番外編9*ボクの誕生日
八月三十一日。日曜日。
今日はボクの誕生日。そして、0時と共に災厄が訪れる。
「まき、お誕生日おめでとうござ……」
守が寝室に入って来た気がしたが、既にボクは紫苑とりまを抱きしめ──good night。
スピスピと寝息を立てていると、次第に子供達の暖かさが消える。さらに下半身まで寒くなってくると、膣内に何かが入ってきた。
「ああっんん!」
悲鳴は唇で塞がれ、眠い頭のまま瞼をほんのちょびっと開く。目の前には魔王。おやすみ。
「こらこら」
「ふぎゅう~っ、何すんだよ~」
一緒に寝ていたはずの紫苑とりまは、床に敷かれた布団に寝かされ、爽やか笑顔の魔王がボクの上に跨っている。膣内に挿し込まれた三本の指をバラバラに動かされ身じろいだ。三本も入ってるのに身じろぐだけなのは正直怖いけど『平気』とか言ったらオシマイだ。んなもん五年も経てば末路がわかる。
ジと目のボクに、守はくすくす笑うと頬に口付けた。
「誕生日おめでとう」
「………ありがと」
なんの裏もない笑みは綺麗でカッコ良くて、頬を熱くしたまま素直な礼を呟いた。そんなボクの額に鼻に頬に順に口付ける男の鼻と鼻がくっつくとしばし見つめ合い、口付けを交わす。優しくて甘い口付け──は、一瞬で終わった。
* * *
翌朝、ソファに俯けになって倒れていると、インターホンが三回鳴った。鳴らし方に、紫苑がパタパタ玄関に向かう。しばらくして入って来たのは──。
「まきたん、誕生日なのに死亡フラグ立ってるよ」
「折るか……止め刺して……姉さん」
「まきちゃ~ん、へとへと~」
双子の姉みきと、娘の羽実ちゃんは守とは違うニコニコ笑顔。ソックリ親子め。
痛い腰を起こすと、姉さんはラッピングされたピンクの袋を差し出す。
「お誕生日おめでとう、まき」
「おめでとう、みき」
今日はボクの誕生日でもあると同時に、みきの誕生日。
同じようにボクも青のラッピングがされた物を取り出すとプレゼント交換。毎年恒例だ。その隣で紫苑がコーヒー牛乳を持って来ると、きょろきょろと部屋を見回していた羽実ちゃんが訊ねる。
「まもちゃんとりっちゃんは?」
「母さんのプレゼントを取りに行くとかで出かけてます。海雲おにい様は家ですか?」
「うん、お仕事の電話してた」
その会話に、去年は平日だったボクらの誕生日に二人して仕事を休んだことを思い出す。責任者が揃って休みとかあり得ない。
「なんか、八月三十一日は定休日にしようか悩んでたよ」
「揃ってバカなの?」
もぐもぐとプリッタを二人で食べながらツッコミを入れる。
魔王だけならまだしも海雲お義兄さんまでなんて、あの会社大丈夫か。まあ、失業してもボク働いてるからなんとかなるかな。
「お秘書さんを養うって凄いね」
「奉公に出すのもありだよね」
「ホストとか?」
「あ、夜いないのはいいかも」
「母さん、やっぱり父さんを「照れかくしだよ、しーちゃん」
羽実ちゃん、フォロー入れてくれてるけど、一ヶ月ぐらいいなくなればって思わなくもないんだよ。五年経っても、あの性欲だけは衰えないし、子供がいても構うことなく週五回はするし、誕生日となれば倍。その分ケーキもプレゼントも豪華だから文句は言えない……夜も妙に優しいしね。
「ちゃだいま~」
頬を赤くしていると玄関が開く音とりまの声が届く。そのあとすぐ守の『走らない』の声も聞こえ、ケーキが入ってそうな白い箱を持つりまと守が入って来た。
「マんマ~あ、みちちん、うみちん!」
