹴り。したが、離れるだけで当たらなかった。舌打ちする私にイズは眉を落とした。

 

「もうちょい堪能したかったのになー。でもその服って伸縮自在だから入りやすいし、それ以上おっぱい増えても安心なり」

「おっぱい言うな変態! と言うかなんだってルベライトにいる!? 貴様は『赤』の出身なのか!!?」

 

 今日は何度血管が切れればいいんだと頭を抱える私にイズは左腕を差し出す。見ると青い石が付いたブレスレット。

 

「これが『通行宝』。三日前に申請して許可が下りたから今から仕事するんだよ」

「……ソーダライトか。しかし今から仕事って間に合うのか?」

「お前宝石に詳しいな。日付は“今日”って決まってたし楽な方だ」

 

 楽って、おいおい。一日限定の『通行宝』なのに余裕の男だな。朝に貰って0時を過ぎるまでの効果って聞いたぞ。しかも一度出たら入れない厄介な規則だ。

 呆れていると私の用事も聞かれたため赤髪……騎士団長のところへ行くと答えると、首を傾げられた。

 

「アズんトコ? 何、あいつに祝いの言葉でも述べに行くの?」

「アズ? 親しいのか?」

「まあ、幼馴染みたいなもんかな……向こうは『四天貴族』だからなんとも言えねぇけど」

「してんきぞく?」

 

 ま、また知らん単語が出たと今度は私が首を傾げると、律儀に説明してくれた。

 『四天貴族』はその名の通り貴族のトップ=四方で一番偉い家。この国には貴族階級が少なからずあるらしく、そのトップである『四天貴族』が街を治めているそうだ。

 

 街を治めているのはてっきり騎士団だと思っていたが騎士団は守護と平和、『四天貴族」は秩序と日常を治め、税金などを徴収したり街の決まりを作るのが仕事らしい。そして赤髪はルベライトを治める『四天貴族=セレンティヤ家』の生まれであると同時に現当主……って。

 

「はあぁぁぁぁっ!? あの男、兼任してるのか!!?」

「ちなみに北の団長ラガーベルッカも『四天貴族』の嫡男だけど継承放棄してるなり」

「はあぁぁぁぁっ!?」

 

 次から次へとなんなんだまったく。また頭を抱えているとイズは下から覗き込み、両胸を“もみもみ”。叩くと、手を振りながら後ろを向いた。

 

「そんじゃ、ちゃちゃっと行くか」

「は? 行くって貴様もか?」

「俺も同じトコなりよ」

 

 ルベライト騎士団に用があるのかと考えたが、イズは首を横に振った。

 

「アズの家だよ家。あいつん家、今日パーティしてっから本人も家なり」

「ぱぱぱパーティー!!?」

 

 ちょちょちょちょっと待て! 赤髪のヤツ今日は忙しいって言ってたよな!? それはつまりパーティ準備に忙しいって事だったのか!!?

 そんなのに私は追い出されたのかと肩がガックシ落ちると、急に視界が高くなる。見るとイズが私を肩に担いで……これも何度目だ!

 

「ななななな何するんだ!」

「だからアズんトコ。お前の足より移動魔法使った方が速い」

「いきなり私の御株を奪うなーっ!」

「へ~、じゃあお前、アズん家どこか知ってんの?」

 

 ニヤニヤと面白そうな顔をされ押し黙る。それを言われると辛い。

 イズから視線を逸らすと観念するように呟いた。

 

「…………よろしく頼む」

「や~ん、ツンデレかっわいい。ま、しゃあねぇから大きいプレゼント置いてってやるか」

「可愛いって言う……プレゼント?」

 

 そう言えばさっきもお祝い云々と言っていたな。

 疑問に思う私に、イズは目を合わせると首を傾げた。

 

 

「だって今日、アズの誕生日だろ?」

 

 

 ────知らんわ!!!

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