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​モん!

シェル
   番外編11*「バレンタイン」

 今日は二月十四日。バレンタインです。

 今年は土曜日ですが、海雲さんは大事な会議があるらしく、朝早くから出勤しました。いつもなら寂しいですが、今日はラッキーです。帰ってくるまでにチョコが作れます! やっぱり大好きな人には手作りですよね!!

「コンビニのでいいじゃん」

「え~、まきたん愛がな~い」

「愛なんざ、いつかは枯れるもんだ」

「大丈夫大丈夫。まきたんのが枯れても、花さかお秘書さんが満開にしてくれるから」

 あははと笑いながらチョコを混ぜる私に、妹まきは眉を上げた気がする。

 旦那さんであるお秘書さんも仕事だから一緒に作ろうって誘ったけど、まきたんはノリ気じゃないらしく、娘りまちゃんとソファに寝転がっていた。代わりに息子の紫宛くんが慣れた手つきで型にチョコを流し込み、小さな星形チョコを幾つも作っている。

 隣で作る羽実ちゃんと二人、目を輝かせた。

「しーちゃん、じょうずだね!」

「父さんがしますから」

「ふへ~お秘書さんって料理だけじゃなくて、お菓子スキルも持ってるんだ。でもなんで男の子の紫宛くんが作るの?」

「友チョコをくばろうと思いまして」

 

 お秘書さんに似た笑みを向ける紫宛くんに私は感心するように頷いた。

 五歳児で友チョコってすごいですね。でも、紫宛くんのことが好きな女の子からすれば中々に酷な気がします。私ももし海雲さんから『つまらない手作りチョコだが……』とか貰ったら嬉しい反面、悲しくなりそう。しかもそれが自分のよりお美味しかったら居た堪れないですね。

 

 まあ、海雲さんのお料理スキルは野菜炒め(苦さ百パーセント)、目玉焼き(と、言う名前のスクランブル)、味噌汁(極端に濃いか薄い)なので大丈夫だとは思いますが。

 そこまできて、まきたんも海雲さんと同じで料理が苦手だったのを思い出す。

 

「もしかして、お秘書さんってバレンタインにチョコをくれる人?」

「もしかしなくてもだよ。毎年毎年手作りか、どっかの高級チョコ買ってくる男」

 

 不機嫌そうにりまちゃんを高い高いする妹の顔は双子だからこそわかる。拗ねてる顔。

 まさにさっき私が推測した通りになっている気がしますが、まきたん本人はエプロンを着てるので、作りたくないってことはなさそう。

 

 多分お秘書さんは今の拗ね顔が見たくてやっているような気がしますね。意地悪ですから。でも、そんな意地悪が彼なりの愛し方だと少しの付き合いでもわかっているので、姉としては何も言いません。言うなら素直じゃない妹の方ですかね。

 ソファの上で体育座りするまきの元に向かうと、持っていたボウルを頭に乗せた。

 

「ほらほら、まきたん。拗ねてないでチョコ作ろう」

「拗ねてない!」

「はいはい。今年もお秘書さんが買ってくるかなんてわからないし、買ってきても交換すればいいだけでしょ。手作りでも既製品でも、まきたんがくれた物なら喜んでくれるよ」

 

 笑顔で覗き込む私に、まきは口を尖らせるが、その頬は赤い。

 贈り物とは気持ち。受け取った時は嬉しいし、あげた時は嬉しい顔を見れてやっぱり嬉しくなる。その相手が好きな人なら尚のこと。今日はそんな顔が見れるかもしれない日。

 

「旦那様のために頑張ろ」

「…………タバスコ入りチョコにしてやる」

「え?」

 

 笑顔のまま首を傾げる私に構わず、立ち上がるまき。

 チョコを冷やす作業に入った紫苑くんにりまちゃんを預けると、エプロンを結び直し、不機嫌そうに私を呼んだ。

 

 二人あーだーこーだー言い合ってましたが、姉妹でする料理も楽しいものです。

 

 

* * *

 

 

 夜の十時を回った頃に海雲さんがご帰宅。

 残念ながら羽実ちゃんは起きていることが出来ず、お渡しはお休みの明日になりました。御飯とお風呂を終えた海雲さんに私は自分のチョコトリュフを渡す。

 

「どうぞ! どれかひとつ、辛いチョコさんがいますよ!!」

「…………え?」

 

 笑顔の私の言葉に、二十はあるトリュフのひとつを手に持った海雲さんは止まった。

 チクタクと時計の音だけが続いていると、チョコを置き、手招きされる。誘われるようにソファに座る彼の元へ行くと、顔を近付けられた。ちょっと怖い顔。

 

「今……なんて言った?」

「え? あ、辛いチョコさんがひとつだけ混じってるので注意してくださいね、って」

「なんで……そうなった?」

「え? あ、まきたんがお秘書さん用のチョコにタバスコをいっぱい入れているのを見て、そういうのも面白いなー………ダメでした?」

 

 話す度に旦那様のオーラが怖くなっている気がして、私は瞬きをする。

 甘い物大好き海雲さんですけど、決して辛い物が嫌いというわけじゃないので大丈夫だと思うんですが……普通のペッパーソースを一、ニ滴。

 

「いや……甘い物の中に入ってるってのは……あんまり」

「私も試しましたけど、変な味がするぐらいで辛さはそんなになかったですよ。さすがに五回以上振りかけてたまきたんのは遠慮しましたけど」

「…………勇者だな、義妹」

 

 辛さを想像しているのか、まきたんの末路を考えているのかはわかりませんが、海雲さんの顔は青い。そんな彼の膝に乗ると、トリュフをひとつ手に取る。

 