「おや、みっちゃん様。お誕生日おめでとうございます。これプレゼントです」
「わー、ありがとうございます! 後ろのはまきたんのですか?」
「ええ。愛の差が違うのは当然なので勘弁してくださいね」
りまが紫苑に白い箱を渡すと、魔王も姉さんに手の平サイズの箱を渡す。が、ヤツの後ろには縦一メートル、横五十センチほどのダンボール。入れ替わりで姉さん達が帰ると同時に差し出された。笑顔で。
「はい、今年のプレゼントですよ」
「マんマ~おめでとう~」
「おめでとうございます」
「ありがとう!」
魔王をスルーし、似顔絵プレゼントの子供達を抱きしめる。子供からって卑怯だと思うんだ。旦那のプレゼントより。
「まあまあ、中身を見てからでも遅くないと思いますよ」
「いだだだだっ……!!?」
頭を“ぐきっ“と回され、悲鳴を上げながら二人を離す。
あまりの痛さに涙目でダンボールを開ける男を睨むが、ボクは目を見開いた。中身は白のふわふわ素材に身を包まれ、くるんとした角にウルルンなお目めを持つ──。
「ウリィィーーーーっっ!!!!」
勢いよく抱きついたそれはゲーセンにしかいないボクの大好きな羊、ウリィシリーズ。の、巨大版。ゲーセン好き守のおかげで家には数十匹いるが、こんな大きいのははじめてだ。ていうかないだろ。
「そりゃ、特注で作ってもらったからな」
「凄いな! ありがとう!!」
ツッコミと礼を言うボクは笑顔。
守の口調が変わったのがわからないほど嬉しがっていると彼の携帯が鳴った。
「はい、もしもし。あ、そうですか。わかりました。紫苑、りま。下に瑞希様が来てるので行ってきなさい」
「え? お母さん、来てんの?」
何も聞いていないボクはウリィを抱きしめたまま数度瞬き。だが、紫苑とりまは既に用意していたのかリュックを背負うと、守がボクからウリィを奪った。
「ちょっ!?」
「はい、紫苑パス」
「キャッチ、りま」
「しゅ~ちょ!」
守の手から紫苑にウリィが渡ると、紫苑とりまが両手でリビングドアに先回りした守へウリィを投げる。見事に両手キャッチ!
「「「ゴ~~ル!!!」」」
「ポートボールかよ!!!」
はしゃぐ三人にツッコミを入れるが、紫苑とりまにウリィを持って行かれた。わけがわからないボクは二人を追い駆けるが、守に捕まる。
「通さないぞ、まき」
「ちょ、なにっん!」
「「いってきまーす!」」
二人の元気な声に返そうとしたが口付けられた。ドアが閉まる音と唇から漏れる水音は増すばかり。
「んっ……あん……ちょ、ウリ……ぃ」
「やっぱ……ん、俺より羊を取るか」
当たり前じゃいと睨むが、降臨した魔王の目が怖くて身体が跳ねた。
その隙に舌を口内の奥へと伸ばされると抱き上げられ、一気に快楽が襲う。だが、両腕を彼の首に回すだけで無理やり唇を離すことに成功。ついでに文句も。
「ちょちょちょ、だから何!?」
「何って、もちろん大事な妻のバースデーを祝うんですよ。子供達はお義母様にお任せして二人っきりで」
「ウリィ入れたら三人んあっ!」
焦るように訂正したが、肩に顔を埋めた男に首筋を噛まれ悲鳴を上げる。でも直ぐ噛んだ箇所を舐めながら冷たい眼鏡を当て、耳朶を甘噛みすると囁いた。
「あの羊はまきの満面笑顔を見るための餌だ」
「釣ったの!!?」
「ええ。一本釣りだったので即レッドカードで鍵つき部屋に押し込ませました」
色々混ざってて意味がわからない! 省略すればウリィ笑顔のボクに腹立って即ウリィ選手退場の監禁!? 相変わらず心狭いな!!!
