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破線サークル
フラワーアレンジメント1

​ 世界を駆ける

   

​06話*「on your mark」

※~~~~*=ヒナタ以外の視点

 イズは赤い月だが、彼は太陽の瞳。

 と言うか、連続イケメンはヤメレーーーーっ!!!

 

 脳内大絶叫だが、ある事を思い出し、赤髪と見つめ合ったまま訊ねる。

 

「貴様、誕生日いつだ?」

「は?」

「誕生日だ誕生日。何月生まれだ?」

「……ターコイズ月だ」

 

 ターコイズ月?

 ああ、宝石の国なら月は誕生石か。ターコイズなら十二月で私は四月生まれ……つまり。と、身体を反転させると赤髪に抱きつく。

 

「ああ~! 癒されるな~!!」

「お、おいっ!?」

 

 同じ歳でも誕生日が自分より後だったら年下。それが私の持論。

 そう考えると無愛想で殺気出してすぐ剣を抜こうとする赤髪が反抗期のように可愛く見える。頭一つ分の身長はある男をぎゅうぎゅう抱きしめるが、彼は引き剥がそうと必死。

 酷いヤツだ、頬を引っ張ってニコニコ笑顔にさせてみようかと考えていると、逆に両頬を引っ張られた。

 

「その思考ごと斬るぞ!」

「思考を読みゅにょはヤメレ~」

「キミがわかりやすぎるんだ」

 

 溜め息をつきながら手を離した彼も間近で見ると本当イケメンだ。

 白のシャツに赤のスカーフを巻き、茜色のベスト。さらに白のテールコートには綺麗な刺繍が施され、下は白のズボンと蘇芳色のブーツ。左腰にはホルダーで固定された剣。

 

 何より象徴するかのように羽織っている紅色のマント。

 のほほん男に騎士の礼を取る姿は完全に騎士だ。私との対応の差が酷いような気がするが。

 

「ルベライト騎士団アズフィロラ、参上しました」

「うん~やっぱり~アーちゃんしか~来なかったね~~」

「他の団長が騎舎にいなさすぎるのです」

 

 互いに溜め息をついているのを見て首を傾げる。

 どうやらのほほん男が首から下げているアクロアイト石には団長達を呼び出す力があるらしい。が、これがまた団長室にいないと効果が薄れるらしく、呼んでも殆ど赤髪以外は来ないとか。おいおい。

 

「き、緊急時とかはどうするんだ?」

「呼び出し方法が~軽いのと~重要のとで~あるんだよね~~」

「重要時であればさすがに揃うが、今日のような軽い案件はまず揃わない」

「き、昨日は揃ってたじゃないか」

「昨日は~月一で~行われる~会議で~必然的に~揃ってただけ~~」

 

 ま、まとまりがない団長だな。

 おかげで殆ど“軽い案件”が赤髪に回るという苦労人らしい。迷惑といった顔で溜め息をつく赤髪が可哀想に見え、背伸びをして髪を撫でた。柔らかいな! そしてイヤな顔するな!! 手で跳ね退けるな!!

 

「これが~ヒーちゃんに~お願いしたい~もうひとつの~理由~~」

「こいつらが揃わないから、代わりに呼んできたり伝えろってことか」

「ピンポーン~~」

 

 各扉は自分の出身色であれば『通行宝』がなくても入れるため、書類を届ける情報部隊も各色の人間を配置しているらしい。が、忙しいと手が回らない他、速さだけなら私が上とのこと。まだ全力で走ったこともないのに。それを聞いた赤髪が眉を顰めた。

 

「私は反対です。異世界など得体の知れない人間が国政に関与するなど秩序を乱します。特に彼女は奇怪な行動が多すぎて城から出すのも考えものかと」

 

 淡々と冷たい目で言われた。おいおい、私は珍獣か何かか?

 ハリセンで叩こうとすると、楽しそうなのほほん男に止められる。

 

「まあまあ~アーちゃんの言い分も~あるだろうけど~もう~決まったことは~しょうがないよ~~」

「……既に決定された事であれば口出しはしません。つまり今回の案件は彼女に街案内をしろと言うことですね?」

「ピンポンピンポン~街並みや~騎舎を~一度は~見て~おかないとね~~」

 

 なんだか勝手に決まったようだ。私はまだOKサインした記憶もないのだが……これは決定っぽいな。溜め息をついた赤髪の目が私に移る。

 

「ルベライトを案内する。が、自分で勝手に見て夕刻までに騎舎へ来い」

「それは案内じゃないだろ!!!」

「騎舎までは石畳の道を曲がることなく真っ直ぐ進み、花屋のハナコで左に「無視するなーーー!!!」

 

 今度こそハリセンで叩いたが避けられた。ちっ!

 やはり同い歳では可愛さがあまりないかと思っていると、赤髪が驚いた顔をする。どうやら『同い歳』の考えが漏れたらしく、のほほん男に確認を取ると怪訝そうな顔をした。おい。

 眉間に皺を寄せたまま紅色のマントを翻した男は呟く。

 

「『浮炎歩(うえんほ)』」

 

 赤髪を中心に、オレンジ色の炎が円を描く。うむ、炎。ほのお……火。

 

「かかかか火事ーーーーっ!!?」

「移動用~魔法~だよ~~」

 

 大慌てで水を探したが止められた。ま、魔法? あれが?

