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花のフィールド

​29話*「ラスボス」

 なぜ、三弥さんとシロウさんが大学にいて拉致られるのか。理由はわかっている……わか。

「手錠の理由がわからんがっ!!!」
「逃亡阻止に決まってんだろ。あと、資料用」
「ですよね!!!」

 

 納得の叫びと共に写真を撮られる。携帯を向けた三弥さんに。
 連れてこられたのは大学の一室。長机とパイプ椅子しかない十畳ほどの場で椅子に座らされ、後ろ手で手錠を掛けられている私。幸い玩具で足は自由。逃げられないことはないが、三弥さんの視線に断念した。

 

「あの……どうやって大学に?」

 

 目をそらした私に、携帯をポケットに入れた三弥さんは関係者パスを見せる。

 

「何度か資料用に撮らせてもらってて、事務とは顔見知りなんだよ。まあ、この部屋はケイ兄が用意してくれたんだけどな。俺だけならまだしも、シロウが目立つから」

 

 慶二さんも関わっていることに口を結ぶ。と、ぐっと肩を掴んだ三弥さんが顔を寄せた。顰めっ面を。

 

「てめぇと会うには大学(ここ)しかねぇからな」
「会うっ……んっ!」

 

 真っ直ぐな目に囚われている隙に口付けられる。逃げようとしても頭の後ろに回った手に押さえ付けられた。

 

「んっ、ふ、んんっ」

 

 荒々しく、眼鏡が瞼に当たって痛い。でも、挿し込まれた舌には舌を絡み返してしまうし、股間を擦られると脚を広げてしまう。

 

「Wow、結婚しちゃう子が他の男に犯されて悦ぶなんて淫乱だね」
「っ!」

 

 皮肉に脚を閉じると、入室してきた人を見上げる。股間に挟まれても擦る三弥さんも、くすくす笑いながらドアの鍵を閉めたシロウさんに視線を移した。

 

「ちゃんと撒いてきたんだろうな?」
「Sure(もちろん)。ついてこないでねって、”お願い”したよ」

 

 不敵な笑みに寒気がするも、早々に上半身裸になったシロウさんは持っていた紙袋からパッケージが違う箱を二つ取り出す。

 

「はい、家性婦ちゃん。お土産。湯もちと、どじょう掬いまんじゅう」
「あ、ありが……!?」

 

 受け取れない態勢でもつい御礼を言うが気付く。湯もちは確か箱根の銘菓だが、ひょっとこ顔の饅頭は……。

 

「I knew it(やっぱりね)……家性婦ちゃん、オレたちがいない間に実家に帰ったでしょ?」
「っ!」

 

 お土産を机に置いたシロウさんの溜め息に脳内で流れていたCMが切れると、長い両手に頬を包まれる。ゆっくりと持ち上げた彼の灰色の瞳に映る私は怯えていた。

 

「オレ、土曜に電話したでしょ? 掛け直してくれなかったけど……あの日のロケね、島根だったんだよ」
「ウソっんっ!?」

 

 衝撃事実に驚くと口付けられる。
 三弥さん同様荒く、素早い舌先が口内を蹂躙する。

 

「んふっ、ん、ンンンっ」
「っん……電話を切られる時『ばんじまして』って聞こえた……それ、島根では『こんばんは』って言うんだよって教えてもらってたからおかしいなって」

 

 唇や頬を舐めるシロウさんの声は冷たい。
 まさか同じ日に島根にいたばかりか、バレるなんて思いもよらず顔面蒼白になる。肯定だと察した三弥さんは股間を擦りながら反対の頬や耳朶を舐めた。

 

「そんで、実家の手伝いで一年戻るのは我慢できる……けど」
「結婚は見過ごせないよね」
「ひゃああぁっ!」

 

 同時に耳元で囁かれると耳孔を舐められる。
 卑猥な音と不規則に暴れる舌の刺激に、腰がくねるどころか蜜が零れた。気付いた三弥さんはスカートを捲るとショーツに手を潜らせ秘部を擦り、上着を捲ったシロウさんはブラから掬い出した胸を揉む。

 

「なー、ハレンチ女」
「ねー、家性婦ちゃん」
「ああぁ……ああっ!」

 

 囁きと共に胸と秘部を弄る手が速くなり、絶頂が駆け昇る。

 

「──っ!」

 

 ぎゅっと瞼を閉じると、堪えきれなかった潮が噴き出す。濡れた椅子から落ちる蜜が床に蜜溜まりを広げるが、痙攣している私は息を整えるので精一杯だ。対してシロウさんは笑顔で口付ける。

 

「んっ、イっちゃった家性婦ちゃんカワイイ」
「ホント、家性婦のくせに自分で濡らすの好きだよな」
「ひゃうっ!」

 

 横から胸を揉みながら先端をしゃぶるシロウさん。膝を着いた三弥さんは大きく股間を開かせると、濡れきった秘部を舐める。
 違う刺激でも快楽にしかならないが、必死に違う声を出した。