そんな訴えがわかっている男はソファにボクを下ろし、自分は床に膝立ちするが、上体を前に倒すと口付けを再開する。
「ちょ……まだ、ん……昼間だよ……ん」
「俺に日時と場所……ん、関係あるか……?」
「ない……けど……あん」
口付けたまま両手でゆっくりと上着を捲られるとブラホックが外され、乳房を揉まれる。身体には朝方まで愛されていた証が点々と付いていて、頬が赤くなった。反対に満足気な様子の男は両乳首の先端を引っ張る。
「ああっ……!」
「ふふふ、感じるのが早いな。それをもう少し甘くさせましょうか」
上着とブラを脱がされると、机に置かれた白い箱を開ける。
出てきたのは言わずもがな、苺タルト。しかしフォークが箱の上に置いてあるって……子供らもグルとしか思えず、ジと目を向ける。が、一口サイズにカットされた苺タルトを口に入れられた。その味は良く知るボクお気に入り店ので頬が緩む。
「美味しいですか?」
「うまうま」
「それは良かった。では、私もこちらを……」
「っ!?」
悲鳴を上げるよりも先に、また口に苺タルトを入れられるが、すかさず魔王は胸の先端に吸い付く。甘さは口内だけなのに“ちゅっちゅ~“と音を立てられると全身に伝うようだ。
「ふぎゅ、ぁん……ああ」
「ん、美味い……でも……甘さが足らないか」
「ちょ……んんっ」
我が儘魔王は口付けると舌を伸ばし、口内に残る苺の果汁と生クリームを奪う。と、それが付いた舌で胸の先端を舐めた。
「ん……甘くなった」
「ああっ……んあ」
“チロチロ”舐める舌はいつも通りなのに苺の匂い。同時に搾られた母乳によって、いっそう甘い匂いが増した。
「練乳のような……ん、甘さだな」
「あっ……ん…あ……まも……るっ」
「はい? ……ああ、こちらにもプレゼントですね」
くすくす笑いながら人差し指で下腹部の中央を突かれると身体が跳ね、直ぐショーツごと脱がされた。大きな手が茂みと秘部を撫でる。
「ふぎゅ……ぅあ…」
「まき、今日は誕生日なんですから我が儘言って良いんですよ」
全裸にさせた男が言う台詞じゃない。
けど、既に火照った身体は息を荒げ、快楽に覆われようとしていた。それを増やそうと頬に口付けた男は耳元で囁く。
「何してほしいんだ、まき?」
「ぅあ……いっぱい蜜……舐めて……吸ってぇぇああ!」
言い切るよりも早く両太腿の裏を持たれ、大きく開かれると秘部に口付けた魔王は舌を前後に素早く動かす。その勢いにボクも我慢せず愛液を零すが、直ぐ吸い取られた。けど足りない。
「ああ……あ、もっと……ひゃああっ!」
「ん、調教されすぎて……ダメか……なら」
「ああっ、指までは言って……あ゛あ゛あ゛ーーっ!」
舐め上げながら指を挿し込まれ、一気に潮を噴き出した。
ちょっと望んでいたとはいえ、強すぎる刺激にソファに沈む。上着を脱いで跨がった男は、胸の先端に噛み付いた。
「ふぎゃっ!」
「ふふふ、可愛い。さ、お次は何します?」
楽しそうに口は先端を舐め、片手は膣内を弄る。
おかしい。命令権があるのはボクのはずなのに命令されている気がする。と、ズボンから雄々しい肉棒を取り出した男が亀頭で秘部を擦りだした。
「ひゃああっ……ん!」
「ほらほら、早く言わないと俺が好きなようにするぞ」
「か、完全に主導権そっちだな!!!」
「まさか」
「あうっ!」
ツッコミを入れると亀頭が膣内に入った。
だが、すべてではなく、本当に先端部分だけ。それを出したり入れたりしながら眼鏡を外した魔王は笑みを浮かべる。
「まき?」
「………………ナカ……欲しっんああああーーーーっっ!!!」
また言い切る前に最奥へと貫かれ、潮を噴き出した後のせいか滑るように奥へと進む。彼の首に腕を回すと抱き上げられ、癒着を繰り返しながら口付けを何度もするが、絶頂を急かした。
「ああっ……ああんっ! もっと突いてああっ!!!」
「ああ……さすが……俺のまき……望むまま……抱き明かしてやる……っ!」
「ひゃああああアアーーーンンっ!!!」
やはり主導権は旦那にあるようで命令されては命令する。でも、望み通りの快楽と愛をくれることに何も言うことはなかった──。
* * *
「……本当に?」
「にゃいの~?」
「魔王……アホンタコナス……モビルスーツ」
「朝御飯ですよ~」
翌朝、代償でベッドに沈むボクに紫苑は呆れ、りまはニコニコ、魔王は通常通り。やはり来てほしくない行事二位だった。ちなみに三位は結婚記念日。え、一位?
んなの、魔王の誕生日だ────。