 目の前で見るとなんとも言えないが、扉どころか赤髪の髪も服も焦げておらず、火の粉もない。むしろ暖かく、炎と風で揺れる彼は──綺麗だ。

 

 つい見惚れていると炎が小さくなり、赤髪の足元に集まると彼の身体が浮いた。浮いたあぁーーーーっ!!?

 次々と起こる珍事件に脳内の収集がつかずにいると、一メートルほどの高さにいる赤髪に見下ろされる。

 

「先に行く」

「ちょちょちょ! 本気で置いて行く気か!?」

「アーちゃん~プレゼント~~」

 

 浮いた状態で足を扉へ向ける赤髪に、のほほん男が箱を投げた。それを受け取った赤髪は一礼し、空中で足を踏み込むと──駆け出した。

 

 その姿は一瞬で扉の先へと消えて……行くなーーーーっ! 本当に置いていきやがった!! 私にどうしろっていうんだ!!? あんな反則技に追いつけるわけがないだろ!!!!

 

「追いつけるよ~~」

「は!?」

 

 脳内で絶賛発狂中だった私の思考がのほほん男によって遮られる。追いつける? あんなチート魔法に? おい、寝言は寝てから言ってくれ。だが、のほほん男は変わらず笑顔だ。

 

「『浮炎歩』は~早歩きを~倍にしたような~魔法だから~追いつこうと~思えば~追いつけるよ~ヒーちゃんならね~~」

 

 最後の『私なら』が余計に不安だ。

 すると、私の背後に回ったのほほん男の両手が肩に置かれ、真っ直ぐ扉へと向かされる。睨む私とは反対に、ニコニコ笑顔を寄せた彼は耳元で囁いた。

 

「大丈夫~ようは~気持ち~だから~~」

 

 その声に身体中がゾクゾクし、前を向く。なんだ? 寒気か?

 後ろを振り向くことなく聞き返した。

 

「気持ち?」

「うん~昨日~玉座から~逃げようとした時~大きな扉があったでしょ~~?」

 

 あったな。見かけ大きくて重そうなのに簡単に開いた扉。

 しかし、聞けばあの扉は『四宝の扉』以上に強力な結界が張ってあり、魔力を半分にさせる他、議長の閉会の言葉があるまで誰も通れない代物らしい。それこそ過去の異世界人でも入ることも出ることも出来なかった。

 

「……開いたぞ?」

 

 目を見開いたままゆっくり振り向くと、のほほん男の小さく開いた金の瞳と目が合う。

 

「うん~議長も~閉会の言葉なんて~言ってないって~でも~ヒーちゃん~あの時~『逃げたい』って~強く~思ったでしょ~~?」

 

 思ったな。そりゃあもう、刃を四つも突き立てられて逃げたいと思わない方がおかしい。思い出すだけでゾッとすると、くすくす笑われる。

 

「その強い願いが~抜ける鍵だったのかな~って~僕は考えるよ~~」

「えらく可愛いことを言うな」

「だってね~カーくんと鬼ごっこ~した時も~『捕まえたい』って~思ってたでしょ~~」

 

 ……それを言われると辛い。

 しばし考えたが答えらしいものは見つからず、一息吐くとアクロアイトのブローチを左胸の上に通した。のほほん男が嬉しそうな顔をしたのでハリセンで叩くが、彼は何かを呟く。と、ハリセンがブローチの中に吸い込まれるように消えた。

 

「ななななっ!?」

「大丈夫~『ハリセン』って~浮かべれば~出るように~してるから~~」

 

 ビックリさせるな! 貴様は手品師か!!

 無駄な冷や汗をかきながら大きな息をつくと、助走のため扉から距離を取る。そのままクラウチングの姿勢を取ると確認した。

 

「つまりは『赤髪を捕まえたい』と走ればいいんだな?」

「だね~あ~スターター~しようか~~?」

「……頼む」

 

 のほほん男が扉の横に移動すると、静かな空間に彼の声が響く。

 

「on your mark」

 

 両手の指を地面に付け、右足の膝を立てると左足の膝を地面に付ける。

 私はスポーツ、特に走るのが好きだ。

 

「get set」

 

 左足を後ろに伸ばし、腰を上げて静止する。

 社会人になってからはあまり走っていないが、久々の姿勢に不安よりも喜びが大きい。この世界で生き抜くために“走り”が必要とあれば私は……。

 

 

「Go!」

 

 

 口元に弧を描き、大きくスタートする。

 のほほん男とすれ違う時に何かを言われたが、それすら気付かず扉の向こうを目指し──駆けた。

 

 

~~~~*~~~~*~~~~*~~~~

 

 

 大きく風のように駆けた彼女は既に見えなくなった。

 苦手なはずの宝石をちゃんと胸元に付けるところからして真面目なようだ。両開きの戸が自動で閉まると、長い髪が風で後ろに流れる。

 アズフィロラを捕まえたいと言った彼女の瞳は良かった……でも残念。

 

 

「先にヒナタちゃんを捕まえたの……僕だからね」

 

 

 そう、隊証を付けた時点で────ね。

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