top of page

​00話*「桃香」

      *♪*~~=歌

 世界に大陸は六つ。

 中央、レメンバルン大陸に位置する世界最初の国アーポアクを筆頭に、各大陸の大国が何十もの街や村を統治していた。

 世界には『魔法』が存在する。

 人々は生まれながらに持って生まれた『魔力』を『水晶(クォーツ)』と呼ばれる石に込め、火、風、水、地の四大元素を引き出し、生活の大きな糧としている。だが魔力は“第二の心臓”とも呼ばれ、心臓か魔力、どちらかを失えば絶命という難儀な体質を持ち合わせていた。

 いつ訪れるかわからない渇命に怯え生きる人々のため、各国に創設された騎士団が平和と安定を守護している。

 

 

 けれどそれは魔力を持たない者には関係のない話。

 

 西のアグラッセット大陸を統治するフルオライト国は『花の大国』と呼ばれ、花々が咲き香っている。風に煽られた花弁が空を舞うと、白地に翼を持つ七色の竜と薔薇が描かれた旗が揺れた。

 国の中央には青の三角屋根をした高い正方形の塔を中心に、東西南北にひと回り小さな塔が渡り廊下で繋がったフルオライト城が聳え立っている。

 

 そんな低い塔のひとつ、東塔外には多色の薔薇が咲く庭園があった。

 蕾が多い薔薇のアーチを抜けた先に佇むのは、太陽の光で茶に輝くが漆黒の腰下まであるウェーブの髪。青の長袖ワンピースに白のエプロンドレスと胸元にはピンクのリボン。一六十はない小柄な少女は両手を組み、瞼を閉じると口ずさんだ。

 

 

*♪*~~*♪*~~*♪*~~*♪*~~*♪*

 

 

 どんな時でも見上げれば 空がある

 たとえ世界に一人ぼっちでも 私は忘れない

 あの日の面影 あの日の言葉 あの日の貴方を

 見上げれば思い出すたくさんの日々

 

 でも 遠い日を想うより

 いま 会えたことに 私は涙を流す

 

 どんな時でも見上げれば 空がある

 繋いだ手が離れても繋がった空がある

 信じている また会えることを

 この庭園で きっと

 

 

*♪*~~*♪*~~*♪*~~*♪*~~*♪*

 

 

 歌い終えた少女はひと呼吸すると瞼を開いた。

 その瞳は──漆黒。

 

 彼女の名は村岡 桃香

 この国ではモモカ・ロギスタン。十六歳。

 

 地球という星の日本で生まれた少女は魔力を持たず、フルオライト城で薔薇の管理をする庭師をしている。大きく背伸びをしたモモカは園芸ばさみを持つと空に笑顔を向けた。

 

 

「よーし、今日も元気に頑張りましょーーーーっ!」

 

 

 元気な声が人知れず響き渡った────。

*次話からモモカ視点ではじまります
本編 
bottom of page