「まあ、何十分の一ですから。はい、あーん」

 

 口元にトリュフを寄せる私に海雲さんは躊躇うが、唇を突くと口が開かれる。

 その大きな口に入れると、もぐもぐ味わうように食べ『ゴックン』と喉に通る音。変わらない表情で口を開いた。

 

「……美味い」

「アタリですね!?」

「ああ……絶対一発目で当たると思ったんだが」

「え?」

「いや……ほら、みきも」

 

 手を伸ばした海雲さんはトリュフを手に取り、私の口元に寄せる。

 お礼を言うとパクリ。もぐもぐ。ああ、甘さの中にピリッとした味がなんとも…………。

 

「みき…………当たったな」

 

 溜め息をついた海雲さんの声に、ゆっくりと振り向くと頷いた。涙目で。

 試食した時と同じ変な味がします。私の運なのか海雲さんの運なのかわかりませんけど、まさかの私が当たってしまいました。

 胸板に顔を埋めると大きな手が頭を撫で、顔を上げられる。と、口付けが落ちた。

 

「ふゅっ……んっ」

「確かに……ん……変な味だな……」

 

 眉を顰めながらも舌を伸ばし、私の口内からチョコを取っていく。

 変な味に包まれていたはずなのに、彼の舌が入るだけで甘くなるみたい。唇が離れると息を荒げるが、すぐ新しいトリュフを口に入れられた。今度は甘い。とても甘い。唇を塞がれるともっと甘くなる。

 

「んっ……もっと」

「じゃあ……舌を伸ばせ……」

 

 その声に両手を首に回すと、頭を上げ、深く口付ける。

 まだ甘さが足りない彼の中を甘くするように崩れたチョコを舌に乗せ、渡すように伸ばす。それを絡み取られると溶けたチョコが舌に染み込み、いっそう甘くなった。海雲さんの口角が上がった気がする。

 

「ああ……甘い」

 

 嬉しそうな声が私の身体を疼かせる。

 それを知っているかのようにソファに押し倒されると、また新しいトリュフを口に入れられるが、今度は口付けがなかった。代わりにパジャマのボタンもズボンも脱がした手が肌を撫で、下腹部に潜り込む。

 

「っあ……!」

「濡れてるな……みき……チョコをくれ」

 

 小さく笑いながら濡れたショーツを擦り、口付けられる。

 既に細かく砕かれ溶け出していたチョコを海雲さんは奪っていくと、小さな双丘が露になった乳房に吸い付いた。

 

「あぁぁ……っ」

 

 生暖かい舌が尖った先端を舐める。“ちゅっちゅっ”と音を立てながら。

 その度に秘部から愛液が零れるが、既にショーツは取り払われ、彼の手につく。構うことはなく指を入れられ、ビクリと身体が跳ねた。

 

「はあぁ…っん」

 

 声を塞がれるようにトリュフを入れられる。

 その間に両脚を屈曲させた股の間に顔を埋めた海雲さんは舌を伸ばし、零れる愛液を舐めた。刺激に吸われているのに愛液は止まらない。

 

「ふっ、ん……んんっ!」

「ん……蜜どころか……チョコも零してるのか?」

 

 口元から零れたチョコを愛液で濡れた手で海雲さんは拭い、その指を私の口へと入れる。甘さと一緒に違う味がする指を夢中になってしゃぶっていると笑われた。

 

「美味しそうに舐めてるな……」

 

 私はもう頷くこととしゃぶることしか出来ない。

 そんな私を見る海雲さんはどこか楽しそう。でも、意地悪するように指を抜いてしまって、名残惜しいように手を伸ばした。その手に口付けを落とした海雲さんは自身の服も下着も脱ぎはじめる。

 

「そんな顔……見せられて……我慢出来るわけないだろ」

「はぃ……あ、ああぁ」

 

 零れる愛液に宛がわれたモノがゆっくりと進むが、息を荒げ、高揚感が増していた私には待ち遠しくて腰を振った。

 

「っ……みき」

「だっ……て……あ、あああぁぁーーーーっ!」

 

 急かしたせいか、勢いよく肉棒を挿し込まれ、そのまま腰を振られる。

 

「あっ、あっ、激しぃ……っ!」

「そうさせたのは……誰だ……っ!」

「ひゃあぁああぁーーーーっ!!!」

 

 貫く肉棒は大きさも勢いも止まらない。

 喘いでいる最中でも口の中にはトリュフを入れられ、いっそう甘く白い世界へと招かれた。

 

「あ、ああぁ……もう……ダ…メっ──!!!」

 

 汗を零し、真上で笑みを向けながら口付けてくれる人を見た時は、思考も身体も膣内もすべてチョコレートのように溶けた──。

 

 

* * *

 

 

 翌日、いつもより遅めに起床。

 痛い腰を支えながらリビングに行くと、ソファに俯けになっている海雲さんを心配そうに見ている羽実ちゃんがいた。

 

「どうしたんですか?」

「あのね、うみのチョコをパパにあげたの。そしたらくるんって」

 

 うずくまったってことでしょうか。

 テーブルを見ると、昨日一緒に作ったトリュフが置かれている。私のとは違い、小ぶりのトリュフ。海雲さんの肩を叩くと真っ青な顔を上げ、ポツリと呟いた。

 

「羽実のにも…………タバスコが……」

「ああー……」

 

 そう言えば、まきたんのを見ている横で『まっかー』とか言いながら瓶を持ってた気がしますね。知らぬ間にそれを振っていたなら……子供から目を離してはいけませんね、はい。

 

 でも白状したら『お仕置き』って、今日も啼かされますよね────。

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