 

「っあ……私……もうっ、家性婦……やめ」
「「No way(絶対に嫌だ)」」
「ああ゛あ゛ぁぁっ!」

 

 ハモると、口に含んだ胸を、秘芽を引っ張られる。
 痛みに涙ぐむが、ズボンを下ろした二人は雄々しい肉棒を取り出した。ひとつは立ったまま私に跨がり口元へ、ひとつはヒクつく秘部に宛がわれる。
 頭を横に振っても、先走りを滲ませる二本の先端を挿し込まれた。

 

「んんっ!」
「辞めるなんて……俺らは許してねぇぞ」
「Yes。家性婦ちゃん……レイカはオレたちのモノ」
「っんんんン゛ン゛!!!」

 

 冷ややかな声と目に腰が浮くと、大きな肉棒を押し込まれる。特に三弥さんの巨根はのけ反るほどで、シロウさんの肉棒を噛んでしまった。なのに、怒るどころか満悦顔で頭を押さえると腰を振る。

 

「ふぐっ、んっ、ンン!」
「あはっ……家性婦ちゃんのお口は素直で厭らしいね」
「イラマは……っケイ兄が、怒るぞっ」
「Oh Sorry……すっごい落ち込んでたもんね」
「かはっ……はあ……落ち込んっあああっ!」
 
 肉棒を抜いたシロウさんが背後に回ると、腰を持ち上げた三弥さんに巨根を捩じ込まれる。それだけで達し、結合部から蜜、目尻から涙が零れるが、三弥さんは腰を振り続けた。

 

「ケイ兄……身も世もないって感じでっ……映像だけ寄越しやがって……」
「えいぞおンンっ」

 

 既に蕩けている私の顔を横に向かせたシロウさんに口付けられる。屈んでいる彼は私の後ろ手に肉棒を扱かせながら両胸を弄っては唇を舐めた。

 

「んっ、ニイ兄のLab(研究室)には監視カメラあるからね……家性婦ちゃんが泣きながら辞める、オレたちとのセックスが仕事って言ったのも」
「ケイ兄が告ったのも……中出ししたのも観た……ぜ!」
「ふあああぁぁっ!!!」

 

 またしても耳を疑うが、覚えのある滾りがナカで放出される。不意に腰が浮き、引っこ抜かれると、股間から蜜と白濁が零れた。
 涙目で見上げる私とは違い、汗を落としながら息を切らす三弥さんは陶酔したような笑みを浮かべている。それだけで胸が熱くなっていると、お腹と両脚に腕が回された。

 

「オレもオレもー!」
「ひゃっ! シロウさ、まっああぁんっ!!」

 

 軽々と抱き上げたシロウさんに口付けられると背後から挿入される。身体を揺すられる度にのけ反り、床に白濁が落ちた。

 

「おい、シロウ。俺の精液落とすな」
「だって……気持ち良くて」
「ひゃ、ひゃめ……んぐっ」

 

 興奮気味のシロウさんに下ろされると前屈みになる。と、頭を掴まれ、机に座る三弥さんの巨根を咥え込まされた。さらに手錠された両腕を掴んだシロウさんが再挿入する。

 

「んふっ、んっ、んんっ~!」

 

 卑猥な音と声が響き、口からも秘部からも同じなのに違う熱が放出された。頬を濡らす私の耳元で、シロウさんは腰を打ち付けながら囁く。

 

「なんでこんなことをって……っはぁ、思ってる? それはね……っレイカが信じてくれないからだよ」
「俺たちがお前を好きってことをな」
「っ……!」

 

 胸に挟み、しゃぶっていた肉棒から口を離すと見上げる。三弥さんもシロウさんも苦痛に顔を歪ませていた。昨日と重なる二人に快楽よりも悲傷に涙が溢れると、肉棒を抜いたシロウさんに抱きしめられる。

 

「……オレ、レイカが大好きで愛してる。幸せにするって言ったよ? なのに、ウソだと思ってるでしょ? ニイ兄の愛も」

 

 涙を舌先で舐め取ってくれるが止まることはない。そこに、頭を荒々しく撫でる手が加わった。

 

「家性婦だから犯してたのは本当だけど、好きじゃなきゃ引き留めねぇし、愛なんて言わねぇ。結婚なんて辞めて、俺たちのとこに帰ってこい」

 

 傲慢な言い方だと思う。でも、昨日の慶二さんと同じで憎むことより随喜の想いが上だ。できるならその声に応えたい、戻りたい──でも。

 

「……No……です」
「家性婦ちゃっ!?」
「のわっ!」

 

 手錠をブっ千切った手で三弥さんを跳ね飛ばすと、シロウさんのお腹に回し蹴りを食らわす。体勢を崩した隙に鞄を持つと部屋を出た。シロウさんの噂を聞き付けた人たちが集まっていたが、目もくれず立ち去る。

