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番外編​1*異世界と七夕と桃

 七月七日は七夕の日。
 この世界にはないようですが、キラさんに話すと満面笑顔で数十メートルはある笹の葉を持ってきてくれた。わーい! 団長のみなさんやセルジュくんを呼んで七夕会ですよ!!

「それで……お願いごとを短冊に書けばいいの?」
「はい! 想うことも大事ですが、書くのもひとつです」
「モモ、書き終わったら笹に付ければいいのか?」
「そうですけど……お義兄ちゃん、もう書いたんですか!?」
「おや、灰くんは何を書いたんだい?」

 顔を覗かせるキラさんから、お義兄ちゃんは短冊を隠す。
 気になりますけど見たらダメですよね。

 七夕の歌を口ずさみながらお願いを書き終えると、地面に置かれた笹にくくり付ける。全員分が揃うとケルビーさんが笹を起こし、キラさんの地面魔法で固定した。
 満天の星空の中、お月様の光と風に、笹と短冊が揺れる。すると、ジュリさんが溜息をついた。

「ケルビー、願うぐらいなら自分で頑張りなさいな」
「ジュリ、見たのか!?」
「見れるとこに付ける方が悪かろうに。緑もマシなのを書け」
「ひゃは……ボク的には切実なんだけどね。ナナちゃんも自分のこと書きなよ~」
「灰くんなんて、てっぺんに付けてるところが趣旨をわかっているね」
「……飛んで見て「吊るし上げるぞ」
「なー、モンモンの字だけ読めねーんだけど? 象形文字か?」
「ちちち違いますよ!!!」

 わたしの字は日本語。
 けれど、みなさんの字は違うから、わたしも読めなければみなさんも読めない。少し寂しい気はするけど、今日はこれでいいのかもしれない。

 そう微笑みながら楽しい七夕会が過ぎた──。


~~~~*~~~~*~~~~*~~~~


 翌朝、フルオライト国宰相ノーリマッツは中庭を訪れた。
 いつの間にか設置された笹の葉を群がった人々と見上げる。内心思うのは『私、許可した覚えないぞ』という疑問だが、揺れる短冊に苦笑した。

『ジュリに認められるカッケー漢になる! ケルビー』
『どの庭園にもたくさんの人々が訪れますよう ジュリ』
『さっさと聴取終わって引き篭もりたい ムー』
『主(あるじ)に平穏を。愚兄に止めを ナナ』
『変わらず楽しい日々を祈るよ キラ』
『世界制覇! セルジュ』
『グレイのシスコンが治りますように ルア』
『モモの健康。虫の殲滅 グレイ』

 一枚だけ、モモカのだけ読めないが、彼女らしく『いっぱい薔薇が咲きますように』とかだろうと笑いながら仕事へと戻る。
 夕刻頃、モモカ達が見に来るとなぜか短冊が大量に増え、その日からフルオライトに『七夕』が生まれることとなった──――。

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