 

 走る度に涙が落ち、ナカよりも胸が痛んだ。
 お願いだからもうやめて、諦めて。そしたら全部消える。痛みも苦しみも想いも──だから。

 

 


「おかえり……レイちゃん」
「……っ!」

 


 息を切らしながら訪れたのは今の家で部屋。居候させてもらっている朝比奈家の客間。なのに、障子から差し込む光に輝く金茶の長い髪をひと結びし、見慣れない服を着ているはじめさんがお茶を飲んでいた。迎える笑顔に、その場でへたり込む。

 

「ラスボスもきたぁ……」
「ふふっ、面白い例えだね」

 

 くすくす笑いながら私の前で膝を折ったはじめさんは頭を撫でる。枯れてくれない涙が滲むと、諦め半分に問うた。

 

「帰国……今日の夕方じゃ……」
「早めたよ……レイちゃんが辞めるって聞いて」
「っ……なんで……紗友里ちゃん家を知って……」
「個展で記帳……してくれてたから……住所、覚えてた」
「…………怒って……ますか?」
「うん、怒ってる」

 

 ハッキリとした声に顔を上げる。
 一年一緒にいて、はじめて見る表情が目の前にあった。でもそれは一瞬。すぐに口元が緩むと抱きしめられる。

 

「でも……ケイくんミツくんシロくんが言ってもレイちゃんは『No』だった……それとも、僕もナカで出して孕ましたら良い? 違うよね?」

 

 お腹を撫でた手が濡れたショーツに潜る。
 長い指先がナカを犯していた白濁を掻き出す恥ずかしさに視線をそらすと、テーブルに放置された携帯が目に入った。いつもの彼なら持たない物に唇を噛むと、聞き慣れない衣擦れを鳴らす服を握る。

 

「なんでそんなこと……言うんですか……」

 

 呟きに顔を寄せられる。
 頬が触れ合っただけで心地良くなる彼の前では黙ることも取り繕うことも無意味だと、結んでいた口を、本音を吐き出した。

 

「私だってホントは……帰るの嫌だし……一緒いたい……でも……好きだけじゃ、どうにもならないことがあるんです! みなさんの愛だって一時のことでっんぐ!?」

 

 大きく開いた口に、なぜか指を挿し込まれた。それは掻き出していた指で、癖で舐めると白濁の味がする。啜り泣きながらしゃぶる私に、はじめさんの口元が綻んだ。

 

「良かった……」
「……っん!」

 

 はにかみに目を瞠ると指を抜かれる。代わりに柔らかな唇が重なった。
 角度を変えては何度も重ね、拒まない舌を絡め合う。リップ音を鳴らして離れた私の唇からは白濁と唾液が零れ、指で拭ったはじめさんは自分の口に入れた。嬉しそうに。
 羞恥と厭らしさに身体が熱く疼くと、立ち上がった彼は反対の手で携帯を取る。

 

「レイちゃんは……僕たちが嫌いになったから出て行くんじゃないんだね?」
「……Yes」
「僕たちのこと……好き?」
「…………Yes」
「それは……LikuとLoveどっち?」

 

 柔らかな問いに黙ると、振り向いた彼の灰色の瞳が私を捉える。

 

「Which one(どっち)?」
「…………っ、Love……愛して……ます」

 

 気付いては、願っては、応えてはいけなかった。それでも気付き、願い、応えたかった。はじめさんが慶二さんが三弥さんがシロウさんが好き──愛していると。

 

 自惚れだと、贅沢だとわかっている。
 その手を取りたくても取れないのは自分が弱くて脆いから。兄弟からの愛も離れたら薄まると、期待するより他の人と結婚した方が楽だと逃げてしまう。
 そんな卑怯な私を真っ直ぐ見つめるはじめさんは微笑んだ。

 

「僕も愛してるよ……今までもこれからも……だから、別れも怖くない」

 

 どこか寂しさもあるが、心中を組んだような言葉。
 押し寄せる不安がないと言えば嘘になる。でも、吐き出した本音に、受け止めてくれた微笑に袖口で涙を拭くと精一杯の笑みを浮かべた。

 


「……はい。私も寂しいけど……怖くはないです……みなさん……ありがとうございました」


 

 ゆっくりと頭を下げ零れる涙は謝意。
 胸は痛んでも、四人もの愛を受けていた身体と心は満たされている。体内で溶け合ったモノも嘆きより歓喜に震えるほど幸せだった。それだけで充分だと横切る足に目を瞑ると頭を撫でられる。
 それはすぐに離れ、柔らかな風と共に障子が閉じた。

 

 静まり返った室内。離れていく心地良さ。頬を伝う涙。
 小刻みに震える身体を抱きしめると、数日前のように嗚咽を漏らした。

 

 ありったけの想いと共に────。

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